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家で飼うのは元気なザリガニか、怪我をしたザリガニか。新米パパの脳天に強烈な一撃を見舞った“チビ”のひと言とは?

集英社オンライン / 2023年9月26日 9時1分

育児/教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏でさえ、はじめての育児はトライ&エラーの毎日だった。 “新米パパ必読”の育児エッセイ『人生で大切なことは、ほぼほぼ子どもが教えてくれた。』(集英社)では、そんな著者の日々がユーモラスに綴られている。本稿では同著より、子どもとのザリガニ釣りで体験したエピソードを、一部抜粋・再構成してお届けする。

#2

◆バカザリガニ (チビ五歳 ヒメ二歳)

チビがショッピングセンターにあるゲームをやりに行きたいって言うことを聞かなかったので、何かいい代案はないかと思いを巡らせた。

そうだ!

「そろそろザリガニが釣れる季節だぞ。ザリガニ釣り行ってみるか!」
さっきまで不満たらたらだったチビの顔が一気に輝く。


「ザリガニ釣りならゲームより楽しい!」


にぼしをつけた糸を垂らすと、さっそく一匹食らいつく。
そーっと糸を上げてアミですくいとれば、カンタンにゲット!

「やったー! もう一匹捕まったね」

よく見てみると、右のハサミがない。
そして、体の右側が傷付いて、えらが露出している。

「あ、このザリガニはケガしてるな。こいつは持って帰るのはやめよう」
「じゃ、逃がすの?」
「そう。だって、ちゃんと元気なやつがいいでしょ」
「ふーん。わかった」
ケガをしたザリガニを川に戻した。

しばらくほかのザリガニを狙ってみるが、あまり食いつきがよくない。
「こいつら頭いいザリガニだな……」
チビとふたりで感心する。

そこで、もういちどケガしたザリガニの目の前にエサを垂らしてみる。
すると、またすぐにゲット。
「こいつまた捕まったよ。バカザリガニだな」
と言いつつ、また川に戻す。

「助けてあげなきゃいけないんじゃないの?」

その日の夕食どき。
「なんで、あいつはハサミがなかったんだろうね?」
チビが僕に聞く。
「うーん。右のハサミがなくて、体の右側をケガしてたから、きっと大きな魚か何かに右側を襲われたんだよ」
あのときは考えてもいなかったけど、冷静に分析すると、そうだよな。

「そうか、きっとそうだね」
「だから、うまく動くことができなくて、エサが取れなくて、おなかがペコペコで。だからカンタンに釣れちゃうんじゃないかな?」
僕がさらに推理を深める。
「アイツは弱いザリガニだからおなかがペコペコだったのか! じゃ、助けてあげなきゃいけないんじゃないの?」
チビのその一言は僕の脳天に強烈な一撃を見舞った。

「そうだ。オマエの言うとおりだ。パパは元気なザリガニを持って帰りたいと思ったけど、元気なザリガニはあの川で元気に暮らせるもんな。でも、あのザリガニはあそこではなかなかエサが取れないから、俺たちで面倒見てやらなきゃいけないのかもね。パパは逆のことを思ってたよ」
チビはときどき、僕が忘れているとっても大事なことを思い出させてくれる。
汚れてしまった僕の心を浄化してくれる。

「よし、こんどのお休みにもういちどバカザリガニを釣りに行って、うちで飼おう!」

「オレ、動物のお医者さんになる!」

翌日、幼稚園からの帰り道。
「パパ、いいこと思いついた。オレたちさ、ふたりで困っている動物を助ける仕事をしない? 困っている動物を助けるっていい仕事だと思うんだ!」
「そりゃ名案だ。チビは動物が好きだし、動物のことをよく知っているし、困っている動物の気持ちもわかるもんね!」

そこで、パパのスケベ心がちょっと顔を出した。
「ケガや病気の動物を助けてあげるなら、チビは動物のお医者さんになるのがいいんじゃないか? パパは昔、動物のお医者さんになりたいと思っていたことがあったんだよ」
「そうか! オレ、動物のお医者さんになる!」
獣医さんは僕の憧れの職業のひとつ。チビが獣医さんになってくれたらうれしい。


ケガした動物つながりで僕は思い出した。
「そういえば、今朝、家の前に潰れたカエルの死体があったよ。内臓が飛び出ててキモチ悪いの……」
「じゃ、それ、埋めてあげようよ!」
チビが言う。
「えっ? マジ?」
露骨にイヤそうな顔をする僕。
「うん、だってオレたち困っている動物を助けるっていま言ったじゃん!」
真剣なまなざしで詰め寄るチビ。
「そっ、そうだったよな……」
つくり笑いを浮かべるパパ。

あのグロテスクな死体を拾ってお庭に埋めるのかぁ。
イヤだなぁ。

★ふりかえり
手負いのザリガニこそ助けてあげなきゃいけないって発想には本当に衝撃を受けました。なんでそんな簡単なことがわからなくなってしまっているんだと自分を嘆きました。子育てって、大人になっていくに従って見えなくなってしまう大事なことを思い出させてくれる営みでもあるんですね。

人生で大切なことは、ほぼほぼ子どもが教えてくれた。

おおたとしまさ

2023年8月21日

946円(税込)

文庫判/416ページ

ISBN:

978-4-08-744563-3

読んだ人から1日1分1秒が濃くなる!
子どもが「パパ~」って抱きついてきてくれる期間は意外と短い! だから──。
大人気の育児・教育ジャーナリストが自身の子育て体験をつづる育児エッセイ! 親子のふれあいアイディアが満載。

そうだ、子どもを連れて飛行機に乗ろう!と、急きょ大阪まで飛んだり、駄菓子屋さんで好きなだけ買い与えたり。子どもたちを喜ばせたいだけなのに、ママが怒っているのは、なんでだろう──。育児・教育ジャーナリストの著者でさえ、初めての子育てはトライ&エラー! そんな日々をユーモラスにつづり、14年経った今、やって良かったこと、悪かったことをふり返る。新米パパ必読の育児エッセイ!

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