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「川遊びしていた子供が溺れて死亡しました」毎年夏になると発生する不慮の水難事故死…再発防止のために「こども庁」ができること

集英社オンライン / 2023年8月20日 10時1分

毎年、夏になると水難事故の悲しいニュースを目にする。こうした事故の再発防止のために必要なことは何なのか。『こども庁ー「こども家庭庁創設」という波乱の舞台裏』(星海社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

川遊び中に亡くしたわが子の死因がわからず…

2020年度、0歳~14歳のこどもの不慮の事故死は年間200件を超えました。

しかし、その命の責任を誰が取るかということが、明確ではない。長い間、どこにも司令塔がいないのが、日本のこども政策だったのです。例えば、こどもが亡くなってしまったとき、どこが責任を持って調査や報告をするのか。

亡くなった場所が、学校や幼稚園であれば文部科学省の管轄になります。保育所で亡くなれば、これは厚生労働省の問題になります。遊んでいた公園で事故に遭ってしまったとしたら国土交通省の管轄になり、遊園地なら経済産業省、手すり等が絡むと消費者庁の管轄となります。



このように、事故が起きた現場等によって、複数の府省庁に分断されて管轄が異なり、責任部署も存在しませんでした。そうするとこどもの死亡事故などのデータが蓄積されず、再発防止対策を取りようがないということになります。行政の対応も無責任なものとなります。

2012年7月愛媛県で当時5歳だった吉川慎之介くんが、川遊び中に亡くなるという事件がありました。

慎之介くんは、私立幼稚園でのお泊まり保育に参加した際、川で水遊びをしていたところ、川が増水し、他の3名の園児と共に流されました。ライフジャケットは着用しておらず、このうち慎之介くんだけが亡くなったのです。死体検案書には「溺水」とあったものの、詳しい死因は当初、遺族に知らされませんでした。

事故調査や原因究明の責任の所在

愛する息子が、どのように命を落としてしまったのか、親御さんがその原因を知りたいと思うのは当然のことでしょう。しかし、保護者が県と市に再発防止を目的とした調査委員会の設置を依頼しても、私立幼稚園に対する指導権限がないという理由で却下されました(2014年に私立学校法の一部改正がなされ、現在は私立学校における立入検査が明文化されています)。

また、文部科学省も「地方自治体の対応がすべて」だという回答をしたというのです。幼稚園管理下の保育・教育活動で、こどもたちが誰もライフジャケットをつけていなかったことから、当時、幼稚園のプール事故を調査していた消費者安全調査委員会に事故等原因調査等の申出書を提出、しかし、「川での水遊びは消費サービスに該当しない」という理由で却下されました。

結局、事故調査や原因究明の責任の所在がわからないまま、ただ時間だけが過ぎていきました。

事故から2年たった2014年、刑事事件として起訴されたことにより、被害者参加制度を利用し捜査資料を閲覧できたことで、ようやく慎之介くんの溺死の状況が明らかになりました。事件から4年後、元園長の刑事責任が認定され、業務上過失致死で有罪判決が確定しました。

しかしその間、親御さんは自らの子が亡くなった原因や責任の所在を知らされずにいたのです。どれだけ悔しかったことでしょうか。

死因の究明なくして再発防止はできない!
失われた4500名もの命とCDRの重要性

慎之介くんの例だけではありません。2012年から2019年までの7年間で、不慮の事故で亡くなった0歳~19歳までのこどもの数は、

4506名。それらのほとんどが、責任の所在が不明のまま、まともに死因の究明も行われていないのが実態です。これでは再発防止ができるはずもありません。こどもの問題の責任を一手に引き受ける政府の責任部署がなくては、事態は解決されようがないのです。まさに、これが縦割り行政の弊害です。

同時に、国と都道府県、市区町村でこども支援、こども政策が分断してしまう「横割り問題」も大きく絡んできます。#1 でも言及した船戸結愛さんの事件は、まさに、転居を機に自治体の連携が取れず、必要な支援が途絶えてしまったことで、最悪の事態が招かれてしまった例です。

このように、管轄部署の所在が明らかでなく、最終的な責任を誰も取らない――そんな国のあり方でこどもたちの命を守れるのでしょうか。

こどもの死について再発の防止のために原因の究明を行う、いわゆるCDR(チャイルド・デス・レビュー)が、欧米諸国などでは「予防できるこどもの死」を減らすために制度化され、具体的な対策によって成果を上げています。

日本でも当然、こどもの不慮の死について、原因の究明と再発の防止に努めることが必要であり、これこそ、政治の最大の責任のひとつであると私は考えています。

CDRとは、こどもが死亡した際、医療機関や警察など、複数の機関が情報を共有し、こどもの既往歴、家族背景、死に至った直接の経緯などの情報を調べ、再発予防の可能性を検証していくことです。これがないと、将来的にこどもの死亡率を減らしていくことはできません。

文/山田太郎

『こども庁ー「こども家庭庁創設」という波乱の舞台裏』(星海社)

山田太郎

2023年8月23日

¥1,650

224ページ

ISBN:

978-4-06-532899-6

自民党を「こどもを語れる場所」に変えた1年半の疾風怒濤伝!

2023年4月に発足した「こども家庭庁」。その創設の舞台裏には、自民党の常識にとらわれない新しい政治の「闘い方」があった! こどもの虐待や不登校、自殺者が多発する日本の厳しい現状を「こども緊急事態」として菅義偉内閣総理大臣に「こども庁」構想を直談判した2021年1月24日、闘いは始まった。「総裁選」や「党内や官僚からの抵抗」、「こども庁名称問題」、「メディアからの批判」幾多の危機にあって、命綱となったのは「ゲリラ的勉強会」、「デジタル民主主義」という驚きの政治戦略だった! 本書は、「こども庁」構想の発起人の一人である著者が、庁の発足までの舞台裏を書き下ろした疾風怒濤の政治ドキュメンタリーである。

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