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【記録的なサバ不漁で起きた“サバ缶ショック”】なぜサバ缶はツナ缶を超えて魚缶売上ナンバーワンになったのか?

集英社オンライン / 2023年8月30日 9時1分

サバの不漁が続き、2022年の主要漁港の水揚げ量が前年比で4割近く減っている。いっぽうで、今年2月には水産加工メーカーがサバ缶の出荷を一時停止する事態にまでなった。そもそも日本でのサバ缶ブームはなぜ起きたのか?『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

「サバ缶がダイエットにいい」

近年人気が高まった「サバ缶」を主な題材として、水産加工の世界について解説していきます。すっかり水産加工品の代表格ともいえる地位を築き上げたサバ缶。しかし、2000年代まではそれほど人気が高かったわけではありません。

まずは、サバ缶ブームがなぜ起きたかを探ってみたいと思います。


サバ缶

サバ缶ブームは、これまでに3度あったといわれています。それらは、一過性で起きた「点」の出来事というよりも、時代の変化と相まって、それぞれがつながって起こった「線」の出来事となっていることが特徴的です。

まず、第一次サバ缶ブームといわれる現象が起きたのは、2013年。テレビ番組で「サバ缶がダイエットにいい」と紹介されたことがきっかけです。人気が一気に高まり、一時期は売り場からサバ缶が消えるくらいにバカ売れする事態に至りました。

サバ缶サラダ

この第一次サバ缶ブームをマーケティング的に分析するなら、女性という新たな顧客層の心を掴んだことがポイントとなっています。

以前はどちらかというとお酒のおつまみとして、年配男性の食べ物だったサバ缶。それが報道により、「中性脂肪を減らす不飽和脂肪酸EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含むダイエット食」というイメージに変わりました。

そして、岩手缶詰の「サヴァ缶」に代表されるお洒落なサバ缶が誕生して定着し始めたのもこの頃。「サヴァ缶」が震災復興の中で開発されたように、様々な新しいサバ缶が地域おこしの活動とも連動して次々に発売されていったのです。

さらには、もっぱら和風だったサバ缶レシピにも変化が起こります。例えば、パスタの具材など洋風の食べ方も普及し、使われる場にも幅ができました。この結果、サバ缶ブームは一過性のものに終わらず、顧客の心を掴み続けることにつながっていったのです。

ツナ缶を超えて魚缶ナンバーワンに…

そして、第二次サバ缶ブームといわれるのが、2016年〜2018年の頃。

2016年には、サバ缶の生産量は3万7117トンと過去最高になり、ついにツナ缶を超えて魚缶ナンバーワンの地位を築き上げます。

そしてサバ缶人気が続く中、2018年には、ぐるなび総研が選ぶ「今年の一皿」に「鯖(さば)」が選ばれます。その選定理由には、サバ缶の利便性の高さや健康効果が謳われており、サバ缶ブームの象徴としても捉えられる出来事となりました。

さらに、サバ缶人気が続く中で訪れたのがコロナ禍です。これにより、第三次サバ缶ブームが2020年頃から起きることとなります。

コロナ禍の飲食店自粛による消費減により、様々な水産物が打撃を受ける中、サバ缶にとってはこれが追い風になりました。自宅での引きこもり需要が増えると、サバ缶人気はさらに上昇していきます。比較的安価で、調理も簡単なサバ缶。美味しくて健康な食事を様々なバリエーションで楽しめる素材として、その地位を固めていくこととなったのです。

サバサンド

このようにして人気を高めてきたサバ缶。その理由からは、消費者側から見た水産加工の意味合いも見て取ることができます。つまり、魚は加工をすることで、美味しく、栄養価が高く、手軽に食べられる最高の食材になるのです。

サバは缶詰にせずとも食べることができます。では、サバを缶詰にするのはなぜでしょうか。ここからは、サバ缶づくりについて考える中で、魚を加工する意味を探っていきましょう。

