中国だけじゃない! 発展途上国にも狙われ、買われ放題の日本の不動産。外国人が不動産購入する条件が“ゆるい”という現実
集英社オンライン / 2023年8月10日 11時1分
物価上昇が止まらない日本だが、それでも世界とくらべればまだまだ安いのだという。外国人にとっては食べ物や宿泊費以外でも財布に優しい国になってしまったニッポン。中国人女性が日本の島を購入したことをSNSにあげ、ニュースになっていたが、なぜ日本の不動産が狙われるのか、著述家で元国連職員の谷本真由美氏の『激安ニッポン』(マガジンハウス)より一部抜粋、再構成してお届けする。
財布に優しい国「ジャパン」
実は、外国の人々は日本人以上に「日本の激安さ」に気がついています。
彼らは日本をお得に買い物ができる国とみなし、「日本を買う」ために大挙して押し寄せているのです。
日本が安いのは、ホテルの宿泊費や飲食費だけではありません。たとえば、多くの外国人が買っているのが「不動産」です。
日本のみなさんにはあまり実感がないかもしれませんが、海外の人は自国以外の不動産も投資目的や居住目的で買っています。
特に中流階級以上の人だと、余剰資金を貯金や株式投資に回すのではなく、海外の不動産を買っています。
たとえば、これを非常に盛んにやっているのが北米や欧州北部の人々です。こういった国々の不動産というのは日本に比べて寿命が長いので、中古の不動産を買い、それを賃貸に出して家賃をもらい、将来的にそれを転売して老後資金にすることが割と一般的です。
また、子どもが進学する際に大学の近くの不動産を買い、在学中は子どもに住んでもらい、卒業後は他の学生さんに貸し出して賃料を得て、子どもの独立用の資金にしたりします。
日本の感覚だとずいぶんリスクの高くて面倒くさいことをやるなという感じですが、なぜ、これらの国で不動産投資がめずらしくないかと言うと、中古でも不動産の値段がどんどん上がっているからです。
海外の多くの国では、日本と違って新築の家を建てる規制が厳しいので、家の数があまり増えません。なので、中古の不動産を買って住む人が大半になるので、中古の不動産取引が活発なのです。
また、アメリカは木造の家が多いのですが、乾燥しているので、湿気の多い日本よりは家が劣化しません。また、家の構造も日本よりは単純ですから修理がしやすかったり、持ち主が変わってもそのまま住みやすかったりします。
欧州北部の場合は、家の構造が日本とはまったく違い、石やレンガを積み上げることで骨組みができています。
こういう骨組みの上に漆喰を塗り、床には腐食しにくい分厚い木材をはります。なので、何十年どころか何百年ももつという家もあります。
一方、日本だと、特に戦後急ピッチで建てられた木造の家屋は、安い木材が使われていることが多く、30年もすると大幅な修繕が必要になります。屋根が剥がれてきたり床が抜け落ちたりするので、修繕費に数十万円から数百万円かかることがめずらしくありません。
修繕だけで済めばよいですが、建て替えが必要になってしまうこともあり、その場合は数千万円の費用がかかります。
北米や欧州の家というのは“消費期限”が短い日本の家のつくりとはまったく違うので、中古市場が活発になるわけです。
彼らは不動産を投資のポートフォリオの一部に考えるので、海外のよさそうな物件もよく見ています。投資価値があると思うものは積極的に購入して自分の資産にするわけです。
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発展途上国も日本の不動産を買っている
また、先進国だけではなく、発展途上国の人々も海外の不動産を買います。
特に、彼らが欲しがるのが先進国の不動産です。なぜかというと、先進国では法律が整備されているので、自分の持っている不動産を他人に不法占拠されたりするリスクが低く、安全だからです。
これは反対に言うと、発展途上国では自分の買った家なのに他人に勝手に乗っ取られてしまうかもしれないということです。
しかも、土地を所有できるのは国だけで、一般の人は所有できないというルールがある国もけっこうあります。つまり、土地の所有権がないわけです。
その割には、不動産の建築にはさまざまな規制があるので数が多くありません。したがって価格がどんどん上がってしまうのです。工事も手抜きがひどく、汚職も横行しているので不動産の質もかなり微妙です。
そこで、きちっとルールが整備されていて、品質も保証されている先進国の不動産を欲しがるわけです。加えて、こうした国々では政変や内乱が起こる可能性も低く、資産価値がいきなり暴落するリスクも抑えられます。
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家も土地も“無制限に”買い放題
先進国も発展途上国も海外の不動産を求めていますが、それではなぜ、数ある国の中で日本の不動産を買うのでしょうか。彼らが日本の不動産を買う理由の一つは、規制が他の国に比べてかなり緩いことです。日本では基本的に、外国人が不動産を売買することや所有することに関して禁止事項がほとんどなく、日本人と同じように売り買いができます。
なぜ、そうなっているかというと、日本は土地や建物の売買・所有に関しては自由主義の立場を取ってきたからです。売買も所有も自由にしておけば、日本の土地や建物に投資したい外国人も活発に取引を行ってくれます。
たとえば、外国企業が日本に工場やショッピングモールをつくったり、外国人が投資用にマンションを購入したりしてくれれば、日本経済にとってはメリットがあります。
日本は1994年に「GATS(General Agreement on Trade in Services :サービス貿易に関する一般協定)」という国際協定に参加しています。これは「世界貿易機関を設立するマラケッシュ協定(WTO協定)」の一部で、簡単に言うと、参加国では規制を少なくし、自由に取引をできるようにしましょうという決まりです。
この協定では「日本人と外国人の待遇に格差を設けてはならない」となっています。
協定を結んだときに日本政府が土地と建物には不適応とすればよかったのですが、外国からお金を集めることを優先したのでそうはしなかったのです。
なので日本では、他の国のように外国人が土地や建物を買う場合、
・国籍や永住権を持っているか?
