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「MotoGP撤退はありません!」ホンダレーシング渡辺社長が語った「危機的低迷」の理由

集英社オンライン / 2023年8月16日 16時1分

世界最高峰の二輪ロードレース選手権、MotoGPでかつてないほどの苦況に陥っているホンダ。こうした状況に、「ホンダがMotoGPから撤退するのではないか」とのゴシップも流れるほどだ。2022年からホンダの二輪・四輪を統括するHRCの社長に就任した渡辺康治社長に復活の道筋を尋ねた。

8月第1週の週末、真夏の風物詩〈8耐〉こと鈴鹿8時間耐久ロードレースが三重県の鈴鹿サーキットで開催された。今年で44回目を数えるこのレースで、29回の最多優勝回数を誇る陣営がホンダだ。

勝利数は、圧倒的である。鈴鹿8耐はホンダにとって最重要レースのひとつ、と位置づけられているだけに、レース活動を担うHRC(Honda Racing Corporation:ホンダレーシング)の首脳陣も揃って鈴鹿入りする。HRC社長渡辺康治氏も、土曜午前から鈴鹿のレース現場へ入った。日曜の決勝レースではファクトリーチームのTeam HRC with日本郵便が勝利し、2年連続優勝を達成した。



しかし、問題はMotoGPである。この世界最高峰の二輪ロードレース選手権で、ホンダは現在、かつてないほどの苦況に陥っている。

第9戦イギリスGP終了段階で、決勝レースの表彰台獲得は1回のみ。ライダーランキングの最上位選手は14位、メーカー順位は首位のドゥカティにトリプルスコア以上の差を開かれる4位。チーム順位では、ファクトリーのRepsol Honda Teamは全11チーム中の最下位というありさまだ。この成績は、おそらくHRCの二輪ロードレース史上でもかつてないほどの危機的な惨状だろう。

そこで、8耐決勝前日の土曜に鈴鹿サーキットでHRC渡辺康治社長の独占インタビューを敢行した。いったいどうすれば今の苛酷な状況から脱することができるのか。ホンダのレース活動を束ねるトップエグゼクティブに、腹蔵のない意見と復活の道筋を尋ねた。

昨年同様にチェッカーライダーを担当した長島哲太(中央)と、圧倒的な優勝後に握手を交わす渡辺氏

渡辺氏が社長に就任したのは2022年春。それまで二輪レース活動をもっぱらにしていたHRCがF1などの四輪レース活動も統合し、新生HRCとして活動領域を広げるようになったときだ。渡辺氏は社長就任に際し、この新生HRCの4つの大きな柱として以下の項目を掲げた。

・モータースポーツ活動を通じたHondaブランドの更なる高揚
・持続可能なモータースポーツを実現するカーボンニュートラル対応
・モータースポーツのすそ野を広げる活動への注力
・二輪・四輪事業への貢献

これらの4項目は、果たして当初に想定していたとおりに順調な進行を見せているのだろうか。まずは、そんな質問から始めてみた。

基本的には、予定どおりに進んでいます。多少手探りで何をすべきか考えている部分もあるので、何もかもすぐにできるわけではありません。とはいえ、昨年春にHRCとして二輪と四輪を合体させてひとつのレース専門会社で運営していくことについては、多少の難しさも最初からある程度は予測をしていました。

たとえば、本体の本田技研でも二輪と四輪はあまり関わりがなく開発されていたり、二輪と四輪のカルチャーがそれぞれ違っていたり、といったことなどもありました。二輪と四輪の両方を担当してみると、両方にはそれぞれの強みもある反面、改善が必要なところがあるな、ということもわかってきました。

たとえば二輪の場合は、HRCで長くレース活動をやってきた経験がかなり積み上がっています。モータースポーツと二輪事業は一体化されていて、それが商品にうまく活用されているし、ワンメークレースにも活きています。

一方で四輪のほうは、技術的な面では確かに優れている部分があるけれども、モータースポーツ全体としてどうしていくか、という考えや、それを事業とうまく連携させていく部分が弱い。そういったそれぞれの長所と改善点を、二輪四輪で相互に補完していくことが大切だと改めて思いました。

1964年生まれ。1987年、本田技研工業入社。広報部、欧州地域本部四輪事業部長などを経て、2022年からホンダの二輪・四輪を統括するHRCの社長に就任

——二輪の場合はレース活動を続けてきた中で蓄積された経験と知見が強みだ、ということですが、では、二輪をやってきたHRCの弱み、改善点は何なのですか?

