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口を閉じているとき、無意識に奥歯が当たっていませんか? 歯の天敵「TCH」の噛みグセが歯を失うリスクを増大させている!

集英社オンライン / 2023年8月31日 11時1分

歯を失う疾患として、「虫歯」「歯周病」は広く知られているが、口の健康を損なう隠れた要因としての“ブラキシズム”を知っているだろうか。そしてそれと関係が深いかもしれない無意識の噛み癖「TCH」とは何なのか。『ブラキシズムが歯を壊す! 隠れた「歯の天敵」を知っていますか?』(現代書林)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

あなたもしているかもしれない、無意識の噛み癖

ブラキシズムと全く同じとはいえないようですが、ブラキシズムとの関係が疑われている「歯牙接触癖」についても、触れておきましょう。

これは、英語で歯牙接触癖を意味する「Tooth Contacting Habit」の頭文字をとって、「TCH」と呼ばれています。東京医科歯科大学歯学部付属病院顎関節治療部部長(2000年当時)だった木野孔司先生たちが、世界に先駆けて提唱した言葉であり、概念です。



昼間、無意識の状態でお口を閉じていると、奥歯が上下で噛んでいる、もしくは当たっている、という癖を持っている方々がいます。この癖が、TCHです。

「口を閉じたときに、歯が当たってはいけないのですか?」

「口を閉じれば、そりゃ、普通は当たるぞ」

「昼間はバカみたいに、口を開けて生活しとれってことかい?」

「口を閉じて奥歯が当たらないように、浮かしておけってことかい?そんなことすりゃあ、あごがガクガク動いちまって、変な感じがするで〜」

過去にこのTCHについてご説明したとき、患者さんからこんなことを言われました。

昼間、お口を閉じているとき、上下の奥歯が当たっているかどうかは、あまり意識することがないと思います。みなさんも、ご自分のお口で確かめてみてください。お口を自然に閉じたとき、奥歯が上下で噛んでいませんか。

本来は、奥歯も前歯も、上下の歯が触れていないのが正常(普通)とされています。奥歯は、上下が触れるか触れないかの位置関係、もしくは、一定の距離(0・1〜2・0㎜)を置いて当たらない状態を保つことが、お口の健康上望ましいといわれています。この一定の距離を、「安静空隙量」といいます。

ご自分では、気づいていないかもしれませんが、案外、しっかり当たっていたりすることもあります。

「それが何か問題なんですか?」「当たっていてはいけないんですか?」

と、逆に聞かれることもよくあります。

通常、多くの人は、奥歯の安静空隙を保った状態でいると思いますが、そういう人でも、緊張したり、我慢したり、何かに集中しているときに、無意識に奥歯が当たっていたり、噛みしめていることがあります。

この一時的なTCHは、通常の状態に戻ればなくなりますが、なかにはそれが癖になって、いつも奥歯を当てていたり、奥歯が当たっていないと下顎が安定しなかったり、精神的に落ち着かないという人がいるようです。

少しくらいの噛み癖なら問題はないのですが、これが習慣になって長く続くと、いろいろな問題が出てくることがあります。

歯の根のまわりには、歯根膜という毛細血管や神経組織に富んだ組織があります。歯が当たっていると、その噛んだほんの些細な力の刺激が、歯根膜を通して脳に送られます。すると脳は、反射的に、「咬め!」という指令を出します。

太古の昔から、動物は食べ物を一度口からはなしたら、しばらくは食べ物にありつけないことを知っていました。ですから、咬んだらはなすな、もっと咬め!と、脳は咬む筋肉(咀嚼筋群)に指令を出し続けるのです。

ということは、歯が当たっていて刺激が加わり続ける限り、あごを動かす筋肉群は休むことができないのです。

そんな状態が続いたら、どうなるでしょうか。

長い年月の間に、歯や歯周組織はダメージを受け続けます。痛めつけられた歯にヒビ割れができる、歯が咬耗して形が変わる、噛み合わせの高さが変わる、歯並びが経年変化する、歯頸部付近の歯槽骨(歯を支えている骨)の歯根膜空隙が広がって歯槽骨吸収が進む、場合によっては、歯が欠けたり、歯が割れて抜歯になることもあります。ブラキシズムと同じような影響が出るのです。

TCHがブラキシズムを加速させる?

