2位は『武田信玄』1位は…朴槿恵(パク・クネ)元大統領も愛読した、人材活用を学べる歴史小説ベスト5〈今村将吾が厳選〉
集英社オンライン / 2023年9月2日 10時1分
直木賞作家・今村翔吾氏による初のビジネス書『教養としての歴史小説』。数百年の歴史の記録を読み込むことは、経営の見識を深めることに役立つという。本記事では、経営術においては特に重要な人材活用を学ぶためにうってつけの小説5選を紹介する。
歴史小説の知識が経営に活きる
ひと昔前まで日本では社会人男性の多くが歴史小説を熱心に読んでいました。これは、経営に応用できる知識が詰まっていたからに他なりません。
私たちの人生はせいぜい80〜90年。会社経営の期間でいうと、20代前半で起業したとしても最大でも50年程度しかありません。一方、歴史の偉人たちの記録は何百、何千年にわたって積み重ねられているので、膨大なサンプルデータを参照できます。
最近のビジネスパーソンは、時短やタイムハックを意識する人が多いようですが、歴史に学ぶことこそ究極の時短術です。本来数百年かけて経験から学ばなければならない知識を、たった2〜3か月くらいで学ぶことができるのですから。
私は大阪の箕面市というところで「きのしたブックセンター」という書店を経営しています。きっかけは企業のM&A(合併・買収)に携わる知人から「箕面に潰れそうな書店がある。引き継いでくれる人を探しているんだけど、やってみないか?」と声をかけられたことでした。
当然ながら、全国的に書店の売り上げが減少している事実も、書店がない自治体が増えている現状も知らなかったわけではありません。素人目にも書店経営は厳しそうでもあります。
ただ、書店は私の人生を変えてくれた大切な場所ですし、地域の人たちにとっては重要なインフラです。業界に恩返しをしたいという想いも手伝い、事業承継を決断しました。
書店経営を引き継いだ当時、正直にいうと店内の空気がどんよりしていると感じました。商品が少なくて見た目が寂しかったのもありますが、働く人たちの生気のなさが気になったのです。
それまでの店は、儲からないから給料も上げられないし人も雇えない、社員の負担が大きいから生産性も上がらない、仕入れもままならない、という負のループに陥っていました。
そこで、私はまず人を増やして1人あたりの負担を軽減し、半期ほど経過を見た上で給料を上げました。すると、社員の仕事にとり組む姿勢が、少しずつ変わってきたのです。
クリスマスの時期、店長がどこからかクリスマスツリーを持ってきて、店内で飾りつけをしていました。
「これ、どうしたん?」
聞くと、店長は休日にプライベートでリサイクルショップに行き、たまたま見つけた中古のツリーを買ってきたといいます。
「じゃあ、ちゃんと経費精算してね」
「いえ、いいですよ。自分が勝手に買ってきた安物ですから、ポケットマネーでいいです」
もちろん後で経費処理をしてもらったのですが、ポケットマネーで店を良くしたいという店長の気持ちが胸に響きました。
そのころから、店がこれまでと違う方向に動き出したように思います。
本当に些細なことかもしれないですが、組織というのは小さな歯車が嚙み合うことで明るく前向きになっていくものです。
クリスマスツリーだけでなく、七夕にも地域の子どもたちを集めて短冊を飾るなど、店に活気が戻ってきました。
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武田信玄イラスト shutterstock
それを見ながら武田信玄の名言を思い出しました。
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、あだは敵なり」
戦において重要なのは人であり、すべては人のやる気を引き出せるかどうかで決まります。戦国武将でいえば秀吉は人を褒めるのが上手でしたし、家康も有能な部下に恵まれました。
経営も同じであり、〝人材活用〞こそ歴史から得られる最大の学びだと再認識したのです。そこで次ページに今村翔吾選による「人材活用術を学ぶための歴史小説ベスト5」を紹介しましょう。
1『徳川家康』(山岡荘八著)
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徳川家康の生涯を綿密に描いたロングセラー作品。韓国では「大望」というタイトルで翻訳され、ベストセラーとなっています。日本よりも処世術を学ぶ書として政財界で広く読まれていたようで、韓国の朴槿恵(パク・クネ)元大統領も愛読していたといわれています。
2『武田信玄』(新田次郎著)
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『風の巻』『林の巻』『火の巻』『山の巻』と4巻にわたって、武田信玄の一生を追っています。信玄がどのようにして部下を掌握していったかを知る上では非常によい本だと思います。新田次郎は信玄にも縁が深い長野県諏訪の出身であり、この作品に強い思い入れがあったようです。
3『雄気堂々』(城山三郎著)
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「近代日本資本主義の父」と評される渋沢栄一が主人公の小説です。城山三郎は「経済小説」という分野を開拓した第一人者であり、経済人の生涯を学ぶ上でおすすめの作品がたくさんあります。名古屋出身の経済人たちを描いた『創意に生きる中京財界史』なども一読をおすすめします。
4『世に棲む日日』(司馬遼太郎著)
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幕末の長州藩を描いた長編小説。前半では松下村塾で維新の志士たちを育てた吉田松陰の青春時代を描き、後半では門下生であり奇兵隊を結成した高杉晋作の活躍を追っています。人材教育という意味では、いかに情熱を持って人を育てるかを学びとることができる作品です。
5『塞王の楯』(今村翔吾著)
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/08/23065536261456/0/saiou.jpg)
手前味噌で恐縮ですが、合戦を支えた裏方にスポットを当てた作品であることを多方面から評価していただいています。私自身も「裏方を描く」という点を強く意識した作品ですし、職人たちの仕事ぶりや人材活用についても丹念に描きました。
文/今村翔吾
写真/すべてshutterstock
教養としての歴史小説(ダイヤモンド社)
今村 翔吾
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/08/23065852821041/0/51GK0E-Po9L._SX344_BO1204203200_.jpg)
2023年8月30日発売
¥1,760
282ページ
978-4478118528
【著者累計180万部突破】
ビジネスパーソン必読の書
直木賞作家が本気で教える仕事と人生に効く歴史小説
学校では絶対に教えてくれない歴史の学び方
教養を高める最も有力な手段は、歴史を学ぶこと。なにしろ歴史には、これまでの人類の営みが凝縮されているのだ。
政治も経済も芸術も宗教も、すべて歴史を通じて参照できる。一方で、歴史というと、なんとなく、とっつきにくい印象を抱く人が多いのも事実。
そんな人は、ほとんどの場合、年号や歴史上の人物を暗記させるような学校の授業が、「つまらない」と感じて離脱している。
しかし、好きな「時代」や「人物」から興味を広げていけば、確実に歴史を好きになれる。そして、その導入として最適なのが「歴史小説」なのだ。
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