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息子の大学レポートも代筆する「超過保護親」…30歳引きこもり男性が覚せい剤で逮捕されて発した衝撃の言葉とは

集英社オンライン / 2023年8月28日 10時1分

子どもがなぜ犯罪を犯してしまうのか…非行にたどりついた背景にある、親自身の自覚のない“危ない子育て”とはいったい何なのか。1万人以上の非行少年・犯罪者の心理分析をしてきた出口保行氏の著書『犯罪心理学者が見た危ない子育て』(SB新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

大事に育てたい…おもちゃをふんだんに買い与えた両親

[本記事で紹介する事例における罪状]
覚せい剤取締法違反
自宅で覚せい剤を複数回使用し、家を飛び出して走り回るなどの奇行により通報、検挙された

両親にとって、ヒロカズは長く待ち望んでやっと授かった子であった。父母ともに20代半ばで結婚したものの、なかなか子宝に恵まれず、とくに母親はずいぶん悩んだようだ。ふたりとも子どもがほしいと願っており、「またダメだった」と言うのが辛かった。



結婚して15年が経ち、ほぼ諦めていた頃に奇跡のように授かったのがヒロカズだった。母親は嬉しくて嬉しくて、大事に育てようと心に誓った。ヒロカズを産むときに38歳になっていたこともあり、第2子は望まなかった。

両親にとって、ヒロカズがすべて。「子ども中心」の生活が始まった。

ヒロカズにもしものことがあれば、せっかく手に入れた夢の生活が壊れてしまう。そんな想いがあって、両親ともに子どもを心配してばかりいた。外遊びでアクシデントがあっては大変だと、室内用ブランコやジャングルジムを購入。家の中で、目の届く範囲内で遊んでくれれば安心だ。おもちゃもふんだんに買い与えた。幸い、経済的にも余裕があった。

ヒロカズがとあるテーマパークに興味を示すと、当たり前のように年間パスポートを買う。毎日でも連れて行けるよう、近くに引っ越しまでした。

小さい頃から幼児教室に通い、幼稚園受験をしたのも、将来ヒロカズが苦労しないようにと思ってのことだ。大学までエスカレーター式に進学できるところを選んで受験し、なんとか合格することができた。

写真はイメージです

ヒロカズはこれといって打ち込めるものがない

そして母親は、幼児教室、幼稚園の送迎はもちろん、小学校に入っても卒業するまで送迎を続けた。小学校にお迎えに行き、場合によってはそのままテーマパークに連れて行くことも多かった。

両親は、とにかく何でも手伝ってあげるというスタンス。だから、ヒロカズは食事の後、食器を下げることすらしない子に育った。家の中ではそれでまったく問題ないのだ。ヒロカズ自身、何も問題だと思っていないし、不満もない。そうやって過ごしてきた。

ヒロカズにとって両親は、ほしいと言えば何でも買ってくれるし、何かやりたいと言えばやらせてくれる人たちだ。といって、とくに感謝したこともない。小さい頃からそれが当たり前だからだ。逆に、「やってもらえない」ときには不満を持つようになっていた。

それに、ヒロカズはこれといって打ち込めるものがないのだ。どうしてもほしいと思うようなものもない。だから、適当にゲームを買ってもらっては、持て余している時間をつぶしていた。

高校のとき、ヒロカズは文化祭の実行委員になった。もちろん立候補したわけではない。委員会活動として役がまわってきてしまったのだ。

「面倒くさい仕事ばかり押しつけやがって」

大学のレポートも親がやり、父親のコネで就職

家で文句を言うと、「こんな企画はどうかしら」「いや、こっちのほうがいいんじゃないか」と両親が頭をしぼって考えてくれた。他の高校の文化祭のリサーチまでして、アイデアをまとめる。息子のためだと喜んでやっている両親を眺めながら、ヒロカズは「まぁいいか。最後は親がなんとかしてくれるんだし」と思った。

