1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. グルメ

なぜスヌープ・ドッグの料理は胸を熱くするのか?――規格外のレシピ本『スヌープ・ドッグのお料理教室』(前編)

集英社オンライン / 2022年5月20日 13時1分

全世界で人気のヒップホップ界のスーパースター、スヌープ・ドッグ。彼の定番レシピを紹介する『スヌープ・ドッグのお料理教室――ボス・ドッグのキッチンから60のプラチナ極上レシピ』が話題となっている。気分がアガる料理とボスの楽しい語り口。ヒップホップ好きも料理好きも魅了する異色のレシピ本は、どのように日本の読者に届けられたのだろうか。本書の翻訳者のKANAさんに出版の経緯や、その思いを聞いた。

ヒップホップ好きと料理好き、どちらも満足させる翻訳に苦戦

――翻訳のご依頼を受けたときは原書をご存じでしたか?

原書がアメリカで発売されたときから知っていて面白そうな本だなと思っていたら、偶然、日本版の翻訳をご依頼いただきました。私がレコード会社に勤めていたとき、スヌープや彼がオーナーを務めるデス・ロウ・レコードの作品のプロモーションに携わっていて、スヌープにインタビューをしたこともあり縁を感じていて。それに私自身が料理もすごく好きで、家庭でもアメリカ料理をずっと作ってきたんです。これはなんとしてでもお引き受けしなければと思いました。



――KANAさんは、アメリカに住んでいたことはあったのでしょうか?

大学生の2年間と、レコード会社を辞めた後に一時期行っていたのみです。ただ、私はシングルマザーとして、アメリカの黒人との子どもを日本で産んで育ててきました。アメリカにルーツを持つ自分の子どもに食を通じて文化を知ってもらいたいという思いがあって、感謝祭やクリスマスなど、アメリカの子どもが経験する季節のイベントに合わせて料理を作ってきたんです。

クリスマスには一緒にチョコチップクッキーとジンジャークッキーを作って、サンタさんのためにクッキーとミルクを置いておくとか、そういうことを20年やってきたものですから、日本にない材料でアメリカ料理を作る方法が身についてきました。

「俺のダチのバーナーのクッキーがベストだってのは誰もが知ってる事実。まあ、そのクッキーってのは<ムシャムシャ>するんじゃなく、<モクモク>するほうだけどな」(本文引用)

――この本を翻訳するのはまさにKANAさんしかいなかったですね! とはいえ、翻訳するにあたってハードルに感じたところはなかったですか?

ヒップホップ好きだけではなく、レシピ本として楽しみたい人も手にする本だから、ヒップホップのノリのまま訳すと、お料理好きで手に取ってくれた読者を置いていってしまうと思いました。写真も少ないですから、味や作り方をちゃんと理解してもらう必要もあって。

ヒップホップ色を強くしすぎず、スヌープらしさを伝える、その中間を見つけていく作業が難しかったです。それに、この翻訳のご依頼を受けてすぐにコロナ禍に突入してしまって。私自身、仕事がキャンセルになったりして目の前のことに追われていたし、この本のレシピはみんなで食べる料理が多いのに、状況的にはみんなで集まることができなくて。

スヌープのレシピを通じてアメリカ料理やヒップホップの文化を伝えたい

――コロナ禍になったばかりの時は今よりも、パーティをしにくい時代でしたからね。

人に集まってもらって試しに食べてもらったりもできないし、気持ちの落ち込みとの戦いでしたね。この本の翻訳って本当に、気分を上げないとできないんですよ(笑)。気分を上げるのに時間がかかって、翻訳できたのはたったこれだけというのを繰り返して、自己嫌悪にも陥って。

それに、今、これを出しても誰も読んでくれないどころか、パーティ料理の本を出してどういうつもりだって言われたら、おしまいじゃないですか。落ち込む要素が多い中で、気持ちを上げるのがすごく大変でしたね。

――でもいざ出てみたら、今だからこそ、この本がいろんな人の心を救うと思いますよね。

そう言っていただけると嬉しいです。Twitterでも本の反響を見ているんですけど、夜に大きな地震があった日に、「ドキドキして眠れなかったけど、スヌープの料理本を読んだら楽しい気持ちになって落ち着けた」っておっしゃっている方がいたんです。

私が上げた気分が、そのまま誰かに伝わったのかなって思うと、すごく嬉しくて。この本の料理を作らなかったとしても、作ったり食べたりする想像をするだけで気分を上げられたら、それだけでもいいのかなって思いますね。

「わかるって、今すぐ食いたいんだろ?でも「極めるのは時間がかかる」って聞いたことないか?その待ちの時間も絶対に無駄にはならない。だからキャノーラ油を準備して待ちやがれ」(本文引用)

――今のこの本の受け入れられ方をご覧になっていて、率直にどう思いますか?

とても嬉しいです。ただ、話題性が先に行ってしまっていることを少し心配もしています。ブラックミュージックは怖いとかラフなイメージを持たれることもありますけど、私はもともと対訳の仕事を通じて、ブラックミュージックのもっと深くて濃厚な文化を伝えたいという思いがあったんですね。個人の好き嫌いはあるとしても、この文化があったからこそ、みんなを楽しませるヒップホップやR&Bの曲が生まれたと伝える努力をしてきたんです。

今回の本でも、大味とか脂っこいとか、ちょっとネガティブなイメージも持たれるアメリカ料理の歴史も知ってもらいたかったんですよね。アメリカ料理が発展した背景には、黒人が白人のためにキッチンで料理を作っていた歴史があることや、ママのルーツがその家のホームフードに表れているとか、そういう文化をこの本を通じて伝えたいんです。そういう理由もあって、あとがきでも長めに文化について触れました。

話題が先行すると、その文化の部分が伝わりづらくなると危惧していて。料理も音楽も、あらゆるものが歴史や文化から発展してできあがっているので、どんなものも、文化を理解して尊重した上で評価をしないといけないという思いがあるんです。

度肝を抜くスヌープのレシピを生んだ、ボスのクッキングのルーツとは?

後編(ジャガイモの皮もむけなかったスヌープは“愛情”で料理に目覚めた)へつづく

取材・文/川辺美希 ©スヌープドッグ・KANA/晶文社

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください