1981年にブッチャーブラザーズというコンビを結成したとき、ボケ担当のぶっちゃあは24歳になっていた。もともとは映画監督を目指して東映の俳優養成所に入ったが、俳優の森田健作(前・千葉県知事)に請われてマネジャーに。そこで2年間を務めたあと、芸人の道に進んだ。
芸歴42年、ぶっちゃあ(68)「明日売れようと思って生きてます!」 ダンディ坂野、アンジャッシュらを育てた“黒子芸人”の夢
集英社オンライン / 2023年8月23日 17時1分
「芸人をやめるのも才能なんです」と語る、ブッチャーブラザーズのぶっちゃあは、“東京芸人の父”とも呼ばれ、今年で芸歴42年目となる。「生涯一新人」を胸に刻み、明日売れることを夢見て活動し続ける、ぶっちゃあの人生に迫る。(文中敬称略)
テレビコンテスト優勝で芸人デビュー
ぶっちゃあが当時を振り返る。
「そのころ、テレビ番組にお笑いコンテストがあって、アマチュアも参加できたんです。『笑ってる場合ですよ!』(フジテレビ系)の『お笑い君こそスターだ!』というコーナーで僕たちはチャンピオンになりました」
「お笑い君こそスターだ!」は、「ザ・テレビ演芸」(テレビ朝日系)と「お笑いスター誕生‼」(日本テレビ系列)とともに若手芸人の登竜門となっていた。「ザ・テレビ演芸」でも4代目チャンピオンになった。
そんなブッチャーブラザーズは、桜田淳子、松田聖子らのいたサンミュージック所属のお笑いタレント第1号になった。
「吉本興業にNSCという養成所ができたのが1982年、1期生のダウンダウンが世に出る少し前ですね。この仕事を始めたころ、こんな芸人になりたいという具体的なイメージはありませんでした。テレビに出て売れたいという思いだけで」
その後、ブッチャーブラザーズも出ていた『お笑いスター誕生!!』でグランプリを獲得したとんねるずがテレビ界を席巻。1988年にはダウンタウンが東京進出を果たし、ぶっちゃあよりも若いお笑い芸人が次々とスター街道を駆けていった。
「デビューしたては、僕たちもテレビにたくさん出していただきました。そのころが一番多かったかもしれません」
「ずっと低空飛行が続いてます」
だが、とんねるずやダウンタウンより年上のブッチャーブラザーズは、時代の波に乗れなかった。
「その後はずっと低空飛行が続いています。今年でデビュー42年目。僕は自分たちのことを『42年目の若手』だと思っています。売れるまでは若手ですから」
年下の芸人が冠番組を持ち、主役の座におさまっていく一方で、ブッチャーブラザーズにブレイクの兆しは見えなかった。それでもなぜ、芸人生活を続けたのか。
「僕たちがやめなかった理由のひとつは、定期収入があったこと。サンミュージック所属のはじめの5年間は給料制でした。その後、人力舎という会社に移ってからは、給料制ではなかったけど、『月々、いくらあれば食っていける?』と社長に聞かれて、最低保証をしてもらっていました」
仕事がなくても、毎月、一定の収入があった。
「食うには困らなかったんです。契約書なんかなかったですけど、約束を守ってくれました。今考えると、いい会社だし、いい時代でしたね。本当に助かりました」
そうは言っても、働かざる者食うべからず――厳しい世界だ。
「相方とふたりで『今月は死ぬほど働いたな』『100万円くらいはもらえるだろう』と話した月もありました。でも、実際は70万円くらいしかなかったりする。月々もらっていた固定収入はバンス(前借り)みたいな形になっていたんです。
そういうスタイルは僕たちが最後じゃないでしょうか。完全歩合制になってからは、稼げない人はすぐにやめていった」
アンジャッシュ、ダンディ坂野らの講師に
とんねるずやダウンタウン、ウッチャンナンチャンなど「お笑い第三世代」が台頭したことで、お笑い芸人の志望者が増えていった。30代後半になったぶっちゃあに与えられた仕事は彼らを指導することだった。
「僕らのコンビは、サンミュージック時代にはまったく売れず。人力舎に移籍してからも状況は変わりませんでした。NSCからどんどん売れっ子が出てきたので、人力舎も養成所をつくることになり、僕たちが講師役を務めることになりました」
1992年、人力舎が関東に初めてのお笑い芸人養成スクールを立ち上げた。その名も「JCA」。
