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1980年以降に生まれた世代は認知症リスクが6倍に? スマホが加速させる認知症のリスク要因、オンライン習慣がもたらす怖すぎる未来

集英社オンライン / 2023年9月23日 11時1分

日常的にインターネットを使用している1980年以降に生まれた世代が65歳以上人口の多数を占める2060年には、認知症のリスクが4〜6倍になる可能性もあるといった試算がカナダの研究者によってされている。スマホなどの使用によるオンライン習慣が、なぜ認知症のリスクを高めるのか。『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

教育歴不足が認知症のリスク要因となる

国際的な専門家からなるランセット国際委員会の報告によると、認知症には12のリスク要因があることがわかっています。

12のリスク要因とは、「15歳までの教育歴不足」「難聴」「頭部外傷」「高血圧」「飲酒」「肥満」「喫煙」「うつ病」「社会的孤立」「運動不足」「大気汚染」「糖尿病」です。リスク要因のうち、オンライン習慣と密接に関わっていると考えられるのは、「15歳までの教育歴不足」「うつ病」「社会的孤立」「運動不足」です。



日本は中学校までが義務教育ですから、「15歳までの教育歴」という条件は、すべての人が満たしているはずです。

しかし、スマホ等のデジタル機器を使用したオンライン習慣によって、教育の「質」が低下してしまう可能性があります。

スマホ等のデジタル機器をたくさん使っていた子どもたちは、学力が低く脳の発達が止まっていました。つまり、小・中学生までの期間にスマホ等のデジタル機器を使っていた子どもたちは、「15歳までの教育」が十分になされていないという見方ができるかもしれません。

教育歴不足が認知症のリスク要因となる理由として、「脳予備能」「認知予備能」という仮説があります。

「予備能」とは、老化や損傷などによって脳が病理的に変性してしまったときに、脳の機能を保つ防御的な能力、耐性のことをいいます。

「脳予備能」は、脳の物理的な大きさ(容積、重量など)がもたらす耐性を指します。単純に、脳の神経細胞の数や神経細胞のつながりの数が多く、脳が発達している人ほど、脳の変性に対して耐性があるということです。

「認知予備能」は、認知機能の高さ、教育歴、知的な職歴、充実した余暇活動、運動習慣などがもたらす耐性を指します。元の認知機能が高く、日頃から知的な活動を通して脳を使っている人ほど、脳の変性に対して耐性があるということです。

アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病による脳神経の変性が原因で、引き起こされる認知機能の障害です。

一方で、神経病理的にはアルツハイマー病になっていたとしても、認知症の症状が見られない患者さんも存在するのです。このような、アルツハイマー病になっても認知症を発症しない人たちは、「脳予備能」や「認知予備能」が高いということがわかっています。

オンライン習慣によって、脳が本来発達するはずのところまで発達しきらなかった子どもたちは、「脳予備能」が低く、それだけ将来の加齢にともなう脳の萎縮に対して脆弱である可能性が考えられます。

また、成人期のオンライン習慣によって、前頭前野を使わない生活習慣を送っている人たちは、「認知予備能」が低く、脳の萎縮に対して脆弱であるといえるでしょう。

このように、オンライン習慣が学習の質を低下させ、脳の萎縮への耐性を下げてしまい、将来の認知症リスクを高めてしまう可能性があると考えられます。

インターネット依存傾向とうつ病の有病率

続いての認知症リスク要因は「うつ病」です。厚生労働省の「平成30年版厚生労働白書」によると、うつ病を含む気分障害の患者数は年々増加しており、2017年時点で127.6万人と推計されています。1996年時点の患者数が43.3万人となっており、約20年間で3倍近くも増加していることになります。

オンライン習慣とうつ病の関係については、インターネットが普及し始めた1990年代当時から、米国のキリバリー・ヤング博士らによって指摘されていました。インターネット依存症テストを考案した博士です。

その後、世界中で同様の研究結果が報告され、2004年から11年の間に四つの国と地域で行なわれた八つの研究結果を統合した研究でも、インターネット依存傾向とうつ病の有病率の関係が示されています。

合計1641人のインターネット依存傾向の高い人たちを分析した結果、依存傾向の低い人たちのうつ病の有病率が11.7%であったのに対し、依存傾向の高い人たちは26.3%と2倍以上も高いことを報告しています。

さらに、年代別に分けて解析した結果、インターネット依存傾向の高い40代以上の中高年で最も有病率が高く、35.8%となっていました。

どうしてインターネットをたくさん使用する人たちは、うつ病の傾向が高くなるのでしょうか?

