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世界と比べれば日本の物価はまだまだ安い? 「ビックマックはタイやベトナムより安い」「アメリカの球場で売られているハンバーガーは2000円以上」数字で実感する激安ニッポン

集英社オンライン / 2023年8月10日 11時1分

物価高に苦しむ日本庶民の生活だが、これでも世界と比べればかなり安いと言われている。実際にはどれほどの差があるのだろうか。著述家で元国連職員の谷本真由美氏の『激安ニッポン』(マガジンハウス)より一部抜粋、再構成してお届けする。

日本のイメージは「バブル時代」で止まっている

日本は物価だけではなく、給料も安い国です。ただ、実際に他の先進国と比べて、どれほど安いかを数字で把握している人は少ないと思います。データを参照しつつ、日本の物価と給料が世界と比べてどれくらいの水準なのかを見ていきます。

外国人から見ると、日本人の給料は驚くほど安い水準にとどまっています。なぜ、彼らがそんなに驚いているかというと、海外では「バブル時代の物価も給料も高い日本」というイメージのままだからです。



1980年代から90年代の初め頃には、日本経済の快進撃が先進国のメディアで盛んに報道されていました。アメリカでは日本の自動車産業を叩いたり、家電業界を攻撃したりする保守派が少なくなく、当時アメリカのテレビでは日本車をハンマーで破壊する自動車産業の労働者の姿が放映されていたりしたのです。

そして、同じ頃の欧州では、景気がよくない国が多かったために、日本企業の支援に頼って地域経済を復興させようと、わざわざ日本の会社を現地に誘致していた国もありました。

そうした動きを見せた国の筆頭がイギリスでした。当時のイギリスは「イギリス病」と言われた経済の停滞に苦しんでいました。組合があまりにも強いために生産性がぐんと下がってしまっていたのです。

そのため「鉄の女」と呼ばれたサッチャー首相が強くなりすぎた組合を解散させ、効率が悪い産業をどんどんつぶしていきました。その1つがイギリス北部の炭鉱地帯で、操業すればするほど赤字になる炭鉱や鉄工所、造船所、またそれらの産業に対してサービスや機械を提供する企業が倒産していきました。

炭鉱業や鉄鋼業、製造業はたくさんの働き手が必要です。そういった人々は多くが専門性の高いスキルを持った熟練労働者です。しかし、スキルが特化しすぎているために、他の産業に転職できず、失業してしまう人が続出しました。
イギリス政府は失業者の雇用を確保するために、日本の自動車産業を誘致したのです。当時お金があった日本企業は、それに応え、イギリスの北部に莫大な投資を行ってきました。

こうして、失業にあえぐイギリス北部を救ったのは日本だというイメージが定着したのです。
イギリスでは、いまだにこのイメージが根強く、「日本はお金持ち国家」だと思っている人も多くいます。彼らは「中東の産油国」のような豊かな国だという感覚を持っているところがあります。

そして、イギリス以外の欧州諸国には、1980年代から90年代にかけて、お金を持った日本人旅行客や投資家が押しかけていました。各国の主要観光地には必ずと言っていいほど、日本語のツアーや日本語の観光案内所があり、ブランド品で着飾ったツアー客や個人の旅行者がたくさんいました。

観光業界だけではなく、教育業界でも日本人向けのサービスに力を入れていました。音楽学校や語学学校は「留学ビジネス」を積極的に推し進め、日本人の学生が次々と欧州の学校にやってきていたのです。

現在では、観光業界も教育業界もすでに日本人向けのサービスは勢いがかなり落ち込んでいますが、当時の印象があまりにも強烈だったために、欧州には「日本人はお金をたくさん持っている」「日本は物価が高い」という印象を持っている人が大半です。
海外の若い人たちはSNSなどで、日本の現状をよく知っていたりします。一方、日本人が裕福だった時代を知っている。
40代以上の人たちはいまだにバブル時代の日本のイメージが抜けていないのです。

欧州からは「遠い国」

なぜ、日本のイメージがいつまで経っても更新されないかというと、実は欧州の人たちは、日本にあまり訪れていないからです。 欧州と日本は大変遠いのです。飛行機でも最短で10時間はかかります。飛行機代も安くはなく、ピーク時には往復で20万円以上はかかります。そこまで時間とコストをかけて、わざわざ休暇で遊びに行こうという人は多くはありません。欧州では、10万円ほど払えばパックツアーで1週間ほど周辺の国を巡る旅行に行けますが、それに比べると、大変高額な旅行になってしまいます。

しかも、ここ20年ほどの間に欧州でも経済格差が広がってきており、長い休暇を取れる正社員の人が減っていて、非正規の人だらけになっています。仕事の競争も激しいのでそれほど長い休暇をゆるゆると取っていられる暇はないのです。

そうすると、移動距離が長く、時差もある日本へ行こうという人は多くありません。
日本人の感覚からすると、南アフリカやブラジルに行くような感じです。多くの日本人が南アフリカやブラジルの現状を知らないように、欧州でも、日本が今、どんな国なのかを知っている人は多くないのです。

日本の物価は本当に安いのか?

