【漫画あり】「全然おもしろくないね。週刊連載の漫画家が1年に何ページ描いてるか知ってる?」漫画家・成田成哲のデビューへの道筋となった担当編集の忘れられない一言
集英社オンライン / 2023年9月16日 18時1分
「少年ジャンプ+」で連載中の『筋肉島』の作者・成田成哲さん。今では人気漫画家となったが、デビューまでの道のりは波乱万丈だったという。(前後編の後編)
漫画家デビューまでの道のり
――成田さんが漫画家になるまでの経歴を教えてください。
成田(以下同) 8歳か9歳のころに父親が夜逃げをして、母親がめっちゃ働いていたんですが、俺が10歳のときに働きすぎたのか病気で亡くなってしまって。そこからは叔母に引き取られて暮らしていました。その人が映画と漫画が好きな本当に素晴らしい人で、まずその叔母の影響がかなり大きかったですね。
中高一貫の全寮制の男子校に通っていたんですが、中学の卒業時期の進路決めのときに、叔母に初めて漫画家になりたいと話しました。それまでほとんど反抗もしたことなかったけど、「ちょっと絵が描けるからってなれるもんじゃないんだぞ」と本気で言われて、初めて「夢を目指すこともダメなのか?」って反抗したんです。それからは漫画系の美術大学にも進学させてくれて、本当に感謝しかないですね。
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漫画家・成田成哲さん
――今、漫画家になってかなり喜んでくれているんじゃないですか?
それが『マッチョグルメ』で初連載が決まったと連絡をしてから1、2か月後に亡くなってしまったんですよ。だいぶ前の話なので自分の中で消化はできてるんですけど、実際に描き上げた漫画を見せたかったですね。
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デビュー作『マッチョグルメ』より ©成田成哲/集英社
――漫画家としてのキャリアはどう始まったんですか?
大学卒業後には、もう実家の町工場に就職しようかと考えていたんですが、「最後に!」とヘタな漫画をいくつかの出版社に持ち込んでみたんです。そのときの秋田書店の人がめちゃくちゃいい方で、まあ「全然面白くないね」と言われたんですけど、「週刊連載の漫画家が1年に何ページ描いてるか知ってる? 1000ページだよ」「本当に漫画家目指したいんだったら、ここから死に物狂いでやんないとダメだよ」って激励の言葉をたくさんもらったことを今でも憶えています。
その帰り道、1時間半くらいかかるんですが、まるまる1本のストーリーができたんです。それから叔母に「すみません、3か月だけ時間をください」と頭を下げて、本気で筋肉や漫画の勉強をしまくって初めて描いた作品でヤングジャンプの担当さんがついて、一緒に取り組んだ漫画が受賞できたのが始まりですね。
担当編集からの忘れられない一言
――そもそもは『ヤングジャンプ』だったんですね。
そうなんです。そのときの担当さんは編集部にはもういらっしゃらないんですが、ネームがどれだけ浅くても、とりあえずめちゃくちゃ原稿を描かせてくれました。その時期に400ページくらい描いて、めっちゃうまくなったと思うので結果的によかったですね。
――『ジャンプルーキー!』(ジャンプでデビューできるマンガ投稿サービス)にも投稿をしていたそうですね。
そうですね。そのときに描いた原稿がたくさん残っていたので、余った原稿でも投げてみるかとやってみたら、すぐに「受賞しました」って電話がきたんですよ。実は、当時他の出版社で話が進んでたんですが、「からかい半分で行ってみるか」と打ち合わせに行ったら、めちゃめちゃいい担当さんで「少年ジャンプ+」にきちゃいました(笑)。
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『筋肉島』より ©成田成哲/集英社
――それが今の担当さんですか?