SNSの投稿と自分自身を比べてしまう人たち

その理由の一つとして、SNSの使用が考えられます。2012年から18年までに発表された33報の論文を統合した研究では、SNSの使用とうつ病の傾向に関係があることが報告されています。

合計1万5881人を対象に行なわれた研究を解析した結果、SNSの使用時間が長いほど、またSNSを頻繁に確認するほど、うつ病の傾向が高いことがわかりました。特にSNSの投稿と自分自身を比べてしまう人たちほど、うつ病の傾向との関係が強く見られました。

米国では、89人の大学生を対象に、Facebookの使い方と幸福感の関係を調べる実験が行なわれました。6日間にわたり、参加者に1日5通のメッセージを送り、Facebookの使用状況と幸福感を尋ねました。

解析の結果、自分の近況などを投稿する能動的な使い方をした場合と比べて、他人の投稿を見るなど受動的な使い方をした場合に幸福感が低くなることがわかりました。さらに、他人の投稿を見た場合の嫉妬心が幸福感の低下を媒介していました。

SNSの投稿は、人生の上澄みです。誰しも自分が最も輝いている瞬間を切り取って、SNSへ投稿しています。ときに写真も、不自然なまでに綺麗なものへと加工されています。

そんな他人の人生の最大値と、自分自身の平均的な日常を比較しても、見劣りしてしまって当たり前です。それでも私たちは、SNS上のキラキラとした世界と自分を比較して、勝手に落ち込んでしまうのです。

ブルーライトで睡眠に悪影響、睡眠不足でうつ病のリスクが1.31倍に

もう一つの理由として、オンライン習慣による睡眠への影響が考えられます。1990年から2018年の間に14の国と地域で行なわれた23件の研究結果を統合した研究によると、合計3万5684人のデータを解析した結果、インターネット依存傾向の高い人は健康な人と比較して睡眠時間が短く、睡眠の質も低いことが報告されています。

オンライン習慣が睡眠に悪影響を与える理由として、ブルーライトの影響が考えられます。ブルーライトとは、目に見える光に含まれる、波長が約390〜495ナノメートル(10億分の1メートル)の青い光の成分を指します。

ブルーライトは太陽の光の中にも含まれており、日没や夜明けを通して私たちの睡眠と覚醒の周期(概日リズムといいます)を支える役割を担っています。夜になって日が沈み辺りが暗くなると、脳の中でメラトニンというホルモンが分泌されます。

メラトニンが分泌されると、私たちは眠くなって寝床へ向かいます。朝、太陽の光を浴びるとメラトニンの分泌が抑えられ、目が覚めます。

目に見える光の中でも、ブルーライトは特にメラトニンの分泌を抑える作用が強いことがわかっています。ブルーライトを浴びると、私たちの脳は「朝だ、起きる時間だ」と感じるわけです。

デジタル機器の液晶画面から出る光には、特にブルーライトが多く含まれています。そのため、夜にデジタル機器を操作してブルーライトを浴びてしまうと、メラトニンの分泌が抑えられ、私たちの脳は「まだ起きていなくてはいけない時間だ」と勘違いしてしまうのです。

1997年から2014年の間に日本と米国で行なわれた7件の研究結果を統合した研究によると、合計2万5271人を対象とした追跡調査を解析した結果、通常の睡眠時間(5〜8時間)の人たちと比べて睡眠時間が5〜7時間より短かった人たちは、うつ病のリスクが1.31倍に増加していたことを報告しています。

これらの研究結果を考え合わせると、オンライン習慣が睡眠に悪影響を与え、うつ病につながり、将来の認知症リスクを高めてしまう可能性があると考えられます。

「つながる」はずが孤独に

SNSは人と人とをつなぐ、文字通り「社交的な(social)」ツールですから、SNSを使えば認知症リスク要因の一つである「社会的孤立」を解決することができるのではないかと、お考えの方もいるかもしれません。SNS上のつながりは、本当に誰かと「つながっている」という感覚を私たちに与えてくれるのでしょうか?

