1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

TikTokの創業者ジャン・イーミンとは何者だ…元マイクロソフト、AI時代の到来を予測し、2011年に起業した驚くべき天才の正体

集英社オンライン / 2023年8月21日 17時1分

スマホさえあれば誰でも数秒間は何億もの人々から知られる存在となりえるアプリ、ティックトック(TikTok)。このアプリはどこからどんなふうに生まれたのかに迫る。『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(小学館集英社プロダクション)から一部抜粋・再構成してお届けする。

バイトダンスの創業者は、迫力に欠け、がっかり感のあるマーク・ザッカーバーグ

「バイトダンスって知ってる?」。そう尋ねると、たいていの人はぽかんとした表情を返してくるだろう。

バイトダンス(字節跳動)とはティックトックのオーナーであり、ほかにも世界トップレベルのアプリを運営する企業だ。

2012年3月に創業され、2018年には日本のソフトバンクグループの出資を受けたことにより、その企業価値は当初の750億ドルから1800億ドルに跳ね上がった。



そのアプリを世界で20億人が利用しているという事実にもかかわらず、2020年の収益は340億ドルと、バイトダンスは西側諸国のなかではあえて目立たない存在でいる。主役は商品だと考えているからだ。

それが、地味だが熱意に満ちた創業者、ジャン・イーミン(張一鳴)の戦略なのだ。

彼の仲間でありライバルでもあるミュージカリーの創業者、同じ中国人のアレックス・ジューは独創的だが少々軽はずみなところもあるのに対し、イーミンは慎重でものごとに集中するタイプだ。アリババグループの元CEOで、押しが強く精力的で社交的な人物として知られるジャック・マー(馬雲)と比較すると、彼は少々鈍い印象も与える。

だが、それはあくまで印象だ。彼は〝ディレイド・グラティフィケーション(Delayed Gratification)〟(将来のより大きな成果のために、目先の欲求を我慢する)を実践している。

その合理的な性格―いつもTシャツとジーパンという衣服のチョイスからもわかる―のおかげで、彼は平均的な中国人経営者よりも、他人を気にせずのんびりしたところがある。たとえるなら、滑稽でピンボールのような性格のイーロン・マスクというよりはむしろ、いささか迫力に欠け、がっかり感のあるマーク・ザッカーバーグといった感じか。

「偉大な人物は若い頃にはなんてことのない人生を送っている」

イーミンは1983年、福建省の沿岸地方にある竜岩という町で生まれた。ここは中国でも西側諸国への移住の割合が最も高いことで知られる町だが、彼はすさまじく独立心が強かった。

中国でハイテク業界に入る人の多くは既存の国内大企業への就職に満足するものだが、イーミンはそんなルートには目もくれなかった。既存の勝者に便乗し、手っ取り早く手に入れた成功に酔いしれる道は選ばず、遠い先を見越して着々と準備を進めていた。

彼は天津の南開大学でソフトウェア工学を学んだ。好きな生物学の講座は定員を超えており、最初に取ったマイクロエレクトロニクスの授業は好きにはなれなかったからだ。

非常に勉強好きであったが、大学の仲間との交流も楽しんでいた。妻との出会いも大学だったが、それに加えて親しい友人の多くは、キャンパスや授業が終わったあとに彼が開くバーベキューの席で知り合った。

多くの大学生が勉強と同じくらいパーティーに時間を費やすものだが、イーミンは違っていた。天津市にある南開区は中国の北部に位置する港湾都市で、北京のように賑やかな街ではなかったことも理由の一つなのだろう。

だが、それが彼自身の基準でもあったのだ。大学での最初の2年間、彼はスティーブ・ジョブズの伝記やジャック・ウェルチのビジネス本『ウィニング勝利の経営』(日経BPマーケティング刊)をはじめとする多くの本を貪り読んだ。自身が崇拝するビジネスパーソンに関する本を読むことで、キャリアの選択や将来の計画にあたってますます気長に辛抱強くかまえるようになった。

