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非行に走る子どもは遺伝のせいなのか、環境のせいなのか…15歳を境にくっきり分かれる「子どもが悪になる」要因

集英社オンライン / 2023年8月23日 10時1分

子育てマニュアル本がほとんど強調しないであろう“子どもの遺伝”について、子どもの行動に及ぼす遺伝の影響を、「行動遺伝学」に基づいて解き明かす。『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

子どもとの愛着関係は親しだい

どんな行動の個人差にも原則として遺伝の影響があるというのが行動遺伝学の第一原則ですが、例外があります。

それが乳幼児期の子どもと親との愛着のあり方で、これには珍しく遺伝要因がほとんどありません。愛着、つまり子どもが親や大人に対して示す安定した心理的な距離の取り方は親のかかわり方が非常にものをいうようです。

子どもは親から引き離されると強い不安を感じます。そこで親と再会するとき、多くの子どもは親と会えたことで安心感を得て、親に抱かれ落ち着きを取り戻します。


しかし子どもによっては、親と再会しても親を拒絶しようとしたり、いつまでも機嫌が悪いままでいたりします。ここで子どもの見せる母親との安定した関係の取り方を一卵性と二卵性で比較すると、その類似性がほぼ同じで、共有環境が70%近くになります。

これはふだんの子どもとの関係で築かれた安心の基地としての親の接し方がどのようなものだったかがかかわっていると思われます。子どもにはもちろん遺伝的な気質として、先に述べたような遺伝的な差があり、場合によってはそれに引きずられて子育てのやりやすさも違ってきます。

しかし子どもの気質とは無関係に、そもそも親自身に子どもと安定した関係を築くことが上手な人と、不安定になりやすい人がいるものです。

その違いが子どもにとって、親を自分の居場所としてどれだけ安心感をもってかかわれるかどうかにかかわっているようです。

しつけの仕方に一定の方針をもって、ぶれずに子どもとかかわるとか、親自身が自分の生活ストレスをうまくコントロールするなどといった配慮が必要かもしれません。

物質依存の温床になる危険

これは小さいお子さんにはまだ縁遠い話かもしれませんが、中学生や高校生、場合によっては小学校高学年のような思春期に入るころから、注意が必要になるかもしれませんので、最後に取り上げておきましょう。

[図3−5]はたばこ、アルコール、麻薬などへの物質依存や非行や犯罪といった社会的に望ましくない行動に関する遺伝と環境の影響の割合を示したものです(なお、「コーヒー」は物質依存の一つとして、「転職」は社会的不適応行動のひとつとして、ここでは挙げられています)。

図3−5 社会的に望ましくない行動に関する遺伝と環境の影響の割合。『教育は遺伝に勝てるか?』より

ご覧のように共有環境の影響があるものが少なくありません。これらも家庭環境が重要であるものです。

物質依存はわかりやすいですね。そもそもたばこやお酒が家のすぐ手に届くところにあって、親もそれらをよく口にするのを日ごろから見ていれば、そうでない家庭と比べて、ニコチン中毒やアルコール中毒になりやすいであろうことは容易に想像がつきます。

いや親はたしなむ程度にしか飲んでいないから大丈夫と思うかもしれませんが、物質依存になりやすい体質には遺伝的な要因もあり、第1章で説明したようなポリジーンの遺伝子伝達の仕組みによって、子どもがたまたまその依存体質になりやすい遺伝的傾向を親より強くもっていたとしたら、依存症に導かれるリスクは高くなるといえるでしょう。

ということはその逆もありえます。

これは正に私の場合がそうなのですが、父親はお酒とたばこでほとんど依存症といっていいほど、その量の多さで親族の間でも有名でした。

しかし私はお酒を全く飲めないわけではありませんが、飲むとすぐに赤くなって酔っ払い、すぐ眠くなる体質で、そのうえ、その酔っ払って周りに議論を吹っかけたがる父親を好ましく思っておらず、あんなふうになりたくないという気持ちも働いて、お酒はほとんど飲みません。

アルコール依存になるかならないかはALDHとADHというアルコール分解酵素の遺伝子の型がかかわっています。父はどちらも優性のホモだったのでしょう。一方、母がお酒飲みであったところを見たことはないので劣性のホモ、そしてそれを受け継いでいた私の遺伝子型がヘテロだったから、このようなことになったのだと思われます。

ちなみに物質依存にみられる共有環境の影響は、必ずしも親や家にあるとは限りません。きょうだいのどちらかが友達から教わってきたら、親に隠れてそういうものに手を出してしまう可能性は高くなるでしょう。これも共有環境の要因になる可能性があります。

遺伝と環境が逆転する〝15歳〟

非行はまた少し違うメカニズムがあるのではないかと思われます。ここで、非行と犯罪は区別する必要があります。

非行とは万引きや不純異性交遊や未成年飲酒・喫煙など、若いときのワルな行為、いってみれば若気の至りでやってしまった過ちです。こういう行為は、悪い友達の仲間になってしまったり、あるいは住んでいる地域にそうした行為が起こりやすかったりすると、なびいてしまいがちです。

一方、犯罪とは強盗、殺人、詐欺といった、もはや若気の至りで済まされない、正真正銘の悪事、反社会的行為のことをいいます。行動遺伝学が共有環境の影響の多さを示しているのは、このうち若気の至りの方の非行です。

[図3−5]を見ると15歳を境に、それ未満だと共有環境が多いのに対して、15歳以上になると遺伝の影響が多くなり、逆に共有環境の影響はほとんどなくなります。

酒やたばこも飲めなければ一人前ではないというピアプレッシャー(友達どうしの同調圧力)が働きやすい環境に置かれれば、未成年喫煙、未成年飲酒も、それをすることが勲章だと思わされるでしょう。

一方、分別がつく歳になっても、衝動に身を任せてものを盗んだり、人をだまして悪事を働いたり、繰り返し性犯罪を犯してしまう根底には、その人の遺伝的素質がかかわってきます。

ただ、誤解してはならないのは、そのような遺伝的素質があると必ず罪を犯すとは限らないということです。この図は、これらに非共有環境も大きく影響することを示しています。

これは一人ひとり異なるだけでなく、同じ人においても状況によって異なる環境の影響を意味します。つまり素質があっても、罪を犯すことのできる状況に出くわさなければ犯罪には至らないのです。

どろぼうは、もちろんそれをする人が悪いに決まっていますが、家に必ず鍵をかけ、どろぼうをさせない状況にしておくこともまた大事なことであるのは、言うまでもありません。

このように行動遺伝学は、遺伝についてだけでなく環境についても有効な示唆を与えてくれる知見を生み出しています。本章では特に人の子の親として行うことのできる環境のつくり方を示してくれている研究例をご紹介してきました。

子どもの育ちは親しだいと謳う育児書も少なくありません。それに対して行動遺伝学は、子どもも遺伝的に独自の存在として生きていることが示される以上、子育て万能主義には立てないと考えています。

しかしそれは遺伝決定論なのではなく、子どもの遺伝的素質に寄り添って親自身の生き方やふるまい方を調整し、子どものより良い人生に寄与できる可能性もあることを、頑健なエビデンスで示してくれているのです。

文/安藤寿康

『教育は遺伝に勝てるか?』 (朝日新書)

安藤 寿康

2023/7/13

935円

256ページ

ISBN:

978-4022952165

結局「生まれが9割」は否定できない。でも、遺伝の仕組みを深く理解すれば、「悲観はバカバカしい」と気づくことができる。
遺伝が学力に強く影響することは、もはや周知の事実だが、誤解も多いからだ。 本書は遺伝学の最新知見を平易に紹介し、理想論でも奇麗事でもない「その人にとっての成功」(=自分で稼げる能力を見つけ伸ばす)はいかにして可能かを詳説。
「もって生まれたもの」を最大限活かすための、教育の可能性を探る。

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