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『VIVANT』乃木も受けたのか? “別班員”になるための試験を元隊員だった自衛隊幹部が明らかに…「トイレのタイルの色は?」「X国はどこにある?」1人につき1時間以上の質問攻め

集英社オンライン / 2023年9月11日 8時1分

日曜劇場『VIVANT』で俄然注目を集めている陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊“別班”。 “現代の特務機関”であり、災害派遣に象徴される自衛隊の“陽”の部分とは正反対の“陰”ともいえる部隊隊員になるための試験の中身に迫る。『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』 (講談社現代新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。

「別班の件は話すのは危険だ。情報関係者に漏れる可能性がある」

自衛隊の現役幹部やOBに取材を継続していくと、別班というジグソーパズルのいろいろな形をしたピースが集まり、少しずつ絵が見え始めてきたという感じだった。

しかし、集めたピースは、別班を知る関係者の証言と、かなり年配の別班OBらの証言に過ぎない。



「現役の別班員の声が聞きたい。その姿を見てみたい」

こうした欲求は、日増しに高まっていった。しかし、別班という組織の本拠地がどこにあるのかさえわからない。もちろん、別班本部の連絡先や別班員の携帯電話番号など、入手できるわけがない。

仲のいい防衛庁(防衛省)・自衛隊の情報畑の現役、OB幹部に仲介を懇願しても、「それは無理だ」「何を言っているんだ」と呆れられるだけだった。

現役、OBたちの中には、個人的に現役別班員を知っている人もいたと思うが、なにせ非公然の秘密情報組織だ。記者に紹介するなんて、あまりにも危険な行為であるのは明白だった。自分の身の安全も考慮しなければならないのは当然だ。

そうしたところ、陸上自衛隊の現役幹部(以下、Aとする)に話を聞けたのは、まさに偶然の賜物だった。別班の取材を始めた時期の前後、防衛省とは無縁の社会部OBの先輩に「陸上自衛隊幹部なんだけど、面白い奴がいる」と紹介してもらった。今振り返ると、考えられないほどすばらしいタイミングだった。

当時Aは、情報関係の部隊に所属しており、数ヵ月に一度ほど、都内の飲食店の個室に待ち合わせ二人きりで会っては、情報交換をするようになっていった。

Aに聞く話は、自衛隊幹部とは思えないほど幅広かった。軍事や防衛、治安情報など専門分野以外にも、政治、経済、社会、国際問題に及び、そして、深かった。

彼との情報交換は非常時に有益だったが、「まだ別班の件は話すのは危険だ。情報関係者に漏れる可能性がある」と考えた私は、あえて話題に上げなかった。

別班の想像を超えた厳しさ

しかし、取材開始から1年ほど経過した頃、Aから不意に「今、一番関心があることは何か」と問われたため、イチかバチかで話してみようと決意した。現役の別班員に取材するという計画が、行き詰まっていたからだろう。

「ご存じだと思うが、陸上自衛隊に非公然の秘密情報部隊「別班」という部隊がある。その部隊が海外に拠点を設けて、情報収集活動をしていると聞いたが」

思い切って切り出すと、Aは複雑な表情を浮かべた。そしてこう話し始めた。

「実はかつて別班にいたことがある。ある事情で(別班を)辞めざるを得なくなったが……」

まさかの展開、だった。

しかし、Aの話を鵜吞みにすることはできない。単なる経歴詐称かもしれないし、非公然秘密組織の別班が仕掛けた、取材をミスリードするための罠の可能性もあるからだ。

後日、Aが所属している部隊の関係者からも話を聞く。陸上幕僚監部人事部の関係者に人事記録を調べてもらう……。詳述できないが、さまざまな角度からA周辺を取材したところ、元別班員だと確信するに至った。

そして、Aが別班を辞めざるを得なくなったのは、ふたつの理由があるという説明だった。

ひとつは東京から、海外の情報源(協力者)を遠隔操作していて失敗してしまったこと。詳しく聞くことはできなかったが、この海外の情報源がスパイであることを突き止められてしまっただろうことは、想像に難くない。