・日本に実際に住んでいるか?
・日本で実際にビジネスをやっているか?
などといった条件がないわけです。
外国人が日本で不動産を買うときには、日本人が買うときと同様に登記します。また、所有権の期限はなく、売買・贈与・相続も可能です。所得税や固定資産税といった税金も日本人と同じです。
一方で海外の場合は、日本のように自由ではありません。
中国をはじめとした多くのアジア諸国では、外国人だけではなく、その国の人も土地を所有することができません。
これは他の国でも同じです。
たとえばイギリスだと、一部の土地や建物を除いてすべて王室・貴族が所有しているので、基本的には借地権を取引することになります。
イギリス人も外国人も平等に借地権の取引を行うことになっていて、借地権は数年程度から999年契約などと大きな幅があります。
10年程度の短い借地権だと、不動産価格はかなり下がります。
また、東南アジア諸国では、外国人が不動産を取得することはできるものの、以下のような規制があります。
・外国人価格で買わなければならない
・新築のみ買うことができる
・マンションの外国人の部屋保有割合を規制している
・現地の国籍を持つ人と法人をつくって、共同所有でなければならない
こういった規制に比べると、日本の外国人に対する不動産所有は実にオープンで自由なのです。
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「日本の無人島」を買った中国人
実際に、日本の土地を外国人が買ったことが話題になることも増えてきています。
2023年2月、中国人の女性が沖縄本島の北に位置する無人島「屋那覇島」を3年前に購入していたことを明かし、海岸で遊んだり、森の中を歩き回ったりする様子をSNSで公開しました。この女性は山東省出身の34歳で、彼女の家は不動産業と金融業を営んでいるそうです。中国メディアの取材に対し、親族の会社名義で島の5割程度の土地を購入したと説明しています。
女性は「美しい景色を共有するために投稿した」とのことですが、沖縄の離島という性質上、どうしても領土問題・安全保障問題を想起させます。彼女のSNSには、「中国の領土にできますね」「中国軍が行くには便利な場所ですか?」といったコメントもつきました。
そうした懸念を受けて、官房長官が記者会見で「法律には違反していない」としたうえで、「動向を注視する」と発言しました。
沖縄のような安全保障上の重要な地域でさえ、外国人が買えてしまうのですから、都内のタワーマンションなどはより簡単に購入できてしまうでしょう。
ついに外国人所有の規制がつくられた
しかし、ここに来てやっと日本政府は重い腰を上げ、外国人による土地の購入と所有に関して規制を設け始めました。
2021年6月には「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」という法律が成立しています。
この法律では、自衛隊の基地や原子力発電所といった重要な施設、離島など国境に近い場所の土地を買う人に対して、国が名前や国籍を調査できるというものです。購入者だけではなく借りる人の名前や国籍を調べることも可能です。
特に重要な地域は「特別注視区域」と呼ばれていて、買う人の名前や国籍などを事前に届け出なければなりません。
現在規制されているのは自衛隊関係の施設周辺など500カ所以上です。意外と数が多いので驚くのではないでしょうか。
規制地域で日本の安全保障を犯すような行為があった場合は、国が土地や建物の利用を中止できます。安全保障を犯すような行為というのは、たとえばスパイ行為とか破壊行為、水道や電線を壊す、道路を封鎖する、デモ活動、妨害電波を出すといったものですが、判断は国に委ねられています。
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また、虚偽を申し出ることや届け出の通りに土地を使わないことも禁止されています。禁止事項を破った場合、2年以下の懲役や200万円以上の罰金が課せられます。
「外国人に土地を買わせるべき」だと主張する人たち
日本政府は、この規制を安全保障に対する脅威に対抗するために実施しています。
端的に言うと、近年日本の土地を買いあさっている中国に対する対抗策です。
ところが、この規制もかなり問題があり、外国人の土地の取得自体を完全に禁止しているわけではないわけです。
条文をよく読むとわかりますが、あくまで規制対象地域を購入しようとする外国人に対して調査を行う、使用禁止の命令を出すことができる、場合によっては国が買い上げを行うことが定義されているので、外国人に対して土地を売ることを禁止してはいません。
一方で、この法律に対して、立憲民主党や日本共産党、弁護士会などが「私権を制限する」という理由で反対してきましたが、海外の先進国は類似する法律があることが多いので、このような法律を施行するのはごく当たり前のことです。反対する人々は日本の安全保障よりも「私権を制限する」というよくわからない理由を優先しています。
つまり、彼らは、日本に安全保障上の危機が及ぶ可能性があっても、外国人が自由に土地を売買することを許しましょうということを言っているわけです。
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『激安ニッポン』(マガジンハウス)
谷本真由美
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2023年7月27日
1,100円(税込)
新書 : 208ページ
4838775199
元・国連専門機関職員の著者が明かす――
日本人だけが知らない、海外との「驚愕の価格差」
・東大卒より海外の介護士のほうが稼げる?
・中国人が無制限で不動産買い放題!
・日本の福祉にたかる外国人たち
・アメリカは野球場のハンバーガーが「2000円超」
・光熱費が「2倍」になったイギリス
・欧米では年収1000万円で「低所得」
・「中古品」しか買えない日本の若者
・「100円ショップ」大好きな日本人
本書では、元国連専門機関職員の谷本真由美さんが、「物価も給料も日本はいまだに激安」であること、そしてその安さゆえに「海外から買われている」ことを“忖度抜き”で明かしています。日本人はなかなか気づけない、世界から見た「ニッポンの真実」がわかる一冊です。
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