滋賀出身・TMレボリューションの西川貴教が「故郷で錦を飾るのではなく、東京で故郷を自慢する」心で取り組む地方創生
集英社オンライン / 2023年8月30日 18時1分
初代・地方創生担当大臣で、現在はラーメン議連会長としても地方創生を活性化させようとしている衆議院議員の石破茂議員。石破氏が滋賀県を盛り上げるために奮闘する、同県出身のTMレボリューション・西川貴教氏と滋賀県の魅力について語る場面が収録された『「我がまち」からの地方創生』(平凡社)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
「故郷に錦を飾る」ではない価値観
ロック歌手の西川貴教さんは面白い人ですね。
ロック界のスーパースターなのに「地方創生」をテーマに活動されていて、武道館のコンサートでも政治家に扮する演出をされたり、BS Japanext でも故郷滋賀県を元気にするというテーマで「西川貴教のバーチャル知事」(毎週土曜日、二一時から全国放送)という番組を持っていたりします。私も先日、この番組にゲストでお招きいただき、出演してきました。
実際にお会いしてみると、スターなのに全くスターぶっていない、爽やかなイメージの方でした。
彼は滋賀県の野洲市の生まれということで、毎年開催しているロックフェスティバル「イナズマロック フェス」はお隣の草津市で開催しています。3日間で15万人も動員するコンサートだそうで、地元への経済効果も相当なものだと思います。
西川さんは生まれ育った滋賀県が本当に好きで、どの活動も「滋賀を良くしたい!」という純粋な熱意によるもの。フェスも開始当初の赤字はご自分で負担しておられたそうです。私が出演した番組でも、どうしたら滋賀県が良くなるか、人が集まってくるか、まちが活気づくか、大真面目に議論し、徹底的に事実を調べて、実践していました。
その姿勢を見ていると、いままで日本人の価値観に影響を与え続けた「故郷に錦を飾る」的ではないものを感じます。
「故郷に錦を飾る」というのは、よそ(だいたいは東京)で成功して、ふるさとで「どうだ、俺はすごいだろう」と自慢する、ということになるわけですね。でも西川さんの場合は、矢印の方向が逆なんです。言動の原点には必ず故郷があって、むしろふるさと自慢をよそでする、というイメージ。本当に故郷が好きだという気持ちが溢れている。だから地元の人たちも気持ちよく彼に引き込まれていく。
ああいう人を、私は好きですねぇ。地方創生にも素敵なプレイヤーが現れたものだと感心しています。
徹底的に下調べしていく
滋賀県といえば、今回の地方選挙の応援で大津、長浜、米原、近江八幡等、10市町村くらい回りました。
地方遊説のときは、その地域のことをできる限り調べていきます。人口や産業といったデータはもちろん、観光スポット、神社・仏閣、昔話や伝説、特産品やゆるキャラ、B級グルメなどなど、地元の人が「そんなのあるの? 知らなかった、へーっ」と呟くようなことまで調べていくのです。そうすると地元の人からは、「ここまで調べてくれたんだ」という共感を得られて、受け入れてもらうことができる。
東京からぽっとやってきて地元のことを何も知らないのに「いいところですね」なんて言っても、誰も投票なんかしてくれません。地方創生も同じです。東京からやってきて上から目線で「このさびれたまちを俺たちがなんとかしましょう」なんて態度では、地域の人が受け入れてくれるわけがありません。
その地域の良さに気づき、理解し、掘り起こし、それを最大限に生かす方法を考えて、こんなに素敵なものがあるんだからもっと全国にPRしましょう、売っていきましょう、「一緒にやりましょう」という姿勢が大切だと思っています。
今回の遊説では、近江八幡市が印象的でした。
人口は約8万人。名物といえば老舗のお菓子屋さんがあったりしますが、全く違う歴史的事実に、私の目は釘付けになったのです。
このときのことを、私は「石破茂ブログ」にこう書きました。
「(近江八幡市では)江戸時代に日本を訪れた朝鮮通信使を徳川政権がどれほど厚く接遇したかの記録に接し、深い感慨を覚えたことでした」
「今も昔も朝鮮半島との関係は我が国の命運を左右するものであり、徳川家康の深い洞察に学ぶべき点は多いように思います」
近江八幡に残されている朝鮮通信使を歓待したエピソードは、江戸時代の日本がいかに隣国を大切にしていたか、リスペクトしていたか、という証です。これに感動した私は、関係者のみなさんにこう呼びかけました。
―—この近江八幡に残された日韓の歴史をもっと両国にPRして、近江八幡から新しい日韓関係を築いていきましょう!
ところがここでも周囲からの反応は「へーっ」、「ふーん」というものばかり。そんなものが地域活性化の鉱脈になるの? と、みなさん半信半疑なのです。
こういう反応がもどかしいところです。地元の人にとっては当たり前のこと、既知のことでも、よそ者にとっては興味深いものであり、外交的には非常に価値のある歴史です。
そういうところを逃さずにPRして、まちのブランドに繫げるセンス。これが求められているのです。
歴史マニアにはたまらない滋賀県
これにとどまらず、滋賀県には歴史好き、美術好きにはたまらない魅力があります。
まずは国宝や重要文化財の数。西川さんの番組でも語りましたが、1位の東京都、2位の京都府、3位の奈良県に次いで、なんと全国で4番目です。
次に、戦国時代の人気大名、石田三成や明智光秀、柴田勝家、浅井長政といった有名どころの居城跡が滋賀県エリア一帯にたくさんあること。こういう人気大名にはそれぞれの固定ファンがいますから、「この角度から石田三成が琵琶湖を眺めた」とか、「明智光秀がこの道を通った」といったエピソードが県内至るところに残っているというだけで、「滋賀県に行ってみたい」と思うはずです。
そして美術。神社・仏閣の数が多いだけあって、平安から江戸まで、あらゆる時代の書画・仏像などがあちこちに所蔵されています。
なのに修学旅行というと、私たちのような西日本の子どもたちは大阪・京都・奈良まで行って、そこでおしまい。関東の子どもたちも滋賀を通り越して、結局、京都・奈良・大阪に行ってしまう。それはすごくもったいないことだと思います。
滋賀県に住むみなさんが、もっと自分の地域の歴史や美術を発掘し、情報発信すれば、人を呼び込むことに直結できる。そんな地域は全国でもそう多くはありません。ぜひ、この方面に着目した観光振興も考えてほしいと、私は思います。
地方を見つめだしたきっかけは
地方に関してこのようなよもやま話をしていたら、『「我がまち」からの地方創生』の共著者の神山典士氏から、
「そんなふうに地方を優しい目で見るようになったのはいつからでしたか?」
という質問を受けました。
改めて考えてみると、全国各地を足繁く回るようになったのは、2008年の麻生内閣で農林水産大臣を拝命したときからだと思います。それぞれの地方を訪ねて農業・林業・水産・漁業者たちと膝を交えて話し合いをすることで、大臣として正確なニーズがつかめたと思います。そのためにはその地域のことを知らないと話すら聞いてもらえない。だから一生懸命に地方を回って勉強しました。
それ以前に防衛大臣を務めていたときは、地方とのお付き合いはどうしても基地や駐屯地の所在地に限られ、それほど密ではありませんでした。
その後、自民党が下野して野党になったときには、政務調査会長になりました。このころは自民党と言うだけで石が飛んでくるようなありさまで、政権に戻るなど夢のまた夢、といった雰囲気でした。国民に見放された自民党をもう一度好きになっていただかないといけない、そのためにはまずこちらがうかがわなければ、ということで、足繁く地方を回るようになりました。そういう積み重ねから、2015年に初代の地方創生担当大臣を拝命し、今日の活動に繫がっていると思っています。
最近では、地方創生の一石になればと始めた「ラーメン文化振興議員連盟」の会長を務めていることもあり、地方に講演や選挙応援などで伺うときは、必ずご当地ラーメンや近くのラーメン屋さんの名前を出すようにしています。
ご当地ラーメンや近所のラーメン屋さんの特徴、味、値段等々を盛り込んだ話をすると、地元のみなさんはとても喜んでくれます。やはりラーメンは庶民的だし、ご当地度が高いからでしょうか。地元のみなさんにとっても愛着があるのでしょう。ラーメンの味一つとっても、地方には驚くほどの多様性があって面白いし魅力的だなと思います。
大きな課題は、地方に蔓延している「もういいや」、「そんなことやってもどうせ」という諦め感をどう払拭するか。あと一歩、どうやって地方創生のムーブメントを前に進めるか。全国各地のお国自慢を、どう広めていくか。
もう一押しの工夫とアイデアを、これからも考えていきたいと思っています。
文/石破茂
『「我がまち」からの地方創生』(平凡社)
石破茂 神山典士
2023年8月16日
¥1,012
200ページ
978-4-582-86035-1
コロナ禍以降、東京二三区(特別区)で転出超過となるなど、急速に地方分散へと動き始めている日本社会。
こうした東京一極集中から地方分散型社会へと向かう流れの中で、「自分たちがつくる未来」への意識を止めないために、シニア世代、女性、ロック歌手、元プロ野球選手など、さまざまな来歴を持つプレイヤーの活躍を通して、地方創生の本質・真髄とは何かを改めて問う。
全国各地の「希望の点」を「線」や「面」へと広げるために、初代地方創生大臣・石破茂が語る!
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