弱みというかどうかはともかくとして、もっと過去から二輪と四輪の技術交流を積極的に進めているべきだった、とは思います。たしかに従来もある程度の交流はあったのですが、今、もっと密に技術交流をしてみると、過去の交流は充分ではなかったと感じる部分はあります。

たとえば二輪は二輪独自の発想に集中しすぎるために、新しい技術のアイディアが限定されてしまう面もあったのかもしれません。今は、たとえば空力やエンジン燃焼の分野に四輪(の技術)が入りこんでいるのですが、そうすると従来とは全然違う発想のものがどんどん出てくるんです。二輪と四輪のシナジー効果で、二輪にいい影響が出ていると思います。

——「二輪と四輪はカルチャーが違う」という話でしたが、それが原因で技術交流などに齟齬を来す面もあるんですか?

そもそも、二輪と四輪はそれぞれ独自なことをやってきているので、そういう意味では、二輪側の人たちは四輪にずかずかと入ってきてほしくはないでしょうし、それは四輪側の人も同じだと思います。だから、そこは我々マネージメント側が無理に何かを押しつけるのではなく、同じものを見たときに彼らが何を選ぶのか、ということを自発的にやってほしいと思っています。だから、我々が二輪の技術者に「四輪のこの技術を使いましょう」と押しつけるような話では全然ない、と思います。

——渡辺さんは社長就任後に、頻繁にレース現場へ来ている印象があります。たとえば今年のMotoGPでは開幕戦のポルトガル・ポルティマオや、6月のイタリア・ムジェロにもいましたよね。F1でも、先日のオーストリア・レッドブルリンクにいた姿を映像で拝見しました。国外のレースへ頻繁に行くのは、積極的に現場へコミットしようという考えがあるからですか?

そうですね。もともと現場が大好きだということもありますが、いろいろと調整や議論をしなければいけない項目が山のようにあるんです。視察訪問というような浮わついた話ではなく、ホントに議論しなければいけない中身がたくさんあるんですよ、MotoGPにしてもF1にしても。

ホンダがMotoGPから撤退することはありません!

——今回、話を伺いたいと思ったのはまさにそのMotoGPに関することなんです。今の状態は、HRCにとってかつてないほどの低迷ではないかと思います。これほど苦戦している様子がハッキリと外部から見えたことは、今までになかったのではないか。おそらく複合的な要素が絡み合っているのでしょうが、この苦戦はどこに原因があると考えていますか?

単純に原因を特定するのは難しいのですが、過去の実績に少しあぐらをかいてしまって、手法を抜本的に変えてこなかったことも原因のひとつなのではないか、と思います。我々としては努力しているのですが、何かのやり方を大きく変えるよりも、むしろ積み上げる格好で開発を進めてきました。

一歩ずつ進化をしているのですが、競争相手はもっと抜本的に開発の仕方を変えているのかもしれません。それによって、競争相手が大きな進歩でステップを遂げたのに対して、我々は積み上げで進めているので、そこで一気に差が出たのだと思います。

——それが現象としてこの1~2年に顕在化した、ということだと思うのですが、それはいつに端を発することなのですか? 問題の根はいつ頃からあったものなんでしょうか?

どうでしょう……、いつからと特定するのは難しいと思いますが、だいぶ長いのかもしれません。要は、我々は変わっていないんですよ。今も言ったように、ずっと積み上げてきた。それに対して競争相手は大きく変わった、ということだと思います。

——つまりそれは、外的な要因で競争相手が強くなったためにホンダが相対的に弱くなったのか、あるいはホンダの中に内的な要因があってこうなったのか、どちらなんでしょう?

難しいですね……。両方だと思います。たとえば四輪の開発は、大きく変わっていったんですよ。データを豊富に活用することで、マシンを作る段階では自分たちのシミュレーションがかなり出来上がっている、という状態です。

それに対して、二輪も当然、データを使っているのですが、それは実車の試作や意見を聞くという従来の方法を積み上げていくやりかたです。それがもちろん悪いわけではありませんが、もっともっとデータを使っていく方法が必要なのかもしれません。

——そのためには、HRCの二輪組織の何かが大きく変わっていかなければならないのですか?