「日本の物価が安い」という記事は多く出ていますが、きちんとデータを元に伝えているものは多くありません。実際のところ、日本の物価は世界と比べてどうなのでしょうか。
それを知るために役に立つのが「購買力平価(Purchasing Power Parity :PPP)」です。これは「為替のレートは、2国間の通貨の購買力によって決まる」という考えに基づき、算出される指標です。

たとえば、コカコーラ1本の値段が日本で120円、アメリカで1ドルだったら購買力平価は1ドル= 120円となります。それぞれの国で、同じものを買ったらいくらかかるかということを比較するわけです。
そして、購買力平価を為替レートで割ったものを「内外価格差」と呼びます。コカコーラ1本の価格を元に算出した購買力平価が1ドル=120円で、為替レートが1ドル=140円だったとすると、内外価格差は0.85になります。

内外価格差を見れば、2国間の物価水準を比べることができます。先ほどのコカコーラの例だと、内外価格差が0.85なので、15%分「日本の物価が安い」と考えることができます。

ここで注意が必要なのは、購買力平価を出すときの商品やサービスは、価格が安定していて、比較する国すべてで広く浸透しているものでなくてはならないことです。

極端な例を挙げると、マグロの酒盗や仏壇などはそもそもアメリカでほとんど売られていないので、購買力平価に使うことができません。また、今は全世界的に高級腕時計の値段が急激に上がっていますが、そうした価格がすぐに変わってしまうものも適しません。

最も代表的な購買力平価は、国際機関であるOECD(経済開発協力機構)が公表している「GDP購買力平価」で、GDPに対応すると考えられる品物を数千種類選び算出しています。

GDP購買力平価より、もっとシンプルにわかりやすくしたものに「ビッグマック指数」があります。 これはイギリスの経済雑誌『エコノミスト』が考えた指標です。ビッグマックは世界中のマクドナルドで売られていて、価格も安定しているので、各国のビッグマックの価格を比較することで、国ごとの物価水準を確認することができるのです。

本当のビッグマック指数は、ある国のビッグマックの値段をアメリカのビッグマックの値段で割ることで求めるのですが、ここではわかりやすいように、単純に値段を比べてみます。

上記の表は2022年における国別のビッグマックの値段を示したものです。
日本の価格は396円で、41位とかなり安くなっています。これはアメリカ(721円)の55%ほどで、中国(498円)、韓国(490円)、タイ(490円)より「100円近くも安い」という結果になっています。日本は欧米より物価が安いと言ってもあまり驚きはないかもしれませんが、実はアジアの国々の中でも日本は「物価が安い国」になってしまっているのです。

以前は「高い国」だったのに……

バブル崩壊直後の日本では海外との内外価格差が問題になっていました。日本円が強かったうえに経済も好調だったので、海外のものがどんどん安く買えたのです。
たとえば、1994年4月、ビッグマックは東京で391円でしたが、アメリカでは2.3ドルで239円でした。
この数字を元に購買力平価を算出すると、1ドル約170円になります。当時の為替レートは1ドル104円だったので、内外価格差は170円÷104円=1.63倍です。つまり、1994年時点では、日本のビッグマックはアメリカより1.63倍も高かったのです。
このように、当時の日本の物価は、アメリカをはじめとした各国を大きく上回っていました。

さらにOECDの統計でも同じような結果が出ています。日本の物価水準は1995年にはアメリカの1.85倍だったのですが、2022年にはなんとアメリカの0.72倍にまで下がってしまっています。

つまり、日本はアメリカや欧州より30%から40%ぐらい物価が安いということです。

日本では2022年頃後半から食品や日用品の値上げラッシュが続いていますが、それでも世界と比べるといまだに「安い国」なのです。

アメリカではハンバーガー1つで「2000円超」

それでは本当に海外の物価がそんなに高いのかどうか、ここで実例をいくつか見てみます。まず、アメリカの新聞『ロサンゼルス・タイムス』の記事の中で紹介されている寿司屋の値段を見てみましょう。超高級店から手頃なお店までいろいろ並んでいるのですが、その中でも高級店である「ONODERA」では「おまかせ」が1人前350ドルから400ドルで、およそ4万8000円から5万5000円ほどになります。客単価5万円は銀座でも超高級の部類に入ります。

この店は超高級店だから高いだけだろうと思うかもしれませんが、同じ記事で激安店として紹介されているところの値段もなかなかです。
たとえばリトル・トーキョーにある「Hama Sushi」ではかっぱ巻4ドル(554円)、タイ5ドル(697円)、ウニ10ドル(1390円)になります。ほとんどの日本人はかっぱ巻きが500円以上することに驚くと思いますが、アメリカでは、この寿司屋がお手頃な店扱いなのです。

