新しもの好きの「開拓遺伝子」って? 「好奇心遺伝子」が強いと才能豊か? 「ストレス遺伝子」を強くするには運動がいい? 意外と知らない遺伝子の不思議
集英社オンライン / 2023年9月3日 11時1分
親が美術教師だから、子どもも絵の才能がある、おとなしい性格は我が家の遺伝だから…といったニュアンスが会話の中にはよく出てくるものだが、遺伝子についてはまだまだ未知の領域が多い。一石英一郎氏著書『最新の研究でわかった人生を支配する真実 すべて遺伝子のせいだった!?』(アスコム)にさまざまな遺伝子が紹介されている。その一部を抜粋・再構成してお届けする。
新しいものが大好きな「開拓遺伝子」
「あの人には才能があるから成功するよ」とか、「私には才能がないからダメだ」とか、日頃よく耳にしますね。才能は、あるか・ないか、で語られることの多い言葉です。それを決めているのは、遺伝子なのでしょうか?
ここでは、おもに才能に関係するとされる遺伝子を紹介していきます。
この先「○○遺伝子」という言葉がよく出てきます。たとえば「○○の働きを持つ酵素をつくり、コロナワクチンにも使用されているmRNAのもとになる遺伝子」と書くほうが科学的で正確でも、わかりやすく象徴的な言葉で「○○遺伝子」とします。
ヒトの脳は、一言でいうと神経細胞のかたまりです。1000億といった膨大な数の神経細胞(ニューロン)がシナプスと呼ばれる部分を介して複雑につながり、巨大なネットワークをつくっています。シナプスでは「神経伝達物質」が受け渡されて情報が伝わります。シナプスの数は150兆、あるいはもっと多いともいわれます。
脳内には、「脳由来神経栄養因子」(BDNF= Brain-derived neurotrophic factor)と呼ばれるタンパク質があります。これは神経細胞に働いて、その生存や活動を支えたり、成長を促したりしています。いま、世界の科学者たちが注目し、研究を進めているものです。
BDNFを生み出す遺伝子が存在すること、その「BDNF遺伝子」にいくつかのタイプがあることもわかっています。このうち知性や知的好奇心と関係があり、新しい経験を受け入れることに寛容なタイプの遺伝子に「開拓遺伝子」というのがあります。
開拓には、誰も足を踏み入れたことのない荒野を切り開く、力強いイメージがあります。そんな大それたことでなくても、近くに新しい店がオープンしたから開拓しよう、なんていう場合にも使われますよね。カフェでも、お寿司屋さんでも、美容室でもいいんです。
開拓の傾向が強い人は、新しいことにさかんに興味を示す、知的好奇心の強い人です。それを実行に移す行動力も必要でしょう。実際オープンした店に行かなければ、開拓したとはいえませんね。さらに、世の中のふつうの考え方にとらわれず独創的な発想をし、芸術的な創造性を発揮することも少なからずあります。
ピカソの強烈な絵を思い出してください。彼は荒唐無稽とも思える人物像を大量に残しました。
10代ころのデッサンを見ると早熟で、とにかくうまい。中学生だけど、このままで芸術大学に楽勝で合格だろう、というような絵を描きました。しかし、既存の美術界には魅力を感じず、古典に深く学び、生涯新しい道を開拓しつづけました。
彼は強い開拓遺伝子を持っていたのかもしれません。そんな人は極端な場合、夢想や空想が過ぎて無謀な行動をとることもあります。
開拓の傾向が弱い人は、なじんだものを好み、大きな変化を望まず、保守的で堅実な生活を送りがちです。先ほどの話でいえば、行きつけの店ばかりを好む人が当てはまりそうです。この傾向が極端に出ると、伝統や権威にこだわりすぎる頑迷な人ということになるかもしれません。
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「好奇心遺伝子」が強いタイプは、才能がある人?
開拓遺伝子と呼び方が似ていますが、「好奇心遺伝子」というのもあります。
アメリカ・カリフォルニア大学がヨーロッパの約1万1600人、1人あたり約120万という遺伝子のパターンを対象に、性格との関連を調べました。この大規模な研究によると、好奇心が弱いタイプ、やや弱いタイプ、やや強いタイプ、の3つに分かれることがわかりました。
この遺伝子は、脳の神経細胞にあるニューレキシンというタンパク質をつくり出します。ニューレキシンは、シナプスをつくったり神経伝達物質が出たりすることに関係します。
遺伝子のほんのちょっとした違いで、神経細胞の働きや情報の伝わり方が変わり、好奇心の強弱が出ます。そんな違いが重なっていけば性格まで異なってくると考えられます。
好奇心が強ければ自分の世界をどんどん広げたり、深めたりして、積極的な性格になっていくでしょう。仕事の能力──企画・説明・書類づくり・計算といった能力は同じでも、課題を達成できるかどうかにまで差が出てくるかもしれません。
この大規模研究には、アメリカの著名な精神科医で遺伝学者クロニンジャー博士が考案した「TCI」という気質と性格を判定する検査が使われました。よく的を射ているというので世界に広く普及していますから、ちょっと紹介しておきます。
博士によれば、ヒトには4つの気質(気質因子)があります。
新奇性追求(新しいもの好き)、損害回避、報酬依存、固執の4つで、これらの気質は遺伝の関与が大きく、幼年期から現れてきます。この気質によって私たちは一人ひとり、世界の感じ方が異なるようです。
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一方、ヒトには3つの性格(性格因子)があります。自尊心、協調性、自己超越性の3つで、これも遺伝が影響すると考えられていますが、環境の影響も大きく、自分はこうありたいという意識が強まる成人期に成熟します。
これら7つの因子(次元ともいいます)がどう関係しているかが問題です。なぜなら、4つの気質の上に3つの性格が乗るかたちで、個性や人格(パーソナリティ)をつくっているからです。それを調べるためには、用意した240個の短い質問にイエス、ノーで答えていけば、おおよそどんな傾向の人かわかる。——これがクロニンジャー博士の考案したTCIです。日本でもこの検査を受けることができます。
いくつになっても脳細胞は増える
若返りの「BDNF遺伝子」を働かせるには?
