政治のゆがみが招いた3つのこども虐待・いじめ事件…こどもの命が守られない日本だから「こども庁」が必要な理由
集英社オンライン / 2023年8月19日 10時1分
今年4月に発足した「こども家庭庁」。その創設の舞台裏では何があったのか。「こども庁」構想の発起人の一人である著者が書き下ろした『こども庁ー「こども家庭庁創設」という波乱の舞台裏』(星海社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
誰がこどもの命を救うのか
「誰も本気じゃない」
そのことに無性に腹が立った――それが、私が「こども庁」創設に取り組むことになった最大の動機です。先進国といわれる日本において、こどもは危機的な状況に置かれ続けてきました。児童・生徒の自殺者数は統計開始以来過去最多の514人、児童虐待の死亡児童は54人、いじめ重大事態は705件、不登校児童は24・5万人。
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こどもの精神的幸福度は、経済協力開発機構(OECD)参加国の38カ国中37位。ひとり親家庭の相対的な貧困率は約50%――OECD中で最も高い水準です。妊産婦の死因の1位は自殺、なんとその多くは無理心中です。そのため、児童虐待で死亡したこどもの半数がゼロ歳ゼロ日となっています。先進国と言われる日本で、こんなことが起こっているとは信じられない思いです。
こどもの命が守られない日本
最も憂うべきことは、こうした問題に真っ向から取り組み結果を出した政治家が、ほとんどいなかったことです。毎日のようにいじめや虐待の事件がニュースで流れています。それでもどれだけの人が本気で動こうとしたのかは疑問です。
こどもを取り巻く状況には、教育格差、貧困、待機児童問題、育児と仕事の両立問題など多くの課題要因が、複雑かつ密接に関連し、連鎖しています。それぞれの課題はなかなか解決されることなく、むしろ悪化しているとも言えます。取り組むべき問題は山のようにあります。
そして、何をおいても守らなければならないのは、こどもの命です。その大切な命が守られていない現状がある。自殺や繰り返される不慮の事故がこどもたちの命を奪う大きな原因になっています。
予期せぬ妊娠やひとり親の生活苦、夫婦間不和などで、産前産後にうつになる母親も多く、社会や家庭内の問題のひずみが、孤独・孤立や、最悪の場合虐待となってこどもたちを追い詰めていきます。そして、妊産婦の死の原因の1位が自殺、その多くが無理心中という状況を生んでいます。
家族関係社会支出は先進国の中でも最低の日本
こうした問題に対応するのは児童相談所や、警察、教育委員会や学校などさまざまな行政機関です。
しかし、実情は、厚生労働省、内閣府、文部科学省、法務省、警察庁といくつもの府省庁にわたって担当分野がバラバラです。府省庁の複雑な縦割り構造の中で、問題が起きても解決のプロセスや責任者が明確でないという現実がある――同時に、現場は担当者の人員不足、専門家の人手不足で、誰も、こどもたちの問題に責任を持って取り組むことができない状況が、長く続いていたのです。
これはまさに政治の責任以外のなにものでもない。法律と行政の不備のために、この時代の日本に生きているこどもたちの命が守られないなんて、許されることではありません。
経済協力開発機構の調査では、日本のGDPに対する「家族関係社会支出」割合は、2019年度で1・74%。これは、先進国の中で最低のラインとなっています。家族関係支出と教育費支出をそれぞれ他国と比較しても、こども政策に使われている予算が非常に少ないことがわかります。
ただやみくもに予算を増やせばいいということではありませんが、欧州並みの3%台――つまり約2倍まで引き上げるべきだと私は考えています。
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政治のゆがみが招いた3つの事件
ここ数年、虐待やいじめによって命を失うこどもたちの事件が後を絶ちません。かけがえのない命を失ったひとつひとつの事例が、痛ましく、許されるものではありません。そんな中でも私にとって、忘れられない3つの事件があります。
ひとつは、2018年東京都目黒区で、十分な食事を与えられず虐待死した船戸結愛さん(当時5歳)の事件。
