1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

どうして日本には女性ホームレスが少ないのか。福祉と性差が影響する、ホームレスに陥るリスクの差とは

集英社オンライン / 2023年9月11日 17時1分

途上国の絶対的貧困と、日本の相対的貧困を比べると日本が抱える「本当の貧しさ」が見えてくる。日本の「ホームレス」による結婚事情を『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』 (PHP文庫)より一部抜粋してお届けする。

#1

家族のいないホームレス

国内でホームレス同士が結婚したという事例は、私の知っている限り皆無だ。ホームレス生活から脱した後に結婚することはあるが、ホームレスをしている最中に同じホームレスの異性と結婚するといったことは聞いたことすらない。

理由の一つは、ホームレスにおける男女比だろう。途上国では路上生活者に占める男女比はほとんど変わらないが、日本のホームレスには圧倒的な差がある。公式な統計を見れば下図のようになる。つまり、男性二三人に対して女性は一人しかいないのだ。


どうして日本には女性ホームレスが少ないのか。それは女性の方が生活保護などの福祉制度に引っかかったり、お金がなくても男性に手を差し伸べてもらえたりすることがあるためだ。

具体的に考えてみよう。もし二十代の健康な独身男性が失業しても、新たに仕事を探しなさいと言われて生活保護の申請を却下されるだろう。しかし、同じ二十代の女性が小さな子供がいる状態で困窮していれば、「子供の生活と人権を守る」という名目によって生活保護の申請が簡単に通る。子供がいることで、福祉の恩恵を受けやすくなるのだ。

女性が一度福祉につながれば、その先も継続して支援を受けられる。担当のケースワーカーが日常の様々なことで相談に乗ってくれるし、奨学金や諸手当などの情報も入手しやすい。シェルター、母子生活支援施設、シェアハウスなど女性の住居を保護する事業も多い。そのため、子供が独立した後も、彼女たちは福祉に頼っていける。

また、歓迎すべきことではないが、女性には性を提供することによって住居を手に入れるという道もある。二十代の男性なら、失業して貯金がなくなれば、路上で寝起きするしかなくなるだろう。だが女性なら、SNSやマッチングアプリで知り合った男のもとに身をゆだねることができる。そこにいろんな種類のリスクがあるものの、ホームレスになるリスクは軽減される。こうしたことが、二三対一という比率を生んでいるのである。

日本でホームレス同士の結婚がない理由

もう一つ、ホームレス同士の結婚が少ない理由を挙げれば、年齢的なこともある。下図は年代別に割合を示したものであるが、五十代以上が全体の約九〇%を占めている。若いうちは何かしらの仕事にありつけるが、年を取るとそうではなくなるためだ。

路上で寝起きしているのが高齢のホームレスばかりになれば、たとえ男女が出会って恋仲になったところで、結婚という結論には至らないだろう。籍を入れるメリットが見当たらない。

男女比の偏り、ホームレスの高齢化。この二つの要因を見ただけで、日本でホームレス同士の結婚がない理由がわかるはずだ。

では、彼らは路上生活をはじめる前は結婚をして家庭を持っていたのだろうか。必ずしもそうとは言い切れない。下図を見ていただきたい。現在、日本人の生涯未婚率は、男性が二八・二五%で、女性が一七・八五%である。それを考えると、ホームレスの未婚率が約七〇%というのはかなり高い。

このような数字の背景には、ホームレスたちがもともと低収入の仕事をしていたことに加えて、知的・精神的な問題を抱えていたりすることもある。異性と適切なコミュニケーションをとることができなければ、結婚の機会は否応なしに減ってしまう。

私が知っている例を一つ示したい。

とあるホームレスの末路

【孝弘の遍歴】
六十代の孝弘は、数年前からホームレスをしている。NPOのスタッフが聞いたところによれば、孝弘は若い頃から職を転々として、長くても二年ぐらいしかもたなかったそうだ。原因は人間関係でトラブルを起こしてしまうことにあった。
孝弘は些細なことでカッと頭に血が上ってしまう性格で、一日に一度は怒鳴り散らすことがある。そのため仕事場で必ず誰かと衝突し、職場にいづらくなってしまうのだ。
同じことは女性関係にも当てはまった。女性と付き合っても、意見の食い違いがあると、感情的になって手を上げてしまう。そのため、女性との交際が三カ月以上つづいたためしがなく、結婚もしたことがなかった。
孝弘がホームレスになったのもこの性格が災いしていた。若いうちは体力があるから、多少厄介な性格でも雇ってもらえるが、年を取れば煙たがられる。そうしているうちに貯金が底を突き、ホームレスに身を落としたのだ。
NPOスタッフは次のように語っていた。
「孝弘さんはおそらく精神的に何かしらの疾患を抱えているんだと思います。だから人間関係がうまくいかない。こういうホームレスは結構いて、路上で暮らすようになった後も人間関係を自分から壊してしまうんです」

安定した生活を手に入れるには、職場においても、プライベートにおいても、人間関係を安定させる必要がある。それができれば仕事を失わずに済むし、何かあった時に助けてもらえる。逆にいえば、それができないタイプの人は、ホームレスに陥りやすいのだ。

世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル (PHP文庫)

石井光太

2023/8/2

924円(税込)

248ペ-ジ

ISBN:

978-4-569-90326-2

◆日本人の6人に1人は貧困層、世界で7億人超が絶対的貧困……
◇世界と日本のデータが明かす「見えない貧困」の真実とは?
◆読めば、この国の「幸せのかたち」が見えてくる!

世界第3位のGDPを誇る日本。しかし実際には、
「先進国中ワースト4位の貧困国」であると聞けば、驚くだろうか。

その理由は、日本の貧困は、いわゆる途上国の貧困とされる、
「絶対的貧困」とはまったく形態が異なる「相対的貧困」だから。
貧困という言葉は同じでも、絶対的貧困と相対的貧困は、その性質が大きく異なる。

本書では、途上国の絶対的貧困と、日本の相対的貧困を、
8つの視点から比較することで、現代社会における「本当の貧しさとは何か」を考える。
読めば、貧しさとは何か、希望とは何か、豊かさとは何か――その片鱗が見えてくる一冊。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください