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「よし、俺が幸せにしてやる!って思っちゃうんです」漫画家・つの丸さんが保護犬を愛してやまない理由

集英社オンライン / 2022年5月25日 9時1分

飼い主の飼育放棄や、高齢者飼育などが社会問題として注目される中、近年は保護犬を家族に迎え入れる人も増えている。『みどりのマキバオー』や『モンモンモン』などの作者で、動物漫画の第一人者でもあるつの丸さんもそのひとり。これまでに複数の保護犬の迎え入れや、一時預かりを経験してきたつの丸さんに聞く、「保護犬、迎え入れのススメ」とは?

恵まれてこなかった子のほうが、やりがいを感じる

「保護犬」とは文字どおり「保護された犬」のことで、飼い主に捨てられたり、動物愛護センターや保健所などに持ち込まれた犬などを総称して、こう呼ぶ。新たな引き取り手が見つからないと、殺処分されるケースも……。

近年は保護団体の努力や、自治体の協力もあって徐々に殺処分の数は減少しているが、「殺処分ゼロ社会」の実現には、まだまだほど遠い状況だ。



つの丸さんが初めて保護犬を迎え入れたのは、2017年6月のこと。加入していた保護犬の団体から声をかけられたのがきっかけで、推定年齢2歳(当時)のピートくん(フレンチブルドッグ・牡)を家族に迎え入れた。

――まずはピートくんを家族に迎え入れたきっかけを教えてください。

わが家にはもともと、ペットショップで買ってきた先住犬のドン(フレンチブルドッグ・牡)がいたんですけど、『たいようのマキバオー』の連載が始まってから、忙しくてあまり遊んであげられなかったんです。それがずっと心に引っかかっていて、連載が終わったときに「これからは、がっつり犬と暮らそう」って決めました。

それでドンとの生活を満喫していたときに、加入していた保護犬の団体から「預かりの保護犬が入った」という案内が入って。もう連載もないし、ドンも友達がいたほうがいいだろうと思って迎え入れたんです。

――保護犬の団体には、どんな経緯で加入されたのですか?

犬と暮らしていくと、やっぱり保護犬の問題っていろいろと耳に入ってくるじゃないですか。僕は犬が大好きで、どの犬も等しくかわいいんです。

どうせ新たに飼うなら、これまであまり恵まれてこなかった子のほうが、やりがいを感じるというか。「よし、俺が幸せにしてる!」って思っちゃうんですよね。

隻眼のフレンチブルドッグ・ピートくん

――実際にピートくんを家族に迎え入れて、大変なことはなかったですか?

ピートはブリーダーの放棄で保護されたため、それまで家庭で飼われた経験がなかったんです。だからって、特別に何が違うということはなかったですね。別に野良犬だったわけじゃないんで。保護犬というと、昔から野良犬っぽいイメージを抱く人も少なくないけど、しつけが難しいとか、人に慣れにくいとか、そういうのはまったくなかったですね。

――ピートくんには左目がありませんが、これは迎え入れた時からですか?

目の病気で角膜が悪くなっていて、うちにくる直前に左目を摘出したんです。最初の頃は少し視界が狭くなっていたからか、ちょっとぶつかったりとかはありましたけど。

つの丸さんが最初に迎え入れた保護犬のピートくん

――つの丸家にはすんなりと打ち解けましたか?

最初は散歩もできなかったんですよ。地面に降ろすとうずくまって一歩も動けなくて。なのでピートをカートに乗せて、先輩のドンが散歩の手本を見せ続けました。トイレやご飯のルールなども、すべてドンが教えてくれたんです。

――ドン先輩、素晴らしい!

そうして生活に慣れてくるのと同時に、ピートはどんどん元気になっていきました。すると、今度はドンにちょっかいを出すようになってきたりして(笑)。なので、いろんな面でドンには感謝しています。

悲しそうな目をしたパグ、ひよ吉くん

保護犬の団体の中には、「一時預かり」というシステムを取り入れているところが数多くある。一時預かりとは、里親が見つかるまでの間、自宅で一定期間、保護犬を預かるボランティアのことだ。

つの丸さんは2021年1月から約二か月間、一時預かりを経験。それがパグのひよ吉くん(当時推定6歳)で、家庭の放棄犬だったひよ吉くんは迎え入れた際、とても悲しそうな目をしていたという……

――ひよ吉くんを一時預かりしたのは、どのような経緯だったのですか?