私がTCHのことを知ったのは、2009年に地元歯科医師会のスタディグループ(有志勉強会)に木野先生をお呼びして、お話を聞いたときでした。

当時、私はブラキシズムにスプリント治療をしていましたが、効果がある患者さんがいらっしゃる一方で、なかなか思うような結果が得られない患者さんもいらっしゃいました。

そんなときにTCHのことを知り、ブラキシズムとの関係を考えるようになりました。

まず思ったのは、夜間はブラキシズムがなくても、昼間TCHがあり、それが習慣化したら、噛みしめ・食いしばりに結びついていくのではないだろうかということでした。

しかも、力仕事のときや緊張したとき、極度に不安が強くなったり、ストレスがかかるようなとき、じっと我慢しているとき、何かに集中しているときなどに強く噛みしめることで、ブラキシズム(夜間の歯ぎしりや昼間の噛みしめ、食いしばり)も加速するのではないかと思ったのです。

そこで、TCHの考え方を治療に導入するようになりました。

ブラキシズムのある患者さんに、TCHを意識して、生活習慣を見つめ直すようにアドバイスしたところ、よい結果が出てくる患者さんが現れるようになり、それなりの成果を感じるようになったのです。ブラキシズムの改善に向けて、一筋の光明が見えてきた!と思いました。

木野先生は顎関節症がご専門で、その治療に長年携わってこられました。木野先生たちの研究では、顎関節症の患者さんにTCHの人が多く、この癖が顎関節症の治療成果を上げられない要因であるらしいことがわかってきたのです。

歯やあごの骨や関節、周囲の筋肉が丈夫な人を除いて、TCHのある人は、筋肉症状や顎関節症状が出やすくなるそうです。ブラキシズムも、同じようなことがいえるのではないでしょうか。

もちろん、ブラキシズムイコールTCHではありません。夜型の歯ぎしりや食いしばりと、昼間型のTCHや噛みしめとの関係は、まだよくわかっていません。

しかし、長い人生で長期に使う歯や口腔組織を守るために、ブラキシズムやTCHということも配慮しながら、歯科治療に取り組む、あるいは予防歯科を実践していくことが、これから求められるのではないでしょうか。

文/池上正資 写真/shutterstock

『ブラキシズムが歯を壊す! 隠れた「歯の天敵」を知っていますか?』

池上 正資

2023/5/10

¥1,540

200ページ

ISBN:

978-4774519777

「同じ歯の銀歯が何度も取れる」「同じ歯ばかりが痛む、虫歯になる、しみる」・・・
皆さん、歯の治療でこういう経験はないでしょうか?
普通、虫歯などは一度治療が終われば、短期間で同じ歯が悪くなる事は滅多にありません。
ただ、そういう訴えをしてくる患者さんが多くいらっしゃることも事実なのです。

それはナゼか?
歯科医になって40年、開業して35年を超える治療実績を持つ著者はそれをずっと考えてきましたが、あの時気付いたのです。
「ブラキシズム」が原因だと。
(「ブラキシズム」とは、「歯ぎしり」「噛みしめ」「食いしばり」などの噛み癖の総称)

「ブラキシズム」という考え方自体は20世紀初頭には知られていました。
当時はあくまで「クセ」であり、病気ではないという考え方です。
ただ、近年の歯科医学の研究の結果、単なる「クセ」では片づけられず、口の中に多くの問題を引き起こす原因になってきているという事が分かってきています。
ところが、患者さんだけではなく、歯科医師の中でもまだ広く知られていないのも現状なのです。

著者は現場での治療を行うにつれ、一般の人に広まっている症状だということに危機感を持っています。
そもそも「ブラキシズム」の多くは無意識、あるいは就寝中に行っているので、本人は気付いていない事が厄介な点です。
端的に言えば「ブラキシズムが歯を壊す」のです。

著者は「ブラキシズムをどうするか」という問題、そして解決法・治療法を読者の皆さんと共有したいと思い本書を書きました。

【目次】
はじめに
第1章 あなたのお口の悩み、「ブラキシズム」が本当の原因かもしれません
第2章 虫歯や歯周病とブラキシズムの深い関係
第3章 歯科の治療法とブラキシズム ―ブラキシズムで咬合が崩壊する!?
第4章 ブラキシズムの治療 ―治せなくても軽くすることはできます
第5章 大事なお口を守るための予防歯科医療
第6章 歯科医院との上手な付き合い方
おわりに

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