今シーズンの阪神タイガースは、近本光司選手と中野拓夢選手の1番・2番コンビと、4番を打つ大山悠輔選手の3人がチームの中心となり、ここまで戦ってきました。
この3人のうち、誰が欠けても、うまく打線が組めず、得点パターンも見えてきません。それぐらいチームの中では、大きな存在だといえるでしょう。
特に、プロ3年目の中野選手は、チームが115試合を消化した8月27日時点で、フルイニング出場を続けています。
「派手なファインプレーはいらない!」今季、フルイニング出場を続ける阪神・中野拓夢の守備に鳥谷敬があえて注文をつける理由
集英社オンライン / 2023年8月29日 8時1分
鳥谷敬が2023年の阪神タイガースを追う連載第8回は、今季、二塁にコンバートされ、フルイニング出場を続ける中野拓夢。今や攻守の柱ともいえる存在となった中野に、鳥谷敬が望むこととは?
今シーズン、フルイニング出場を継続中
無理にフルイニング出場を続けることがいいとは思いませんが、12球団を見渡しても、前半戦を終えた時点でフルイニング出場していた選手は、中野選手と、中日ドラゴンズの岡林勇希選手の2人だけです。
これを今年だけではなく、2年、3年と続けていくことで、見えてくることも多いですし、続けないとわからないこともあります。中野選手には、できることなら、シーズン最後まで自分の仕事場を守り続けてほしいと思います。
昨年のオフ、岡田彰布監督は、就任直後から、中野選手を「2番・二塁手」として起用することを明言してきました。
ルーキーイヤーから2年間、遊撃手のレギュラーとして試合に出ていた中野選手は、その話を聞いて、すぐにコンバートを受け入れる気持ちには、なれなかったそうです。
似たような状況を経験したことがある自分には、その気持ちもよくわかります。
ただ、選手の立場からすると、与えられたポジションでやるしかないのも事実です。「なぜ?」という気持ちと折り合いをつけながら、うまく切り替えられたことが、今の成績につながっているのではないでしょうか。
二塁手として派手なファインプレーはいらない
中野選手は、もともと遊撃手として送球に不安を持っていました。遊撃手から二塁手になると、物理的に一塁までの距離が近くなることもあり、送球面での不安はかなり軽減されます。
シーズンを通して考えると、精神面での負担も相当変わるので、岡田監督は、そのあたりも見越して決断したのだと思います。
そもそも、遊撃手として長く活躍するための絶対条件として、打球を捕球することへの不安より、一塁に送球することへの不安がないことがあげられます。
逆に二塁手には、捕球する技術には長けているが、送球面で不安があるという選手が少なくありません。
そういう意味で、中野選手が持つ不安要素を考えると、遊撃手よりも二塁手に適性があったと言えるのではないでしょうか。
今年の春季キャンプで自分が臨時コーチをした際は、主に遊撃手を見ることが多かったため、中野選手とは、あまり話をする機会がありませんでした。ただ、二塁手としての動きで気になったことがありました。
遊撃手は、一塁に送球する距離が長いため、前に動きながら捕球することが多いのですが、二塁手は、送球する距離が短いため、遊撃手ほど前に出て捕球する必要がありません。
そのため、遊撃手から二塁手にコンバートされた際に、最も陥りやすいのは、捕球の際に体重が後ろにかかり気味になってしまい、顔とボールの位置が離れすぎてしまうことです。
中野選手も、まさにそうなっているように見受けられたので、「もう少し低い姿勢でボールに入ることを意識すれば、ミスが起こりにくいのではないか」と本人に伝えました。
今シーズンの中野選手は、二塁手として華麗なグラブトスや、ダイビングキャッチを数多く見せています。二塁手になって、派手なファインプレーが多くなり、守備がよくなったとみられる風潮もあるようですが、自分はそうは思いません。むしろ、派手なファインプレーなんてないほうがいいと考えています。
ファインプレーになるということは、そもそもポジショニングがうまくいっていない可能性があります。ポジショニングを変えて、あらかじめ二歩動いていれば、ダイビングキャッチしなければいけない打球を、普通に正面で捕球できます。どちらが、アウトにできる確率が高いかは、言うまでもないでしょう。
守備機会が増えれば増えるほど、当然、失策数も増えるので、失策数のことはあまり気にしても仕方ないと思いますが、今後は派手なファインプレーをなくしていくことが、中野選手が二塁手のレギュラーとして、長く活躍するためのポイントだと思います。
四球数が昨年の倍以上に増えた理由
打撃に関しては、初球から打てるボールに対してはどんどん振っていくスタイルで、プロ1年目は、135試合に出場して打率.273、プロ2年目は135試合に出場して打率.276とコンスタントに数字を残してきました。
その一方で、四球の数が1年目は29個、2年目は18個と少なく、出塁率という面で物足りなさを指摘されることも多かったように思います。
プロ3年目の今年は、100試合を戦った時点で、打率がほぼ3割、四球が45個と、打率もさることながら、四球の数が倍以上に増えていることに大きな成長を感じます。
これは技術的に何かが変わったわけではなく、侍ジャパン日本代表として、今年おこなわれたWBCを戦う中で、学んだ経験が大きいのではないでしょうか。
WBCでは、福岡ソフトバンクホークスの近藤健介選手が2番打者をつとめていました。今年プロ12年目の近藤選手は、通算打率が3割を超え、通算出塁率は4割を超えるという、まさに日本球界を代表するバッターのひとりです。
WBCでも大谷翔平選手の前を打つ2番打者として、ヒットを打つだけではなく、四球もしっかりと選んで、出塁率.500という驚異的な数字を残しました。
中野選手にとっては、今回のWBC期間中の近藤選手のスタイルが自分の理想とする形に近かったそうです。中野選手自身も、出場機会こそ少なかったものの、14打席で10打数3安打、4四球という数字を残しました。
従来の初球からどんどん振っていくというスタイルだけでは、こういう数字を残すことはできません。
四球を選ぶことが、いかに得点につながる可能性を増やすか、どれだけチームにいい影響を与えるかということをWBCで実感できたことが、シーズンに入っても素直に体現できているのではないでしょうか。
構成/飯田隆之 撮影/産経新聞社
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