ピートを迎え入れてから3年半、また保護団体から、誰か預かれる人はいないかっていうお知らせが回ってきたんです。

その頃、最初に飼っていたドンが亡くなって、ピート1匹だけだったので「いけますよ」って返事をしました。保護犬を預かれるメンバーってとにかく足りていないので、いつでも受け入れられる状態にしていたという感じですね。

――一時預かりは、里親が決まるまでにしつけをする役割もあるんですか?

しつけをするというよりは、人慣れはどれくらいかとか、噛みぐせはないかとか、その子の性格を見極めて、里親さんに伝えることのほうが大事ですね。こんな感じの子ですよっていうデータがあったほうが、受け入れる里親さんも安心じゃないですか。いろんなタイプの子がいるので。

――当時、つの丸さんがひよ吉くんの様子をSNSにアップされていたのをリアルタイムで見ていたんですが、預かりの初日にまったくキャリーバッグから出てこなかったり、オスワリをしたまま一晩中、寝なかったりしていて、とても驚きました。

最初はとても悲しい顔をしていたんです。ただでさえ家庭で放棄されてやってきたわけで、さらに環境が変わって不安だったろうし、怯えていたんだと思います。それでも数日経ったらすいぶん慣れてきて、その後はどんどん元気になっていきました。ある意味、図々しいぐらいに(笑)。

一時預かりで、つの丸家にやってきたひよ吉くん

――ひよ吉くんは預かって2ヵ月で里親さんに引き取られていきましたね。

里親さんが決まったときは、ちょっとだけ寂しい気持ちもないではないですが、それよりも決まってよかったなって気持ちのほうが大きいですね。今はSNSで元気な様子も見られますから、そこはいい時代になったなって思います。

傷だらけのフレンチブルドッグ、ロッコくん

つの丸さんは2021年9月から、フレンチブルドッグのロッコくん(推定5~6歳)をふたり目の家族として迎え入れた。ロッコくんもピートくん同様、ブリーダーの放棄で団体に保護されており、その体は傷だらけ。なかなか里親が見つからない状況もあり、引き取りを決めたという。

――ロッコくんの最初の頃の姿は、お尻が縫い傷だらけで痛々しかったですね。

団体に保護されたときは、お尻が座りダコだらけで、かわいそうでしたね。おそらく狭くて床の硬いケージの中にずっと入れられていたんじゃないかな。その座りだこを取ったので、大ケガみたいな傷になっちゃったんですけど。

やって来た当初は、お尻が痛々しかったロッコくんだが、今ではすっかりキレイに

――そんなロッコくんを迎え入れる中で、大変だったことはありますか。

大変というか、気をつけたのは犬同士の仲ですね。実は後輩のロッコは先輩のピートのことが大好きなんですが、ピートはロッコのことが少し苦手なんですよ(笑)。遊びもロッコは取っ組み合うプロレスごっこが好きなんだけど、ピートは冗談でも噛まれるのが怖い。とはいえ、寝るときは一緒に寝ているし、本当に時々、兄弟げんかをするぐらいの感じなんですけどね。

――それぞれ性格が全然違うんですね。

性格がバラバラなので面白いですよ。確かにロッコは乱暴なところがあるんですけど、一度ピートの具合が悪くなって寝込んだときは、そばでお座りして見守るというか、ずっと心配そうにしていて。

――ロッコくんも本当は優しいんですね。

でも、ピートが快復すると、またプロレスを仕掛けていくんです(笑)。面白いですよ。

――最初は傷跡が痛々しかったロッコくんも、どんどんきれいになっていき、元気も取り戻したように見えます。

体もそうですけど、ロッコもひよ吉と同じように、うちに来て顔つきがずいぶん変わりました。来た当初はかなりきつい顔をしていましたけど、今ではだいぶおっとりした顔になってます。

犬は過去にどんなつらいことがあったとして、愛情を持って迎え入れれば、いつかきっと心を許してくれると思っているんです。そして心を許すと、顔つきが穏やかに変わっていく。その顔を見た時「この子を迎え入れて、本当によかったな」って思うんです。

撮影/MIKA POSA

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