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猫の寿命が30歳に? 子猫の頃から「AIM」を投与し、遺伝病である腎臓病を発症させないようにする最高の医療とは

集英社オンライン / 2023年9月18日 10時1分

これまで猫は宿命的に腎不全を患い、約15年で寿命を迎える生き物“だった”。しかし今後寿命は30歳になるーーそう言い切ることができる最終局面を迎えている現在。なぜ「AIM」を投与することで猫の寿命が延びるのか、『猫が30際まで生きる日』から一部抜粋して紹介する。

〔〕内は集英社オンラインの補注です

子猫のときからのAIM投与で、
寿命が倍に延びる可能性が

人が大好きなにごりさん。ご主人の子どもたちにも優しく接しているという

ネコではAIMがIgMから分離しないため、腎臓病になっても尿細管の詰まりが解消されず、1個また1個とネフロンが壊れていく。そしてある程度の数のネフロンが機能しなくなったとき、クレアチニンなどの血中の腎機能マーカーが上昇し始め、「慢性腎臓病(CKD)」と診断されるようになる。



その後も尿細管の詰まりによるネフロンの死は続くが、このステージになると、同時に腎臓内で慢性的な炎症状態となり、その炎症自体がさらにネフロンの崩壊を助長し、腎機能は急坂を転がり落ちるように悪化する。

しかし、腎臓は2個あり、よく知られているように1個でも十分腎臓としての機能は保てる。

したがって、両方の腎臓全体の相当の部分がはたらかなくならないかぎり、血老廃物が濾過できなくなって尿毒症に陥ることはない。ネコの場合、平均して10年以上かけて、尿毒症のステージに達する。

このステージは、獣医学では「IRISステージ4」と呼ばれ、食欲の減退、体重減少、貧血、全身性の炎症(SAAなど血中炎症マーカーの上昇)など尿毒症にともなうさまざまな症状が現れ、ネコの全身状態は急激に悪化してしまう。

ステージ4に入ると、通常は数カ月しかもたない。逆に、ステージ3までは、腎臓マーカーは慢性的に上昇を続けるものの、そのカーブはゆるやかであり、ネコの全身症状もほとんど異常が認められない。

ネコは自分の体調を言葉にして伝えることができないから、オーナーさんは自分のネコの腎臓が悪くなっているとは気づかない。そしてステージ4に達し、ネコの体調が急激に悪くなって初めて、あわててネコを連れて獣医師のもとを訪れることが多いのである。

ネコの寿命はいまの倍の30歳くらいになる

しかし、ここで重要なのは、ネコが腎臓病になってしまう主たる原因が、AIMが先天的に機能しないという点だ。

すなわち、一種の〝遺伝病〞であると考えて間違いない。

遺伝病である以上、ネコで腎臓が悪くなるのは宿命であり、基本的に必ず全員が悪くなるわけで、尿細管の詰まりによるネフロンの死は、私たちとは違って、生後まもなくから、すべてのネコですでに始まっていると考えられる。

ならば、AIMの最も効果的な使用法は、生後すぐからAIMを定期的に投与することである。そうしておけば、尿細管の詰まりは定期的に掃除され、ネフロンの破壊も進まず、そもそも腎臓が悪くならないはずだ。

つまり、AIMを子猫のときから投与すれば、「ネコの寿命はいまの倍の30歳くらいになる」と考えることができる。多くの獣医師の先生方からもそのように言われた。

しかし、このようなAIMの使い方は、ネコにとっては最高の医療であるが、これから薬を作り、「治験」を行い、薬としての承認を得るためには、適当であるとはいえない。

なぜなら、薬の効果を調べる治験では、被験者(この場合は被験ネコ)を2グループに分け、一方のグループにはAIMを投与し、他方にはAIMを投与しないで、腎機能の差を比較しなければならない。

しかし、生後すぐ観察を始めた場合、AIMを投与していないグループで、血中の腎機能マーカーが上昇して腎臓が悪くなっていると判断できるまで、数年はかかってしまう。それでは、治験を行うのには長すぎる。

いったん承認を受けて薬として使われるようになれば、その後は獣医師の先生方に、生後すぐからの投与も含めていろいろなステージの患者ネコにAIMを使ってもらえばよいのだが、治験では、AIMを投与する群と投与しない群との間で、腎機能に明らかな差をできるだけ短時間で出す必要がある。

どのステージでAIMを投与すると最も短い期間でAIMの効果がはっきりわかるかを探るため、小林先生〔獣医師〕にご協力をいただき、全国にいる先生の信頼できる仲間の獣医師の先生数名に、いろいろなステージの患者ネコにAIMを投与してもらった。2017年1月から打ち合わせ・調整を続け、同年6月から約3カ月間、投与を行った。

すると、予想していたように、慢性腎臓病の初期(IRISステージ2や3の初期)では、例えば2〜3カ月間、AIMを投与していてもいなくても、腎機能マーカーは変動しない。

おそらくこのステージであっても、数年間観察していれば、AIM投与群と非投与群で腎機能マーカーの値にはっきり差がついてくるのだろうが、治験を行う期間として適当である数カ月のスパンでは差が出ない。

一方、キジちゃん〔腎臓病末期だったが、AIMによって症状が一時的に回復したネコ〕のようなIRISステージ4のネコにAIMを投与した場合、いったんはどのネコでも尿毒素が掃除されて元気になる。

しかし、このステージでは、ネコによっては重度の貧血や歯肉炎など末期腎不全にともなうほかの症状が手遅れの状態まで進行していたり、溜まっている尿毒素の量もまちまちだったりするため、なかなか一定した結果とならない。

つまり、ネコごとに症状や重症度が大きく異なるので、一頭一頭でAIMの投与量や投与の間隔を変えていかなくてはならない。これもやはり、AIMが承認された後、臨床の現場で行う分にはよいのだが、治験はあくまで一定のプロトコール(手順)で行う必要があるから、適当ではなかった。

文/宮崎徹
図/『猫が30歳まで生きる日』(時事通信社)提供
写真/にご里 @nigoritosake

『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(時事通信社)

宮崎 徹

2021年8月4日

¥1,980

244ページ

ISBN:

978-4788717558

世紀の大発見「AIM」で、猫の寿命が2倍に!
しかも、人間のさまざまな病気にも活用可能。
人も猫も、もっと長生きできる未来が来る。


日本では1000万頭近い猫が飼われているといわれますが、その多くが腎臓病で亡くなっています。猫に塩分を控えた食事をさせて日々気をつけていても、加齢とともに腎機能は必ず低下してしまいます。そんな猫の腎臓病の原因は、これまでまったく不明でした。

そんななか、宮崎徹先生が血液中のタンパク質「AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)」が急性腎不全を治癒させる機能を持つことを解明しました。猫は、このAIMが正常に機能しないために腎臓病にかかることもわかったのです。

この AIM を利用して猫に処方すれば、腎臓病の予防になり、猫の寿命が大幅に延び、現在の猫の平均寿命である15歳の2倍である、30歳まで生きることも可能であるとされています。

──これは、愛猫家にとっては、とてつもない朗報です。さらに、AIMは、猫だけでなく人間にも効き、また腎臓病だけでなくアルツハイマー型認知症や自己免疫疾患など、これまで〈治せない〉と言われていた病気にも活用が期待されます。

本書は、最新医療の研究現場のリアルを伝えます。

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