大学では単位が足りず留年したのだが、その際に提出しなければならないレポートも親が手伝ってくれた。

就職活動も積極的ではなかったので、大学4年の冬になっても1社も内定がとれずにいた。このときも、父親が見かねて知り合いの会社を紹介してくれたので就職することができた。

「これで安心だな」

父親はそう言ってヒロカズの背中をぽんと叩いた。

「家から通える職場だし、よかったわね」

母親も嬉しそうにしている。

「親がいないと、どうせ何もできないしな……」と思ったヒロカズは、半分諦めのような気持ちで仕事に就ついた。しかし、仕事にまったく身が入らない。営業職に就いたが、「外回り」と称してパチンコをして時間をつぶした。

会社から解雇されネトゲで暇つぶしをしていたら、手を出してしまった

別にこんなのやりたい仕事じゃない。当然ながら営業成績は酷いありさまだった。上司から何度も指導を受けたが、仕事への姿勢を改める気が一切ないので、さすがの親のコネも通用せず、ついに解雇されてしまった。

その後も同じようなことを繰り返し、しまいには引きこもりに近い状態に陥るヒロカズ。一日中パソコンでゲームをし、なんとなく時間をつぶして過ごしていた。

30歳を過ぎた頃、ネットサーフィンをしていて「S」のことを知った。

「強烈な快感」「時間を忘れられる」といったキャッチコピーで販売されており、何か刺激がほしいと思っていたヒロカズの興味を惹ひいた。しかも、ネット通販で簡単に手に入るらしい。

早速、購入すると自宅に半透明の粉が届いた。使用方法に書かれている通りに、その粉を紙の上に出し、下からライターであぶって蒸気を吸う。

その途端である。

髪の毛が逆立つような強烈な快感が体を駆け抜けた。心身ともに活動的になった感じで、まったく疲れを感じない。一日中パチンコ屋にいても熱中できてしまう。

ヒロカズは「S」にすっかりハマった。「S」とは覚せい剤である。常習するようになった頃、家を飛び出して走り回るなどの奇行が出るようになり、通報されて検挙に至った。

刑務所に入った30歳息子と面会する異様な両親

刑務所に入ったヒロカズのところへ、両親は足しげく面会にやって来る。
「いじめられていないか」
「寒くないか」
「お腹はすいていないか」

30歳過ぎの息子にそう声をかける姿は、ある種異様に映る。「覚せい剤の使用程度で執行猶予がつかないのはおかしいよな」「悪い裁判官に当たったもんだ」という会話すら聞こえるのだった。

解説: 過保護型とは?

過保護型の保護者は、子ども本人が望む以上に世話を焼き、手助けをしてしまいます。子どもが失敗しないように先回りして安全を確保したり、障害を取り除いたりします。

その結果、子どもは、本来なら発達の過程で身につく問題解決能力が身につきません。

子どもを目の届くところに置いて、庇護 ・保護のもとで育てたいという気持ちから支配的になり、監視します。すでに子どもが自分で判断できる年齢になっていても、親が判断して援助をし続けます。子どもは依存的になり、自立心が育ちません。

子どもから援助を求められることに価値を見出す場合、共依存に陥りやすくなります。必要以上に依存しあい、なかなか抜け出ることができません。

子どもは我慢する経験や失敗に対処する経験が少なく、ストレスに弱くなります。失敗の原因を自分に求めることができず、他人や状況のせいにしがちになります。失敗を責められると意気消沈して何もできなくなるばかりか、責める側に攻撃心を抱き、人間関係をシャットダウンしてしまうことがあります。

過保護型は自己成長の機会を奪う

ヒロカズの両親は典型的な過保護型でした。何でも先回りしてやってあげるし、失敗したら尻ぬぐいをしてあげる。子どもがかわいく、大事だからと言うのですが、度が過ぎています。