次に、ファストフードの値段も見てみましょう。

アメリカの名門野球チーム、ロサンゼルス・ドジャースのスタジアムで売られている食べ物はいくらぐらいかを見てみると、面白いことがわかります。

・ワイルドマッシュルームサンドイッチ 14.99ドル(2088円)
・チキンサンドイッチ 15.9915ドル(22282円)
・スティックに刺さった揚げチーズケーキ 10.99ドル(1531円)
・地中海チキン丼 19.99ドル(2778円)
・ニューBBQプラター 49.99ドル(6900円)
・チキンペストパニーニ14.99ドル(2088円)

ちなみにこれはどれも1人分の分量です。アメリカの野球場で売られているのはファストフードが中心で、いわゆる典型的なアメリカンフードです。サンドイッチ(という名前ですが、実際はハンバーガーです)は1つ2000円以上、吉野家だったら500円以内で食べられそうなチキン丼は2700円以上もするのです。

また、この中では安い揚げチーズケーキですが、これはただ単にチーズケーキを油で揚げて串に刺しただけのもので、日本のコンビニなら300円もしないような食べ物です。野球場なので、食べ物の値段は若干割高だとは言っても、これは日本では「ぼったくり」と言われるくらいの価格設定だといえるのではないでしょうか。アメリカの物価高と日本との価格差をひしひしと感じてしまう値段です。

また、アメリカ最大の都市ニューヨークでも、かなり物価が高騰しています。ニューヨーク在住の日本人イラストレーターがウェブメディア『marie claire』に寄稿した記事を読むと、アメリカのインフレのすごさがリアルに伝わってきます。

・ スーパーで普通に売られている1ダースの卵が6ドル(835円)する
・ ベーグル屋のサンドイッチが18ドル(2507円)する
・ タクシー運賃が23%引き上げられた。JFK空港からニューヨーク市内への一律料金はチップなどを含めると90ドル(1万2536円)かかる
・ 家賃が500ドル(6万9646円)上がって、引っ越しを余儀なくされる人もいる

いかがでしょうか。日本でも卵の高騰は話題になっていますが、10個入りの1パックが260円程度ですから、アメリカとは2.7倍近くもの価格差があります。また、食品だけではなく、タクシー運賃や家賃まで上がっているので、インフレが急激に進んでいることがわかります。

ホテルの宿泊費は“7倍” に高騰

また、アメリカでは宿泊費も高騰しています。
たとえば、ニューヨークに私が大学院生時代の1997年に滞在していた「International Student Center」というユースホステルがあります。部屋には2段ベッドが並んでいて、6人から10人くらいの相部屋なのですが、当時はだいたい1泊1500円くらいで泊まれた記憶があります。

しかし、なんとここに今滞在しようと思うと、1泊1万円以上します。6人部屋を貸し切ると1部屋あたり1泊5万4000円以上にもなります。私が滞在していた頃から宿泊費が7倍近くになっているわけで、この物価上昇には本当に驚きです。これでは、日本人のお金のない学生は貧乏旅行などとてもできません。

さらに1997年当時は郊外だと1部屋4000円程度だった「Super 8」などのチェーン店のモーテル(激安ホテル。連れ込み宿ではありません)がなんと現在では、ど田舎の安いところでも1泊1万2千円、ちょっと都会のほうだと2万円近くします。


私はお金がなかった学生時代、同級生と割り勘でここに宿泊し、1人あたり8ドルから10ドル、当時の日本円で1000円程度を払ってなんとか滞在できていました。
このようなモーテルは朝食のドーナッツとコーヒーが食べ飲み放題だったので、私たちは最低限の宿泊費でドーナッツをありったけ食べて1日分の食費を浮かし、夜は日本円で100円ぐらいだったハンバーガーでお腹を満たして旅行していました。なので、今のアメリカの物価高騰には驚かされるばかりです。

一方、日本は1997年当時と物価はさほど変わっていないので、日本の経済がどれだけ成長していないかがわかると思います。

『激安ニッポン』(マガジンハウス)

谷本真由美

2023年7月27日

1,100円(税込)

新書‏ : ‎ 208ページ

ISBN:

4838775199

元・国連専門機関職員の著者が明かす――
日本人だけが知らない、海外との「驚愕の価格差」
・東大卒より海外の介護士のほうが稼げる?
・中国人が無制限で不動産買い放題!
・日本の福祉にたかる外国人たち
・アメリカは野球場のハンバーガーが「2000円超」
・光熱費が「2倍」になったイギリス
・欧米では年収1000万円で「低所得」
・「中古品」しか買えない日本の若者
・「100円ショップ」大好きな日本人
本書では、元国連専門機関職員の谷本真由美さんが、「物価も給料も日本はいまだに激安」であること、そしてその安さゆえに「海外から買われている」ことを“忖度抜き”で明かしています。日本人はなかなか気づけない、世界から見た「ニッポンの真実」がわかる一冊です。

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