それを今、変えているところです。四輪とのコラボレーションによって、たとえば四輪でやっている開発のフローを二輪に取り入れていく、ということ等もできると思います。


かつてホンダは、「強すぎて面白くない」と言われるほどグランプリパドックで優勢を極めていた。たとえば1990年代にミック・ドゥーハンが5連覇を達成し最強を誇った2ストローク500cc時代は「NSRカップ」と揶揄されるほど、ホンダのマシンは他陣営を圧倒していた。

そこにスーパースターのバレンティーノ・ロッシが登場して4ストローク990cc初期の最強時代を作り上げ、そのロッシはヤマハへ移籍して打倒ホンダという不可能に近い難題を達成することで、カリスマ的な人気を不動のものにした。やがてロッシよりも下の世代にマルク・マルケスという天才ライダーが登場し、2010年代にホンダはまたしても天下無敵の最強時代を作り上げた。

しかし、それも今は昔。現在のホンダ陣営は、冒頭にも記したようにかつてないほどの低迷が続いている。この低迷を受けて、マルク・マルケスがホンダを離脱するのではないかというゴシップまで流布するようになった。このホンダ陣営の厳しい現状は、HRC社長渡辺氏の目にどう映っているのだろうか。


ものすごく危機感を持っています。ホンダグループ全体としても、今の状況は大きな問題だと捉えています。本田技研社長の三部敏宏も含めて、この状態を一刻も早くなんとかしなければならない、と考えています。

——一刻も早く、とはいっても、どれくらいの時間がかかると考えていますか?

そんなに簡単にできることではないだろう、と自覚しています。現在は2024年用のMotoGPマシン開発がどんどん進んでいるわけですが、今決めなければならないことがたくさんあるなかで、我々が自分たちの弱点をすべて理解しているのかというと、そこも実はトライをしながらの作業です。

うまく見いだすことができれば、2024年にそれなりの戦闘力を備えたマシンが出来上がってくるでしょう。ではその確証があるのかというと、正直なところ、今はまだあるとは言いきれません。

——この厳しい現状で、今はいろんな噂が出ていますね。マルケス選手は否定していますが、来年に向けて他陣営から誘われているのではないか、という噂などは、真偽のほどは措くとしても、そういった噂が出てくるところが今のホンダの状況を象徴しているように思えます。

そうですね、おっしゃるとおりだと思います。

——これは非常に失礼な言い方になってしまうのですが、まるで皆が沈む船から逃げようとしているかのような噂やゴシップだという印象を受けます。これらの噂が根も葉もないものであるのなら、どうすればこの現状を打破できると思いますか?

速いバイク、勝てるマシンを作るしかないですよ。私はMotoGPの現場へ行くたびにマルクとはいつもじっくりと話をしています。そして、「我々はあなたの要望するマシンを作って提供しなければならないし、とにかくできるかぎり早くそれを実行する」と伝えています。また、「あなたにもあなたのタイムラインがあるだろうから、それと我々が合わないことがもしもあるのならば、そのときにはそれぞれの判断もあり得るのかもしれませんね」ということは話しています。

ただ、彼も我々も「でも、今は最後まで諦めずに力を合わせて一緒に頑張っていきましょう」というところに共通の目標を見いだしているので、今、(契約を)辞めましょうというような話はまったくしていません。

——信頼度のよくわからない様々なゴシップが流布される中には、ホンダがMotoGPから撤退するのではないか、と興味本位で推測する声もあります。

そうですね、そこはこの場できっぱりと否定しましょう。我々が撤退することはないです。

MotoGPでホンダが直面している厳しい現状と今後の対応策について、包み隠すことなく赤裸々に明かす。反転攻勢に出るまでのタイムラインは、まだ見えない

——さきほど、ホンダの開発は積み上げることで進めてきた、という話でしたが、かつてのホンダは非常に独創的なアイディアを次々と現実化して、「どこも真似できない技術で勝つんだ」という姿勢で戦っていたように思います。

楕円ピストンのNR500、ミック・ドゥーハンのスクリーマーエンジン、V型5気筒の挟角を75.5度にしてバランサーを不要にするという常軌を逸した発想の990ccMotoGPエンジン、ユニットプロリンクもこの時期でしたね。シームレスシフトの技術も他陣営に先駆けてホンダが先鞭をつけましたよね。なのになぜ、今のホンダからはそういった独創的なアイディアや画期的なイノベーションが出てこないんでしょうか?

これはなんとも、難しい課題ですが……。F1でも第四期で復帰したときは、じつはボロボロだったんです。結局、四輪(の技術陣)だけでは四輪開発はできない、ということがわかったので、(開発に)ジェット部門が入ってきたんです。

ターボ等の技術で、四輪の人々が解決手法を見いだしあぐねていたのに対して、その悩みをジェットに打ち上げてみるとすぐに回答が来た。それは、ジェットが同じような悩みを持っていたことがあったからなんですね。だから、二輪でも四輪を含めてオールホンダのパワーをもっと使うようにしていけば、さらに視野が広がって新しい技術もきっと出てくると思います。

——その革新的な何かを作るための作業を今、しているわけですか?

そのベースを作る作業、環境作り、ということですね。私は現場のエンジニアではないので指示をすることはできませんが、合流させることで何かいいヒントが出てくるのではないか、と考えています。

——つまり、今の厳しい状況を打破していくためには、いわゆる経営の五資源〈人・金・モノ・情報・時間〉を可能な限り最大に投入しなければいけない、ということなのだと思うのですが、そのための具体的な資源は投下しているのですか?

投下しようとしているところです。

——具体的には、どういう方法でしょうか。たとえば、予算を今までよりも分厚くするとか、人をもっと増やすとか。

予算と人は、一番早く対策できることです。人の対応については、開発人材を強化しています。MotoGPでは最近にはないくらいの増員です。今シーズンのマシンも改善しなければならないし、来年以降のこともやらなければならない、という状況で、今やっていることと来年のことが混乱しないように、増員することでそれぞれをしっかりと分ける、ということをしています。

設備投資等については、将来的にどれくらい必要かということも見据えながら、今は四輪の設備も使えるので、そういった工夫をしながら改善していくことを目指しています。

コンセッション(優遇措置)が適用されるなら、ありがたく受ける

MotoGPの開発に深く関わる話題で現在最もホットなトピックのひとつは、ホンダとヤマハに対してコンセッション(優遇措置)を適用するかどうか、ということだ。ドゥカティ・アプリリア・KTMという欧州メーカーに大きく後塵を拝する日本企業勢の戦闘力を向上させるために、開発規制を緩やかすることでいわば技術的なゲタを履かせ、キャッチアップさせやすくしよう、という措置だ。これを実施するためには現状の技術規則を変更することが必要で、その変更には参戦全企業からの合意が必要になる。

ともあれ、最大の当事者であるホンダは、このコンセッションという待遇をどのように捉えているのだろう。


そこに参加している全員(メーカー)のコンセンサスを得る方向になるべきなので、我々は当然、そこで議論されたものに従います。我々だけのことについて言うならば、適用されたほうが開発が進むわけですから、コンセッションが適用されるのならそれはありがたいことだと思います。開発機会がないとレース現場で安定したレース運営をできないことにも繋がるので、ライダーに負荷をかけてしまうことにもなりますから。

——そんな処遇を受けるのは屈辱的だ、という声も一部にはあるようですが、HRCとしては、「名」より「実」を取る、ということですか?

先ほども言ったように、全員のコンセンサスがそうなるのであれば、機会がもらえるのに我々はそれを使わない、ということはないですよ。裏返した言い方をすれば、コンセッションが適用されるのならばそうさせていただく、ということです。

——ホンダとヤマハがMotoGPの世界で苦戦しているのは、それがたまたま日本の2メーカーであるにすぎないのでしょうか。あるいは、昨今様々な産業界で日本企業のプレゼンスやシェア、競争力などが著しく低下していることがモータースポーツの世界にも現れているのかもしれない、とも思えます。

けっしてそういうわけではないと思います。これはあくまでも個々の問題でしかなく、少なくともMotoGPについては我々のやり方に問題があった、というだけのことだと思います。たとえば四輪のF1で私たちは世界一のパイロットを輩出しています。トヨタさんも世界全体で大きな販売台数を誇っていらっしゃいます。けっして技術的に日本がダメになったということではなく、あくまでもやりかたの問題だと思います。

鈴鹿8耐のTeam HRC with 日本郵便のピットガレージで、HRCレース運営室長桒田哲宏氏(右)とともにレース展開を見守る渡辺氏

レース界から視点を高いところへ上げて自動車関連産業を広く俯瞰すると、世界全体の潮流は明らかにカーボンニュートラルの方向へ舵を切っている。持続可能な社会を目指す世の中の風潮に今後のレース界も歩調を合わせていくのであれば、環境に強い負荷を与える内燃機関を使って競技を行うモータースポーツや、そのモータースポーツを生業とするHRCの活動は、これからの世界に対応していくためにどんなふうに変わっていく必要があるのだろう。


