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”AIクリエイター”の増殖がもたらすアーティストへの圧迫…人間かAIか区別がつかず、米SF小説誌が新人賞の募集を打ち切りにも

集英社オンライン / 2023年8月25日 17時1分

まるで人間が応答しているかのような自然でなめらかな文章を数秒で自動生成し、対話をすることもできるChatGPT。驚きの進化を遂げている生成AIは、我々の仕事を奪っていくのだろうか。『アフターChatGPT 生成AIが変えた世界の生き残り方 』(PHPビジネス新書)から一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

クリエイターの仕事は生成AIに奪われるのか?

生成AIの特徴は「生成」することですから、その登場で淘汰される職種として、真っ先にクリエイティブ系を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

中国のゲーム業界では、画像生成AIの台頭によって、イラストレーターの仕事がすでに減少傾向にあるとの報道もあります。



「こんなタッチで、こんな背景を描いてほしい」「こんなキャラクターを描いてほしい」と画像生成AIに指示をすれば、高品質のイラストが幾通りも生み出される。こんなことがすでに可能になっているからです。

日本が世界に誇るカルチャーであるマンガの業界でも、これからは、長年にわたりマンガ家の片腕となってくれたアシスタントの業務の一部を、生成AIが代替してくれるかもしれません。

マンガ家が思い描く背景やキャラクターの動きを、アシスタントよりも正確に、生成AIが描くことができるようになるかもしれないからです。

ライターも同様です。書いてほしい記事や原稿を口頭で生成AIに指示すれば、それでできるようになるかもしれません。本のタイトルを考えるにしても、「この本のタイトル案を10個出して」と指示すれば、現在のChatGPTでも、すぐに出てきます。

「人間が100%書いた応募作」と「生成AIが書いた応募作」を見分けられない

すでに、こんな悩ましい事例も起きています。

アメリカのSF小説雑誌『Clarkesworld Magazine(クラークスワールド・マガジン)』は、創刊17年目の2023年2月に新人賞の募集を打ち切る事態に追い込まれました。

ChatGPTなどの生成AIが生成した投稿作が激増し、審査する側が「人間が100%書いた応募作」と「生成AIが書いた応募作」を見分けて選考する処理が追い付かなくなったからだとしています。

生成AIが書いた作品は「盗作」とすべきなのか? そもそも創作物において、どこからどこまでが100%のオリジナルと言えるのか? こうした議論に、今のところ、明確な答えはまだ見つかっていません。

楽曲制作やデザインの世界でも、同じ展開となっていくでしょう。

また、外注する余裕があまりない中小企業ほど、生成AIをクリエイティブに活用することが予想されます。

自社のロゴをデザインしたい。公式サイトを作りたい。しかし、本職のデザイナーに依頼するには予算が足りない。それならば、プロではなく、生成AIツールを活用しよう。そう考える中小企業が今後増えていくものと思われます。

クリエイティブ系の業種においては、生成AIの普及によって、破壊的イノベーションが引き起こされるかもしれません。

法務の仕事もAIが代替する

「自分の仕事はクリエイティブ系ではないから安心だ」と思っている人もいるかもしれません。

しかし、言葉や文書を多く使うホワイトカラーの業種である限り、誰もが無関係ではいられません。生成AIの進化は、すべてのホワイトカラーが着目すべきだと言えるでしょう。

わかりやすい例を挙げるのであれば、弁護士、税理士、会計士、社会保険労務士などの士業です。

これらの職種はいずれも、文書やルールがベースにある職業です。それならば、各分野のデータを生成AIにインプットして、さらに業界特有の言い回しなどを覚えさせてしまえば、生成AIが人間に代わってアウトプットをしてくれます。

AIは、時間が経つと「あれ、なんだっけ?」と記憶が薄れる可能性がある人間とは違って、一度学習した情報は消さない限り残ります。業務補助の事務員を雇うよりも、AIのほうが人件費を抑えられることも多くなるでしょう。

すでに法務分野ではAI活用が進んでいます。

今よりも必要とされる人員が少なくなる展開

2017年に日本の大手法律事務所出身の弁護士2人によって設立された「LegalOn Technologies(リーガルオンテクノロジーズ)」というスタートアップがあります。

同社は法務の知見と自然言語処理技術、機械学習をテクノロジーで融合させることによって、企業法務の効率化を目指すソフトウェアの開発・提供をする企業として、急成長を遂げています。

2023年に入ってからは、ChatGPTを活用して契約書の修正をサポートする条文修正アシスト機能を新たに搭載し、AIによる契約審査業務などの効率化サポートをさらに強化しています。

2022年12月時点の推定時価総額は約900億円。海外の黒船が市場を制覇する前に、海外進出にも積極的に挑戦しています。

日本は良くも悪くも文書大国ですから、文書の正しさには常にチェックが入ります。法務業界のような正確性が求められる領域ではなおさらでしょう。

そうした分野の職種が、AIに代替されるとまではいかなくとも、今よりも必要とされる人員が少なくなる展開は十分に考えられます。

専門知識や技能を必要とされない事務という業務は、もしかすると10年後には別の業態になっているかもしれません。少なくとも、人件費がボトルネックになっている産業では、どんどん変わっていくでしょう。

知的生産性の高い職でも生成AIへの代替が進む

すでに淘汰が始まっている業種もあります。

生成AIと直接には関係ありませんが、コンビニやスーパーマーケットで増えた無人レジ、ファミリーレストランで見かけるようになった配膳ロボットを思い浮かべてみてください。

今は物珍しさという一面もありますが、もしこの無人化やロボット化が社会に受け入れられると、今後はあらゆる店舗の店員は必要最低限の人数に抑えられていき、人間のスタッフはより高度なことを任される方向にシフトしていきます。その波のなかで、効率化を考える店舗では、レジ打ちの募集は、これから減少していくでしょう。

店員の業務内容も、これまでメインだった接客対応から機械の管理、メンテナンスにより重心が移っていく可能性もあります。

塗装や組み立てなど、工場で行なわれるような作業が、人間から自動で決まった作業をするロボットに置き換えられていった歴史を振り返れば、これは自然な流れです。

AIにすぐかわってしまう労働集約型の職種

安価な飲食チェーン店では厨房の作業から接客まですべてをAIが組み込まれたシステムやロボットが対応するようになる一方で、人間の店員がホスピタリティをもって対応してくれるのは高級店だけ、という形の差別化されたサービスが到来する未来もあり得ます。

かつては企業の顔とも言われた受付嬢のような存在も、この先は消えていく可能性が高いでしょう。最近では受付業務をタブレットに置き換える企業が増加し、訪問者が担当者を直接呼び出せるシステムを採用している企業のほうがもう多いかもしれません。

また、実現はまだ不確実性が高いままですが、すべての車がAIによる自動運転に置き換われば、タクシーやバスの運転手も不要になるでしょう。人間のドライバーが運転する車と、AIが搭載された自動運転車が入り乱れて道路を走る過渡期を経て、いずれは自動運転車が主な世界になる可能性があります。船舶についても同様でしょう。

ここまで紹介した職種はいずれも労働集約型と言われるものでしたが、知的生産性が高い職種であっても淘汰される可能性はあります。

音声翻訳の精度がどんどん上がってきていることを考えると、国際会議の同時通訳といった仕事は、今後不要になっていくかもしれません。

どれだけ専門知識と豊富な経験があっても、人間の翻訳者よりもAI翻訳のほうが、コストが10分の1に抑えられるのであれば、「それならばAIを選ぶ」という人や会議の運営者は少なくないはずです。

文/山本康正 写真/shutterstock

『アフターChatGPT 生成AIが変えた世界の生き残り方 』(PHPビジネス新書)

山本康正 (著)

2023/7/1

¥935

192ページ

ISBN:

978-4569855127

【新浪剛史氏(サントリーホールディングス社長)推薦!】
「この新潮流に、いかに乗るかがビジネスの命運を決める。全ビジネスパーソン必読。」

人間の仕事は、いよいよ奪われるのか?
未曽有のスピードで進む変化の本質を
世界のテクノロジーとビジネスの「目利き」が解説


「生成AI」への注目が急速に高まっている。
とりわけ対話型AI「ChatGPT」は、2022年11月30日に公開されるや、史上最速級のスピードでユーザー数を増やした。アイデア出しや業務効率化など、仕事への活用も急速に進んでいる。テキストで指示をすると自動で画像を生成するAIも続々と登場。
マイクロソフトやグーグルなどのビッグテックからスタートアップまで、生成AIをめぐる競争が激化するなか、私たちの仕事やビジネスはどう変わるのか? どう変わるべきなのか?

【本書の内容】
第1章 ChatGPTの衝撃
第2章 なぜ今、生成AIが登場したのか
第3章 「アフターChatGPT」のビジネス
第4章 日本企業は「アフターChatGPT」をどう生きればいいのか

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