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約6割の子どもが勉強を中断して即レスしてしまうスマホのメッセージの罠。通知音だけでも集中力が低下する驚くべき実験の事実

集英社オンライン / 2023年9月21日 11時1分

スマホを使用する時間の長い子どもの学力が低くなる可能性の高さは、昨今の常識となりつつある。スマホによって勉強の時間が少なくなったり、睡眠の質が悪くなったりすることが原因だと思われているが、実態はもっと深刻だった。『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

約6割の子どもは勉強を中断し、スマホを手に取り返信

インスタントメッセージの使用と子どもたちの学力には、どのような関係があるでしょうか?

仙台市の調査の中で、「携帯電話・スマホなどでメールやメッセージのやりとりをするとき、どれくらいの時間で返事をしなければいけないと思っていますか」という質問をしています。

2017年度の結果を見ると、「すぐに返す」と回答した子どもたちが29.4%、「30分以内」が22.0%、「1時間以内」が7.9%、「その日の内に」が27.9%、「翌日以降でもかまわない」が12.8%でした。



私の個人的な感覚では、「1時間以内」でも返信が早いなと思ってしまいます。子ども社会の中で生き残るためには、やはり「LINEは即レス」が常識なのでしょうか。

「すぐに返す」「30分以内」「1時間以内」を合わせると、59.3%になります。仮に1日1時間勉強する子どもがいたとして、勉強中に友人からメッセージが届いたとしたら、約6割の子どもは勉強を中断し、スマホを手に取り返信をしているという計算になります。

[図2-11]は、スマホを持っている子どもたちについて、LINE等のインスタントメッセージの使用時間と学力の関係を調べた結果を表しています。

図2-11 インスタントメッセージの使用時間と学力の関係。『スマホはどこまで脳を壊すか』より

縦軸に「テストの成績」、横軸に「インスタントメッセージの使用時間」をとっています。インスタントメッセージの使用時間が長い子どもたちほど、明らかに学力が低くなっている様子が見てとれます。

しかも、[図2-2]でスマホ等の使用と学力の関係を示したグラフでは見られた、「1時間未満」の山がなくなってしまいました。この結果から、インスタントメッセージは使えば使うほど学力に悪影響があるといえます。

図2-2 スマホ等の使用時間と学力の関係。『スマホはどこまで脳を壊すか』より

「会話のラリー」というインスタントメッセージの罠

インスタントメッセージを使用する子どもたちは、どうして学力が低いのでしょうか?

まずはインスタントメッセージの特徴について考えてみましょう。最初に挙げられる特徴は文章の長さです。

インスタントメッセージでのやりとりは、従来のメールと比べて短い文章で行なわれます。メールよりもチャットに近いような感覚です。短文に加えて、LINEの場合はスタンプと呼ばれるイラストによってやりとりもできます。

このように、短文とスタンプを中心としたやりとりになるため、従来のメールよりも会話のラリーの数が多くなります。つまり、それだけスマホに通知が届く回数が多くなるわけです。

もう一つ、通知の回数が増える要因として考えられるのが、グループトークの機能です。

インスタントメッセージは、従来のメールと同じような1対1に加えて、複数人が一つのグループに入って同時にやりとりができる、グループトークという機能があります。

例えば家族やクラスメイトでグループを作り、自由にメンバーを招待することができます。LINEの場合、最大500人のグループを作ることができるそうです。当然ながら、グループの人数が増えるほど、やりとりの回数が増えます。場合によっては、少し目を離した隙にLINEの通知が何百件と溜まっていることもあります。

最後に、自分がメッセージを読んだことが相手へ即座に伝わる「既読」機能が挙げられます。「既読」したにもかかわらず、返信をしないことは「既読無視」と呼ばれています。ちなみに、どちらもしないことを「未読無視」と呼ぶようです。

このように、インスタントメッセージを使っている人たちの中には、「返信がない」イコール「無視されている」という認識を持っている人が少なからず存在しているわけです。そのため、メッセージを受け取ったら、相手に無視されたと思わせないように、「早く返信しなくては……!」という焦りが生まれてしまうのです。

通知音が鳴るだけで低下する集中力

そこで私たちは、インスタントメッセージの通知がもたらす精神的な焦りや不安などが、子どもたちの勉強中の集中力を下げているのではないかと考えました。

東北大学の学生さんたちにご協力いただき、平均年齢約22歳の大学生21人を対象に、LINEの通知音が集中力に与える影響について調べました。

実験には同性の友人同士の3人組で参加してもらいました。まずは10分間、3人で自由にLINEのグループトークをしてもらい、その後に、3人のうち1人だけ別室で集中力を測る心理検査を受けてもらいました。

検査は、パソコンの画面に「〇」が表示されたらできるだけ早くボタンを押す、「×」が出たらボタンを押してはいけない、という単純なものです。やることは単純なのですが、いつ画面にマークが出るのかわからないので、集中して画面をじっと見続けなくてはいけません。

実際にやってみると、かなりの集中力を要する課題なのです。パソコンで課題に取り組んでいる間、学生さんの背後に自分のスマホを置いてもらいました。そして、「課題中はスマホを触ってはいけません」という指示をしました。実際の実験室の様子が[図2-12]の上の写真です。