間違いなくカーボンニュートラルの方向は進めていかなければ、今後は(レースを)継続できないと思います。それが電動化の方向なのか、それとも環境負荷の低いカーボンニュートラル燃料を使いながらレースをするのか、ということについては、今はまだ見極めの時期でしょう。

私が冒頭で説明させていただいた四つの柱の中には、事業貢献という項目があります。事業の本体は電動化に大きく舵を切っているので、レースというフィールドを活用しながら電動技術を勉強し高めていくことは必要だと思います。ただし、レースは面白くなければいけません。そこのところが、今は電動だけではなかなか見いだしにくい部分があるのも事実なので、当面は内燃機関が中心となってカーボンニュートラルに対応しながら少しずつ電動で勉強をしてゆき、これらの活動を通じてホンダ本体の事業に貢献していく、という概要を思い描いています。

——要素技術でいえば、それはたとえばどういうものですか? 特に二輪車の場合は各社の発表量や内容がまだ少ないこともあり、量産車の将来がどうなっていくのかよくわからない部分も多いように思います。量産車技術にレースはどういう形で貢献していくんでしょうか?

カーボンニュートラル燃料はレースの中で相当な研究をできると思います。モーターについても、小型で高出力の研究開発はレースを通じてできるでしょう。また、F1でもそうですがバッテリー開発もできるので、事業本体とのリンクはいろいろとできると思います。

——先ほど、「レースは面白くなければならない」という言葉がありましたが、環境の持続可能性を目指す方向とモータースポーツのレースは、相反する要素があるんでしょうか?

いや、相反してはいけないと思います。

——これはあくまで個人的な印象なのですが、四輪も二輪も、モータースポーツはもともとアウトロー的な要素が魅力だったように思います。そのアウトロー的な魅力は、「環境にやさしい」「持続可能な社会に向けて」という考えを取り入れることで、レースにあったはずの荒々しい魅力がどんどん薄まって人畜無害化されてゆくのではないか、とも感じます。

たしかにおっしゃるとおりです。しかし、そこを技術で乗り越えていかなければ、レースそのものが将来に生き残ってゆくことはできないでしょう。だから、そこは粘り強く研究開発やレース活動を通じて進めていきます。そしてその粘り強い作業で電動化を見据え、内燃機関も使い、いろんな方法で将来のあるべき方向性を目指してゆく、ということですね。

2023年のMotoGPは、ホンダにとって悪夢のようなシーズン展開が続いている。2024年以降にこの状態をどうやって覆していくのか。これからがまさに、正念場だ

[インタビューを終えて]

ホンダ二輪レース活動を束ねるHRCを率いた歴代の人物は、我々現場で取材をする者から見ると、一筋縄ではいかない頑固で強面の難しさを感じる反面、気さくで飾らない豪放磊落さも併せ持つ、いわば職人気質の人々が多かったように思う。

ところが、今回の取材で話を聞いた渡辺康治氏は、強面の職人気質というよりもむしろ、誠実で実直な姿勢で、こちらが投げかける数々の無礼な質問にも真摯かつ丁寧に回答を述べようとしてくれる姿が印象的だった。欧州四輪事業部長やブランドコミュニケーション本部長を経て現職に就いたという経歴を知れば、その篤実な人物像にも納得がいく。そんな渡辺氏が、これからどんなふうにマネージメントスキルを発揮してホンダMotoGPの不振を立て直していくのか、というところに、新生HRCで二輪と四輪のレース技術者集団を束ねる手腕と求心力が問われているのだろう。

質疑応答の中にもある、二輪と四輪の技術や人材交流を活性化させ、「従来型の積み上げ」ではなく「抜本的な改革」を成し遂げて強いホンダを復活させる、という目標がいつごろ、どんな形で実現するのかという具体像は、外部の我々にはまだ見えていない。それを達成するための道筋は、これも質疑応答の中にあったとおり、きっと時間のかかる作業だろうし、その過程ではさらにいくつもの試行錯誤が待ち受けてもいるだろう。

このインタビュー翌日の日曜日、鈴鹿8耐の決勝レースでHRCは圧倒的な強さを見せつけて優勝した。しかし、MotoGPで圧巻の強さを復活させるためには、その勝利の余韻に浸っている余裕はおそらくないのだろう。それは、渡辺氏とHRCの人々こそが、おそらくもっとも痛切に感じているはずだ。

取材・文/西村章 撮影/楠堂亜希

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