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「とりあえず何とかしろ!」と部下に言ってしまう無能上司の末路…日本を代表する企業で日常化している器の小さいリーダーのダメ指示

集英社オンライン / 2023年9月24日 18時1分

仕事というのは基本的に会話のやり取りがあって進んでいくため、言葉の果たす役割はとても大きい。そのため無視していいような言葉に影響されたり、流行り言葉に振り回されて自ずと消耗してしまうことも。そういった、職場でよく聞く言葉との付き合い方についてもう一度考えてみよう。『聞いてはいけない:スルーしていい職場言葉』(新潮新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

修羅場をどう乗り切るか

仕事をしていると、予想もつかなかった事態に遭遇することがあります。その原因は、さまざまでしょう。単に運が悪かったということもあれば、自分のミスだったりすることもあります。

ここ最近インターネット上で話題になるのが、小売店や飲食店がのっぴきならない事態になり、ソーシャルメディアなどでSOSを発信するケースです。



「誤発注で賞味期限の短いお菓子を山ほど仕入れてしまいました!」
「台風の影響で団体さん三十人が直前キャンセルです!」

そうした叫びが通じてネットでのアピールが功を奏することもあれば、うまくいかないこともあるでしょう。いずれにしても、傍から見ているだけで胃が痛くなるようなケースです。現場はまさに修羅場のようになっていたと思います。

このようにたまたま人目につくようなケースだったら話題になりますが、実際にはあちらこちらの職場でこうした騒ぎは日々起きているはずです。

こうした時に、どのように対処するのか? もっとも望ましいのは、まず冷静になって「何が起きているか」を正確に把握すること。そして、できることとできないことを分析して優先順位をつけて実行することです。

書けば簡単に見えますが、実際はなかなかそうもいきません。

先に挙げた小売店や飲食店であれば、直接消費者に呼びかけることができます。しかし、「部品を納品する予定が、先方の工場で火災が起きた」というようなことになったら、ネットで呼びかけてもどうしようもないでしょう。

そして、このような時にこそリーダーの資質が問われます。

緊急事態で器が見える

修羅場となるパターンは業種によってもさまざまですが、マーケティング関連でいえば、テレビCMが何らかの事態でオンエア中止になるケースがもっとも大変でしょう。

このような時の原因はさまざまです。表現内容が「不快だ」という視聴者からのクレームが理由になることもあれば、出演タレントの不祥事ということもあります。稀に競合他社からの申し入れや、官公庁からの指導ということもあり得ます。

いずれにしても、最大の課題はどのようにしてマーケティング活動を継続するか? ということです。当該CMがオンエアできなければ、修正や差し替えはもちろん、まったく異なる販売促進手段を考えなくてはいけません。

こういう時にもっともよくないのは、やたらと犯人捜しをすることです。

「そもそもこの演出家を選んだのは誰だ?」とか、「タレントの起用は誰が決めた?」などと言い出してもキリがありません。本来リーダーとして事に当たるべき人がこういう状態だと、やがてこんな指示になります。

「とにかく、何とかしろ!」

そんな指示で済むなら、誰だってリーダーは務まります。ですから、こんなことはあまり起きないと思われるかもしれません。しかし、それを社長が命じて取り返しのつかないことになってしまったケースがあります。

それは、二〇一五年に発覚した東芝の不正会計事件で明らかになりました。

「工夫しろ」という指示

二〇一五年の五月、東芝は突然決算発表の延期と期末配当の見送りを発表しました。後に明らかになったのですが、この年の二月に証券取引等監視委員会から開示検査を受けて、四月には社内に特別調査委員会を設置していました。会計上の不正が常態化していることが指摘されたのです。

同年の七月には第三者委員会が調査報告書を提出して、当時の社長以下八名の取締役が辞任しました。その後もさまざまな問題点が明るみに出て、多くの事業を売却して現在も再建の途上にあります。

日本を代表する企業の事件だったので報道も多く、記憶している方も多いでしょう。その際にもっとも問題になったのは、業績が伸びない時に利益をかさ上げするようなことが当たり前になっていたという事実でした。

しかも、目標が達成できない時に上層部が強いプレッシャーをかけることが常態化した結果、不正な方法が当たり前になってしまったのです。第三者委員会の報告書にはこう書かれています。

(前略)PC事業を営むカンパニーの歴代のCPに対しては、社長月例の場等において、Pから予算(仮に予算を達成できた場合であっても更に設定された目標値)を必ず達成することを強く求められ、「チャレンジ」の名目の下に強いプレッシャーがかけられてきた。(筆者注:PCはパソコン、CPはカンパニー社長、Pは社長を指す)

「チャレンジ」という言葉が独り歩きして、その達成のために手段を選ばないような状況になっていたことがわかります。さらに達成が難しいとわかると、社長がメールでこのように指示していたことが明らかになりました。

東芝が過去の決算で不適切な処理をしていた問題で、当時社長だった佐々木則夫副会長(六六)が、予定通りの利益を上げられない部署に、会議の場やメールで「工夫しろ」と指示していたことが、九日、関係者の話でわかった。(二〇一五年七月一〇日・朝日新聞朝刊)