かの国の治安・情報機関や軍に追われたのか、それとも、敵対勢力に摑まれてしまったのか。いずれにしても、悲劇的な最期を迎えたに違いない。

そして、もうひとつは、別班の同僚を守るために、Aが自らの身分を明かしてしまったことだという。

何から同僚を守ろうとしたのか、私にはわからない。だが、絶対に破ってはいけない掟―陸上自衛隊員であること、そして別班の班員だということを明かしてはならない―を破ってしまった。

この件について、これ以上話してはくれなかったが、非公然秘密情報組織である別班の想像を超えた厳しさを、垣間見た瞬間だった。

別班員になるための試験問題

以下はAが話してくれた体験談だ。

ある日突然、当時所属していた部隊の上官の指示を受け、Aは陸上自衛隊小平学校の心理戦防護課程の入校試験を受けることになった。

面接試験では、教官が「先ほどの休憩時間にトイレに行ったな。そのトイレのタイルの色を言え」と意表を突く出題をしてきた。情報畑の経験があったAは、見た風景の全体を記憶する訓練を受けたことがあり、この出題はなんとかクリアすることができた。

また別の教官は、大陸の形だけが描かれた地域別の世界地図を数枚示して、「X国がある部分を示せ」と質問した。X国は目立たない小国で、難問だった。Aが「このあたりです」と答えると、「X国はこの地図には含まれていない。別の地域だ」などという無茶苦茶な出題もあった。

入校のための適性試験は長時間かけて、複数の教官からありとあらゆることを聞かれ、終了時には心身ともに疲労困憊していた。厳しすぎる試験に「たとえ心理戦防護課程に入校できても、やっていけるのか。放校になって、原隊に帰されてしまうのではないか」と強く不安を感じたという。

だが、Aが受けた試験は、決して特別なものではなかった。

畠山清行著、保阪正康編の『秘録陸軍中野学校』に収録されている、陸上自衛隊小平学校心理戦防護課程の前身・旧陸軍中野学校の入校試験に関する証言を見ると、それは明らかだ。

〈田崎清人第一期生(当時見習士官)は、「自分は、かつての陸大の試験をうけた将校から『今あがってきた階段は何段あったか』ときかれたという話をきいていた。それで、たぶん、そんな問題が出るのではないかと思っていると、はたして『いま、エレベーターに乗ってきて、感じたことはないか』と、まっ先にきかれた。『みんな扉のほうを向いていた』と答えると、こんどは、『謀略とはなにか。もし、それを南方で行なうとすれば、具体的にはどうしたらいいか』と質問された。それから、家庭の事情、女遊びをしたことがあるかなど、四、五十分も、四方から質問ぜめにされた」〉

〈塚本繁三期生(終戦時大尉)は、「生い立ちから大学を出るまでと、世界情勢や思想動向をきかれた。『グアム島はどこにあるか。この地図で捜せ』と、世界地図をしめした。ところが、前もってグアム島だけは消してあった。でたらめをいって、知ったかぶりをするかどうかためしたり、堅い話からやわらかい話と、われわれのときは、一人に一時間から一時間半もかけて質問した。あれだけやられたら、どんなに仮面をかぶっていてもはがれてしまうし、性格もはっきりわかる」〉

基礎教育の修了後には、危険極まりない訓練が待つ

「トイレのタイルの色」と「エレベーターで感じたこと」、「X国」と「グアム島」。私が小平学校心理戦防護課程の入校試験についてAに取材したのが2010年6月で、『秘録陸軍中野学校』を読んだのがその約2年後。現代の小平学校と戦時中の中野学校の入校試験の類似性に気付いた瞬間、驚いた私は思わず声を上げてしまった。

心理戦防護課程の面接試験では、「ここに入る前にいた控え室の机の上にあった新聞は何新聞だったか」との質問もあったという。

さらに、試験を受けていると突然、「電気系統の故障はこの部屋か」と電気工事業者が入室してきて、教官が「違う。別の部屋だ」と答え、業者は退出。その後教官が「今の男の眼鏡のフレームは何色だったか」「右手には何を持っていたか」などと質問するテストもあったという。

心理戦防護課程の入校者は基本的には陸上自衛隊員だが、Aによると、ごくまれに海上自衛隊員、航空自衛隊員が入ることもあったという。

同期は数人から十数人ほど。課程では、情報に関する座学のほか、追跡、張り込み、尾行、そして尾行をまく訓練もあった。

警察の捜査員顔負けの訓練内容だが、張り込みや尾行についても、〝警察の外事・公安流〟ではなく、伝統の〝旧陸軍中野学校流〟で、両者の手段、方法は全く違うのだという。

どう違うのか、と尋ねたが、笑って誤魔化されてしまった。「ど素人に言っても、分かるはずがない」という笑いだった。

基礎教育の修了後には、朝鮮総聯の幹部に食い込んで内部情報を取ってくる訓練や、突然、地方の町に出張させられ、町民から怪しまれないようにその町の権力構造を調査する訓練などもあった。

万が一、発覚するような事態になれば大問題に発展しかねない、危険極まりない訓練だ。

そう言えば、前述した作家の三島由紀夫が陸上自衛隊調査学校教育課長の山本舜勝から指導を受けた、東京都台東区の山谷地区に潜行する訓練や、厳戒態勢の陸上自衛隊東部方面総監部への潜入訓練と似ているが、これも決して偶然ではないだろう。


文/石井暁 写真/shutterstock

『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』 (講談社現代新書)

石井 暁

2018/10/17

¥880

200ページ

ISBN:

978-4065135884

TBS系日曜劇場VIVANTで話題沸騰!
帝国陸軍から自衛隊に引き継がれた“負の遺伝子”とは? 日本が保持する「戦力」の最大タブーとは?――身分を偽装した自衛官が国内外でスパイ活動を行う、陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊「別班」に迫った日本で唯一の書! 別班と三島由紀夫の接点、別班と米軍の関係、海外の展開先、偽装工作の手法、別班員になるための試験問題……災害派遣に象徴される自衛隊の“陽”とは正反対の“陰”の実体!


■帝国陸軍から自衛隊に引き継がれた、“負の遺伝子”とは?
■日本が保持する「戦力」の最大タブーとは?
■災害派遣に象徴される自衛隊の“陰”とは?

・・・・・・・・・・
本書は、身分を偽装した自衛官に海外でスパイ活動をさせている、
陸上自衛隊の非公然秘密情報部隊「別班」の実体に迫ったものである。

「別班」は、ロシア、中国、韓国、東欧などにダミーの民間会社をつくり、
民間人として送り込んだ「別班員」に、ヒューミントを展開させている。

日本国内でも、在日朝鮮人を抱き込み、北朝鮮に入国させて
情報を送らせる一方、在日本朝鮮人総聯合会にも協力者をつくり、
内部で工作活動をさせている。

たしかに、アメリカのDIA(国防情報局)のように、海外にも
ヒューミントを行う軍事組織は存在する。

しかし、いずれも文民統制(シビリアンコントロール)、あるいは政治の
コントロールが効いており、首相や防衛相がその存在さえ
知らされていない「別班」とは明確に異なる。

張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を
持ち出すまでもなく、政治のコントロールを受けずに、
組織の指揮命令系統から外れた「別班」のような部隊の独走は、
国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危ういといえるのだ。

「別班」はいわば帝国陸軍の“負の遺伝子”を受け継いだ“現代の特務機関”であり、
災害派遣に象徴される自衛隊の“陽”の部分とは正反対の“陰”の部分といえる。

・・・・・・・・・・
〈本書のおもな内容〉
第1章 別班の輪郭
中野学校の亡霊/別班と三島由紀夫の接点/別班と米軍の関係 ほか
第2章 別班の掟
海外の展開先/偽装工作の手法/別班員になるための試験問題 ほか
第3章 最高幹部経験者の告白
別班を指揮する正体/元韓国駐在武官の証言 ほか
第4章 自衛隊制服組の独走
事務次官と陸上幕僚長の反応/防衛大臣の対応/別班OBたちの言葉 ほか

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