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ドラマ『最愛』がオフィシャルツアーを開催! テレビドラマは好感度から熱狂度を求められる時代へ

集英社オンライン / 2022年5月20日 17時1分

2021年10月から放送された金曜ドラマ『最愛』(TBS系)がオフィシャルツアーを開催する。ドラマが公式に“聖地巡礼”ツアーを企画するのは極めて異例。だがこの試みにこそ、可処分時間の激しい奪い合いが繰り広げられるエンタメ分野で、テレビドラマが勝ち残る秘訣が隠されていた。

今、テレビドラマは好感度から熱狂度へ

“ファンベース”という言葉をご存じだろうか。“ファンベース”とは、文字通りブランドを愛するファンを増やし、ファンを基盤に経営やマーケティングを行う手法のこと。今やビジネスのみならず、エンタメの世界でもこの“ファンベース”という考え方が根付きはじめている。

その最たるは、演劇やアイドル、ミュージシャンといったジャンルだろう。いずれも“現場”を主体としたビジネスモデルだ。1枚5000円なり1万円なりのチケットを買い、劇場やライブ会場に足を運び、グッズなどの物販で売り上げを積む。こうした課金型のビジネスモデルの場合、重視されるのはどれだけお金を使ってくれるファンがいるか。極端な話、100万人のフォロワーがいるものの実際に課金してくれるコア層は100人だけという人よりも、フォロワーは1万人しかいなくてもそのうちの1000人は必ずお金を落としてくれるという人の方が強い。だからこそ、熱烈なファンを増やし、継続的に応援してもらうために、手厚いサービスを提供するのだ。



長らくその対極の位置にいたのがテレビだ。対象となる分母が桁違いに多いテレビでは、少数精鋭のファンを獲得するよりも、いかに嫌われないかが重要。「熱狂度」よりも「好感度」が物を言う世界だった。

しかし、テレビ離れが進む昨今、テレビもそのあり方を変えざるを得なくなりつつある。視聴率という単一の指標だけでなく、TwitterトレンドやTVerの再生回数、Blu-ray&DVDの売り上げなど、多様な視点からコンテンツの価値が測られるようになった。それには、ネット上で活発に活動し、時には惜しまず身銭を切るコアファンの後押しが不可欠。だからこそ、テレビドラマでも“ファンベース”が重視されるようになったのだ。

そんな“ファンベース”シフトを決定づけるようなニュースが先日発表された。それが、2021年10月期に放送されたテレビドラマ『最愛』のオフィシャルツアー開催だ。

内容は、ドラマの舞台となった富山・岐阜(白川郷)のロケ地を巡る2日間のバスツアー。いわゆる“聖地巡礼”である。“聖地巡礼”自体は熱心なファンたちにとってはおなじみだが、テレビドラマが公式で開催するのは異例のこと。主演の吉高由里子が発表時に「ねぇ! やりすぎ!!笑笑 ちょっと?笑 もしもし?笑 終わってからもうワンクールは経ってるよ?」(一部抜粋)と茶目っ気たっぷりにつぶやいたが、このコメントこそが企画の画期性を物語っている。

©TBSスパークル/TBS

そもそも『最愛』自体が非凡なドラマだった。平均視聴率は8.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と平凡だが、その熱狂度は同クールでも別格。放送中は毎週SNSを賑わせ、TVerの視聴回数は2280万回を記録、同サービス歴代1位という金字塔を打ち立てた。放送前後に盛んにTwitter上で発信し、TVerをガンガンまわす能動的なコアファンの存在がオフィシャルバスツアーという異例の企画につながったのだ。

“ファンベース”に立ちはだかる慣習

こうした公式主導のファン参加型企画が、これからのテレビドラマのトレンドとなっていきそうだ。すでに今でも放送前後のインスタライブなど、リアルタイム視聴を促すための施策はある。

また、放送期間の長い朝ドラや大河ドラマでは10年以上前から放送中のプッシュ施策としてファンミーティングが行われてきた。今後はこれらに加え、今回の『最愛』のバスツアーのような放送終了後も末永くファンに愛してもらうための取り組みが盛んになってくるのではと見ている。

ただ、それらを実現していくには、日本の芸能界の慣習そのものを変革していかなければならない。

と言うのも、日本の芸能界では終了したコンテンツに対してコストやマンパワーをかける意識自体が希薄だ。いわゆる前パブ(放送・公開前の宣伝のこと)には力を入れるが、後パブ(放送・公開後の宣伝のこと)にはほとんど手が回らない。そのため俳優個人がファンミーティングを行うことはあっても、放送終了後にドラマ単位でファンミーティングが開かれるケースは極めて少ない。

ファンミーティングが開催されたドラマ『コンフィデンスマンJP』

その数少ない事例として、『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS系)や『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)があるが、いずれも映画のプロモーションを兼ねたもので、これもまた前パブの一環と言える。

なぜ後パブが流行らないのか。それは、マネタイズという点から見て旨味が薄いからだろう。何より日本の芸能界は特定の役のイメージがつくことをあまり良しとしない。ヒット作に出て当たり役を掴み、ファンが増えることは喜ばしいが、いつまでもその役のイメージで語られると、今後のキャリアを狭めることになりかねない。そのリスクを回避するためにも、コンテンツが終了すれば、できるだけ早くイメージを塗り替えようと次の戦略を打つ。そうした俳優事務所サイドの方針を鑑みると、現状のままではファンミーティングをはじめとした後パブとの相性は水と油だ。

BLドラマが先鞭をつけた“ファンベース”戦略

だが、数少ない先行事例から考えても、“ファンベース”戦略の波は確実にやってくると予測する。では、日本のドラマで“ファンベース”が定着するには何が必要なのか。その鍵は2つある。

1つめの鍵は、近年のBLドラマの成功だ。日本ではドラマ単位のファンミーティングは少ないと先述したが、その少数の事例がBLドラマである。昨年、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系、以下『チェリまほ』)がBlu-ray発売を記念し、購入者限定のオンラインイベントを開催。

2021年11月18日(木)よりMBSドラマ特区にて放送された『美しい彼』

今年の5月17日には『美しい彼』がDVD・Blu-ray BOX購入者を対象とした200名限定のイベントを行った(同イベントはオンラインでも実施)。さらに海外に目を移すと、タイの人気BLドラマ『2gether』が出演者による『2gether Live On Stage』というファンミーティングを決行。これは出演者たちが歌って踊るコンサート形式のもので、全世界に向けてオンライン配信された。

熱烈なファンがつきやすいBLドラマは“ファンベース”と相性が良く、ブレイク俳優の宝庫ともなっている。作品にとっても演者にとってもwin-winで、かつビジネスとしての成功も見込めるため、ファンミーティングなどが成立しやすい土壌ができているのだ。

固定のイメージがつくことは確かにデメリットもあるが、出演者がいつまでもその作品や役を愛し、折にふれて語ってくれることは、ファンにとっては無上の喜び。顧客ロイヤリティを高める有効な手立てにもなる。

実際、『チェリまほ』も『美しい彼』も深夜ドラマから劇場版公開という道を切り開いた。強いファンダムの構築が、続編や映画化といった新たなキャッシュポイントの創出につながるのだ。BLドラマが築いたこの成功事例を他ドラマに横展開することは十分に可能だろう。

2022年4月より映画版も公開されている『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)©豊田悠/SQUARE ENIX・「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」製作委員会

“ファンベース”戦略の先頭を走る『最愛』の新井順子

そして2つめの鍵が、プロデューサーの存在だ。いかに“ファンベース”を意識し、作品だけでなく、その周辺の企画にもコストとパワーを投じていくか。その采配は、プロデューサーが担っている。

『最愛』のプロデューサーである新井順子は、ドラマ界における“ファンベース”戦略の先駆者と言っていいだろう。『最愛』に限らず、2020年に放送された『MIU404』でも劇中に登場したメロンパン号が全国をめぐる「メロンパン号キャラバン」を開催。驚くことに放送終了から2年が経とうとしている今もこの企画は続いており、このゴールデンウィークもメロンパン号は愛知県蟹江町、群馬県太田市、栃木県宇都宮市に登場した。

また、同じくプロデュースを手がけた『着飾る恋には理由があって』でも「FujiBal号Caravan」を決行。この試みは同局の他ドラマでも取り入れられ、2021年のヒットドラマである『TOKYO MER』もERカーを全国に走らせている。

他にも『MIU404』、『着飾る恋には理由があって』、さらに『中学聖日記』で公式ガイドブックを発売し、『MIU404』に関しては3度にわたって重版されるヒットを記録した。新井は初期のプロデュース作品である『ぶっせん』でもオフィシャルブックを販売するなど、かなり早い時期から“ファンベース”を意識した動きを実践してきた。『最愛』のオフィシャルツアーもドラマ界から見ると異例だが、新井にとっては自然な流れだったのかもしれない。

実際、新井の作品は『アンナチュラル』や『Nのために』など今も愛され続けている作品が多い。それは、質の高い作品づくりはもちろんのこと、彼女の中に一過性の人気ではなく、人の心に長く残り続ける作品をという意識があったからに思えてならない。結果、裏方ながら新井につくファンも多く、まさに“ファンベース”を体現しているプロデューサーの筆頭格だ。彼女のようなプロデューサーが増えると、日本のドラマも大きく“ファンベース”に向けて舵を切っていくだろう。

2022年10月より放送開始の火曜ドラマ『君の花になる』(TBS系)©TBS

“ファンベース”戦略を加速させる動きは他にも見られる。それが、今年10月から放送を予定しているTBS火曜ドラマ『君の花になる』だ。同作は7人組ボーイズグループとその寮母による芸能界サクセスストーリーであり、実際にそのボーイズグループをデビューさせるだけでなく、7人のオーディションからドラマ放送までの1年を追った密着&応援コンテンツをYouTubeとParaviで配信していくことが発表されている。まさに放送前からファンと強い結びつきをつくる“ファンベース”戦略の典型であり、このドラマの成否がこれからのドラマとファンとのリレーション形成を変える可能性を秘めている。

今や「ながら見」「倍速視聴」が当たり前となっている映像コンテンツ。単に観てもらうだけではブームは起こせない。ただ受動的に観ているものから、思わず視聴者が推したくなる関係性をどれだけ築いていけるか。今、日本のドラマ界は分水嶺(ぶんすいれい)に立っている。

文/横川良明

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