内閣官房が2021年に実施した「人々のつながりに関する基礎調査」の結果を見てみましょう。

同居していない家族や友人たちと「直接会って話す」頻度について、「全くない」と答えた人たちのうち、孤独であると感じている(「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」という質問項目に対して、「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」と回答した)人の割合は、48.6%でした。

週4〜5回以上、直接会って話す機会がある方々の場合は、28.7%でした。やはり、対面コミュニケーションの頻度が低い人ほど孤独で、頻度が高くなると孤独感は低くなることがわかります。

次に、SNS(LINE等)をする頻度について「全くない」と回答した人たちでは、孤独であると感じている人の割合は39.1%でした。週4〜5回以上、SNSをする方々の場合は、33.1%でした。対面コミュニケーションと比べて、SNS使用の頻度と孤独感の関係は顕著に見られませんでした。
つまり、対面コミュニケーションには孤独感を減らす効果がありますが、SNS上のやりとりはその効果が薄いのです。やはり、オンライン・コミュニケーションは直接会うまでの「つなぎ」に過ぎないといえるでしょう。

香港では、平均年齢約21歳の大学生361人を対象に、インターネット依存傾向と孤独感の因果関係を調べるために、追跡調査が行なわれました。この研究では、インターネット依存傾向、孤独感、対面またはオンラインでのコミュニケーション頻度を尋ねるアンケート調査を4カ月間隔で2回行ないました。

解析の結果、初回アンケートの時点でのインターネット依存傾向の高さが、4カ月後の孤独感の高さに影響を与えていることがわかりました。さらに、対面コミュニケーションの頻度が高いほど孤独感が低く、インターネット依存傾向も低くなることが明らかになりました。一方で、オンライン・コミュニケーションは孤独感に影響を与えず、インターネット依存傾向を高めていました。

このように、オンライン・コミュニケーションは「社会的孤立」の解決にはつながらず、インターネット依存傾向を高め、逆に孤独を感じてしまい、将来の認知症リスクを高めてしまう可能性があると考えられます。

座位行動による心身の健康に悪影響

みなさんはどんな体勢でパソコンやスマホを使っていますか?

おそらく多くの方は座った状態で使用したり、スマホならごろごろした状態でいじったりしているかと思います。座った状態や寝転んだ状態で行なう活動を、医学分野では「座位行動」といいます。

オーストラリアで行なわれた20の国と地域を対象とした国際調査によると、日本は世界で最も座位時間が長く、1日あたり約420分を座った状態で過ごしています。起きている時間の半分以上を占める計算になります。

長い時間を座ったり寝転んだりした状態で過ごすことは、心身の健康に悪影響を与えることが知られています。

1998年から2012年までに発表された七つの国と地域で行なわれた18報の論文を統合した研究では、合計79万4577人を対象とした研究を解析した結果、座位時間の長い人は糖尿病のリスクが2.12倍、心血管疾患のリスクが2.47倍、総死亡リスクが1.49倍に増加すると指摘されています。

また、2003年から13年までに発表された13の国と地域で行なわれた20報の論文を統合した研究では、合計19万3166人を対象とした研究を解析した結果、座位時間の長い人はうつ病のリスクが1.25倍に増加すると指摘されています。

座位行動の種類別に解析すると、テレビ視聴によるリスク上昇は1.13倍、パソコンなどでのインターネット使用によるリスク上昇は1.22倍でした。

このように、オンライン習慣によって長い時間を座ったり寝転んだりした状態で過ごしてしまうと、間接的ではありますが、認知症のリスク要因である「肥満」「糖尿病」「うつ病」などの傾向が高くなってしまう可能性があると考えられます。

子どもは毎日1時間以上の運動をして筋肉や心肺機能を育てていくことが必要

健康的な生活を送るためには、どの程度の運動習慣が必要なのでしょうか?

世界保健機関(WHO)は年齢層ごとに推奨される運動習慣についてガイドラインを発表しています。

5〜17歳の子どもたちは、1週間を通して1日あたり60分の有酸素運動と週3回の筋力増強運動が推奨されています。やはり、身体が急速に成長していく期間の子どもたちにとっては、毎日1時間以上の運動をして筋肉や心肺機能を育てていくことが必要であるといえます。

課外の部活動で運動部に在籍している子どもたちは、特に意識せずとも推奨される目標を達成していると思います。一方で、文化部や、部活動をしていない子どもたちは、登校前や放課後の時間にランニングをするなど、意識的に運動習慣を取り入れる必要があるでしょう。

18〜64歳の成人は、1週間あたり中強度の有酸素運動を150〜300分または高強度の有酸素運動を75〜150分と、週2回の筋力増強運動が推奨されています。中強度の有酸素運動は、ウォーキングや社交ダンスのような、息の上がらない程度の運動を指します。高強度の有酸素運動は、ランニングや水泳などのやや激しい運動を指します。各々の体力や筋力に応じて、無理のない強度の運動を組み合わせて取り入れるといいでしょう。