「偉大な人物は若い頃にはなんてことのない人生を送っており、その成功は時間をかけて徐々に得られたものだとわかるはずだ」とイーミンは出身大学の学生たちに語っている。

「最初はみんなごく普通の人だったんだ」

バイトダンスの創業者、実はマイクロソフトでも働いていた

2011年、大学を卒業して6年が経っていた。彼は人気の旅行検索サイト「酷訊(クーシュン)」やマイクロブログのウェブサイト(つぶやきサイト)「饭否(ファンフォウ)」など、中国国内の数々の新進ハイテク企業に勤務しては、辞めていた。

あのマイクロソフトで働いていたこともあったが、厳格な企業思考と社内で当たり前のようになっている強力な監視体制のせいで、決して楽しい経験とはいえなかった。既存の企業に失望した彼は、自ら不動産検索エンジン「九九房(99Fang)」を設立した。

イーミンが新しいアプリ―今日頭条(トウティアオ)―のアイデアを思いついたのは、北京の地下鉄で通勤途中のことだった。

大学時代に本を貪り読んだように、イーミンは新聞や雑誌を丸ごと読みあさっていた。「当時、情報伝達は非常に大きなビジネスだと感じていました」と彼は2018年に別の大学で学生たちに語っている。「情報伝達における効率の差は、個人の認識はもとより、社会全体における効率と連携に非常に大きな差をもたらすものなのです」

新聞が衰退しはじめると、イーミンは人々がニュースを知る方法がほかにもあると察した。

「ふと気がつくと、地下鉄の中で新聞を読んでいる人がどんどん減っていたんです」と出身大学の学生たちに話している。

彼はスマホの販売数を見て、2011年に一気に急増していることに気がついた。そして、ある結論に至った。「スマホが新聞に取って代わり、情報流通の最も重要なメディアになったと思いました」

「大規模で深遠なイノべーションと大きな変化が起こるだろうと予測していた」

もっと直観的に言うと、未来はAI―現在、バイトダンスのアプリやサービスの中核をなしている―が動かすだろう、そうイーミンは予見した。未来には、広告主の意向やその日何が読まれるかといった新聞編集者の判断ではなく、読者の興味に基づいてニュースのヘッドラインが提供されるだろう。

イーミンは〝人々を情報で結びつけたい〟と思った。彼はソフトウェア工学を学んでいたもののAIシステムの開発についてはまったく知識がなかったが、そんなことはたいした問題ではなかった。彼はそれを学ぼうと考えた。

大学時代にバーベキューで親交を深めた仲間が助けてくれるはずだ。九九房の日常業務については、それを引き継いでくれる実務家を雇い、彼はさらなるアプリの開発に没頭した。

それは、学ぶことが好きでつねにアンテナを張りめぐらせているイーミンがビジネス界の巨大なチャンスに気づいていたからで、今になって思い返せば、少なくともかつて彼が語っていたことなのだ。

彼は2007年に最初のiPhoneが発売になるやいなやそれを購入し、ポケットの中にスーパーコンピューターが入っていることにわくわくしていた。バイトダンスの設立以前、九九房やその他の企業で働いているあいだに、モバイルインターネットがゆっくりと盛んになっていくのを目の当たりにしていた。

2011年の終わりには、一つ飛躍をして新しい会社を起ち上げることを決意した。「それは多くの偉人の伝記を読んでいたことと関連しています」と彼は言う。

「ビッグトレンドに直面しても、人はたいていそれに気づかず、あとになるまで何も感じていなかったりするものです。2011年、私はまさに科学技術の進歩が新しい分野を生みだすだろうと感じていました。大規模で深遠なイノべーションと大きな変化が起こるだろうと予測していたのです。この変化は今も止まることを知りません」

当初からバイトダンスは〝グーグルレベルにボーダーレス〟

彼は世界規模の革命が起こると予見し、自分の会社をその中心的存在にしたいと思っていた。当初からバイトダンスは〝グーグルレベルにボーダーレス〟な会社になるべくスタートした。

バイトダンスは「内涵段子(ネイハンドワンズー)」というアプリを公開した。その名は大ざっぱに訳すと「匂わせ(ほのめかしの)ジョーク」となる。

これは、ユーザーがインターネット・ミームをシェアできるシンプルなアプリだ。それは、たくさんのおもしろ画像が存在する画像ホスティングウェブサイトのイミジャー(Imgur)やGIF、Redditを折衷したようなアプリで、そこで多くの画像がシェアされている。

