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「ウクライナ人を助けたい」のか「死ぬかもしれない」状況下での自分試しか…45歳日本人義勇兵がウクライナ戦地に赴いた真意を探る

集英社オンライン / 2023年8月11日 8時0分

命の対価ともいうべき初任給は7万円…3歳の息子を日本に残し軍歴なしでウクライナ軍に入隊した45歳の日本人義勇兵の肖像〉から続く

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、軍歴なしでウクライナ軍に入隊した45歳の日本人男性・ケンさんを密着取材した。離婚し、3歳になる息子を日本に残して戦場に赴いたケンさんの強い動機とは何だったのか? そして、初めての前線任務で起きた事件とは…。(前後編の後編)

#1

戦場での休日はマッチングアプリでウクライナ人女性とデート

日本では板前や営業職をしていたという義勇兵のケンさんは離婚したことがきっかけでウクライナ行きを決意した。3歳の息子に会えない悲しみを胸に過酷な戦場に身を投じた。



任務以外の時は何をしているのだろうか。

「料理や洗濯ですね。たまに筋トレとか銃の手入れをしています。基地からは自由に外出できないので、手に入るものを使い料理を作ります。板前をしていたことが役に立ちました。特にだし巻き卵はみんなにも好評ですね。
それと、キーウのジョージア部隊の基地にいた時にマッチングアプリで知り合ったウクライナ人女性と友達になったので、ウクライナのことでわからないことがあると相談しています。 前線に来る前は、買い物に付き合ってもらったり食事に行ったりしてました」

マッチングアプリで知り合ったウクライナ人女性とデート!?

まるでスペイン内戦を舞台に義勇兵と現地女性の恋を描いたヘミングウェイの『誰が為に鐘は鳴る』の現代版だ。戦士にも休息は必要なのだ。実際、ウクライナのために命を賭けて戦う義勇兵に恋心を抱く女性は多い。

以前、ケンさんと同じ部隊で戦う義勇兵のハルさんとドニプロの街中を歩いていると、軍服姿のハルさんを見つけたウクライナ美人が「ハグさせてほしい!」と声をかけてきて、熱い抱擁を交わしていたのを目撃したことがある。「2人の女性からアプローチされています」というハルさんの言葉は嘘ではないと思った。そしてウクライナに親日家が多いのはさまざまな場所で私自身も実感した。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、今日まで7人の日本人義勇兵から話を聞いてきたが、7人全員が義勇兵になった動機は「ロシアの侵攻で平穏な日常を奪われたウクライナ人女性、老人、子供を守りたい」と答えている。

しかし、私にはどうしてもそれだけが理由とは思えなかった。
彼らはどうしてウクライナに義勇兵として赴いたのだろうか?

取材を始めて数日経ったある日、ケンさんに義勇兵になった本音の部分を聞いてみた。

「上手く言えませんが、私は昔から何事も経験しないと気が済まない性格でした。一般の人に比べて恐怖心が薄いのかもしれません」

初めての前線任務でケンさんを脅かしたもの

恐怖心や身の危機に直面する事に幸せを感じるタイプには、これまでの戦場でもたくさん出会ってきたが、ケンさんも同じ人種なのだろうか。

私自身がこの仕事を始めて25年間で何度も危険に身を晒し、時には怪我を負っても、紛争地取材から足を洗えずにいるアドレナリン中毒者なのだから彼らの気持ちは理解できる。ケンさんの本音の部分は結局、現地で取材していたときには捉えきれなかった。

取材を終えてウクライナから帰国後、しばらくしてケンさんから連絡が入った。

初めての最前線の任務を終えて基地に無事に戻ったという。2人のウクライナ人兵士とケンさんの3人はAGS-17自動擲弾発射機を担当し、ケンさんは敵までの距離を測り、射手に伝える観測手の役割を担った。

「ウクライナ軍、ロシア軍双方の砲弾やロケット弾が昼夜問わず飛び交う状況でした。ポジションと呼ばれる前哨地で地面に掘って丸太で補強した1畳ほどの蛸壺壕に一人で入り、4日間ずっとロシア軍のドローンや砲撃から身を隠してました。近くに着弾すると衝撃で塹壕の土が落ちてきました」

丸太で天井部分を補強しているとはいえ、砲弾が直撃したら死ぬか生き埋めになるかもしれない。私も実際に壕に入ったが閉塞感と不快な湿気で、ものの数分で逃げ出したくなった。そしてケンさんから耳を疑うような話を聞いた。

「初日の夕方から周囲でガサガサ音がして人間かと思い身構えたら、なんと数十匹のネズミが周囲を徘徊してて、横になっていたら一匹の小鼠が私の潜む穴に落ちてきました。しばらく放っておきましたが、夜、寝ている時にその小鼠がシャツの隙間から入り込み、ネズミは背中をモソモソ這い回りました。

初日は寝るときも防弾プレート(レベル3)の入ったプレートキャリアを着用していたので、背中とキャリアの間で思いっきり押し付けたら「キュー!」と鳴き声がしてそのまま大人しくなりました。キャリアを外し、シャツをバタバタしたらボトッと音がしましたが、夜はドローンを警戒して灯りをつけられないんです。

なので、暗闇の中手探りで鼠の死体を探し、足元に置いときました。翌朝確認したら圧死してました」

信念がなければ義勇兵はできない

私も前線取材で着用している7.62mm弾を防ぐレベル4の防弾プレートにこのような使い道があることを初めて知ったが試してみようとは思わない。こうして3日間のポジションでの任務はネズミ撃退の戦果も追加された。初めての実戦の感想を聞くと

「戦闘に関してそれほど恐怖感はありませんでしたが、ネズミの体液から変な病気に感染しないかが不安になりました」

ロシア軍は戦死した兵士の遺体を放置していると聞いているが、その屍肉を食べてネズミが増えているのかもしれず、疫病も蔓延している可能性もあるので、恐怖以外に他ならない。
 


ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、現地でさまざまな国籍の義勇兵と出会った。彼らの多くは、「戦争で命を脅かされている人たちを助けたい」と口にしており、その信念に偽りはない。一方で、部隊で生活をともにし、少しずつ彼らの心の内にある話を聞くと、その多くは母国での平穏な日常生活にやりがいや居場所を見つけられず、悶々としていた者が多いということに気づく。

では彼らは戦場に死に場所を求めに来たのか。答えは否だと思う。

彼らは決して“自殺願望者”ではない。

「死ぬかもしれない」という状況下で自分の能力を試したいというのが本音ではないだろうか。そしてそれが人助けに繋がるならば、戦場で命を落としたり怪我をしても本望なのかもしれない。
「有名になりたい」という安直な動機で義勇兵になった目立ちたがり屋の多くは長続きせず、脱走してウクライナを早々に去った。

やはり、強い信念がなければ砲弾が絶えず降り注ぎ、雨でずぶ濡れになりネズミが徘徊する塹壕での生活には耐えられない。

現在、ウクライナ軍による反転攻勢が継続中だが、防御を固めたロシア軍は激しい抵抗をみせている。戦争はさらなる長期化を免れないだろう。ウクライナに侵攻したロシア軍を追い出して人々に平穏を取り戻したいという信念で、部隊からの給料で愛する息子の養育費を支払い続けるケンさんは今日も任務に励んでいる。

#1 命の対価ともいうべき初任給は7万円…3歳の息子を日本に残して軍歴なしでウクライナ軍に入隊した45歳の日本人義勇兵の肖像

取材・文・撮影/横田徹

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