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真夜中の“ミッション・インポッシブル”、あるいはエディ・マーフィの会見

集英社オンライン / 2022年5月24日 12時1分

2000年代以降にインターネットとメールが普及するまで、「ロードショー」における海外での取材は基本的には、現地在住の記者たちに依頼するしかなかった。特派員の都合が悪かったらあきらめるしかない…いや、待てよ、そういえば、あの人が旅行にいっているではないか! というわけで、映画誌「ロードショー」の裏話やエピソードを伝えるこのシリーズ、今回は、ミュージカルの批評家としても活躍している萩尾瞳さんが、いかにして記者会見取材を無茶ブリされたかをお伝えする

深夜の電話が伝えたミッションとは

真夜中に電話が鳴った。時計を見ると午前1時。正確に言えば、1988年5月末の某日。場所は、ニューヨーク、ミッドタウンにあるアルゴンキン・ホテルの一室だ。あ、もう30年以上前の話になっちゃう。



いったい誰が?と、いぶかしく思いつつ受話器をとる。と、流れてきたのは「もしもし。ロードショー編集部のKです」という声。えええ!?と、かなり驚く。だって、すべての締切を徹夜でクリアして、ニューヨークに友人とふたり、遊びに来ていたのだもの。原稿になにか問題があったときのために、ホテルの電話番号は関係各所に伝えておいたかもしれないけど、まさかかかってくるなんて…。

念のため説明すると、当時はまだスマートフォンどころかケータイもない時代。もちろん、PC普及より、ずっと以前のことである。というわけで、連絡手段は電話かFAXのみ。サマータイムの時差14時間を超えて電話してきたKさん@東京の時間は、前日の午前11時という計算になる。

Kさんの声はさらに続く。
「そちら時間の明日夜、『星の王子ニューヨークに行く』のマスコミ試写があって、その後エディ・マーフィの会見があるんですけどね、それ取材してきてくれませんか?」

人気絶頂期のエディ・マーフィが主演した『星の王子ニューヨークへ行く』
Mary Evans/amanaimages

再び、えええ!?となってしまう。明日の夜? 夜の試写は日本でもままあるけれど、深夜の記者会見ってあるのぉ? Kさんの言葉は続く。「それがねぇ、あるんですよ。エディ・マーフィは超多忙でしょう。映画のリリース(公開)も近いし、ロサンゼルスからニューヨークまでその日に飛んで行くそうなんです」。

納得。当時のエディ・マーフィは『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)『ビバリーヒルズ・コップ2』(1986)の大ヒット連打で、人気の絶頂期。来日など望むべくもない多忙の大スターである。ついでに言えば、彼は飛行機嫌いで知られ、現在に至るまで来日はしてないのだけれど。

ともあれ、Kさん案件は引き受けることにし、試写と会見の場所、ニューヨークのパラマウント・オフィス(当時の『星の王子~』の配給会社)の電話番号と担当者の名前をメモしたのだった。

200人近いアメリカ人記者に囲まれて…

翌日夜。記憶はあいまいだけれど、試写開始はおそらく午後11時とか、とんでもない時間。とはいえ、ブロードウェイのミュージカルを見るためニューヨークにいる私が引き受けたのだから、それより前ではあり得ない。手元には招待状もなにもなしのまま、指定場所に行ったのだった。

場所はリンカン・センターのオーディトリアム。リンカン・センターにはメトロポリタン・オペラとかアリスタリー・ホールのコンサートに行ったことはあるけれど、ここは初めて。立派な視聴覚室に、100人超え、もしかしたら200人近いマスコミ関係者が集まっている。ほとんどノーチェックに近いほどスムーズに入場できた私も、そのなかのひとり。

試写が始まる。スクリーンに、おなじみのパラマウントの山が映り、そのままカメラは常夏の某王国に着地。ここから始まる愉しいコメディについては、言わずもがなだろう。見たことない人はDVDでも配信ででもぜひチェックを。そうそう、30年ぶりの続編もすでに配信に登場しているのだった。

試写が終わって、しばらくした後、ついにエディ・マーフィと共演のアーセニア・ホールが登場。ふたりともジョルジオ・アルマーニのスーツでキメて、すごく洗練された印象。登壇したマーフィの第一声は「そこのキミ、レイカーズのファンなの? 僕も大ファンなんだよ」というもの。記者のひとりのLakersロゴTシャツに目を止めたらしい。これで一気に場がなごむ。やっぱり話術に長けているのだなあと感心してしまった。

とはいうものも、こちらのドキドキは止まらない。なにしろ、映画で見るエディ・マーフィは『ビバリーヒルズ・コップ』2作は言うに及ばず、『48時間』(1982)でも『大逆転』(1984)でも、ものすごいマシンガントーク。あんなふうに話されたら絶対聞き取れない、と心配していたのだ。ところが、マーフィもホールも、極めて折り目正しい言葉遣いで語り口も丁寧で、一気にホッ。

そんなわけで、ニューヨーク深夜の“ミッション・インポッシブル”は、なんとか完遂したのだった。会見の中身は、ここではカット。気になる方、「ロードショー」のバックナンバーを漁ってみてくださいね。

「ロードショー」に掲載された萩尾さんの渾身ルポ記事!
©ロードショー1988年10月号/集英社

『星の王子ニューヨークへ行く』(1988) Coming to America 上映時間:1時間57分/アメリカ

写真:Collection Christophel/アフロ


監督:ジョン・ランディス/脚本:エディ・マーフィ、デヴィッド・シェフィールド、バリー・ブロースタイン
出演:エディ・マーフィ、アーセニオ・ホール ほか
理想の花嫁を探すため、身分を隠してニューヨークへやってきたアフリカの某国王子と親友が騒ぎを巻き起こすコメディ映画。エディ・マーフィ映画ならではの特殊メイクによる4役兼任も楽しい。昨年は30年以上ぶりに、王となった主人公を描く続編が製作された(Amazon Prime Video配信中)。

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