内涵段子は大人気を博し、最盛期には2億人のユーザーを抱えるまでに急成長した。インターネットの奇妙な一面をまっとうに受け継いだかたちで、このアプリのユーザーは最もコミットされた投稿者だったといえる。

彼らはアプリとのつながりを賛美する商品を創造し、買い求めたのだ。彼らはコミュニティ以上のものを築きあげるために駐車場に集まり、写真を撮って自分たちの奇妙さを賛美した。

彼らには、仲間のユーザーを見つけるために使っていた「On Earth」というやや破壊的な賛歌ともいうべきものがあった。

ときには、赤信号で車を停め、ちょっとひねくれた心とユーモアを愛する気持ちをもった誰かが近くにいないか確かめながら、車のクラクションを使った暗号メッセージを発することもあった。そのうち、クラクションの音があまりにやかましく、あちこちで聞かれるようになってきたため、クラクションの使用禁止を発令する町まで出てきた。

TikTok以外にもいろいろある…バイトダンスのアプリ

バイトダンスは「トウティアオ」という新たなアプリも開発していた。

アプリを開くたびに、ユーザーは自分の好みに合わせたニュース価値のある記事を提供される。そのデータ需要は膨大だ。ユーザーの読みたいものを特定し、大量の情報やニュース記事を取捨選択してユーザーに提供するには、リソースをきわめて集中的に消費する。

2017年には、北京のトウティアオ・ドゥオーフビルと呼ばれた建物内で何百人ものエンジニアが働いていた。彼らは、会社のメイン会議室としての役割を果たすガラスで囲まれた中央の空間を中心に自由に並べられたデスクで、プログラミングや雑多な仕事をこなしていた。

スタッフは急激に成長するべく、アプリを必死になって開発していた。中国のグーグルとも呼ばれる「百度(バイドゥ)」からバイトダンスに転職したあるエンジニアによると、両社の労働倫理は天と地ほどの差があったという。

飛躍的な発展を遂げ、世間を騒がせている若い企業とそのアプリ、トウティアオはおおむね継続的に成長していた。

社員はそれを、創業当初の混沌として無秩序なフェイスブックの1階にいるようなものだとたとえている(そして、バイトダンスはマーク・ザッカーバーグの会社と並ぶほど大きくなり、高く評価され、現在のフェイスブックと同じくらい人々の生活において重要な役割を果たすだろうと信じている)。

バイトダンスの副社長ヤン・チェンユアンの話によると、2018年にトウティアオは1500ペタバイト、つまり15億ギガバイト以上のデータストレージを使用していた。

さらに、1日に処理されるデータ量は50ペタバイトで、それはネットフリックスで2時間のHD動画をおよそ200万本分流すのに匹敵する。もっともトウティアオにそれだけのコンテンツがあったわけではないが。

このアプリは公開当初、元の報道機関の許可なしに集めた記事をアプリ内で提供していると批判を受けていた。また、元記事にある他の商品の広告が新たな広告に替えられ、トウティアオを通して販売されることで、アプリ側が上前をはねていると主張する声まで上がっていた。

AIのパワーによってアプリはより〝粘着性のあるもの〟に

その戦略において、イーミンとバイトダンスの味方は多くなかったが、トウティアオにユーザーを引き込むことには成功した。2012年8月の公開から3か月で、トウティアオは1000万人のユーザーを獲得した。

ユーザー数は増え続け、ユーザーがアプリを開いている時間もどんどん増えていき、毎日1時間以上になっていた。

さらに、AIのパワーによってアプリはより〝粘着性のあるもの〟、つまりより関わり合いを深め、ユーザーを夢中にさせることができるものになるとイーミンが気づいたことから、アプリ内でのあらゆる操作が追跡され、次回の体験をさらに楽しめるよう利用されている。

ユーザーがコンテンツ内をどうスワイプしているか、どこをタップしているか、記事をスクロールし、どこで手を止めているか、利用の時間帯はいつごろか、どこで使っているか、といった情報を活用したきわめて有効な改良体系で、トウティアオをさらに魅力的なものにしている。

スマホで使えるAI搭載アプリが未来に続く道

「大学を卒業後、取り組んだものが検索エンジンであれ、ソーシャルネットワークサイトであれ、そのすべてが情報流通に関わるものだったのです」。イーミンは出身大学の学生たちにそう語っている。

「検索エンジンは情報流通を系統立てたものであり、ソーシャルネットワークサイトは人々を情報の流れのノード(ネットワークの接点)にして情報の流れを系統立てるものであり、レコメンデーションエンジン(おすすめ機能)はユーザーの関心を捉えてうまく活用し、情報流通をより細かく体系化している」と彼は話す。

つまり、バイトダンスの企業としての発展のコアとなっているのは、イーミンがその考えを心に刻みつけた創造、推奨、情報流通なのだ。彼は社内に効率工学部門を設け、組織内のコミュニケーションの流れを改善している。

イーミンはスマホで使えるAI搭載アプリが未来に続く道だと気がついた。

しかも、彼にはそれらを発展させるための財政的支援もあった。トウティアオが成功したおかげで、投資家がバイトダンスへの投資に群がった。寝室が4つのアパートから始まった会社にとって、それは驚くべき成功である。

わずか10平方メートルたらずの寝室のいずれかをその時々のミーティングルームとして使い、初期のバイトダンスの従業員たちは家具の合間にひしめきあっていた。

トウティアオの公開から1年もしないうちに、イーミンはすでに、AI搭載モデルなら世界を相手にできるだろうと話していた。経営陣に対しては、明確にこう宣言している。

「バイトダンスは商業化と国際化に挑む」つもりだと。2013年1月に経営陣向け資料のスライド24で提示された未来への4部構成のプランにおいて、パート4は英語圏のユーザーを獲得するためにトウティアオの英語版を構築するプランである。

当時、スマホユーザーの注目を奪い合い、競争が激化していた。動画ビューアアプリの競争だ。


文/クリス・ストークル・ウォーカー 翻訳/村山 寿美子 写真/shutterstock

『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(小学館集英社プロダクション)

クリス・ストークル・ウォーカー (著)、村山 寿美子 (翻訳)

2023/7/21

2,090円

320ページ

ISBN:

978-4796880459

アメリカが恐れる中国発のAI技術とは?

ダウンロード数35億、売上高10兆円超。
アメリカ・シリコンバレー製ではない、
中国発アプリが初めて世界を席巻している。

なぜ、中国のテック企業が世界中を熱狂させるアプリを開発できたのか?
なぜ、GAFAを凌ぐ勢いで成長し続けているのか?

TikTok人気とは反対に、このモンスターアプリを生んだ「バイトダンス」の経営については、
あまり知られていない。

気鋭のイギリス人ジャーナリストが、社員や人気ティックトッカ―、
開発・運営の関係者や政治家まで、多数の人々に取材。
・有望AI企業の買収
・独自のアルゴリズムの構築
・1,000億円以上を投資するクリエイター育成
・人気インフルエンサーによるプロモーション
など、これまで謎に包まれてきた新興テック企業の世界戦略に迫る!

中国初の世界的SNSから、ITの最前線や世界情勢まで、私たちの未来が見えてくる!

【推薦コメント】
「「15秒で一発当てる」――刹那の楽園の裏側には無限に進化するAIがある。
中国発にして中国初のグローバルプラットフォームの成長と矛盾を解明する」
―楠木 建(一橋大学特任教授)

「世界で最もダイナミックなソーシャルネットワークを支えている技術を紹介。
ビジネス分析がスリラーのように読める」
―アジーム・アズハール(『エクスポネンシャル・ビュー』創業者)

「TikTokは、おそらく、これまでに作られた中で最も急速に成長し、
最も中毒性の高いソーシャルメディアツール。
本書は、その仕組みと影響を理解するのに不可欠だ」
―ダミアン・コリンズ(元英国議会デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会委員長

「中国のプラットフォームの比類ない幅広さと成長の規模に、驚くべき深さと壮大な知恵を合わせた。
シリコンバレーの覇権を脅かす中国初のグローバルプラットフォームの台頭という壮大な物語を、
ジャーナリスティックな物語と最先端の学術研究を融合させて紡ぎ出したのは、他のどの著者も成し得なかった」
―デイビッド・クレイグ教授(南カリフォルニア大学)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください