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「オレオレは日をまたぐとダメなんです。本チャンの息子に電話する可能性があるでしょ?」詐欺電話の実態を知る半グレの証言

集英社オンライン / 2023年9月2日 19時1分

2023年1月19日、東京都狛江市に住む90歳の女性が自宅で殺害されているのが見つかった。本件をきっかけに注目を集めたのが、「闇バイト」といわれる犯罪だ。本記事ではオレオレ詐欺に実際に関わっていた“半グレ”の証言をもとに、詐欺電話の実態に迫る。

#1

詐欺電話をかける「ハコ」や「ルーム」の実態

首都圏を中心に全国各地で発生した広域連続強盗事件では、フィリピンにかけ子が詰める部屋(彼らはこれを「ハコ」と呼んでいた)が存在し、首謀者らの監視の下で、日本国内に電話をしていました。

首謀者は、かけ子を競わせて、成果を上げるように叱咤激励していたようです。このハコは、フィリピン国内にあったため、報道からは、さほど窮屈さや制約は感じませんでしたが、国内のハコ(一般にはルームと言われる)は、かなり行動に制約を受けるようです。ルームを知る地方の半グレによる証言を紹介します。



裏の仕事については詳しく言えませんけど、オレオレ詐欺では知り合いに声を掛けられて関東に上がったこともあります。でも一週間ぐらいしかいなかった。ルーム(拠点)を抜けるのがすごく大変でしたけど、「(別の)人間を手配する」と噓を言って、どうにか抜けました。

その時のやり方は――電話をかける場所、つまり、マンションの一室が「ルーム」と呼ばれてて、ここはタコ部屋。かけ子はこの部屋から出ることができないようになってます。外出禁止。外に出れば職質に遭う可能性があるし、他の半グレと会う可能性がある。オレオレやっている人は県外から来てる人が多いから、その筋の人間が見たら分かる。たとえば、怒羅権のメンバーなんかと会うと、そりゃ厄介なことになりますからね。

ルームから出るのは、せいぜいコンビニに行く時くらいで、朝の八時から夕方五時までが仕事です。

朝になるとこのルームを仕切っている(関東の)半グレが、名簿を持ってくる。そこに書かれた番号にひたすら架電するだけ。架電する場所はみんなが同じ部屋じゃなくて、一人はリビングで、別の人は居間でという具合で、それぞれ離して配置しています。

その時のルームには3人いましたね。30代くらいのが2人と、40代の古参が1人。この古参だけは、時間になると、どこか知らんけど帰宅していた。

各部屋は壁で仕切られてて、みんな黙々と仕事しているから異様な感じですよ。

稼げる奴と会ったことがありますが、顔が違う気がしますね。(その人は)1クールあたり300万〜400万円。普通、平均は100万〜200万円といったところですから。500万円をシノイだかけ子は20%だから100万円の報酬ですが、ある時そのカネをもらっているところを目の前で見ました。

でもルームに軟禁状態だからカネをもらってもすぐには使えない。それにオレオレでは、2ヵ月くらい何もない(成功しない)なんていうことはザラですからね。

だいたい2ヵ月から3ヵ月したらルームを移動します。大体は別の県に場所を変える。この時は引っ越しがあるので、少しは自由な時間ができる感じです。

8時始業、17時終業というのにはわけがあって、銀行が開いている時間がメイン、午前中が勝負なんです。だって午前中にアポまで行かないと銀行の出金が間に合わない。

そうはいっても、銀行でメクれる(オレオレ詐欺がバレる)こともあります。電話口で、急に母親(被害者)が強気になることがあるんだけど、これは、銀行員に察知された証拠ですわ。

午後の仕事は、翌日の布石。オレオレは日をまたぐとダメなんです。本チャンの息子に電話する可能性があるでしょ? だから、午後は電話して様子を探るだけ。「お母さん、元気にしてる?いま、仕事が忙しいから、なかなか顔を見に行けないけど、来週ぐらいには一度帰るね」とか。これへの反応がよければ(すんなり乗ってくれば)、翌日にオレオレを実行するわけです。

テレグラムによる実行犯への指示

ルフィやキムを名乗る首謀者による広域連続強盗事件で有名になったのがテレグラムです。これは、送信者が設定した一定時間が経過すると、メッセージが消失して証拠が残らないことから、犯罪を行なう際の通信手段として、重宝されています。

ちなみに、テレグラムやシグナルのアカウントは、SIMカードがないと作れません。しかし、そこは悪いことをする人たちも心得たもので、秋葉原に行けば海外の旅行者向けにSIMが売っているから、それを悪用するとのこと(5Gで5000円など)。「旅行者に1枚あたり1000円の手数料を付けて(来日旅行者に)買ってもらう。10枚買ったら1万円です。旅行者にはいいアルバイトになります。プリペイドSIMには電話番号が付いていませんが、これは、電話番号付きなので便利です」と、元半グレの幹部に聞きました。

首都圏で活動する指定暴力団の幹部が、「FRIDAY」の取材に対して、次のように答えています。

「テレグラムはスマートフォン(スマホ)にアプリをダウンロードすることで簡単に利用を始められる。利用者同士のお互いの通信内容が暗号化されるほか、『1日』『5時間』などと消去時間を設定することでメッセージが自動的に削除されることが可能となっている。このため、振り込め詐欺などの特殊詐欺グループや覚醒剤などの違法薬物の売買など行っている犯罪組織で使われることが多く、捜査の障壁となっている」(「FRIDAYデジタル」2023年2月25日)。

この幹部の言によると、テレグラムはもともと特殊詐欺や覚せい剤の売人などが、足が付かないために用いていたツールだといいます。

「特殊詐欺やシャブ(覚醒剤)の密売などを行っている者たちが、かなり以前からテレグラムを使っていたことは良く知られていた。ヤクザだからといって密売グループなどのように、自分たちも日常的に、毎日のように違法なことを行っている訳ではないが、警察への対策でテレグラムを使っている。通常の音声通話やメール、LINEなどを使っていれば、やろうと思えば警察はすべての通信内容を把握することができるはずだ。だから重要なシノギ(資金獲得活動)の話では当然だし、その他の日常的な連絡事項でもテレグラムを使う。もちろん文字のメッセージは時間設定して自動的に消去している」(同前)

暴力団では、警察の通信傍受を警戒して、テレグラムでやり取りしているわけです。

「警察当局の捜査幹部は、『消去されたパソコンのデータやスマホの通信履歴などは、デジタル・フォレンジック(電子鑑識)という技術で通信内容を復元し、これまでさまざまな事件捜査に役立ててきたが、テレグラムの場合は非常に難しい』と話す。ただ、テレグラムのメッセージは未読の状態にしておくとそのまま履歴や痕跡が残る仕組みになっている。前出の捜査幹部は、『全国各地で発生してきた強盗事件で、これまで数十人に上るかなりな人数の実行犯を逮捕している。スマホの指示内容を既読にする前に実行犯を逮捕した場合には押さえたスマホにメッセージが残っている』という」(同前)。

今後の匿名犯罪の潮流を変える可能性

さらに、犯罪者にとって安全性が高く、証拠が残らないとされるテレグラムですが、万全ではないようです。JNNの2023年2月2日のニュースには、次のような証言があり、テレグラムのメッセージを警察が解析したと言います。

「(携帯電話を)警察で押収して解析を行なう。(指示役は)サーバにはデータが残らないと話していたが、実際にやりようはいくらでもあるらしく、調書を取る際に私の携帯電話のデータを復元した画像を見せられ、『こういうやりとりをしたんだね』」と。

筆者も実際にテレグラムを使用していた元暴力団に話を聞いてみましたが、そこは裏社会の人間がやることですから、テレグラムの内容を残す工夫をしていたようです。

「私も昔はテレグラムやシグナルを使ったことはあります。確かに、一定時間経過したら自然にメッセージは消去されますし、スクリーンショットを撮ったら、画面が真っ黒になります。だから、俺らは他の携帯で画面ごと写メしていました(送信相手が送ったテレグラムの内容を担保取るため)。だから、メッセージが自動消去されるといっても、あまり信用していなかった」と言います。

そうした抜け道を踏まえて、この元暴力団員は、「犯罪をするとき、一番安全なのは、携帯での通話です。通話記録は残りますが、内容は残りません」と言います。日常的に通信を傍受されていない限り、携帯通話が安全というこの主張には、一理あるような気がします。

首都圏を中心に全国各地で発生した広域連続強盗事件で、指示役とされる渡邉優樹容疑者らが利用していたスマホやタブレット端末など15台が警視庁に提供されていると報道されています。警察による通信内容の復元が、この事件の捜査のカギになると同時に、今後の匿名犯罪の潮流を変える可能性があるのです。

文/廣末登
写真/shutterstock

闇バイト 凶悪化する若者のリアル (祥伝社新書 683)

廣末 登

2023年7月3日

¥1,023

224ページ

ISBN:

978-4396116835

「闇バイト」がなくならないワケとは?

二〇二三年一月一九日、東京都狛江市に住む九〇歳の女性が自宅で殺害されているのが見つかった。女性の遺体には激しい暴行の跡が見られ、これまでとは次元の違う強盗殺人事件として世間を震撼させた。
本件をきっかけに注目を集めたのが、「闇バイト」といわれる犯罪だ。指示役に集められた素性のバラバラな集団によって行なわれる犯罪で、同種の事件は後を絶たない。

中でも詐欺よりも手っ取り早く稼げる「タタキ(強盗)」の増加が危険視されている。本書では、非行経験のある犯罪学者が当事者たちを取材。

闇バイトを取り仕切る半グレや犯人の更生に従事した保護観察官の声から見えてくる、その真実とは。最終章では、闇バイトを生み出す日本社会の闇を分析。失うもののない「無敵の人」を生み続ける構造に警鐘を鳴らす

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