真夜中に電話が鳴った。時計を見ると午前1時。正確に言えば、1988年5月末の某日。場所は、ニューヨーク、ミッドタウンにあるアルゴンキン・ホテルの一室だ。あ、もう30年以上前の話になっちゃう。
いったい誰が?と、いぶかしく思いつつ受話器をとる。と、流れてきたのは「もしもし。ロードショー編集部のKです」という声。えええ!?と、かなり驚く。だって、すべての締切を徹夜でクリアして、ニューヨークに友人とふたり、遊びに来ていたのだもの。原稿になにか問題があったときのために、ホテルの電話番号は関係各所に伝えておいたかもしれないけど、まさかかかってくるなんて…。
念のため説明すると、当時はまだスマートフォンどころかケータイもない時代。もちろん、PC普及より、ずっと以前のことである。というわけで、連絡手段は電話かFAXのみ。サマータイムの時差14時間を超えて電話してきたKさん@東京の時間は、前日の午前11時という計算になる。
Kさんの声はさらに続く。
「そちら時間の明日夜、『星の王子ニューヨークに行く』のマスコミ試写があって、その後エディ・マーフィの会見があるんですけどね、それ取材してきてくれませんか?」