もうひとつが、2019年に千葉県野田市で父親からの激しい虐待の末亡くなった栗原心愛さん(当時10歳)の事件。
そして2021年3月に北海道旭川市で凄絶ないじめの末亡くなった廣瀬爽彩さん(当時14歳)の事件です。
上の3つの事件に共通して言えることは、最悪の事態を止められなかった大きな原因が、何よりも行政の仕組みの中にあったのではないかということです。誰も、最後まで責任を持って助けることができなかった、あるいはそうできなかった仕組みがあった――つまり政治の責任で防げなかった死だった可能性があるのです。
こどもたちからのSOSに誰が対応するのか
2021年3月2日、私が共同事務局を務めている、Children Firstのこども行政のあり方勉強会に、船戸結愛さんの香川県での主治医だった、木下あゆみ先生(国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター小児アレルギー内科医長)に来ていただき、小児科医から見た「子ども虐待」について、説明をもらいました。
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船戸結愛さんは、2016年に香川県に住んでいた頃から虐待を受けていました。結愛さんと木下先生が初めて会ったのは、2回の一時保護の後。週に1、2回、母親の相談にものりながら、結愛さんの診察をし、児童相談所や警察とも連携をとっていました。
ところが2018年、一家は東京へ転居することになります。最後に「先生、また、夏休みに来るね」と手を振って帰っていった後、東京の児童相談所にケース移管されました。先生は、結愛さんが心配で東京の児童相談所に直接連絡を入れたそうですが、その時まで、児童相談所の職員は結愛さんに会えていなかったということです。このようなケースでそれだけ長い期間会えていなかったことに大きな危険を覚えますが、転居後の状況を知る術はありませんでした。先生が、結愛さんのその後を知ったのは、両親から虐待をうけ亡くなったという報道を通じてでした。
しかし、先生から見ると、転居前の結愛さんのようなケースは、度々あるケースであり、特別に対応が悪かったわけではなかったと言います。
「私たちは、ぱっと見小さなケガですが見逃してはいけない大事な所見、こどもの言動や、親子の様子などを注意深く診ています。虐待かもしれないケース、もっと手前の育児支援が必要なケースは本当にたくさんあり、ニュースになっているのはほんの一握りなんです。しかし、結愛さんのケースでどこが問題だったかと言えば、医療機関と児童相談所の虐待の重症度判断の差や、県外に引き継ぐ際に県ごとにやり方が違ったために隙間ができてしまったこと。それにより、綻びが出て命を落としてしまうことになったということです」
現場では、こどもの為に一生懸命になっている大人が大勢いるにもかかわらず、転居を繰り返すことで、自治体間で情報が分断されうまく引き継がれない。行政の問題でこどもの命が守られていない現状を目の当たりにしました。
文/山田太郎
『こども庁ー「こども家庭庁創設」という波乱の舞台裏』(星海社)
山田太郎
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2023年8月23日
¥1,650
224ページ
978-4-06-532899-6
自民党を「こどもを語れる場所」に変えた1年半の疾風怒濤伝!
2023年4月に発足した「こども家庭庁」。その創設の舞台裏には、自民党の常識にとらわれない新しい政治の「闘い方」があった! こどもの虐待や不登校、自殺者が多発する日本の厳しい現状を「こども緊急事態」として菅義偉内閣総理大臣に「こども庁」構想を直談判した2021年1月24日、闘いは始まった。「総裁選」や「党内や官僚からの抵抗」、「こども庁名称問題」、「メディアからの批判」幾多の危機にあって、命綱となったのは「ゲリラ的勉強会」、「デジタル民主主義」という驚きの政治戦略だった! 本書は、「こども庁」構想の発起人の一人である著者が、庁の発足までの舞台裏を書き下ろした疾風怒濤の政治ドキュメンタリーである。
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