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「子どもは贅沢品」「結婚は嗜好品」なのか。岸田政権「異次元の少子化対策」はなぜ愚策なのか。“恋愛結婚”にむかない日本人

集英社オンライン / 2023年9月30日 12時1分

婚活アプリでAIがおすすめの異性をリコメンド、ChatGPTが恋愛リスクを説明する時代が到来しているが、日本において「結婚」とは、まだまだ昭和時代の概念に取り残されたままだという。いったい何が問題なのか。「おひとりさま」「草食系(男子)」でおなじみのトレンド評論家の牛窪恵氏の『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

#2

「子どもは贅沢品」「結婚は嗜好品」

「政府は全然分かってない。そもそも、〝結婚できる身分〞の人が少ないことのほうが問題なのに」

「子どもは『ブランドもの』みたいな贅沢品、結婚は『したい人だけがする』嗜好品でしょ。そんなことのために、自分が(財源を)負担させられるのは、納得いかない」



私が取材したZ世代の男女は、次々にそんな言葉を口にしました。2023年1月、岸田首相が「(’23年を)異次元の少子化対策に挑戦する年にしたい」と宣言し、最初の試案を提示した直後(同4月)のことです。

「子どもは贅沢品」は、’23年春ごろにSNSで話題となったワード、一方の「結婚は嗜好品」は、私が拙著『恋愛しない若者たち』を執筆した前後(’15年ごろ)から、よく言われるようになった言葉です。

いずれも、おもに将来不安を抱く若者を中心に発せられ、「自分たちは日々の生活で精一杯で、いまは結婚・出産する余裕がない」、あるいは「(結婚・出産の)優先順位が低い」といったニュアンスです。

ところで、なぜ’23年、政府は「異次元の少子化対策(のちに「次元の異なる〜」に言い換え)」や「ラストチャンス」を口にしたのでしょうか。

これは’22年、日本の国内出生数(速報値)が前年比5.1%減の79万9728人となり、統計を取り始めた1899年以来、初めて80万人を割り込んだことによるものだと思われます(同・厚生労働省「人口動態統計」)。80万人割れは従来、2023年に起こり得ると予測されていたので、想定より11年も早く少子化が進んだことになります。

背後には、新型コロナウイルスの感染拡大によって’20〜’21年の婚姻件数が減少した影響もあるはずですが、それだけが原因とは思えません。実はコロナ禍の前から、出生数の減少は顕著でした。

第2次ベビーブーム(’71〜’74年生まれ/おもに団塊ジュニア世代)のころ、約210万人にのぼったその数は、多少の増減を繰り返しながらも大幅に減少傾向へと向かい、’16年には年間100万人を、’19年には90万人を下回りました(図表1)(厚生労働省「人口動態統計」)。

図表1 出生数の推移。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

日本で2番目に人口が多い団塊ジュニア世代は、既に47〜52歳(筆者定義。以下同/’23年現在)です。その子に当たるのが、おもに現在20代の「Z世代(’95〜’04年生まれ/現19〜28歳)」なのですが、現20代の人口は親世代の団塊ジュニアが20代のころに比べ、3割以上も減ってしまいました。

ただそれでも、その下の世代よりは若干人口が多いため、まさに彼らが今後、結婚・出産してくれるか否かが、少子化対策の事実上の「ラストチャンス」なのです。

日本の少子化対策に欠けているもの

’23年6月、岸田首相が具体策や意義を語った「こども未来戦略方針」の要旨は、おもに次の3点から成ります。

(1)若い世代の所得を増やす
(2)社会全体の構造・意識を変える
(3)すべてのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する


(1)の主軸は、若い世代の所得増や賃上げ、雇用の格差是正などです。後ほどご紹介しますが、未婚や出産(子作り)と「収入」「雇用形態」には明確な相関が見られることが分かっており、この部分は一定の評価を得ているようです。

ただし、(2)や(3)については、財源の確保も不明確であるほか、「あくまでも『結婚後』を主体とした対策で、根本的な少子化対策にはならないのではないか」との声も多く上がっています。

なぜなら、日本はフランスやスウェーデンなどのように「婚外子」が5割を超える国とは違い、その割合はわずか2.4%だからです(’20年OECD「Family Database-Share of births outside of marriage」)。

そもそも「結婚」する若者の割合が増えない限り(少なくとも現行の婚姻システムをメインに考えれば)、子どもの数はさほど増えないか、減り続けるでしょう。

社会学者で『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社新書)などの著書もある、中央大学の山田昌弘教授も、「少子化対策では、結婚後より、その手前の『結婚に踏み切れない人』たちへの対処こそが重要」だと言及します。

いわく、いまも結婚した夫婦は平均2人程度の子を産んでおり、結婚を望む未婚者も約8割いる。その半面、結婚を望みながらもなんらかの事情で結婚できない未婚者が大勢いて、「彼らへの支援こそが欠かせない」とのこと。私も同意見です。

まさにZ世代の声にもあった、〝結婚(出産)できる身分〞の人が少ないことが、今日の少子化の根源にあると言えるでしょう。このあと詳しく見ていきます。

「いずれ結婚するつもり」、でも……

山田教授が言う「結婚した夫婦が、平均2人程度の子を産んでいる」状況は、夫婦が最終的に産む子の人数を示す「完結出生児数」(結婚持続期間15〜19年)を見れば分かります(図表2)(’21年国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」)。

’82年段階で、この数は「2.23人」で、その後も’02年まで「2.2人前後」をキープするなど、比較的安定して推移していました。’10年に初めて「1.9人台」へと落ち込みましたが、それでも’21年段階で「1.90人」ですから、大幅に減少したとまでは言えません。

