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「生き物を飼いたい」というからペットショップの動物を与えることを想像したら、実際は庭のコガネムシの幼虫で大満足だった…息子が教えてくれた「大金よりも人生を豊かにしてくれるもの」

集英社オンライン / 2023年9月26日 9時1分

育児/教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏による育児エッセイ『人生で大切なことは、ほぼほぼ子どもが教えてくれた。』(集英社)では、著者自身の子育ての経験をもとに、親子のふれあいにまつわるアイデアが多く書き記されている。本稿では同著より、子どもと一緒に体験した「釣り堀」での学びを、一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

◆釣りロマン (チビ五歳 ヒメ二歳)

真っ青な空に映える山々の緑。
水面にキラキラと反射する初夏の太陽は、同時に僕の坊主頭をジリジリと焼きつける。

ひろおじちゃん(僕の弟)がチビと僕を釣りに誘ってくれた。
三人乗りの手こぎボートで湖に乗り出した男三人は、それぞれにロッドとルアーを手に取り、キャスティングをくり返す。


静かな水面下に潜む大物を思いながら。

気分は映画『リバー・ランズ・スルー・イット』。


「ねぇ、釣れないじゃん! もう帰ろうよ……」
釣りはじめて三〇分たったかたたないかのうちに、案の定、チビが飽きだした。
まわりのボートを見回しても誰も一匹も釣り上げていないから、ここはチビの言うとおりにさっさと退散するとしよう。
というのも、僕とひろおじちゃんは別プランを用意していたから。
それは、釣り堀!

最初はパパがお手本を見せる。
「こうやって、お魚がいるところに糸を垂らして」
「…………」
「お魚が糸を引っ張ったら竿を真上に上げる! ほらっ!」

「パパってスゲーだろ!」
パパはいつもヒーローじゃなきゃいけないって知ってるひろおじちゃんが僕をもち上げる。

「次はチビが自分でやってみな」
不安な表情で釣り竿を受け取るチビ。


しかし、そこは釣り堀。
糸を垂らした瞬間ヒット!
「ほら、チビいまだ! 上げろ〜!」
「おっ、おっ……、おぉ〜〜〜〜」
「やった〜〜〜!」

「チビ、一人で釣れたじゃん! スゲーじゃん!」
「やった〜〜〜! オレ、一人で釣れた〜〜〜」

さっきまでの不安な表情はどこ吹く風。
「もっと、釣ってみる!」
と、得意げに数匹を釣り上げて終了。

釣るのは五匹までと決めてあった。
五人分で十分だから。
これまで遊びで釣りをするときはいつもリリースしていたけど、今日は食べるのだ!

パパとひろおじちゃんのアウトドア講座

「チビ、よく見てな」
釣り堀のおじさんは、まな板の上で暴れるマスを押さえつけ、手際よく腹を割き、エラをえぐり出す。

「お魚さんが〝やめて〜! 食べないで〜!〟って暴れてるでしょ。かわいそう?」
「うん……」

さっきまではゲーム感覚で魚を釣り上げてキャッキャ言っていたチビもちょっとおとなしくなる。
「チビが釣っちゃったから、お魚は殺されて食べられちゃうんだよ。でも、いつも食べてるお魚もお肉もぜんぶいっしょなんだよ。みんな生きているものを殺して食べてるの。だから大事に食べなきゃいけないんだよ。わかった?」
「うん、わかった……」

山の中の湖で自然の美しさを堪能し、釣り堀で命の大切さを痛感し、その恵みをありがたくいただく。
そうして、パパとひろおじちゃんのアウトドア講座が終わった。

「しあわせ」とは「いまそこにあるものにありがたみを感じること」

「ボク、釣り得意だよ! パパと釣りしたこともあるもんね!」
得意げなチビのセリフに、僕は内心苦笑する。
「おもちゃの釣竿でクチボソを釣っただけ(笑)」
ひろおじちゃんに小声で説明する。

おもちゃの竿を使ったクチボソ釣りも、本格的なバス釣りもチビにとっちゃあいっしょだよな。
近所の小川でのザリガニ釣りも、山の中の湖で釣ることも本来的には同じこと。
それなのに大人になると、お金のかかる派手なことほど本物って感じがしちゃってさ。
「生き物を飼いたい」ってせがまれたときにも、僕はペットショップのハムスターや、カメを想像したけど、実際チビはお庭の土の中から出てきたコガネムシの幼虫で大満足だった。

そのピュアな感覚はどんな大金よりも人生を豊かにしてくれるはず。


見てくれの派手さや、人の評判ばかりを気にしていると、お金なんていくらあってもきりがない。
どんなに物をもっていても、いつまでたってもしあわせにはなれないだろう。
「しあわせ」とは「いまそこにあるものにありがたみを感じること」なんだよね、チビ。

自然の美しさ、命の大切さ、本当のしあわせ……、僕がチビに伝えたいと思っていることの多くは、実はチビが生まれて、チビに気づかされたことばかりなんだ。

★ふりかえり
チビが小学生になってからは、海釣りに行くようになりました。週末に朝早く起きて、釣り船に乗ってアジやらキスやらをよく釣りに行きました。自分が釣った魚は自分でさばかせました。小学生にして魚がおろせるようになりました。中学生になり、釣りに付き合うのをおっくうがられるようになってから、私もとんと釣りに出ていません。当時、自分の趣味は釣りだと思ってましたけど、チビが大物を釣り上げて喜ぶ顔を見たいだけだったんですね。

人生で大切なことは、ほぼほぼ子どもが教えてくれた。

おおたとしまさ

2023年8月21日

946円(税込)

文庫判/416ページ

ISBN:

978-4-08-744563-3

読んだ人から1日1分1秒が濃くなる!
子どもが「パパ~」って抱きついてきてくれる期間は意外と短い! だから──。
大人気の育児・教育ジャーナリストが自身の子育て体験をつづる育児エッセイ! 親子のふれあいアイディアが満載。

そうだ、子どもを連れて飛行機に乗ろう!と、急きょ大阪まで飛んだり、駄菓子屋さんで好きなだけ買い与えたり。子どもたちを喜ばせたいだけなのに、ママが怒っているのは、なんでだろう──。育児・教育ジャーナリストの著者でさえ、初めての子育てはトライ&エラー! そんな日々をユーモラスにつづり、14年経った今、やって良かったこと、悪かったことをふり返る。新米パパ必読の育児エッセイ!

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