「バイトダンスって知ってる?」。そう尋ねると、たいていの人はぽかんとした表情を返してくるだろう。
バイトダンス(字節跳動)とはティックトックのオーナーであり、ほかにも世界トップレベルのアプリを運営する企業だ。
2012年3月に創業され、2018年には日本のソフトバンクグループの出資を受けたことにより、その企業価値は当初の750億ドルから1800億ドルに跳ね上がった。
そのアプリを世界で20億人が利用しているという事実にもかかわらず、2020年の収益は340億ドルと、バイトダンスは西側諸国のなかではあえて目立たない存在でいる。主役は商品だと考えているからだ。
それが、地味だが熱意に満ちた創業者、ジャン・イーミン(張一鳴)の戦略なのだ。
彼の仲間でありライバルでもあるミュージカリーの創業者、同じ中国人のアレックス・ジューは独創的だが少々軽はずみなところもあるのに対し、イーミンは慎重でものごとに集中するタイプだ。アリババグループの元CEOで、押しが強く精力的で社交的な人物として知られるジャック・マー(馬雲)と比較すると、彼は少々鈍い印象も与える。
だが、それはあくまで印象だ。彼は〝ディレイド・グラティフィケーション(Delayed Gratification)〟(将来のより大きな成果のために、目先の欲求を我慢する)を実践している。
その合理的な性格―いつもTシャツとジーパンという衣服のチョイスからもわかる―のおかげで、彼は平均的な中国人経営者よりも、他人を気にせずのんびりしたところがある。たとえるなら、滑稽でピンボールのような性格のイーロン・マスクというよりはむしろ、いささか迫力に欠け、がっかり感のあるマーク・ザッカーバーグといった感じか。