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「お給料はガマン料と心得ましょう」 今こそ読みたい美輪明宏の言葉 #2

集英社オンライン / 2022年5月23日 19時1分

この混乱の時代をどう生きるか。今こそ美輪明宏の言葉に生きるヒントがある…現代の日本人が忘れてしまった「美徳」の意味と実践の大切さを、厳しくも温かい美輪節で解き明かすエッセイ集『乙女の教室』(美輪明宏著・集英社文庫)から一部抜粋・再構成してお届けしたい。

身も心も疲れる。それが、仕事というもの

「美輪さんはうらやましいなぁ。スポットライトを浴びて好きな歌を歌うと、大観衆が拍手してくれる。なかには『ブラボー!』なんて叫んでいる人もいる。さぞかし気持ち良いでしょう?」

コンサートを聴きに来てくださった方のなかには、そうおっしゃる方がたくさんいます。たしかに多くの方々に喜んでいただけるのは、私の幸せ。うれしいことです。でもその半面、休憩を入れて三時間、広い舞台にたったひとり、強い照明にさらされながら十四センチのハイヒールを履き、重いドレスの裾をひるがえして、立ったまま歌い続けるのです。夏には舞台の上は冷房など効きませんから、あまりの暑さにくらくらしてきます。終わる頃には、足も腰もカチンコチンに固まり、身も心もぐったり疲れ果てます。



ですが、これが仕事というもの。

好きなことを好きなようにするのは趣味であり、仕事とは言いません。仕事とは、自分に求められている責任を果たし、それに対して報酬を得ることを言います。責任を果たすためには、ときには好きではないこともやらねばなりません。場合によってはつらいこと、苦しいこと、みっともないこと、恥ずかしいことも、しなければなりません。

みなさまの仕事でも、同じでしょう? 会社員の方たちは、朝から夕方まで会社に拘束され、ときには深夜まで会社にいなければなりませんね。それは、毎日その時間を会社に捧げることに対して、お給料をいただいているから。時間と引き換えにお給料という報酬をいただいているからです。

もちろん、時間だけではありません。パソコンを操作する技術、商品を売り込む才能、事務や庶務をこなす能力、モノを販売する力、商品の魅力をアピールするテクニックなどなど、人によって提供できるものはさまざま。その上、ときには取引先の人間に愛想よくし、そりの合わない同僚ともうまく付き合い、無能な上司に従うフリまでしなければならない。これら全部をひっくるめて、仕事です。

ですから、お給料とはガマン料なのです。楽な仕事など、この世にはありません。

才能のある人は、それを磨く使命があります

昔、ロシアの有名なバレエダンサーが来日したとき、日本のインタビュアーがこんな質問をしました。

「ロシアのバレエと日本のバレエはどこがどう違うのでしょう?」

彼はこう答えました。

「あなたの国では、バレエを好きな人が踊ってらっしゃる。でも私の国では、バレエを踊らなくてはいけない人が、踊っているのです」

言いえて妙ではありませんか。バレエだけではなく、音楽や演劇、美術、芸術など特殊な技能を必要とする世界では、才能のある人間こそが、その仕事に取り組むべきなのです。私は歌が好きで、歌う才能を与えられました。その才能を生かすのが使命だと思うので、仕事にしました。

ですが、天職だからといって、楽をしているわけではありません。人気の浮き沈みも経験していますし、私のスタイルを理解してもらうまで、長い時間がかかりました。

二十代のころの私は、人々に喜びを与え、美しい真実を表現する美しい俳優になりたいと願っていました。歴史を勉強して歌舞伎の創始者である出雲の阿国や女方を極めた芳沢あやめという歌舞伎役者のことを知り、目標としました。マレーネ・ディートリッヒやグレタ・ガルボなど美しい女優たちの演技やしぐさ、表情を研究して頭の中に叩き込み、栄養にしました。暮らしを切り詰めてお金をひねり出し、日本舞踊からモダンダンス、発声練習にセリフ術、三味線などなど、ありとあらゆるお稽古事に通いました。