また、生活の中でちょっとした運動習慣をつけることも有効です。例えば、数階分であればエレベーターやエスカレーターではなく階段で昇り降りをする、短距離なら歩いて移動するなど、日常的に中強度の有酸素運動を簡単に取り入れることができます。

65歳以上の高齢者は、成人の推奨される有酸素運動と筋力増強運動に加えて、転倒による怪我などを予防するため、バランス感覚を鍛える動きを取り入れたマルチコンポーネント運動を週3回行なうことが推奨されています。

手軽にできるバランス運動は、片足立ち、かかと・つま先立ち、横歩き、後ろ歩きなどがあります。特殊な器具なども必要なく家の中でもできますし、お散歩がてら近所の公園に出かけて行なうのもいいでしょう。

より本格的なバランス運動としては、ヨガや太極拳などが知られています。趣味の一つとして取り入れて、例えば教室に通って新しい友達ができれば、認知症のリスク要因である「社会的孤立」を防ぐことにもつながるといえるでしょう。


文/榊 浩平

『スマホはどこまで脳を壊すか』 (朝日新書)

榊 浩平 (著)、川島 隆太 (監修)

2023/2/13

¥935

256ページ

ISBN:

978-4022952035

【「脳トレ」の川島研究室が緊急提言】
スマホに依存しすぎると
思考の中枢「前頭前野」がやられる!

「ものを考えられない」
「何かに集中することができない」

スマホ依存を放置した先に待つのは、
認知症予備軍の人たちであふれる社会か!?
スマホを常用し、脳に“ラク”をさせていると、
成長期の子どもなら脳発達が大きく損なわれ、
成人なら不安・抑うつ傾向が高くなることが明らかに。
最新研究で見えてきた衝撃の未来。


■目次
はじめに スマホは人を幸せにするのか?

第1章 思考の中枢を担う前頭前野を守れ
脳は領域によって機能を分担している/大脳には四つの部屋がある/前頭前野の大切な役割①認知機能/前頭前野の大切な役割②コミュニケーション/脳の活動を観察する方法―脳機能イメージング/10代の過ごし方がその後の脳を左右する/加齢によって萎縮が早く進んでしまう前頭前野/前頭前野はどうしたら鍛えられるのか?

第2章 スマホはここまで学力を破壊する
私たちの生活の一部となった「オンライン習慣」/「インターネット依存」とアルコール依存の類似性/スマホの使いすぎが子どもたちの学力を「破壊」/勉強してもよく寝ても「3時間以上のスマホ」で台なしに!/スマホの使用時間を減らせば成績アップ/スマホ横目に3時間勉強しても成果は30分/「ながら」という悪癖/「会話のラリー」というインスタントメッセージの罠/通知音が鳴るだけで低下する集中力/スマホやタブレットでの学習は脳がはたらかない?/インターネットを使い続けた、衝撃の3年後

第3章 オンライン・コミュニケーションの落とし穴
コロナ禍におけるコミュニケーションの変化―対面からオンラインへ/コミュニケーションとは?/ヒトにとってコミュニケーションは必要不可欠/親子での会話が子どもの健やかな脳を支える/人間の脳には負荷が必要/オンラインと対面ではコミュニケーションの質が違う/「つながっている」と感じるとき、脳と脳も同期する/なぜ人混みの中でも足並みを揃えて歩けるのか?/授業形式によって子どもの脳活動は変わる

第4章 オンラインでは脳は「つながらない」
「ひとりでボーッとしている状態と変わらない」/「誰と」で変わるコミュニケーションの質/老若男女を問わず盛り上がる話題とは?/2019年に始まった実験が予期せぬ方向へ/「オンラインでは何かが足りない」から浮かんだ仮説/なぜオンライン会話では脳が同期しないのか?/画面越しの映像はパラパラ漫画と同じ/オンラインは「きっかけ」で「つなぎ」

第5章 スマホ漬けの脳はどうなるか
オンライン習慣の先に見える未来/将来の認知症リスクを高める可能性/リスク要因① 学習の質が低下/リスク要因②うつ病とSNS/リスク要因③「つながる」はずが孤独に/リスク要因④ごろごろして運動不足に/「リスク」をどのように受け止めますか?

第6章 すぐ始められる脱オンライン習慣のススメ
私たちの生活はオンラインなしには成り立たないのか?/脱オンライン習慣の効果―国内外の実例/言うは易く行なうは難し?/最大の拷問はプロ野球の速報/紙の地図頼りのドライブに初挑戦/今日からできる脱オンライン習慣のススメ/オンライン習慣との上手な付き合い方

おわりに 前頭前野の「自己管理能力」でスマホから身を守れ!

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