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【縮小ニッポンの本音】「親より豊か」は1割どまり、「家計が苦しい子持ち家庭」は7割、という統計の現実

集英社オンライン / 2023年9月7日 10時1分

日本はなぜ世界を大きく上回るペースで少子化が進んでいるのか――。日本経済新聞社が20~60代の男女1000人に実施したアンケート調査では、家計に余裕がないためと考える人が7割超に上った。若年層が将来の成長や安定を見込んだうえで、安心して結婚、出産、育児に取り組める環境づくりが課題となりそうだ。『人口と世界』(日経BP 日本経済新聞出版)より一部抜粋・再構成してお届けする。

「結婚良い」20・30代半数切る

「結婚はした方が良いと思うか」。人生を大きく左右する結婚について「そう思う」「少しそう思う」と考える人は51.5%だった。未婚化が進むなかでも結婚に肯定的な意見はまだ多い。

年齢別にみると、やや様相が異なる。60代は6割超が結婚に肯定的なのに対し、20代と30代は5割に満たなかった。男女別では女性の方が結婚に慎重で、特に30代の女性は「そう思う」がわずか9%だった。


結婚が減っている理由を問うと、女性が結婚に慎重な理由がみえてくる。男女とも最多は「若年層の収入・賃金が低い」で6割超だが、「仕事のキャリアに影響する」は女性21.4%に対して男性は9.4%。出産・育児によるキャリアの断絶が結婚に二の足を踏ませている。「出会いがない・出会いの機会が少ない」と考える人も全体の4割超と多い。特に20代、30代の女性は5割を超えた。国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査ではSNS(交流サイト)やアプリで出会った人が1割を超えた。婚姻支援は社会の変化を踏まえる必要がある。

結婚のプラス面について「経済的に安定する」との回答は男性が25.4%に対して女性は45.2%だった。マイナス面で「経済的な負担が増す」と考えるのは男性が34.0%に対して女性は19.6%だった。結婚・出産後も働きやすい環境づくりなど、夫婦で家計を支え合う社会の構築が求められている。

夫婦別姓は4割、事実婚や同性婚は3割の人が「より広く認めるべきだ」と回答した。

子ども持つ壁「家計苦しい」7割

少子化が加速するなかでも「子どもはいた方が良いと思う」と考える人は6割超に上った。結婚をした方が良いと考える人の割合より1割ほど多い。経済面の不安解消などで結婚のハードルが下がれば、出産増につながる可能性がある。

少子化が進む理由を問うと、最も多かった回答は「家計に余裕がない」の74.5%だった。「現役世代への家計支援が不足」「日本の将来への不安」も3割を超えた。若年層の所得増や日本の成長期待の醸成が少子化の改善につながる可能性がある。

育児の負担軽減も急がれる。特に女性の過度な育児負担は見直しが必要だ。少子化の原因を問う質問で「仕事と育児の両立が難しい」との回答を選んだ割合は男性の38.6%に対し、女性は60.8%に上る。「核家族化の進展でサポートを得にくくなった」「保育施設など支援体制が不足」も女性が男性より多かった。

世代間の意識の差も大きかった。子どもを持つことのマイナス面では、20代の32.5%が「仕事のキャリアに影響する」を選んだ。60代は10.5%だった。男女別・年齢別で最も高い20代女性(44.0%)と最も低い60代男性(2.0%)では40ポイント以上の差がある。

42.3%の人が少子化問題の改善に「職場の理解や人手不足」が壁になっていると感じていた。「仕事の内容や、早朝・深夜勤務といった労働条件の制約」も30.5%だ。人生設計や時々の生活に応じて柔軟に働き方を選択できるようにすることも重要だ。

夫と妻、「不平等」56%

賃金やキャリア形成などで男女差が色濃く残るなか、育児環境の夫婦の平等性も聞いた。夫と妻で子育て環境が平等だと思う人は22.6%にとどまり、不平等だと感じる人は56.1%だった。女性の方が不平等と感じる人が多く、20~40代女性は6~7割に上った。

男性の育児参加のバロメーターとなる育休取得率は21年度に13.97%。男性育休の取得促進や制度改正で5年前から10ポイント以上伸びたが、世界的にみても充実した制度内容の割に取得率は低い。期間も2週間未満と短期の人が5割を超える。

男性がどの程度、育休を取得するのが良いか聞いたところ2~6カ月が27.7%で最多だった。1週間以内が2.4%、「取る必要はない」も4.4%いた。

育児負担の軽減策として海外ではベビーシッターや家事代行が一般的だが、日本では普及が鈍い。理由を聞くと「金額が高い」が75.9%と最も高く、「育児や家事を任せることへの不安」が54.8%で続いた。「サービス供給不足」も34.4%あった。

