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家賃滞納が64%も増加!? 大家側が泣き寝入りするケースが多いのはなぜ? ドラマ『シッコウ!!』でも描かれた「強制執行」の実態

集英社オンライン / 2023年9月12日 19時1分

国土交通省発表の令和3年度のアンケートによると、コロナ禍における家賃滞納は64%も増加していたそうだ。執行官を題材にした今クール話題のドラマ『シッコウ!!』では、家賃滞納により強制執行されるエピソードもあった。今回はその実情を知るべく、強制執行に詳しい「弁護士法人咲くやこの花法律事務所」の西巻俊宏弁護士に話をうかがった。

2つのデータから家賃滞納率の上昇が浮き彫りに

“家賃滞納が64%増”という驚くべきデータ。

国土交通省が2021年12月に発表した「令和3年度 家賃債務保証業者の登録制度に関する実態調査」にて、保険会社にコロナ禍における家賃滞納の状況についてアンケートを取ったところ、「大幅に増加」「少し増加」という回答の合計が64%にも上ったそうだ。また、「滞納金の回収が長期化している」との回答は50%に及んだとのこと。



「日本賃貸住宅管理協会が発表した2021年4月から2022年3月までのデータでも、家賃滞納率が増えたという結果が出ていました。コロナ禍での影響で収入の減少や失業によって、経済的に困窮してしまった世帯が急増していたのでしょう。正確な件数はわかりませんが、家賃を滞納してしまった住人に対して建物明け渡しの強制執行が行われた件数も、増えていたことも考えられます」(西巻氏、以下同)

今月12日に最終回を迎える伊藤沙莉・織田裕二出演の『シッコウ!!~犬と私と執行官~』(テレビ朝日系)は、裁判所の職員である執行官にスポットを当てたドラマ。裁判所が出した判決などが実現されない場合、それを強制的に実現するため、強制執行によって賃貸物件の明け渡しや、財産・金品などの差し押さえを行うのが執行官の仕事だ。

「ドラマの第1話では、生活に困って家賃を滞納し続けていた一家が、裁判所から退去勧告を受けていたにもかかわらず無視して住み続けていたため、執行官が“建物明け渡し”と“動産差し押さえ”の強制執行を同時に行っていくというストーリーでした。このように“建物明け渡し”と滞納した家賃を回収するために“動産差し押さえ”が同時に行われることもあれば、“建物明け渡し”のみが行われるというケースもあります」

“建物明け渡し”と“動産差し押さえ”を解説

“建物明け渡し”と“動産差し押さえ”それぞれどういったものなのだろうか。

「“建物明け渡し”は、家賃の支払いが滞ったなどの理由で、大家から賃貸借契約を解除され、明け渡しを命じる判決が確定した後も住み続ける住人を、強制的に退去させるという強制執行です。

強制執行の申立後、執行官が現地へ赴き、部屋内の占有状況等を確認して、債務者に任意に明け渡して退去するよう催促し、明け渡しの期日や強制執行を行う日程などを伝えます。その後も明け渡しをしない場合、事前に予告していた強制執行を行う日に、実際に荷物を運び出して、鍵を交換して明け渡しを完了します。住人が家にいない、もしくは居留守をしている場合は、執行官たちが鍵を開けて入り、上記と同様に明け渡しをするのです。

ちなみに何ヶ月間滞納すると強制執行されるという明確な定義はなく、そこはケース・バイ・ケース。まずは大家側が住人との賃貸借契約を解除しないといけないのですが、事例にもよりますが、たとえば1ヶ月滞納していたぐらいでは、裁判所で契約解除が認められないことが多いです。けれど3、4ヶ月滞納し続けていると契約解除が認められる可能性が高くなります」



少々乱暴な言い回しになるが、要するに家賃滞納住人の意思なんて無視してその家から追い出すのが“建物明け渡し”というわけだ。

「“動産差し押さえ”は、賃借人が家賃滞納していたり、債務者が借金を返済しなかったりした場合に、債権者が、これらの債権を回収するため、債務者の家具や家電製品、時計や貴金属、または現金などを差し押さえ、その売却代金から債権を回収するというものです。家賃滞納のケースでいうと、債権者である大家が滞納分の金額を回収するために申立てをします。

ただドラマではまったく裕福には見えない家庭にも“動産差し押さえ”を行っていました。現実にはお金に困窮しているから家賃を払えないというケースが多く、差し押さえできる物がほとんどないということも少なくありません。

このような場合、動産差し押さえをしても債権回収の目的を達成することはできないので、家賃滞納による強制執行の場合は、“建物明け渡し”だけで“動産差し押さえ”は申立てない場合も多いのです。

大家側からすると、何ヶ月も滞納されていた家賃の回収を断念するということですが、もう泣き寝入りするということでしょう。

強制執行に関わる費用は全て債権者である大家側の負担になるので、“動産差し押さえ”をしても差し押さえられる物がほとんどないという空振りに終わると、費用だけがかかり、より損をしてしまいます。

実際、債務者にいくら迫ったところで無い袖は振れないということになりがちですので、もう滞納分のお金はあきらめて、とりあえず1日でも早く退去してもらって次の借主を見つけたいという大家は案外いるものなのです」

確かに、いくら“強制”執行といえど、執行官はあくまで公務員。ドラマでは伊藤沙莉演じる一般人が織田裕二演じる執行官に対して、「人の家にズカズカ入ってお金返せって、まるで闇金みたい」と非難するシーンがあったが、もちろん本物の闇金のような取り立てができるわけがない。

裁判所で、債務者はきちんと債権者にお金を返してくださいといった趣旨の判決が下され、法の下で正式に行われる強制執行でも、その債権額が必ず戻ってくるとは限らないということか。

家賃滞納の強制執行、気になるいくつかの疑問点

ここからは、家賃滞納の強制執行の現場においての疑問点を聞いていきたい。

まずは債務者である住人側のリアクションは、どういったパターンがあるのかは気になるところだ。

「大半の債務者は、明け渡しを命じる判決が確定したときや、執行官が家に来たときにあきらめてすんなり退去に応じます。ただ、もちろん素直に応じない人もおり、たとえば泣きながら情に訴えかけようとするような債務者もいます。とはいえ、多くの執行官は泣きつかれたところで動じず、粛々となすべきことを遂行していくと思います。

ほかには、逆ギレをして悪態をついたり暴れたりする債務者もいます。そのように住人が反抗してきた場合、執行官は抵抗を排除するために“威力”を用いることもできますが、例えば相手の身体を拘束するといったことはできません。ですから、あまりに住人の抵抗が激しい場合などは警察に協力を要請することもあります。

また、ごく稀にですが、明け渡しの家に開錠して入っていくと、ゴミ屋敷状態になっていて、ひどい臭気が漂っているというケースや、債務者の住人が亡くなられているというケースもあるようです」

“動産差し押さえ”で気になることもある。執行官は現場で高価な物はどのように見極めているのであろうか?

「現場で物の価値を見極めることはしていると思います。美術品や絵画、高級アンティーク家具などは本当に価値がある物なのか見極めることが難しく、見識も必要となるため、執行官はある程度そういった勉強もされているのかもしれません。また、差し押さえる動産の選択は執行官の裁量に任せられますが、どの程度差し押さえるかは、建物内の動産の数量、どのような物があるのか、申立人の債権額との関係を踏まえて、差押えられることとなると思います。

動産を差し押さえる際は、『標目票』という紙を貼り付けて、差し押さえた物と分かるようにします。債務者が差し押さえられたくないからといって『標目票』を勝手に剥がすと、封印等破棄罪という罪に問われる場合があります」

一方、その現場にあるにもかかわらず、“動産差し押さえ”ができないものもあるそうだ。

「債務者の住人が生活に欠くことができない衣服や台所用品や家具・家電といった生活必需品、あとは現金の場合、66万円以下の金銭は、『差し押さえ禁止財産』という扱いになるので差し押さえることができません。

また、その場で立ち会っている住人が高価そうな時計やアクセサリーを身に着けていたとしても、無理やり押さえつけて奪い取って差し押さえるということもできません。もちろん交渉の結果、素直に応じて差し出してくれれば差し押さえることができますが、それを強要することはできないというわけです」

家賃滞納して強制執行されてしまった住人側にもさまざまな事情はあるのだろうが、強制執行を行う執行官側にも悲喜こもごもの“ドラマ”があるようだ。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)

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