たとえば、母親はヒロカズが脱ぎっぱなしにする衣類を回収しては洗濯し、きれいにたたんで部屋に置いてあげていました。まだ小さいうちはいいでしょう。

しかし、小学生にもなれば自分で身支度ができるようになります。洗濯物をとりこむ、たたむ、しまうなど「お手伝い」をしている子は多いはずです。そのような機会を与えることなく、大人になっても洗濯物をたたんであげ続けるというのは普通ではありません。「メイドか!」とツッコミを入れたいくらいです。

ほかにも、学校の持ち物を毎日チェックしてあげる、宿題を代わりにやってあげる
などが日常茶飯事でした。

テーマパークの近くに引っ越すことや、幼稚園から大学までの一貫校に行かせることは、それ自体は別にかまわないのです。よい面はもちろんあると思います。ただ、一事が万事この調子で、先回りを続けているからおかしくなります。一つひとつはさほどたいしたことではないように見えても、全体としてバランスを大きく欠いています。

これでは本人が課題解決していく力が育ちません。問題に直面することが少なく、うまくいくのが当たり前の世界で生きているからです。

ヒロカズは、物事がうまくいかないときは、「援助が足りないからだ」と考えがちでした。寝坊して学校に遅刻したら、「お母さんが早く起こさなかったからだ」「持ち物の準備をしてくれていなかったからだ」と考え、腹を立てます。失敗を他人や環境のせいにして自ら改善することがありません。

本来なら、文化祭の実行委員を務めるという課題は、成長の機会だったことでしょう。アイデアを練ることやみんなの意見を聞くことなど、試行錯誤の中で学びを得られたはずです。その経験を通して自信もついたに違いありません。ところが、「苦労をさせたくない」という気持ちが強い両親が、代わりにあれこれやることでその機会を奪ってしまいました。

共依存親子

過保護型の親のもとでは、子どもがなかなか自立することができません。同時に、親も精神的に自立できていないと言えます。子どもを依存させることで自分を満たしており、子どもが自分に依存しない未来が怖いのです。

ヒロカズの母親は、奇跡的に授かった息子を大事に思うあまり「ずっと自分のもとに置いておきたい」と考えてしまっていました。子どもが自立して、自分から離れていっては困るのです。

いつまでも援助を続けたいので、常に子どもからの援助要請を求めています。留年してレポートを書かなければならないことも、仕事が見つからないことも、「嬉しい」援助要請。代わりに何とかしなくてはと張り切っていました。

もちろん、子どもが困難に直面しているときにサポートするのは普通のことです。しかし、援助の仕方が間違っています。まずは話を聞き、どうやって乗り越えるべきか一緒に考えるというスタンスが必要でした。

このような親ですから、ヒロカズは依存することから抜け出せません。お互いに必要以上に依存しあっている状態=「共依存」に陥っていました。

共依存とは、特定の相手とお互いに必要以上に依存しあい、その関係性に囚われていることです。恋愛関係でも友人関係でも起こりますが、親子関係では、親が子どもを自分に依存させるように仕向けます。子どもに依存されていることで、自分の存在価値を見出しているため、親も子に依存しているわけです。

文/出口保行 写真/shutterstock

『犯罪心理学者は見た危ない子育て』 (SB新書)

出口保行

2023/8/5

¥990

240ページ

ISBN:

978-4815621629

知らず知らずに偏ってしまう子育ての危険性

心理学者サイモンズは、子育ては4つのタイプに分けられると言いました。

著者は法務省心理職として1万人を超える非行少年・犯罪者を見てきた結果、サイモンズの言ったとおり、子育てには4つのタイプが存在すること、いずれかのタイプに偏った家庭に犯罪者が育つことを確信しました。

その4タイプとは「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」。
この4つの言葉を見て、「私の家庭は過保護でも高圧でもないし……」と思った親御さんへ。
実は……
親は誰でも知らず知らずのうちに
この4タイプのどれかに偏っていることがあるのです。

非行少年・犯罪者の育った家庭環境の事例とともに、
各タイプにありがちなこと、気をつけるべきことを伝えていきます。

偏っていない子育てはありません。
でも、少しでも真ん中に寄せる意識はできる。
その一歩として。やさしい子育て入門書です。

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