サバを缶詰にするメリット

① 保存できるようにする
缶詰は、非常食にもされるように保存期間が長いことが特徴です。サバは、足の早い魚として知られますが、生を冷蔵で保管をした場合、せいぜい持つのは日程。しかし、缶詰にすれば、少なくとも3年は保存が効きます。
サバ缶がなぜ長持ちするのかというと、缶の中で完全に密封して加熱殺菌するためです。菌がいない状態で外からも入り込むことがないため、長期間保存することができます。

② 流通しやすくする
生サバは、冷蔵しないと流通が難しいですが、缶詰にすれば常温でも流通させることができます。また、缶詰の形なら効率よく箱に詰め込むこともできます。
そして、生サバの場合は骨など捨てる部分も多くなりますが、缶詰にすれば中身のすべてが可食部になるため、流通が効率的になります。

③ 使いやすくする
生サバの場合、買ってから捌いたり、調理したりと、食べるまでに様々な工程を必要とし、手間が掛かります。これがサバ缶の場合だと、開封しさえすれば食べることが可能です。
さらには、調理をするにしても入れるだけのことがほとんどでしょう。例えば、私がよくつくる「サバ缶トマトパスタ」は、サバ缶をフライパンに開けてほぐし、トマト缶とケチャップを混ぜて加熱するだけでソースが出来上がり非常に簡単です。
生サバを缶詰に加工することで、簡単に調理できるようになり、利便性が高まります。

サバ缶トマトパスタ

④ 味を良くする
味付けされていない生サバを何もつけずそのまま食べても、あまり美味しいと感じる人はいないでしょう。対して、サバ缶はあらかじめ味付けがされています。また、サバ缶は製造工程の中で加熱されますが、加熱されることによる味の変化もあります。
もちろん味付けには良し悪しや個人の好みもありますが、生サバをそのまま食べるよりも食べやすい味になっていることがほとんどでしょう。

⑤ 機能性を上げる
サバ缶は製造工程の中で加熱されますが、それによりタンパク質が消化されやすくなります。脂質についても、体に良いとされる不飽和脂肪酸のEPAは、酸化しやすい性質があり、缶詰で密閉して酸素と結合しないようにすると、減らなくなります。
ここまでサバを缶詰にする意味を述べてきましたが、ほかの加工品の場合でも同じようなことが言えます。

缶詰以外の魚加工食品

少しだけ缶詰以外の加工品について、缶詰にない加工する意味をご紹介しましょう。

まず、干物は生魚と比べると、うま味が凝縮したり、発酵してうま味が増したりする意味合いもあります。蒲鉾を代表とする練り製品は、独特の食感を生み出したり、使いやすくて美しい形状にしたりする意味合いもあります。また、「ふぐの卵巣の糠漬け」のように解毒をする意味合いで加工をすることもあるでしょう。

このように魚は加工をすることで性質が変わるとともに、良いことがたくさん生じるのです。

文/ながさき一生

『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』(クロスメディア・パブリッシング)

ながさき一生

2023年4月14日

¥1,738

272ページ

ISBN:

978- 4-295408-192

オバマ元大統領も、レディー・ガガも、デビッド・ベッカムも…
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おさかなコーディネータが教える、ビジネスパーソンが知っておきたい「魚の教養」

食として魚の魅力をわかりやすく解説し、日本テレビ系ドラマ「ファーストペンギン!」の漁業監修も手がけた著者による、世界に誇るべき日本の魚文化について紹介します。

本書は、魚にまつわるビジネスから、寿司の歴史、市場で美味しく魚を食べる方法、培養魚肉の最新技術など、明日から使える豆知識を紹介する「魚の入門書」です。

・「大間マグロ」はなぜ高級なのか
・急拡大する鮮魚の直販ビジネス
・「サンマが食べられなくなる」は本当か
・「サバ缶ブーム」はなぜ起きたのか
・市場で食べるべき魚とは
・今後市場はいらなくなるのか
・繁盛している魚屋の特徴
・アラ汁があると店の魚は美味しくなる?
・培養魚肉で変わる天然/養殖の位置づけ
など、ビジネスとしてだけでなく、魚を食べる、楽しむためのコンテンツが詰まった1冊です。

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