「工夫しろ」というのは、まさに「何とかしろ」ということだったのでしょう。本来「工夫する」というのは良い意味で使われます。知恵を絞って、何かを創造するような時に使われます。この場合もたしかに知恵を絞ったのかもしれませんが、その結果はご存じのとおりです。

このような状況が報じられると多くの企業関係者は驚き、批判しました。しかし「他人事と思えない」という人もいたようです。つまり「何とかしろ」というようなリーダーと、それを「何とかしてしまおう」とする風土はいろいろな会社に根強くあるということなのです。

怒るだけのリーダーの怖さ

この事件で明るみに出たようなことはいまでも現実に起き続けていて、それは品質不正というかたちで発覚しています。本来の品質基準に達していないにもかかわらず、組織ぐるみで隠ぺいしたケースが後を絶ちません。

そうした事件が起きた企業は東芝と同様に第三者に調査を依頼しますが、それらの報告書を読むと興味深いことがわかります。自社製品の品質水準は低いがコストや納期の関連から抜本的な改善ができず、検査結果を改ざんするなどの不正をおこなうのです。

その背景には「何とかしろ」というプレッシャーがあったことがうかがえます。「上意下達の気風が強すぎる」と書かれ「パワーハラスメント体質」と明記されているものもあります。まさに「何とかしろ」というような風土であることが、容易に想像できるでしょう。

本当に大事なことは、状況が悪い時に次の一手を考えることです。経営者であれば弱い事業から撤退して新たな分野を強化する。あるいは、会社の収益構造を見直して体質改善を図るべきでしょう。

ミドルであれば、部下が頑張っても達成できない時に、その問題点をきちんと分析して上に提言することが本道です。部下とともに打開策を考えて、少しでも目標に近づけることに取り組みます。

しかし、こうした報告書の中には「『撤退戦』を苦手とする風土」という指摘もあります。また「『言ったもん負け』の文化」があると書かれているものもあります。つまり問題点を指摘したら「じゃあお前がやれ」と負担が増えるために、結局誰も言い出さないということです。

「何とかしろ」というような頭ごなしの命令しかできないリーダーのもとでは、上から下まで現状に目をつぶり、やり過ごすことだけを考えているような空気であることがよく伝わってきます。

なお、こうした問題を起こしてしまった企業は、歴史のある会社が多いことに気づきます。上下関係のはっきりした男社会で、まさに昭和の感覚がどこかに残っていたのでしょう。

こうして過去の報道や報告書を読み返すと、いったいリーダーの役割とは何なのだろう? と考えずにはいられません。「もっと利益を上げろ」というような指示は誰にでもできます。

むかし野球を知らない有名タレントが「監督のサインには『ホームランを打て』というのがあるのかと思ってた」と言っていたことを思い出します。もちろん、その話を聞けばみんな笑います。それならば、誰だって監督が務まるからです。

しかし、日本を代表する企業でそのような指示が日常化していたことも事実です。そして、このようなことしか言わないリーダーはまだあちらこちらにいそうです。

もし仕事において大きなトラブルがあって修羅場になった時は、リーダーの資質を見極めるチャンスでしょう。「何とかしろ」だけの人はもちろん論外ですが、「何とかしよう」と冷静に分析して打つ手を考える人にはついていっていいかもしれません。そんなリーダーもまた着実に増えていると思います。


文/山本直人 写真/shutterstock

『聞いてはいけない:スルーしていい職場言葉』 (新潮新書)

山本 直人

2023/8/18

¥836

192ページ

ISBN:

978-4106110092

「お前、例の件だけど、評判悪いよ」――親切そうに教えてくれる先輩の一言。言われれば気になるのは人情だが、実は典型的な「聞いてはいけない職場言葉」なのだ。仕事での悩みの多くは、この種の言葉によって引き起こされている。本当はスルーしてもいいような言葉に影響されたり、流行り言葉に振り回されたりしないためには、どうすればいいのか。困った言葉から解放され、前向きに働きたい人のための解毒剤。

【目次】

はじめに──困った言葉から解放されよう


第1章 聞いてはいけない大人の説教

1「評判悪いよ」という人に近寄ってはいけない
2「絶対大丈夫か?」がすべてを止める
3「寄り添う」の次はあるのか
4「何とかしろ」の末路は怖い
5「机上の空論」は宝の山
6「夢を持て」の先にあるもの

第2章 新しそうだけど正しいのか

1「老害」はブーメランとなって返ってくる
2「劣化」という人ほど劣化していないか
3「ガチャ」は不幸を呼ぶ禁断の言葉
4「失われた世代」という他人事
5「さん付け」で風通しはよくなるのか
6「ワーク・ライフ・バランス」という迷路

第3章 呪縛の言葉から解放されよう

1「迷惑かけるな」が仕事を小さくする
2「許せない」思いをエネルギーに
3「やればできる」は子どものおまじない?
4「あれが好きな人はダメ」という人こそダメ
5「デジタル後進国」では困るけれども
6「誰にでもできる仕事」と思ったら負け

おわりに──言葉で職場は変わる

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