男女別でみると、女性の方が男性に長く育休を取ってもらいたいと考えていた。男性は「わからない」も4人に1人と多かった。

「親より豊か」1割どまり

自分は親世代に比べて経済的に豊かになった―。こう考える人がわずか13.6%にとどまることが明らかになった。61.1%が豊かになっていないと答えている。

特にバブル崩壊後に生まれた20代は親世代より盟かだと考える人がわずか6.0%、豊かになっていないと考える人が63.5%に上った。一方で高度経済成長を経験した60代は豊かになったと考える人が24.5%だった。

男女でも大きな差が出た。20~40代の女性は豊かになっていないと感じる人がいずれも7割を超え、特に40代女性は79.0%に達した。教育費の高騰などで家計負担が増すなか、仕事と育児の両立による負担の重さの割に豊かさを感じられない子育て世代の現状が浮かぶ。

少子高齢化に伴う社会保障費の増大も負担感を高める一因だ。負担のあり方を聞いたところ、「所得や資産が多い高齢者の負担増はやむを得ない」が53.1%で最も多かった。この回答は年代が上がるほど高かった。

「現役世代・勤労世代の負担増はやむを得ない」は19.5%。若年層の忌避感が強かった。「経済成長による税収増」は60代が28.5%だったのに対し、30代は18.5%と、上の年代で成長を期待する人が多かった。

定住型の移民、抵抗感強く

男女の懐事情とジェンダー意識を探る意図で、初めてのデートで費用は全額男性持ちか女性と分担かを尋ねた。全額男性が負担すべきだとの回答が26.9%と、負担すべきだとは思わないの39.9%を下回った。

専業主婦が多く賃金や職務内容の男女差が大きかったバブル期は、男性の全額負担で女性と豪華な食事を楽しむケースが多かった。今でも50~60代の男性は全額負担すべきだと考える割合が4割超と20代男性の19.0%と大きな差がついた。

男女別では男性の32.2%が負担すべきだと考えるのに対し、女性は21.6%。男性にとっては初デートの金銭的な不安はやや薄らいでいるのかもしれない。

日本は少子高齢化に伴う働き手不足が深刻で、政府は外国人労働者の受け入れ拡大を進めている。人口減への対応として定住・永住可能な移民を積極的に受け入れるべきか聞いたところ、受け入れるべきではないが37.5%と受け入れるべきだの26.1%を上回った。

全世代で受け入れるべきではないが上回り、特に30~50代の女性で受け入れに慎重な回答が目立った。40~60代の男性は受け入れ派が3割超と相対的に受け入れに前向きだった。

「そこそこ幸せ」で貧しく―識者の見方 中央大教授 山田昌弘氏

結婚や出産が減っている理由として経済的要因を挙げた人が多かった。若年層だけでなく50~60代の親世代も若年層の家計に懸念を持っていることが調査で明らかになった。若年層への経済支援は不可欠だ。

結婚減の理由として50~60代女性の4割超が「独身者が親との生活に満足している」と答えたのも興味深い。一部の若年層は便利で快適な実家生活を捨ててまで結婚をしようと思わないのかもしれない。

移民は変化を好まない日本人の志向が表れた。移民のみならず日本社会は年代を問わず今のままでよいと考える人が多い。社会全体が豊かになり、目先の生活に困る人が減ったのが背景にあると考えている。日本人は徐々に貧しくなることは受け入れてしまう。社会保障費の増加も一定程度は受け入れつつ「そこそこ幸せ」を続けるのだろう。

少子高齢化や人口減少を深刻な問題として日本人が気付くのは、優秀な人材の海外流出が本格化したときだろう。インドやフィリピンなど英語が堪能な人が多い国ではすでに人材流出が起こっている。

※調査の概要 調査会社マイボイスコムのモニター1000人を対象に2022年9月30日~10月4日にネット調査した。20~60代の各年代200人(男女同数)を性・年代別に無作為抽出した。

『人口と世界』(日経BP 日本経済新聞出版)

日本経済新聞社

2023年6月24日

¥1,980

260ページ

ISBN:

978-4-296-11624-9

人類史上初!人口減時代迫る
忍び寄る停滞とデフレ、不安定な年金制度、移民なき時代の到来・・・
危機にあらがう各国の戦略とは?

・「豊かになる前に進む高齢化」苦しむ中進国
・新たな時代の「移民政策」に揺れる 欧州の懊悩
・「おひとりさま」が標準に 孤独との共生
・「縮む中国」 衰退が招く安全保障上の危機
・出生率を上昇させたドイツの「両親手当」
・「多様さ」認め、寛容な社会目指すデンマーク
・人口より「生産性優先」のシンガポール

これまで人口増を頼りに成長を続けてきた世界。
いまも進みつつある人口の減少は、社会に大きなひずみをもたらした。
一方で、独自の視点から問題に立ち向かう政策が功を奏した国も――
日本の進むべき道はどこにあるのか。
いまある危機を直視し、未来を共に考える日経新聞一面連載を加筆のうえ書籍化。

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