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初対戦球団には9勝0敗、勝率100%。“現役ドラフトの星”阪神・大竹耕太郎はなぜ打たれないのか?【鳥谷敬が分析】

集英社オンライン / 2023年8月22日 11時1分

鳥谷敬が2023年の阪神タイガースを追う連載第7回は、今季、現役ドラフトで阪神へ入団した大竹耕太郎投手を分析。「#大竹泣いてるやん」とSNSで話題になったあの涙についても鳥谷流に斬る!?

現役ドラフト組の中でもひときわ目立つ活躍ぶり

昨年のシーズンオフ、出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化するための「現役ドラフト」が導入されました。

そもそも、プロ野球選手である以上、誰もが実力を持っているのは間違いないのですが、チームの中で同じポジションに“絶対的な選手”がいるためになかなかチャンスがもらえないというケースがよく見られます。

選手としては、より自分にフィットするチームに移籍できる上に、相手から望まれている状態で活躍の場が広がる可能性があるということは、非常に望ましい話です。




その現役ドラフトで、読売ジャイアンツから広島東洋カープに移籍した戸根千明投手、横浜DeNAベイスターズから中日ドラゴンズに移籍した細川成也選手などが新天地で結果を残しています。

中でも最も活躍している選手といえば、福岡ソフトバンクホークスから阪神タイガースに移籍してきたサウスポー、大竹耕太郎投手ではないでしょうか。

移籍1年目で大活躍中の大竹投手

熊本県立済々黌高から早稲田大学を経て、2017年に育成ドラフト4位でソフトバンクに入団。ソフトバンクでは5年間で10勝に終わりました。

それが今季は先発ローテーションの一角として7月までに14試合に登板し、7勝1敗で防御率1.89。5月度セ・リーグ投手部門で初の月間MVPを受賞し、岡田彰布監督も、村上頌樹投手とともに前半戦のMVPとして、大竹投手の名前をあげました。

7月末に体調不良で離脱したものの、8月16日の広島戦で8勝目をあげ、復活をアピールしました。先発投手として、ひとりで7つの貯金を作っていることを考えると、チームへの貢献度は計り知れません。
実績のある青柳晃洋投手、西勇輝投手の調子がなかなか上がらない中、新戦力として期待以上の活躍をしてくれていることは、阪神タイガースが今の順位にいる最大の要因だと思います。

打者にタイミングをとりづらくさせる巧みな投球術

では、なぜ大竹投手がここまでいい結果を残せているのでしょうか?

コントロールがいい、右打者に対しても左打者に対しても内角球の使い方がうまい、緩急をうまく使えるなど、数多く評価されているポイントはありますが、自分が思う最大の要因は、打者がタイミングをとりづらいことにあります。

同じ球種を投げるにしても、クイックモーションを使ったり、腕の振りに差をつけたりすることで変化球の曲がり幅を変えるだけでなく、打者の雰囲気を察知して、変化を加える投球術も持ち合わせていることから、かなり器用なタイプの投手だと言えます。

また、大竹投手は12球団すべてのチームと対戦経験があり、その初対戦での成績が9勝0敗というデータもあります。このことからも、初見で攻略するのは難しく、打者が対応するためには、時間がかかる投手であるということがわかります。

仮に、自分が大竹投手と対戦するならば、おそらくタイミングを外されるだろうと考え、あえてタイミングを合わせにいかないという方法を選びます。こちらがタイミングを合わそうとすると、余計なことを考えて、どうしても後手に回ってしまいます。

それなら最初からタイミングを合わせにいかず、極端に言えば、足を上げずに打つぐらいでもいいかもしれません。

鳥谷敬氏

打者にとって、タイミングをとるというのは非常に大切な作業ですが、シーズンを通して同じ先発投手と5回も6回も対戦することは、ほぼあり得ません。そういう意味では、タイミングが合わないピッチャーに対しては、あえて合わないままにするというのも選択肢のひとつとして持っておくべきだと思います。

無理にタイミングを合わせようとして、バッティングを崩し、本来タイミングが合うピッチャーを打てなくなるほうが、シーズンを通して考えるとマイナスの面が大きいからです。

岡田監督の考えは「わざと登板間隔をあける」

とはいえある程度結果を残したピッチャーや、対戦数が増えてきたピッチャーは、どうしても相手が研究し、対策を練ってきます。

大竹投手も、これまでと同じようにはいかないという懸念はあります。シーズンを通じて先発ローテーションを守った経験があるわけでもないので、体力面や精神面での不安もあるでしょう。

ただ、大竹投手は、自分ができることをよく理解していますし、たとえ対策されたとしても、先発投手として投球術を駆使し、試合を作っていくことはできるのではないかと思います。

岡田監督も、打者目線としての考え方から、同じチームと何度も対戦するのを避けるため、わざと登板間隔をあけることを考えているようです。

岡田監督

今年の阪神タイガースは、先発投手を6人できっちり回すというよりも、西純矢投手や才木浩人投手などを含めた8人程度でシーズンを乗り切るためのローテーションを組んでいます。8月以降、青柳投手や西勇輝投手が本来の姿を取り戻せば、前半戦以上に余裕をもてます。

後半戦で、必ず苦しい時期がくることを思えば、今年の阪神タイガースの投手陣は、シーズンを通じて非常にいいアプローチができていると言えるでしょう。

そういえば、5月27日、甲子園での巨人戦で、7回を無失点で投げ切った大竹投手に代打が送られた直後、近本光司選手が均衡をやぶる先制タイムリーヒットを放ち、大竹投手がベンチで感極まって涙するシーンがありました。
気持ちはわかりますが、そこで何かが終わったわけではないので、泣く必要はなかったのでは…と個人的には思います。

聞くところによると、熊本県立済々黌高等学校2年時にエースとして出場した夏の甲子園大会で、藤浪晋太郎投手がいる大阪桐蔭に敗れた時も、人一倍泣いていたそうです。
強い思いを持って、自分の投球や野球と向き合っているのだろうなということは感じとれましたが、それならば、移籍後初勝利の時に泣いてもよかったのではないかとは思うので…。機会があれば本人に聞いてみたいと思います。

構成/飯田隆之 写真/共同通信社

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