「その1期生から6期生までに僕たちが関わりました。アンジャッシュ、ダンディ坂野、アンタッチャブル、東京03、ドランクドラゴン、北陽などがいました。
生徒が1年生なら講師も1年生。教科書的なものは何もないから相方とふたりでいろいろ考えながら教えていました。生徒のネタを見てアドバイスをしたり、ネタのつくり方を教えたりしていました」
当時の様子をこう語る。
「人力舎に来ている子は専門学校に通ってるみたいな雰囲気でしたね。アンジャッシュの児嶋(一哉)のお母さんが菓子折りを持ってきたことがあって、(息子が)麻雀とかパチンコとか遊びほうけていたけど、養成所に通うようになってから朝はちゃんと起きるようになったと感謝されました。『おかげで、息子がまともになりました』って」
ぶっちゃあは黒子として、数多くのお笑い芸人を世に出した。
「光浦靖子が小劇団にちょい役で出ているのを見て『劇団やってても食えないから』と言ってスカウトしたんです。人力舎に入ってからすぐに売れましたね」
45歳でバイト「一番生活が苦しかった」
しかし、ぶっちゃあ自身に大きな変化はなかった。売れることなく、時間ばかりが過ぎていく。
その後、古巣に請われる形でサンミュージックに復帰する。
「お笑い部門を強化したいから力を貸してほしいと言われたからです。5年くらい、僕たちの思うようにやらせてくれるならということで戻ることになりました。そのころが一番、生活が苦しかった。45歳くらいのときには、引っ越し屋のアルバイトもしましたよ」
サンミュージックにはカンニング(竹山隆範・中島忠幸)ら、お笑いタレントがいたものの、売れっ子は育っていなかった。
「育成計画を練りましたが、あまりうまく回らない。『正社員になってくれ』と言われていた引っ越し屋に就職しないといけないかなと思った時期もありました。
復帰して5年半くらいに、僕たちの弟子のダンディ坂野が売れて、ヒロシ、小島よしお、髭男爵、鳥居みゆきがブレイクしていきました。“一発屋製造工場”と言われましたけどね(笑)」
一瞬で自身をアピールする武器があるのは強い。
「一発屋になれるって本当にすごいことですよ。『ゲッツ』と言えばダンディ坂野、『そんなの関係ねえ!』と言えば小島よしお。誰だってわかるんですから。
師匠の僕たちが賃貸住宅に住んでいるのに、ダンディは“ゲッツ御殿”を建てました。あいつは人力舎に残れなくて、僕たちを頼ってきたんです。不器用だったから同じことをやり続けた。それがよかったのかもしれませんね」
「明日売れようと思って生きています」
今では、お笑いライブができる劇場も多くなった。高額賞金のかかった賞レースも複数ある。チャンスは確実に増えたが、それをつかめる人は限られている。
「昔とはずいぶん環境が変わりましたが、絶対に売れる方法はありません。逆に芸人をやめるセンスを持っている人はすごいなと思っています。僕はサーフィンをやってるんですけど、その師匠が吉本で芸人だった人。不動産業に転身し、手広く事業をやっています。
今は東京大、京都大、東京工業大など、すごい学歴の芸人がたくさんいます。『パンケーキ食べたい!』というネタでブレイクした夢屋まさるは慶應大出身で、今はテレビ朝日に入って番組をつくる側に回っています」
42年の芸人生活を振り返って何を思うのか。
「相方のリッキー(現・サンミュージック副社長)と揉めたこともありましたけど、芸人をやめたいと思ったことはなかった。
24歳でお笑い芸人になって20年くらいは順調にいっていて、食うのには困りませんでしたから。仕事があったから続けられたというのが現実かもしれません」
1954年生まれのぶっちゃあは最後までこの道を歩いていくつもりだという。
「今も『明日売れよう』と思って生きています。来年70歳になりますけど。気持ちはずっと変わりません。大きく羽ばたけなくてもいい。低空飛行でもいいからそれを続けていきたい。あと5年くらいすると、面白くなるんじゃないですか」
取材・文/元永知宏
写真提供/ぶっちゃあ
編集・撮影/一ノ瀬 伸
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