山口真由「結婚さえすれば“エリートからの落伍者”にならずに済む」と思っていた…ハーバード留学中に婚約破棄、そして卵子凍結という道を選択
集英社オンライン / 2023年8月12日 17時1分
東大卒で財務省に入省、そして弁護士に転身と輝かしい経歴を持つ山口真由さん。そんな山口さんのエッセイ『挫折からのキャリア論』(日経BP)では、超エリートの山口さんが経験した社会に出てからの挫折が詳細に描かれている。その挫折や失敗について本人にうかがった。(前後編の後編)
両親、現役の医師という家庭に生まれ育ち、妹も医師に、自身も東大「全優」で卒業、大学在学中に司法試験に合格……という山口真由さん。
こうして文字で並べていくと完全無欠に見える山口さんの経歴。実は就職してから30代前半までは、挫折と凋落を繰り返すような生活を強いられていた。
「結婚さえすれば退路としては惨めなものにならない」と思っていた…
――社会人生活の落伍者となってしまった山口さんは、財務省、弁護士事務所勤務を経て、ハーバード大学に留学を決意されました。これは当初から予定されていたものではなかったですよね?
まったく違いました……。勉強が完璧にできる、しかも“東大首席の私がきましたよ?”くらいの気持ちで就職しましたから(苦笑)。それが使いものにならず、退職に追い込まれて、それでもエリートからの落伍者だと自認できない私が考えた策でした。
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山口真由氏
――20代の山口さんは結婚をして、出産をして、キャリアを落とすことなく、仕事を継続する。もちろん、家事は完璧。そんなキラキラ生活を目指していたと聞きました。
だから当時つきあっていた彼と結婚するつもりでした。留学から帰国をして、結婚さえすれば退路としては惨めなものにならない、自分の人生がやっと落ち着くんだと。でも留学中に彼から、突然別れを言い渡されました。今思えば、当たり前だったんですよね。
「人生初の挫折を味わっていて、いまある場所から逃げたかった」恋愛だった
――彼とのおつき合いは順調だったんですよね?
そう思っていたのは、どうやら私だけだったんです(笑)。
婚約していた留学中に、彼がボストンまで会いにきてくれたことがあったんです。でも私も留学した以上は……と、真面目に勉学に取り組んでいました。だからまともに相手ができなくて、それがストレスになってしまったんですよ。で、私は覚えていないんですけど「来なくてもよかったのに」と言ったらしいです。
――彼にですか?
そう。私は自分が傷ついたことだけは細かく覚えているのに、人を傷つけたことは覚えていない。相手のことを理解しようともしてない。ダメでしたよね。その後に別れを宣言されて「別れたくない! 今すぐに(日本へ)帰るから!!」と大騒ぎ。
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――もし今、彼と再会したら……
やり直すかどうかですか? それはないです。たぶん、彼はいい意味で自分の知っている範囲にパートナーを閉じ込めておきたかったんですよ。そういう愛し方もある。
でも私は当時、彼にも言えなかったけど、人生初の挫折を味わっていて、いまある場所から逃げたかった。もし、何事もなく結婚していても私が「もっと外へ行きたい!」と思う可能性は高いです。長い目で見ると二人の間には大きな齟齬があったんだと思います。
「卵子凍結は若くて、卵巣機能の高い女性が圧倒的に有利で……」
――婚約者に別れを告げられ、金銭的、精神的にも苦しい時代を経て落ち着かれたころ、「子どもがほしい」と悩まれた末、選択肢の一つとして卵子凍結を経験されたとのですが、ここでも問題にぶつかられたと聞きました。
私が縁あって卵子凍結に取り組んだのは、36歳から37歳にかけてでした。でもあの現場で見事なゴールが約束されているのは、若くて、卵巣能力が高い女性ばかり。卵子採取で病院に行くと「たくさん採れました〜」みたいな声が聞こえてくるんですよ。でも私はまったく採れない。そこでまた落ち込んでいました……。
――勉強と同じく、やはり競争に勝ちたいんですね(笑)。
そうですねえ(笑)。最近はあまり競争心を出さないよう、ひとつの世界にとどまらず、いつもいくつかの世界を自分の周囲に置くようにしていますけど。
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――山口さんは頑張った甲斐があって、卵子凍結をすることができたわけですが、この方法はまだ費用問題もあって、一般的ではありません。これを若い女性に勧められますか?
まずは若かったら選択肢のひとつとして持っていいと思います。でもそのときに、結婚をするのか、シングルで育児をするのかという、ある程度の目標を立てることが必要です。
なぜかといえばやっぱり費用的な問題がかかってくるからです。これからは会社が費用助成システムを設けるとかそういうケアも出てくると思います。でもこれは、男性と同じようにキャリアを積め!という指令でもあるわけです。手放しで喜ぶのではなくて、計画性は必須ですね。
――おいそれと手を出すシステムとして、まだ確立はされていないということですよね。
私もかっこよく言いましたけど、卵子凍結は不妊治療業界の新しい財源ではないかと思います。団塊ジュニア世代の不妊治療も一通り終わったけど、人口は減る一方ですからね。高額ですし、私も「みんなやりましょう〜!」とは軽々しく言えない。だからこそ本当に自分に必要かどうかを選択してほしいです。
本当のロールモデルは自分の弱いところを年齢に関わらず見せていくこと
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――最後に。結婚するのか、独身で出産、育児をするのかというワードが出ました。女性は結婚、独身、子供がいるかいないのかで、立場や考えに違いが出てきます。そういう女性同士の関係性をよくするためには、どんな方法があるのか、山口さんの考えをお聞かせください。
子どもがいても、いなくても、結婚してもしなくても。それぞれにいい部分もあれば、自分のことを惨めに思う部分もあります。そういう部分をお互いにさらけ出すことではないでしょうか。どちらがいい、悪いでもない。
『挫折からのキャリア論』にも女性のロールモデルについて触れました。
これまでの感覚ですと、ロールモデル=先輩、で、上司は自分の成功やかっこいい面を見せて引っ張っていくようなイメージがありました。でも私は違うと思う。本当のロールモデルは自分の弱いところを年齢に関わらず見せていくことなんですよ。
そこでお互いが理解しあう。優劣がない。女性の立場も同じで、以前は私もプライドが先立って言うことができなかった「こんなに困っています!」と、開示していくことが必要なのではないでしょうか。
取材・文/小林久乃 撮影/惠原祐二
『挫折からのキャリア論』(日経BP)
山口真由
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2023年5月25日
1,870円
180ページ
978-4296202058
キラキラに見える人生は、実際は泥沼だった。
何度でも失敗からはい上がる
折れないキャリアのつくりかた
この本では、私の失敗談を「これでもか!」というほど紹介します。
私たちがもっとお互いの弱さを開示して、手を取り合っていくことで、
職場でもっと違う振る舞い方ができるようになるのではないかと思うからです。
「仕事ができなかったんです、私」――。「東大を全優で卒業」「財務省に入省」「米ハーバード・ロースクール卒業後、NY州弁護士登録」といったキラキラな印象のある著者ですが、実は人知れぬ悩みを山ほど抱えていました。時間がかかった「自分探し」の末に見つけた「キャリアの軸」とは? 悔しい挫折や失敗を乗り越えて、前に進むエネルギーに変える「飴玉メソッド」も詳しく紹介します。
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