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記者、政治アドバイザー…TikTokがかき集めた異業種からの転職者。これぞ、有名インフルエンサーを濡れ手に泡の金で誘惑する「中国的戦略」

集英社オンライン / 2023年8月25日 17時1分

急速な成長を見せるショート動画共有アプリ、ティックトック(TikTok)。世界に規格外のインパクトを与えた企業はどう運営され、どんな目標を設定し、どこに向かっているのか。『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(小学館集英社プロダクション)から一部抜粋・再構成してお届けする。

TikTokのユーザーが若すぎるという悩み

ミュージカリーがバイトダンスに買収される以前、私がアレックス・ジューに最初のインタビューを行った2016年にさかのぼると、ティックトックのユーザーは他のソーシャルメディアユーザーより年齢は平均的に若い傾向があった。

とはいえ、カメラの周りで確信をもってふざけることができるティーンエイジャーの数は世界中でほんのわずかである。いくつかの点で、アプリは彼らを超え、束縛されない、絶え間ない成長を維持するために、ユーザーベースで拡大し始める必要があった。



そのことについては、ユーチューブの前経営者であるリッチ・ウォーターワースは、クリスマスの12日前にティックトックに乗りかえる前、グーグルが所有する動画プラットフォームで10年間を費やしたので、よくわかっていた。

2019年はティックトックにとって並外れた年だったが、その視野を広げるためには動画プラットフォームに関する経験が必要だった、と彼は12月下旬、私に言ったものだ。

彼はウイルトシャーから来たクリス・フランクリンという61歳の農夫の例を持ち出した。彼は子供たちの教育のために農場の動物と触れさせるチャリティーの一つ、カーンヒルカントリーサイドセンターを運営していた。

フランクリンという名前は以前に聞いたことがあった。彼はユーザー層の拡大を示すために会社がストックしていたユーザーの一人であると、一本の電話で教えられた。

動画に登場するたくさんの若く魅力的な顔と比べると、フランクリンはそこからははずれているとすぐにわかる。しかし6か月の間に、ものごとは変化していた。

たしかに、ティックトックはそのコアなカテゴリーである若い人たちの間ではまだ途方もない成長を見せていた。

ウォーターワースはほかの技術系重役のように、詳細はシェアしたがらなかったが、年齢16歳から24歳のユーザーのあいだで実に目覚ましい成長を見せていることは認めた。

優れたジャーナリストの例にならって、ともかく私はデータを集めた。2020年の夏までにティックトックが広告主に配布した内部資料によると、イギリスにおけるティックトックの1700万人に上る毎月のアクティブユーザーの39%が18~24歳だった。次いで25%が25~34歳。

「われわれには、プラットフォームに言い寄る両親という重荷、プラットフォームとは何かという認識を変えようとするより年上のミレニアルズ―プラスの重荷があった」とティックトック・イギリスの編集責任者であるヤズミン・ハウは言った。

「彼らは、それを口パクで歌うか、ダンスをしているだけだと考えた。しかしユーザー層は多様になってきているので、コンテンツもそれに従って多様化してきている。彼らは消費されやすいコンテンツを創造し始めたのだ」

児童に対する広告宣伝は禁止されている

現実には、ユーザーはとても若く、児童に対する広告宣伝は禁止されているため、ティックトックの重役たちは、2016年のミュージカリー協同創設者がユーザーは13歳と若いことを認めたときよりも、2020年は明確にしたがらなかった。

ユーザーの年齢について話したがらないのは、9か月弱前に罰金支払いの例があったからだ。

2019年2月、オンラインでの不適切なデータ収集から子供を保護しようというアメリカの規則にミュージカリーが違反したとして、ティックトックは570万ドルの罰金を科せられたのだった。

この罰金を科したアメリカ連邦取引委員会(FTC)は、ミュージカリーのオーナーが「多くの子供がアプリを使用していたが、両親の許可を得ないままで、〝13〟歳以下のユーザーから名前やeメールアドレスその他の個人情報を集めていたことを知っていた」として罰金を言い渡したのである。

追加の罰金がティックトックやバイトダンスに科せられることはなかったが、その波及は子供たちの間で流行っているあらゆるアプリで感じられた。

2019年9月、FTCは再び襲ってきた。ユーチューブはオンラインから子供たちを守るという同じ法律に違反するという取締官と和解に到達し、1億7000万ドルを支払うことに同意した。

子供のユーザーがいるあらゆるソーシャルプラットフォームにとって、それは「重要なマイルストーン」だったと、オンラインでの子供の安全性に注視している会社の最高責任者の一人、ディラン・コリンズは言った。

さらに2019年12月、ティックトックは明確な同意書なしに13歳以下の子供からデータを集めたという疑いをかけられて告訴対象となったが、これについては、会社は否定した。

ところが、リークされた内部情報では、ティックトックユーザー4人に1人は年齢13歳から17歳の間だった。さらに、42%は24歳以下。2019年3月にそのアプリにログインした35歳以上のユーザーはたったの15%だったのだ。

2019年だけでアメリカにおいて、会社は1日に300万ドルを広告宣伝

若いユーザーはティックトックを輝かせてくれるが、アプリの経営者にとって彼らは頭痛の種でもあった。そう、ティックトックは拡大したかった。

ティックトックは25歳から34 歳の間、さらにはそれ以上の年齢層のユーザーにおける急速な成長を目指していた。「ティックトックはそこでシェアされているコンテンツという観点からも、われわれが見ているクリエイターやユーザーのタイプという観点からも、広範囲に及ぼうとしている」

ティックトックは、デヴィッド・ベッカムやポップスターのルイス・キャパルディを特集して、テレビでの伝統的なクリスマス宣伝キャンペーンに巨費を費やし、アプリ情報を電波で満たすことで人々の関心を引き、それと同時に若い肉親がクリスマスを祝いながら、自分のティックトックに出てくれるようせがむのを利用する計画を立てた(ティックトック内部では使い古された戦術。2019年だけでアメリカにおいて、会社は1日に300万ドルを広告宣伝に費やした)。

しかし、きらびやかなテレビ宣伝キャンペーンでは、ティックトックロゴの青と赤でライトアップされたネオンフレームをジャンプして入ったり出たりする人々が映し出されていたが、ほとんど何も起こらなかった。

キャンペーンのためのそのネオンフレームが収められた200キログラムの木箱がロンドンのホルボーンにあるオフィスに運び込まれた。会社の1ダースほどの社員がそれを階段で3階まで引っ張り上げたのだった。

ここで雇われている人たちの給料はよかった。世界的に成功を収めているティックトックの仕事が安いはずがなく、また苦労して稼いだユーザーに、会社もまた多くの方法で支払おうとしている。

それは単に、お金を派手に使うヴィドコンのようなイベントでぶっ通しに続くスポンサーシップでもなく、チャート1位をいくポップスターやセレブリティを呼び物にするテレビの宣伝広告キャンペーンでもない。

給料がすでに吊り上がっているIT業界では、フェイスブックやユーチューブといった競合会社から説得して引き抜いてきた社員に、ティックトックは最高額の給料を払っている。

ティックトックで機械学習エンジニアはスタッフ10人のチームを率いると、20万ドルを稼ぐことができた。ティックトックは多くの大手企業を見渡し、ユーチューブやその他ヤフーのような別のプラットフォームからスタッフをリクルートしてきた。

ティックトックが迎え入れた異業種からの転職者

ティックトックはまたいくつかの異業種からも雇用した。マーケティングチームの多くは元ジャーナリストで、彼らの元雇用主らがとことん仕事を縮小していたのだ。

ある2人は、英国第三政党である自由民主党の元リーダーのオフィスからヘッドハンティングされた。

一方、ティックトックの政府関連および講習制作のテオ・バートラム部長は2人の英国首相の前アドバイザーであった。

ロンドンにインターナショナル部門の基礎づくりを行うため、会社は大量雇用をし、ダブリンではヨーロッパ全土のデータを扱うため5億ドルの信託安全センターを設けると発表した。2020年半ば、ティックトックのウェブサイトに表示される欠員は、その15%がこれら2つのオフィスからのものだった。

タレントにも出費がなされた。クリエイター基金はユーザーをランク付け、アクセス者やユーザーを連れてくるとみなせば、大金を派手に使おうとした。

セレブは安くはつかないため、ティックトックはアカウントを登録しているもののほかのプラットフォームで活動するクリエイターにはお金を提供したいと考えていた。

ティックトックからのキャスティング依頼がインフルエンサーを通してマーケティングエージェンシーにまき散らされ、すでにユーチューブやインスタグラムで活躍しているコメディアン、ゲーマー、DIYインフルエンサーやペットクリエイターなどに、ティックトックでコンテンツを投稿しないかと要望した。

アカウントを作るためにティックトックは彼らに500ドルを提供した。1週間のスケジュールに従って投稿した動画ごとに、彼らは25ドルを受け取った。ティックトックは8週間で、週に3本、11秒から16秒の動画を投稿することを期待した。

インフルエンサーはほかのソーシャルメディアについては、キャプションにせよ、動画にせよ、コメントは許されず、ハッシュタグ# TikTokPartner に含まれなければならなかった。

要望をすべて満たすと、インフルエンサーには銀行口座に1100ドルが振り込まれた。また、10万ビューに達した動画ごとに追加で200ドル、20万ビューごとに300ドル、100万ビュー以上に達した動画には500ドルが支払われた。

どれだけの人がティックトックの申し出に応えるのだろうか。# TikTokPartner とタグ付けされた公式インフルエンサーの投稿がある一方で、約13万5000本の動画がハッシュタグを使っており、約780億回見られていた。

ティックトックの分析ツールであるPentosを使って集めたデータによれば、そのハッシュタグを用いている動画は平均約5万8000回見られていた。

4分半の動画を投稿するたびに1万3000ドル稼ぐことが理論的には可能

このようなボーナスを求めるインフルエンサーにとって、アプリに4分半の動画を投稿するたびに1万3000ドル稼ぐことが理論的には可能となる。

もっと大きなニンジンが別のインフルエンサーの目の前にぶら下がっていた。

2018年12 月、多くのインフルエンサーがインフルエンサーマーケティングエージェンシーと契約すると、ティックトックにコンテンツを投稿し始めるよう求められた。その代わり、彼らは500ドルを受け取り、パフォーマンス次第で5000ドルのボーナスを稼ぐことができた。

同じような書類がインドのインフルエンサー業界あたりでもシェアされていたということは、その国の多くのクリエイターたちはティックトックに投稿しただけで報酬を得るばかりか、そのコンテンツをより広くシェアすることでも報酬が得られる契約をしていることを示している。

伝えられたところによると、クリエイターらは彼らのプラットフォームにおける人気度に応じて、月に250ドルから1750ドルを稼ぐことができる。それは、平均的な月収が425ドルあたりというような国でなら、とても気前がいい話ではある。

もしそういう仕事に就いているなら、噂では少なくとも一人のインスタグラムインフルエンサーに、その作品を売り歩くためにティックトックが払ったという額に比べると、はした金であるとはいえ、悪い仕事ではない。

ウォールストリートジャーナルによれば、バイトダンスは一本の動画を広めるために100万ドル以上の大金をしぶしぶ払ったことがあるという。

中国ではきわめてありうる戦略

「それは実際のところ中国ではきわめてありうる戦略です」とファビアン・アウエハントは言う。彼は、これぞ中国ではプラットフォームにクリエイターを引きつける一般的な方法であると熟知している。

今も世界中で運用されている2つのショート動画アプリを、バイトダンスがどのようにして育ててきたかをずっとモニターしてきたばかりか、彼のパートナーのエリンはドウイン最初のクリエイターであり、そして今もそうなのだ。

「彼女はその報酬を得た」と彼は言う。「ちょっとまとまったお金をね」。

2016年ドウインがエイミーとして発足して間もなく、バイトダンスの代表者から接触を受けた彼女は、別のプラットフォームにベースを築いていて、会社がアプローチした20~30人のクリエイターのうちの1人だった。

皮肉なことに、バイトダンスはアウエハントのパートナーを、1年後には買収することになったアプリであるミュージカリーから、ヘッドハンティングしたいと狙っていたのだった。


そのオファーは直球で届いた。「エイミーに加わり、コンテンツを投稿してほしい。そうすれば、投稿した動画1本ごとに300元が受け取れる。最大月に4000元を上限としよう」。

その額は、当時約600ドルに相当したが、ざっと言って、中国の初任給とほぼ同額だった。

「かなりの高額です」とアウエハントは言う。「彼らは基本的にその額を月に数本の動画を作るたびに受け取りましたから」。そしてその金額は人の名声に応じて違っていた。もっと受け取っていた人もいたのだ。

彼のパートナーはお金を受け取り、共同制作者にもなった。2年間、彼女は会社とともに働き、コンテンツを制作しながら、アプリの開発のしかたについてフィードバックを提供していた。それは今日まで続く慣習となっている。

私が話をした一人のアメリカ人ティックトックユーザーは2021年3月に届いたアプリへのメッセージで、ベータテスティンググループに参加するよう招待された。

そこでは、ティックトックの新しいあり方に関するアイデアを精査するアプリのテストバージョンへのアクセス権を与えられ、アイデアをフィードバックするフェイスブックグループに参加するよう求められた。もちろん、すべては非公開という誓約を交わしたうえである。

大人気のインスタグラマーには100万ドルをちらつかせ

ベータテスターになるために、なおかつ、アプリをいかに改善するかについてリアルタイムで示唆を与え、同時にプラットフォームを成長させるために、トップクリエイターへ支払う額は安くはない。

もしエイミーではクリエイターに1人あたり月に600ドルが支払われていたとすると、バイトダンスは初期のクリエイティブチームに少なくとも年間14万4000ドルを費やしていた。

大人気のインスタグラマーには100万ドルをちらつかせようとも、ティックトックは広告費をブランド構築に必要な経費としてそれを取り戻すことができる。

2020年6月現在、インフィード広告、つまり画面をエンドレスにスクロールしながら見られる動画は最長15秒に対して最少でも2万5000ドルかかる。

1秒あたり1667ドルとはクールだ。

もしあなたがもっと絶好の位置が欲しいなら、ユーザーがアプリを開けると動画が上映されるようにするなら、21万~24万ドルほどの経費がかかる。ハッシュタグチャレンジとは、ユーザーが真似をするような奇妙な行動や特徴的なハッシュタグをつけて投稿することだが、これは17万5000ドルからスタートする。

そしてプラットフォームに参加しているクリエイターもまた稼ぐことができる。

一つのサービスであるアーティストインフルエンスは、レコード発売元と動画で音楽を使用するティックトックインフルエンサーとの間で、ブローカーとして行動することが許される。

「インフルエンサーがそれぞれ個性的なコンテンツを投稿することで、ネットワークは作動するが、そのあいだ、あなたの音楽はもっぱら彼らのコンテンツで用いられている」と会社は主張する。

「音楽はコンテンツを通して、インフルエンサーを熱心な視聴者へと導き、その結果クリック率が高くなる。あなたの音楽がティックトックで100万人の人に届くのにかかる費用は350ドルだ。500万人だと1600ドル。2000万人に届けるには4800ドル。

サービスを提供している会社は、ワーナーレコード、ソニーミュージック、ユニバーサルミュージックグループ、ライブネイションのようなところと仕事をしてきたと言っている。


文/クリス・ストークル・ウォーカー 翻訳/村山 寿美子 写真/shutterstock

『最強AI TikTokが世界を呑み込む』(小学館集英社プロダクション)

クリス・ストークル・ウォーカー (著)、村山 寿美子 (翻訳)

2023/7/21

2,090円

320ページ

ISBN:

978-4796880459

アメリカが恐れる中国発のAI技術とは?

ダウンロード数35億、売上高10兆円超。
アメリカ・シリコンバレー製ではない、
中国発アプリが初めて世界を席巻している。

なぜ、中国のテック企業が世界中を熱狂させるアプリを開発できたのか?
なぜ、GAFAを凌ぐ勢いで成長し続けているのか?

TikTok人気とは反対に、このモンスターアプリを生んだ「バイトダンス」の経営については、
あまり知られていない。

気鋭のイギリス人ジャーナリストが、社員や人気ティックトッカ―、
開発・運営の関係者や政治家まで、多数の人々に取材。
・有望AI企業の買収
・独自のアルゴリズムの構築
・1,000億円以上を投資するクリエイター育成
・人気インフルエンサーによるプロモーション
など、これまで謎に包まれてきた新興テック企業の世界戦略に迫る!

中国初の世界的SNSから、ITの最前線や世界情勢まで、私たちの未来が見えてくる!

【推薦コメント】
「「15秒で一発当てる」――刹那の楽園の裏側には無限に進化するAIがある。
中国発にして中国初のグローバルプラットフォームの成長と矛盾を解明する」
―楠木 建(一橋大学特任教授)

「世界で最もダイナミックなソーシャルネットワークを支えている技術を紹介。
ビジネス分析がスリラーのように読める」
―アジーム・アズハール(『エクスポネンシャル・ビュー』創業者)

「TikTokは、おそらく、これまでに作られた中で最も急速に成長し、
最も中毒性の高いソーシャルメディアツール。
本書は、その仕組みと影響を理解するのに不可欠だ」
―ダミアン・コリンズ(元英国議会デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会委員長

「中国のプラットフォームの比類ない幅広さと成長の規模に、驚くべき深さと壮大な知恵を合わせた。
シリコンバレーの覇権を脅かす中国初のグローバルプラットフォームの台頭という壮大な物語を、
ジャーナリスティックな物語と最先端の学術研究を融合させて紡ぎ出したのは、他のどの著者も成し得なかった」
―デイビッド・クレイグ教授(南カリフォルニア大学)

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