そうやって得た知識はすべて、今の私の血肉になっています。そしていざ舞台に立つと、限界まで肉体を酷使して、すべてを歌に捧げるのです。

才能に恵まれ、それを仕事にした人には、さらに才能を磨き上げる使命があるからです。努力をしない人間は、どんなに才能があっても、落ちぶれていくばかり。やがて才能からも仕事からも、見放されてしまうのです。

世の中に才能のない人はいません

「じゃあ、とりたてて何も才能のない私は、どうすればいいの?」

不安に思う方も多いでしょう。大丈夫。夢がある限り、それは必ず、形になります。あなたの夢は、なんですか? 人には〝向き・不向き〟がありますから、好きな仕事だからといって、誰でもできるとは限りません。○○ちゃんみたいになりたい、とモデルを目指しても、三頭身の人には無理。諦めも肝心です。

そこで必要なのが、理性です。

自分は何が得意なのかを突き止め、自分に向いている仕事を見極めるのです。学校時代の成績を見れば、自分が文科系、理科系、体育会系、何に向いているか、おおよそのことはわかるでしょう。自分を客観的に眺めてみれば、自分の知能程度や肉体的素質、趣味嗜好や性格もわかるはず。ふだんの生活の中での得意・不得意を考えれば、おのずと自分自身の適性はわかるはずです。

そうやって冷静に自分というものを知り、その上で、将来について考えるべきなのです。そして自分の仕事はこれ、と決めたら、あとは頑張るだけ。

例えば「芸能人になりたい!」という夢も、冷静に自分にできることを模索した結果、ヘア&メイクアップ・アーティストやスタイリスト、ファッション・デザイナーやマネージャー、ディレクターなど、目標をシフトして頑張り、成功を収めている人が、たくさんいます。

冷静になってから手にした「夢」は、単なる「夢」ではなく、「理想」に変わります。

そして、「理想」を掲げて着々と生活していけば、やがて「理想」は「現実」のものとなります。きちんと自分というものをわきまえてから抱いた夢は、いつか必ず実現するのです。

叱られたら、「ラッキー!」なのです

最近は仕事場で上司に叱られると、すぐ落ち込んでしまう人もいるようですね。叱った人を恨んだり、叱られた翌日から出社拒否になってしまう人もいると聞きました。でもそれは、大きな間違い、発想の転換が必要です。

怒られる、叱られる、注意されるということは、ひとつ勉強するチャンスを与えられたということです。自分が間違えていた点、至らなかった点を指摘してもらえるのですから、知識、経験という財産を増やしたことになります。こんなに喜ばしいことはありません。しかも、本来なら授業料を払わなければいけないのに、注意してもらったうえに、お給料までいただけるのです。得した! ラッキー!! と、思わなければ。

怒られたり叱られたり、人の一生は、そんなことの連続です。初めてのときには、ものがわからなくて当たり前なのです。誰だって最初からうまくはいきません。みんな、生まれて初めて幼稚園に行き、生まれて初めて小学生になり、中学生になり、高校生になるのも大学生になるのも、社会人になるのも初めて。先生や先輩たちに怒られたり叱られたりしながら仕事を覚え、ひとつひとつ学んでいくのが、生きていくということ。いちいち落ち込んでいたら、前に進めません。

いくつになっても〝初めて〟は続きます。

人間は生まれてから死ぬまで、ずうっと〝初めて〟の連続です。人はみな初めて親になり、初めて中年になり、老人になるのです。そのとき、自分はすべてを知っていると勘違いをして、学ぶことを忘れてしまった人間が、ずうずうしい生き物になります。世の中をなめ、謙虚さを失い、ふてぶてしくなることから、老化が始まるのです。

今日という日も、今までの人生で経験したことのない、初めての日。そう思えば、毎日をわくわくしながら、楽しんでいけます。


写真/御堂義乘

自殺をしてはいけません #1
ボーダーレスで生きましょう #3
恋上手になりましょう
#4
お金は賢く使いましょう #5

『乙女の教室』(集英社文庫)
2022年5月20日
737円
文庫 272ページ
ISBN:978-4-08-744386-8

乙女とは、乙な女です──。思いやり、品、感謝、ボーダーレスなど、現代の日本人に必要な「美しい心のあり方」を説く全24章。書籍の購入はコチラ

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