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「すでにお金持ちでありながら、これ以上お金を増やすことか歴史に名を残すことなら、どうして後者を選ばないのか」直木賞作家・今村翔吾が現代の政治家に思うこと

集英社オンライン / 2023年9月2日 10時1分

直木賞作家・今村翔吾氏による初のビジネス書『教養としての歴史小説』。本記事では、日本を追い詰めつつある現代の政治家たちと、戦前の政治家との根本的な違いについて今村氏が論じた章から一部抜粋・再構成して紹介する。

ピンチに発動してきた日本の免疫力

テレビに出演すると、日本の政治についてコメントを求められる機会がたびたびあります。

正直なところ政治については門外漢ですし、日本の政治家の頑張りが足りないなどと偉そうに語るつもりもありません。ただ、昔と今で政治家の質が大きく変わっているのは感じています。

決定的な違いは、腹の括り方にあります。

明治から戦前の時代までは、現代と比べて暗殺事件の発生件数も多く、政治家にはいつ死んでもおかしくないという緊張感がありました。緊張感を抱きつつ、たとえ非難をされようが、国民を生かすためにすべきことをやり抜いていました。



大久保利通は、初代の内務卿(現代でいうと総理大臣)でしたが、公共事業に私費を投じ、多額の借金を作っていたという逸話があります。しかも、債権者たちは大久保の借金の使い道を知っていたので、死後は遺族に対して返済を求めなかったといいます。

今も国民のために仕事をしている人がいるとは思いますが、戦後から大きく政治のあり方が変わり、政治とカネのような問題が頻出するようになったのは事実でしょう。

私が現役の政治家にぶつけたいのは、「それ以上お金を得てどうするつもりなのか」という疑問です。今の政治家は、国民の平均所得と比較すれば多額の給与にあたる歳費以外に、月100万円も支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)などの経費も支給されています。しかも、民間ではあたり前の「領収書」は不要ですし、「残金の返却も不要」というルールになっています。

すでにお金持ちでありながら、これ以上お金を増やすことと歴史に名を残すことのどちらを目指しているのか、どうして後者に興味を持たないのかと思うのです。

今後、本当に明治の元勲と同じくらいの覚悟で政治に取り組む人が出てきたら、日本の政治は大きく変わっていくはずです。それを期待する反面、もはや無理なのではと冷静に捉えている自分もいます。

ただ、一つだけ希望があるとすれば、これまで日本がピンチに陥ったときには、救世主となる人材がいきなり登場してきたということです。

日本を一体の生き物だとすれば、これまで本当に生存本能が脅かされたときには、特別な免疫機能を発揮して病巣や傷を治療して回復させるような現象が何度となく起きているのです。

そういう特別な免疫力が日本に残っていたら、という希望は持っています。今の日本に免疫力が働いているようには見えませんが、もしかすると日本はまだ本気で追い詰められていないのかもしれません。

歴史を踏まえて日本の教育を考える

今、日本では教師不足と教師の過重労働が大きな問題となっています。文部科学省の「令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、精神疾患で休職した教師の数は5897人で、過去最多となっています。

教師の長時間労働の原因はさまざまですが、公立学校の教員に残業代を支払われないと定めた法律や休日の部活動などにより、〝定額働かせ放題〞の状況が野放しになっている現状が問題視されています。

日本はもともと教育大国であり、待遇が良くなくてもやりがいを求めて教師を目指す若者がたくさんいました。しかし、過酷な勤務実態はなかなか改善されず、今や若者が教師になりたいと思えないような国になっています。

歴史を見れば、教育に力を入れない国は確実に衰退しています。どうにかして日本の教育を復興させる必要があります。

そこでヒントとなるのが私塾の存在です。日本には近世から近代初期にかけて、私塾が教育の一端を支えていました。

私塾とは江戸時代に儒学者・国学者・洋学者などの民間の学者が開設した私設の教育機関。武芸や技芸を教える塾もあり、身分にかかわらず自由な教育が施されていました。

江戸前期には中江藤樹の藤樹書院、伊藤仁斎の古義堂、中期には荻生徂徠の蘐園塾など儒学の教育が主流でしたが、中期になると本居宣長の鈴屋のような国学の塾が現れます。

そして、後期にはシーボルトの鳴滝塾、緒方洪庵の適塾に代表される洋学塾が見られるようになり、幕末には吉田松陰の松下村塾のように政治的な教育を行う塾も登場しています。

現代では「塾」というと受験のための学習塾のイメージが強いですが、これだけ多様性がうたわれているのですから、もっといろいろな塾があってもいいと思います。

昨今は会社の定年を迎えた人が、大学で学び直すケースも増えていると聞きます。勉強熱心なのは素晴らしいですが、社会で何かをやり遂げた人が教える側に回ることも必要ではないでしょうか。

シニア世代には「私たちの知識はもう通用しない」という遠慮もあるでしょうが、本の読み方や問題解決の仕方など、若者に受け継ぐべき知的資産は少なくないはず。

歴史小説には、前述した『世に棲む日日』のように、私塾をとり上げた作品も多数あります。過去の教育法をヒントに、日本の教育を立て直す動きが盛り上がればと期待しています。

文/今村翔吾
写真/すべてshutterstock

教養としての歴史小説(ダイヤモンド社)

今村 翔吾

2023年8月30日発売

¥1,760

282ページ

ISBN:

978-4478118528

【著者累計180万部突破】
ビジネスパーソン必読の書

直木賞作家が本気で教える仕事と人生に効く歴史小説

学校では絶対に教えてくれない歴史の学び方

教養を高める最も有力な手段は、歴史を学ぶこと。なにしろ歴史には、これまでの人類の営みが凝縮されているのだ。
政治も経済も芸術も宗教も、すべて歴史を通じて参照できる。一方で、歴史というと、なんとなく、とっつきにくい印象を抱く人が多いのも事実。

そんな人は、ほとんどの場合、年号や歴史上の人物を暗記させるような学校の授業が、「つまらない」と感じて離脱している。

しかし、好きな「時代」や「人物」から興味を広げていけば、確実に歴史を好きになれる。そして、その導入として最適なのが「歴史小説」なのだ。

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