図2-12 通知音と集中力についての実験の様子。『スマホはどこまで脳を壊すか』より

検査をしない残りの2人には、LINEでグループトークを続けてもらいました([図2-12・下])。すると、パソコンで集中力を調べる課題に挑戦している学生さんの背後のスマホに通知が届き、音が鳴ります。しかし、検査中のため見ることができません。このようにして、「勉強中にLINEの通知が届いて、気になってしょうがない……!」という状態を実験室の中で再現したのです。

対人関係に抱く不安の傾向が高い人ほど、通知音によって集中力が下げられる

音が鳴って集中力が下がるのは当たり前のことなので、LINEの通知音と同じ頻度でアラームの音を鳴らす条件下でも検査を行ない、集中力の指標を比べました。

解析の結果、アラームの音を鳴らしたときと比べて、LINEの通知が鳴ったときの方がボタンを押すまでの平均時間が長くなりました。さらに、素早く押せたり、気を取られて遅れてしまったりするような、ボタンを押すまでの時間のばらつきが大きくなっていました。これらの結果から、LINEの通知音は集中力を下げていることがわかりました。

さらに、「早く返信しないと嫌われちゃう……!」といった、対人関係に抱く不安の傾向が高い人ほど、通知音によって集中力が下げられる程度が大きいことも明らかになりました。

この実験のポイントは、実際にスマホを操作しているわけではないというところです。

「ながら勉強」をしていなかったとしても、勉強中にスマホが机の上にあって、通知が届くだけでも、集中力が下がってしまうということを意味しています。

この実験の結果からも、やはり「勉強中はスマホの電源を切ってリビングなどに置き、目に入らないようにする」ということを徹底するべきだといえます。


文/榊 浩平

『スマホはどこまで脳を壊すか』 (朝日新書)

榊 浩平 (著)、川島 隆太 (監修)

2023/2/13

¥935

256ページ

ISBN:

978-4022952035

【「脳トレ」の川島研究室が緊急提言】
スマホに依存しすぎると
思考の中枢「前頭前野」がやられる!

「ものを考えられない」
「何かに集中することができない」

スマホ依存を放置した先に待つのは、
認知症予備軍の人たちであふれる社会か!?
スマホを常用し、脳に“ラク”をさせていると、
成長期の子どもなら脳発達が大きく損なわれ、
成人なら不安・抑うつ傾向が高くなることが明らかに。
最新研究で見えてきた衝撃の未来。


■目次
はじめに スマホは人を幸せにするのか?

第1章 思考の中枢を担う前頭前野を守れ
脳は領域によって機能を分担している/大脳には四つの部屋がある/前頭前野の大切な役割①認知機能/前頭前野の大切な役割②コミュニケーション/脳の活動を観察する方法―脳機能イメージング/10代の過ごし方がその後の脳を左右する/加齢によって萎縮が早く進んでしまう前頭前野/前頭前野はどうしたら鍛えられるのか?

第2章 スマホはここまで学力を破壊する
私たちの生活の一部となった「オンライン習慣」/「インターネット依存」とアルコール依存の類似性/スマホの使いすぎが子どもたちの学力を「破壊」/勉強してもよく寝ても「3時間以上のスマホ」で台なしに!/スマホの使用時間を減らせば成績アップ/スマホ横目に3時間勉強しても成果は30分/「ながら」という悪癖/「会話のラリー」というインスタントメッセージの罠/通知音が鳴るだけで低下する集中力/スマホやタブレットでの学習は脳がはたらかない?/インターネットを使い続けた、衝撃の3年後

第3章 オンライン・コミュニケーションの落とし穴
コロナ禍におけるコミュニケーションの変化―対面からオンラインへ/コミュニケーションとは?/ヒトにとってコミュニケーションは必要不可欠/親子での会話が子どもの健やかな脳を支える/人間の脳には負荷が必要/オンラインと対面ではコミュニケーションの質が違う/「つながっている」と感じるとき、脳と脳も同期する/なぜ人混みの中でも足並みを揃えて歩けるのか?/授業形式によって子どもの脳活動は変わる

第4章 オンラインでは脳は「つながらない」
「ひとりでボーッとしている状態と変わらない」/「誰と」で変わるコミュニケーションの質/老若男女を問わず盛り上がる話題とは?/2019年に始まった実験が予期せぬ方向へ/「オンラインでは何かが足りない」から浮かんだ仮説/なぜオンライン会話では脳が同期しないのか?/画面越しの映像はパラパラ漫画と同じ/オンラインは「きっかけ」で「つなぎ」

第5章 スマホ漬けの脳はどうなるか
オンライン習慣の先に見える未来/将来の認知症リスクを高める可能性/リスク要因① 学習の質が低下/リスク要因②うつ病とSNS/リスク要因③「つながる」はずが孤独に/リスク要因④ごろごろして運動不足に/「リスク」をどのように受け止めますか?

第6章 すぐ始められる脱オンライン習慣のススメ
私たちの生活はオンラインなしには成り立たないのか?/脱オンライン習慣の効果―国内外の実例/言うは易く行なうは難し?/最大の拷問はプロ野球の速報/紙の地図頼りのドライブに初挑戦/今日からできる脱オンライン習慣のススメ/オンライン習慣との上手な付き合い方

おわりに 前頭前野の「自己管理能力」でスマホから身を守れ!

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