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日本の核廃棄物処分の参考になるのか? 原発増設支持が3年半で25%も増加しているフィンランドの世界一進んでいる核廃棄物“最終”処分場とは

集英社オンライン / 2023年9月6日 17時1分

フィンランドといえばクリーンエネルギーといったイメージを持っている人も多いだろう。しかし、ロシアからのエネルギー依存回避のため原子力発電を推進しているという一面も持っているのが実情だ。日本とフィンランドの原子力協力も進められているなか、注目すべき“原子力分野でのフィンランド”の取り組みを見てみよう。『フィンランドの覚悟』(扶桑社新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

森の国フィンランド

フィンランドの国土面積は、日本よりも一回り小さく、約33万8000平方キロメートルである。そのうち66.2%が森林によって占められている。ちなみに日本の森林の対国土面積比は66.0%である。

スウェーデンの統治時代から、林業資源は「緑の黄金」と呼ばれ、外貨を獲得する上で主要な手段であった。輸出に占める森林産業の比率は、1960年代には7割だった。近年では2割に減少しているが、現在でも主要な産業の一つである。



フィンランドには、森林を除けば天然資源が乏しい。同じ北欧でも、ノルウェーは石油、天然ガス、スウェーデンは鉄鉱石という資源に恵まれているのとは対照的である。

フィンランドでは、将来を見据えた取り組みも進められている。紙の需要減少を見越して、バイオ産業や石油代替用製品などに移行しつつある。加えて、フィンランド政府は木造建築プログラムを定めて、木造建築を推進している。

木が重要なのは、経済分野においてだけではない。建築あるいは文化の面でも、木はフィンランドにおいて、重要な役割を果たしている。

フィンランドでは近世に入ると、それまでの石造ではなく、木造の教会が一般的となった。フィンランドの美しい森と湖の景色に溶け込むように、多くの木造教会が残されている。

ロシア依存回避のため原子力発電を推進

日本人は、フィンランドと言えばクリーンエネルギーといったイメージを持っているかもしれない。

たしかに、フィンランド政府は2022年10月に、風力発電、太陽光発電関連など6つのクリーンエネルギー・プロジェクトに対して総額1億ユーロの投資支援を発表した。

だが、本当に注目すべきなのは、原子力分野でのフィンランドの取り組みであろう。

フィンランドでは、原子力発電が推進されている。発電量から見たフィンランドの電力供給構成は、2020年には原子力が33.8%とトップを占めた。次いで、水力が23.0%、石炭が7.5%、天然ガスが5.8%、石油が0.3%であった。

なお、スウェーデンにおける原子力発電のシェアは、30.0%とフィンランド同様に大きい。ウクライナ危機後にノルウェーは、ロシアに代わって、ヨーロッパ最大のガス供給国となっている。

ウクライナ侵略の前から、フィンランドは、ロシア依存の回避に取り組んでいた。

2015年と2020年で、ロシアからの天然ガスの輸入量を比較すると、フィンランドでは減少している。ロシアに対して強い警戒感を抱くバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアでも、同じ期間に輸入量が減少した。

これに対して、ドイツ、イタリア、ハンガリーなどでは、輸入量が増加した。ロシアからのエネルギー輸入量の増減には、各国のロシアに対するスタンスも、ある程度は影響しているだろう。

原発増設に対する支持は、3年半で25%も増加

エネルギー輸入について世論の動向を見てみると、大きな影響を与えているのは、やはりロシア・ファクターである。電力輸入元としては、北欧諸国とエストニアに対しては69%が肯定的である一方で、ロシアに対しては87%が否定的な態度を示している。

原子力発電に対しても、フィンランド世論は肯定的な反応を示している。

2022年12月に、フィンランドのシンクタンクEVAによって実施された世論調査によれば、67%が原子力発電所の追加建設が最良の解決策だと回答した。

これに対して、原発廃止への反対は87%にのぼっている。原発増設に対する支持は、3年半で25%も増加している。深刻なエネルギー危機に対しては、再生可能エネルギーの増産だけでは対応できないという考えが、背景にはあるだろう。

また、エネルギー安全保障の観点から見れば、ロシアへのエネルギー依存の回避という点が、原子力推進の動機といえよう。フィンランド世論は、極めて現実的な反応を示しているといえる。

フィンランドと日本には、エネルギー資源がともに乏しいという共通点がある。国家の根幹にかかわるエネルギー問題については、感情論は必要ないどころか、かえって有害である。フィンランドのエネルギー政策と世論の冷静な判断は、日本にとっても大いに参考になるところだ。

原発の新設

現在では、フィンランド国内で、合計5基の原発が稼働している。

そもそもフィンランドにおける原子力発電所の建設は、1970年代に始まったが、そこにも当時の冷戦という国際情勢が、大きく影を落としていた。

南西部にあるオルキルオト島は、スウェーデンの対岸に位置し、スウェーデンで開発された沸騰水型原子炉(BWR)が導入された。これ対して南部の街ロヴィーサでは、ロシア型原子炉(VVER)が建設された。原子力政策においても、東西間でのバランスが図られた。