今の担当さんは『筋肉島』からですね。 実は『筋肉島』もはじめは別のところでやろうとしていたんです。ただ、今の担当さんともやりとりしている中で、あるとき「筋トレを始めた」って言うんですよ。それを聞いて「うわぁ、この漫画…筋トレしてる人と描きてえ!」と思って、こっちに持ってきました(笑)。
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『筋肉島』より ©成田成哲/集英社
おかげで本当にマッチョじゃないと考えられないような煽り文をつけてくれますし、筋肉ネタも提供してくれますし、素晴らしいです。今日も会って第一声が「体重増えました?」でしたから(笑)。エレベーターの中でも「ちょっとダーティバルクで増やしまして」「あー、なるほど。さすがですね」ってトレーニーみたいな会話をしていて、周りにいた方はたぶん漫画家と担当編集とは思わなかったでしょうね。
本当に描きたい漫画
――成田さんは漫画の投稿時間をデータにまとめていたり、ネーム会議に毎回2本出したりと、意外と戦略的な一面がありますよね。
当時の自分は、漫画を人生賭けたゲームだと思ってたんですよ。攻略サイトを見てどっちの武器がダメージ出るかなみたいな感覚でした。どの時間帯に投稿したら数字がいいかデータを取って、また投げてと繰り返してランキングを荒らしまくっていたので、そりゃ電話も来るわなと思います。自分より面白い漫画もあったと思いますけど、自分のほうがちょっと狡猾だったというか。
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『筋肉島』より ©成田成哲/集英社
――それは連載を取ってからもやっているんですか?
『アビスレイジ』(2018〜2021)の時はやってました。一時期、『地獄楽』がライバルみたいな数字だったので、『地獄楽』の「いいジャン!(読者による評価)」が伸びている回の引き方などを分析して、それを自分なりに展開に取り入れるみたいなことをずっとやっていて。『アビスレイジ』は1話目の閲覧が50万くらいだったんですが、連載終了時は68万ぐらいまで伸びたので、まあまあの効果はあったかもしれないですね。
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『アビスレイジ』より ©成田成哲/集英社
――もともと描きたかった格闘漫画から筋肉漫画に寄っていったのも、ある種の戦略だったのでしょうか?
そうですね(笑)。ただ、いまだに本当に描きたいのは格闘漫画なんです。ネームを2本出していたのも、1本は自分が本当に書きたい純な格闘漫画で、もう1本は筋肉に何か別の要素を足したような企画もので分けていました。1回目以降はすべてその横にそれたものが掲載になっていたので、「こっちかぁ」って思いながらやってましたね。
――そこは我を通すのではなく、やっぱり売れてナンボという考えですか?
新人で金に余裕があるわけでもなかったので、早く連載を通さなきゃなと思ってた部分もありました。でも次は我を通したいですね。純に描きたいものを、質を高めてやってみたいです。
今、一番会ってみたいマッチョは…
――ちなみに、成田さん自身も漫画の登場人物のようにマッチョですが、本格的に筋トレを始めたのはいつからですか?
3年前くらいですね。当時は69kgくらいでめっちゃ細かったけど、今は78、79kgぐらい。今日はインタビューがあるので、食生活を少し変えて、1週間で4kgほど増量してきました(笑)
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『筋肉島』より ©成田成哲/集英社
――漫画家は多忙な仕事だと思いますが、トレーニングとの両立は大変じゃないですか?
筋トレって時間効率がめちゃくちゃいいんですよ。短縮メニューを組めば一日20分くらいで済みますから。あとは家に32kgぐらいの可変ダンベルがあるので、それを使って家トレをしたりもします。
――食事にも気を遣っていますか?
最近はジャガイモ1.2kgと鶏肉700gを炊飯器で炊いて、1日に5回か6回に分けて食べてますね(笑)。それにプラスしてプロテインみたいな感じかな? 今は増量をしているのでそんなですけど、常にではないですよ。
――それこそ、ボディビルコンテストへの出場には興味ないんですか?
落ち着いたらですね。連載をしながら大会に出るのはたぶん無理です。本当に人間じゃない生活になっちゃうので(笑)。
――漫画家としてのこの先の目標も聞かせてください。
純な格闘漫画で連載を獲りたいです。あとはメディア化ですかね。アニメかドラマかと思うんですけど、それが目標です。
――取材でマッチョ関係の方に会う機会もあると思いますが、今会ってみたい人はいますか?
そうですね……あ! なかやまきんに君には会ってみたいです。
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なかやまきんに君(本人インスタグラム@nakayama_kinnikunより)
たぶんベンチプレス140kgとかあるはずなんですよ。あんな芸風だけどちゃんとマッチョしてるのが素晴らしいですよね。それこそ自分の仕事とマッチョを両立しているハイブリッドな方なので、ぜひお話が聞けたらなと思います。
【漫画】『筋肉島』(第2話)を読む(漫画を読むをクリック)
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取材・文/森野広明 撮影/村上庄吾
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