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【漫画あり】「ガチのマッチョから“バカにすんじゃねぇよ!”と思われないように真摯に描く」『筋肉島』がボディビル業界のタブーに挑む理由

集英社オンライン / 2023年9月16日 18時1分

「少年ジャンプ+」で『筋肉島』を連載している漫画家の成田成哲さん。デビュー作『マッチョグルメ』や前作『アビスレイジ』など、異色の漫画を描き続ける成田さんにその制作秘話を聞いた。(前後編の前編)

異色の漫画家の原点は2000本のビデオ

――昨年10月に「少年ジャンプ+」でスタートした『筋肉島』は、己の肉体を突き詰め、筋肉のみで発展した島が舞台となる、かなり個性的な作品です。作者としてはどんなジャンルの漫画と捉えていますか?

成田(以下同) なんだろう……マッスルアクションストーリーみたいな感じですかね(笑)。シュールな部分や独特な世界観をさらっと流しながら、結果的にギャグになればいいなとは思っています。


そこは狙っている部分でもあるので、あえてツッコミもあまり入れていません。みんな、筋肉で頭飛んじゃっていてもいいかなって(笑)

漫画家・成田成哲さん

――描くときに意識していることはありますか?

ガチのマッチョたちから「バカにすんじゃねぇよ!」と思われないように真摯に描こうと思ってます。 例えば、減量ひとつとっても、糖質を省く、脂質を省くなど、いろいろなパターンがあるわけです。それなのに「〇〇が事実で、これ以外はすべて間違い」と言ってしまうと、それが間違いになってしまいます。
最低でも「そういうやり方もあるよね」ぐらいのものを事実として提供できればなという気持ちですね。まあ、あの島の人たちはいきすぎちゃってる設定なので、実際そんな(重量)上がるかよみたいなところはあったりするんですけど(笑)

『筋肉島』より ©成田成哲/集英社

――成田さんのデビュー作でもある、チートデイをテーマにした『マッチョグルメ』(2017)にも「チートデイなんて必要ない」というライバルキャラを登場させて、両者の考え方の違いを描いてましたよね。

そうですね。それぞれのマッチョへの突き詰め方があっていいと思うんです。あのライバルキャラはフランク・ゼーンという実在のボディビルダーの人をモデルにしているんですが、ざっくりいうとアーノルド・シュワルツェネッガーの前にボディビル界で天下を獲った人。

1960年代末~1980年代に活躍した伝説のボディビルダー、フランク・ゼーン 写真/Getty Images

今80歳くらいですが、当時はチートデイなんてやってなかったと思うし、今とは違う鍛え方をしてたんじゃないかと思います。それでも、その肉体はギリシャ彫刻みたいに美しくて、すごく好きな選手だったので描かせていただきました。
ちなみに、シュワちゃんもめっちゃ好きです。私はビデオが2000本ぐらいあるような家で育ったんですが、『ターミネーター』や『コナン・ザ・グレート』を観て、子供ながらに「こんなかっこいい人間がいるんだ!」と思ってました。あまり意識したことなかったけど、もしかしたら筋肉との出会いはそこだったのかもしれません。

女性の肉体美

――作画で筋肉を描くときのこだわりはありますか?

これはいい例として言いたいんですけど、例えば『ドラゴンボール』とかって、人体としてざっくりはあってるけど、あくまで漫画の筋肉なんです。でも、めっちゃかっこよくまとまってるじゃないですか。そういう絵が自分には描けなくて。ここは棘下(きょくか)筋、ここは腹斜筋と、すべて意識して線を引かないと描けないので、存在しない筋肉が描けない、描かないというのはこだわりかもしれないです。

『筋肉島』より ©成田成哲/集英社

――『筋肉島』には身体の大きな族長が出てきますが、あれも実在ベースで考えているんですか?

そうですね。身長2m 50cm、体重270kgを、おそらく体脂肪率8%くらいでキープできる人類は、ほぼ存在しません。でも、もし何らかの奇跡が起きたらありえるかもしれないな、ぐらいのレベルだとは思ってます。過去には身長2m 70cmの人間もいましたし、実際に身長2m 30cm、体重180kgぐらいで筋肉をキープしたかっこいい体のプロレスラーもいました。だから、可能性がゼロではなく、0.0000……1%でもあれば、描けるんですよね。

『筋肉島』より ©成田成哲/集英社

――族長の娘であるシーラもマッチョですが、女性キャラクターの場合は女性ビルダーを参考に?

どちらかというと、オリンピックに出るような女子バスケットボール選手や女子陸上選手ですね。アリソン・フェリックスというアメリカの陸上選手の肉体が美しすぎて、よく参考にしていました。

――先日、カーリングの藤澤五月さんが、ボディメイクコンテストに挑戦したことが話題になりましたが、異性としてもああいった鍛え上げられた身体に惹かれたりしますか?

スポーティな女性は大好きなんですけど、コンテストに向けて皮一枚にまで仕上がったボディビルダーを見ると、たぶん女性ではなく「マッチョ」として認識してしまって、恋愛対象という風には見えなくなってしまう気がします(笑)。もちろん、そこまで絞るのはコンテストのときだけですけど、個人的にはやっぱり女性は体脂肪が少し残っているくらいがいいなと……。

ただ、藤澤さんの挑戦は素晴らしいと思います。転向していきなりあそこまで仕上げてきたのはすごい。やっぱり、スポーツで上に行く選手は頭がいいし、きちんと調べて、その知識を実行するということに優れているんでしょうね。

「この漫画の筋肉はすごい!」と思う4作品

――描いていて好きな筋肉の部位はありますか?

前鋸(ぜんきょ)筋と腹斜筋が好きなんです。 アバラの辺りに前鋸筋と腹斜筋が網目状にクロスする形でついていて、人体としてすごく違和感がある。人間の一部が網目状になってるって気持ち悪いじゃないですか。でも、それがしっかり決まると、すごくかっこいいんです。その部位をしっかり描いている漫画を見ると「お前、筋肉好きだな!」と思います(笑)

成田さん自身もふだんからボディメイクに励んでいる

――成田さんから見て、筋肉の描写がすごいと思う漫画は?

『TOUGH』の猿渡(哲也)先生はやばいです。あとは『Dr.STONE』のBoichi 先生(作画担当)に、『ベルセルク』の三浦(建太郎)先生……ちょっとベクトルは違うけど、『グラップラー刃牙』の板垣(恵介)先生もすごいですね。

――『筋肉島』を読んだ人に「自分も鍛えたい」と思ってもらいたいですか?

思ってほしいですね〜。皆さんも筋トレしましょう、健康寿命が延びますよ! ただ、これもまたすごく難しい話で、筋トレをしてる人たちには、健康になりたいライト層と、その先で「俺はマッチョになる!」と思っているヘビー層がいるじゃないですか。そのディープな人たちは健康なんて考えてないんですよね。俺も、血管ぶちぶちになって耳鳴りさせながら「こんなのが健康にいいわけねーだろ!」と100kgくらいのベンチプレスを上げてますから(笑)。

だから、マッチョがステロイドの健康被害を言うことも、個人的にすごく違和感があって。 トレーニングで関節ブッ壊しちゃう人もいるし、筋肉断裂してるみたいな人もいるし、極端な例では、コンテストに出れなくなるからと、目の治療のための薬を拒否して、片目が見えなくなった人もいるんですよ。 そういう人たちが健康を気にしている訳がないのに、ステロイドだけは「健康被害」と言われている。この問題もこれから漫画に描きたいなと思っていて。

ボディビル界のステロイド問題

――先日、Twitterで「どうしても触れなきゃいけないけど取り扱いが難しいエピソード」とおっしゃっていたのはそのことですか?

そうですね。実はプロのボディビルダーはステロイドを使ってる人が多いんです。

でも、アマチュアには使ってない人が多い。というのも、コンテストの表向きのルールでは「健康被害」を主な理由にステロイドは禁止ということになっているんです。
ユーザーたちは「ステロイド使ってま〜す」と公言した瞬間にコンテストに出られなくなるので、公言しない人が多いんです。
今そういう意味のわからない界隈になってしまっているので、ちょっとだけそこに踏み込みたいんですよね。

『筋肉島』より ©成田成哲/集英社

――そこに一石を投じるというのはやはり勇気がいりますか?

そうですね。でも、最強のマッチョが出てくる漫画で、ドーピングの話がいっさいでてこないのもおかしいですから。俺は使わないけど、個人的には打ってる人も、打ってない人も死ぬほど頑張ってるんだから、いいじゃんと思うんですよ。
それよりも、みんなが争ってるのを見るのがイヤで。だから漫画でもなるべく両側からの意見をぶつけ合えたらなと思っています。それで何かを解決したいとかいうことではないですが、問題提起として何かのひとつのきっかけになればうれしいですね。

【漫画】『筋肉島』(第1話)を読む(漫画を読むをクリック)

#2へつづく

#2

取材・文/森野広明 撮影/村上庄吾

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