ロシアによるウクライナ侵略は、フィンランド国内における原子力発電所の建設計画にも影響を与えた。

フィンランド中西部ピュハヨキのハンヒキビ原発では、ロシア製の1号機の建設が、フェンノボイマ社(フィンランド66%、ロシア34%)によって計画されていた。だが、建設許可の申請は2022年5月に取り下げられた。フィンランドは原子力政策についても、ウクライナ侵略を契機として、ロシアへの配慮を捨てて、西側を選択した。

ヨーロッパ最大級の出力を誇るオルキルオト原子力発電所3号機が、2023年4月に本格稼働を開始した。産業界の共同出資により設立されたテオリスーデン・ヴォイマ(TVO)社が建設にあたり、欧州加圧水型原子炉(EPR)が採用された。原発の新設は、フィンランドでは同原発2号機以来で約40年ぶりだった。ヨーロッパ全体で見ても、原発新設は約16年ぶりであった。

加えてロヴィーサ原子力発電所では、1号機と2号機が稼働している。同原発の運転期間については2023年2月に、フィンランド政府によって延長が承認された。2050年まで延長となり、70年間を超えて運転されることとなった。

エネルギー企業フォータムと東京電力の間で、原子力分野についての情報交換協定

ヨーロッパ各国でも、原子力発電について復活の動きが見られる。

スウェーデンも原子力発電所新設へと方針を転換した。ベルギーでは、2025年とされていた原発停止が、ウクライナ危機を受けて10年延長された。一方で、ドイツは2023年4月に、最後の原発3基を停止し、脱原発に至った。

日本でも2023年5月の法改正によって、60年を超える原発の運転が可能となっているが、筆者は、日本としてはドイツよりもフィンランドを参考として、エネルギー政策を組み立てるべきだと考える。現に岸田政権も、原発再稼働、そして原発新設へと舵を切っており、ヨーロッパで言えば、ドイツよりもフィンランドに近い方針を採用しつつある。

原子力分野においても脱ロシアが進められる中で、フィンランドが協力を進めようとしている国が、アメリカである。

2023年4月には、フィンランドとアメリカとの間で、原子力協力を強化するための覚書が署名された。NATOへの加盟という軍事分野だけでなく、原子力という中核的な技術分野でも、フィンランドは、アメリカとの協力深化という道を選択している。

日本とフィンランドの原子力協力も進められている。エネルギー企業フォータムと東京電力の間で、原子力分野についての情報交換協定が結ばれている。

世界一進んでいる核廃棄物最終処分場の建設

核廃棄物管理、使用済み核燃料の最終処分において、フィンランドは世界でも先端的である。

最終処分場の建設について、プロセスの進行を国際的に比較してみると、処分場の建設にまで着手している国は、フィンランドのみである。最終処分場の用地の決定まで終えている国としては、スウェーデンとフランスを挙げることができる。

アメリカも処分場の用地について、ユッカマウンテンに決定している。ただし、政権交代によって方針が一定せず、許認可手続きは中断している。共和党政権は推進しているが、民主党政権は後ろ向きであり、バイデン政権は中間貯蔵を進めていくものと見られている。

イギリス、カナダ、そして日本は、処分場の用地の決定にも至っていないのが現状だ。

フィンランドの核廃棄物最終処分場(オンカロ)は、オルキルオト原子力発電所に併設して建設されている。

オンカロとは、フィンランド語で空洞を意味している。地下400〜450mの岩盤地層において、使用済燃料など6500トンを埋設する計画で、ポシバ社が建設にあたっている。

2016年から建設が進められており、2021年には操業許可が申請された。早ければ2024年下半期には運用が開始される計画となっている。高レベル放射性廃棄物処理施設としては、世界初となる予定だ。10万年にわたる保管が想定されている。2013年には、小泉純一郎元総理が視察した。

処分場建設に至るプロセスに関して、日本はフィンランドを参考にして、一刻も早く前に進めていく必要があるだろう。

文/村上政俊 写真/shutterstock

『フィンランドの覚悟』(扶桑社新書)

村上 政俊

2023/9/1

¥968

224ページ

ISBN:

978-4594094263

世界幸福度ランキング6年連続1位!
教育・福祉・働き方先進国で平和な中立国……
であるはずのフィンランドに
なぜ、徴兵制があるのか?


◎18歳以上の男子に兵役、女性の兵役もOK
◎総人口の16%が予備役
◎国民の82%が「自国が攻撃されたら祖国防衛に参加」と回答
◎憲法で全ての国民に「国防の義務」を規定
◎スウェーデンとロシア帝国による統治
◎フィンランドの英雄は日露戦争へ従軍
◎第二次世界大戦ではソ連と戦い敗戦国に
◎1300キロの陸上国境を接するロシアの脅威
◎ロシアを仮想敵国とした安保体制を整備
◎NATOにスピード加盟できた外交力
◎原発推進でロシアのエネルギー依存回避
◎世界一進んでいる核廃棄物最終処分場の建設

日本では報じられないフィンランドのもう一つの顔!

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