ちょっと前まで、脳というのは20歳くらいで完成し、あとは膨大な数の細胞が少しずつ死んでいくだけだ、とされていました。
末期がんの患者さんの脳を調べて「新しい細胞が生まれている」とわかったのは20世紀の末です。現在は、その重要なカギがタンパク質の一種、BDNF(脳由来神経栄養因子)だと考えられています。
BDNFが元気に出てくれば、脳の細胞が増え、脳がよみがえったり若返ったりします。記憶を司る「海馬」や、記憶・学習・感情や行動の制御など高度な精神活動を司る「前頭前野」などで、脳の細胞が生まれ変わることができれば、脳の機能はもっと働くようになるでしょう。なんだか希望がわいてきますね。
BDNFは、運動するとさかんに出てくることがわかっています。ウォーキング(有酸素運動)、レジスタンス・エクササイズ(筋肉に抵抗をかける運動)などの有効性は、本書の別の章で詳しくお話ししましょう。
また、感動して笑っている時間が長いと、BDNFが増える、という研究報告もあります。笑うことで脳内にBDNFが増え、細胞が元気にどんどん再生すれば統合失調症にもプラスのはずだ、と思われています。
世の中、笑って損した人は一人もいない、まさに「笑う門には福来たる」ということでしょう。でも一人あるそうで、金箔屋の主人が大笑いして金粉を吹き飛ばしてしまい、大損をした。——とこれは古今亭志ん生さんの落語で聞きました。
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「ストレスに強い遺伝子」がなくても、ストレスに強くなれる
日頃、ストレスをあまり感じたことがないという人がいたら、とても幸せな状況にあるか、ストレスに強い遺伝子タイプの人かもしれません。メンタルが強いといわれる人は、そのタイプでしょう。
反対に、何かあるとすぐに落ち込み、くよくよ思い悩む人は、ストレスに弱い遺伝子タイプの人、いわゆるメンタルが弱い人となりそうです。そういう人でも、ストレスに強い人になれるのでしょうか?
BDNF(脳由来神経栄養因子)がよく働く脳は、ストレスに対して強く、ストレスに影響されにくい、とわかっています。逆にBDNFがよく働かない脳は、ストレスに弱く、すぐ影響されてしまいます。
ストレスに強いか弱いかは、BDNFが重要なカギになります。しかし、BDNFはその人の持つ遺伝子によって働きの強弱が出てしまいます。だから、残念ながらストレスに強いか弱いかは、遺伝的にある程度、決まってくるわけです。
ストレスに強い遺伝子タイプと、先にお話しした開拓力が強い遺伝子タイプは一致します。ストレスを感じないから、どんどん新しいことをやれるんでしょう。さもありなんと納得できる話ですね。
しかし前項でお伝えしたように「運動」がBDNFの働きに大きく関わってくるのです。運動がストレス解消に効果的なのは、誰もが経験的にわかっているでしょう。
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柔道やラグビーに打ち込んでいた私の学生時代の経験からも、小中高校で運動部に入ることを強くおすすめします。年をへて運動不足気味の最近は、「学生時代のほうが断然、頭が冴えていた。当時と比べたら、年がら年中ぼーっとしている感じだ」とすら思うほどです……。やっぱり運動が必要で、BDNFをガンガン出してボケない対策をしなければ、と実行しはじめています。
ちなみに私は運動することで頭が活発に働くBDNFの遺伝子タイプを持っていました。まさに運動部に入っていた学生時代は正解だったというわけです。
若いころ私は、北は青森から南は沖縄まで15都府県に出向き、「内視鏡一本さらしに巻いて」という感じで診療を続けた経験があります。どこかへ行ってくたくたになるまで仕事をしても、ストレスを感じることがなく、むしろおおいに楽しめました。
もしかしたら、学生時代に運動に打ち込んだことでBDNFが出まくり頭が冴えて、ストレスにも強い体質になっていたのかもしれません。
『最新の研究でわかった人生を支配する真実 すべて遺伝子のせいだった!?』(アスコム)
一石 英一郎 (著)
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2023年4月5日
1,397円
単行本: 248ページ
477621248X
9割の人が知らない こんな遺伝子があった!
ボケやすい遺伝子 金持ち遺伝子 浮気遺伝子 がん抑制遺伝子 ギャンブル遺伝子
まぶたのたるみ遺伝子 ビビリ遺伝子 誠実遺伝子 犯罪遺伝子 長生き遺伝子 忘れっぽい遺伝子 夜ふかし遺伝子 ドM遺伝子 ヘタレ遺伝子 肉離れ遺伝子 花粉症遺伝子
学習能力、性格、才能、恋愛、病気、依存症、犯罪…
「すべて遺伝子のせい」ってホント?「悪い遺伝子」のスイッチを切り「よい遺伝子」のスイッチを入れればあなたの人生は好転する!
遺伝子は「あなたの将来こうなるかもしれない可能性」の多くを決定している、と言えるでしょう。
だからといって、あなたの運命を遺伝子が100%決めていて、あなたはその運命から逃れられない、ということではありません。
本書では人生を左右する様々な遺伝子の紹介と、才能を引き出し、病気を防ぐ可能性がある、よい遺伝子を鍛える方法を解説しています。
その方法がわかれば、あなたは遺伝子が決めているかもしれない運命に、自ら立ち向かい、それを変えて、望ましい人生をめざすことができるでしょう。
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