図表2 夫婦の完結出生児数(結婚持続期間15〜19年)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

一方で、「結婚を望む人が約8割いる」状況については、「はじめに」でもふれた通りです。先ほどと同じ調査を見ると、’21年時点で18〜34歳の男女の8割以上が「いずれ結婚するつもり」と回答しており、こちらも山田教授の言葉通りです。

ところが、実際に結婚する人の割合(婚姻割合)がどれほど減少したかは、改めて言うまでもないかもしれません。最も顕著なのは、「生涯未婚率」の上昇でしょう。

’90年時点でわずか4.3%と、ほぼ「皆婚」状態にあった女性の生涯未婚率は、’20年に17.8%と、30年の間に4倍にも跳ね上がり、およそ6人に1人が「一生に一度も結婚しないだろう」と言われるまでになりました。男性ではさらに多く、’20年時点で28.3%、既に4人に1人以上が生涯未婚者です(図表3)(’20年総務省「国勢調査」)。

図表3 生涯未婚率(45〜49歳と50〜54歳の未婚率の平均値)の推移。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

未婚率が上昇した2つの大きな理由

ところで、いま50歳を過ぎて未婚状態にある男女、すなわち「生涯未婚者」とされる彼らの多くは、若いころから「結婚したくない」と考えていたのでしょうか。

おそらくそうでないだろうことは、データを見れば分かります。いまから40余年前の’82年時点で、「いずれ結婚するつもり」と答えた若年未婚者(18〜34歳)は、なんと95%前後(男性95.9%/女性94.2%)にものぼっていました(図表4)。

’80年の「生涯未婚率」の圧倒的な低さ(女性4.5%/男性2.6%)から見ても、昭和の若者は「結婚したい」というより、「結婚するのが当然」だと考えていたのでしょう(「第16回出生動向基本調査」/国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2022」)。

図表4 「いずれ結婚するつもり」の回答割合・推移(18〜34歳・未婚者)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

その後、結婚を希望する若者の割合は減少に向かいましたが、それでも先述した通り、いまだに18〜34歳男女の8割以上が「いずれ結婚するつもり」としています。40年の間に、若者の結婚意向はさほど減らなかったのです。

ところが現実はといえば、’80年代半ばごろから、適齢期(25〜34歳)男女の「未婚率」上昇が顕著になりました。具体的には、’80年から’00年までの20年間で、女性の未婚率が、25〜29歳で2倍以上(24.0%→54.0%)に、30〜34歳では3倍近く(9.1%→26.6%)に達するようになったのです。

男性はそこまで極端ではありませんが、それでも’80年と’00年時点の未婚率を比較すると、25〜29歳で約1.25倍(55.2%→69.4%)、30〜34歳では約2倍(21.5%→42.9%)に増えています。

こちらも’85年以降、’00年までの伸びがとくに顕著な様子が見てとれます(図表5)(’22年内閣府「少子化社会対策白書」ほか)。

「いずれ結婚したい」とする男女がさほど減らない一方で、なぜこれほど未婚率が上昇したのでしょうか。

図表5 25〜34歳男女・未婚率の推移。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

社会学的によく言われる理由は2つ、すなわち(1)バブル崩壊と経済不況(2)女性の社会進出、です。このあと順に見ていきましょう。

恋愛は個人競技

ただ、実はもう一つ、(3)見合い結婚と恋愛結婚の逆転、を挙げる識者もいます。

独身研究家でコラムニストの荒川和久氏もその一人です。彼は「東洋経済オンライン」(東洋経済新報社)において、「’20年時点の生涯未婚率(男性)のグラフを20年前にずらしてみると、『見合い結婚』比率の減少カーブと、鮮明な相関関係にあることが分かる」としました。見合い結婚の割合が減少(恋愛結婚が増加)した分、生涯未婚率も上昇したと考えられる、というのです(同’23年2月15日掲載)。

すなわち、かつての「見合い」は会社の上司や親戚、あるいは近所の世話焼き人など、仲介者と力を合わせて相手を攻略する〝チームプレー〞だった、でもそれが「恋愛」という〝個人競技〞に移行した分、結婚が減ってしまった、と見ることもできるでしょう。

日本では’60年代半ば〜後半にかけて、それまで多数派だった見合い結婚を「恋愛結婚」が逆転しました(図表6)。理由は後述しますが、その後も恋愛結婚の割合はしばらく上昇し続け、いまや結婚カップルの8割から9割を、恋愛結婚が占めています。

図表6 恋愛結婚・見合い結婚の構成割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

正確にいえば近年、マッチングアプリをはじめとしたインターネットによる婚活サービスの伸長によって、そのものズバリの恋愛結婚は約75%にまで減りましたが、それでも、依然として「見合い」は1割弱(9.9%)、残る「ネットで(出会って結婚)」の約15%も、結局は多くが「ネットで出会う→デート(交際)→恋愛→結婚(を検討)」といったステップを踏んでいるはずです。よって、いまも恋愛を前提とした結婚が8〜9割にのぼると考えられます(「第16回出生動向基本調査」)。

恋愛という個人競技は、自由度が高い分、放任(ほったらかし)と表裏一体です。’70年代以降の若者は「自分自身が好きな相手と結婚できる」との自由を手にした半面、「自力で恋愛して、結婚相手を見つけなければいけない」との現実にも直面しました。

こうなると、異性にみずからの魅力をアピールするのが苦手な男女、あるいは「年収」や「学歴」「見た目」「雇用形態」などで一定水準をクリアしていない(と自身が考える)男女は、明らかに苦難を強いられます。

つまり、「いずれ結婚したい」と考えながらも、現実には異性への〝モテ〞に左右される「恋愛」という通過儀礼を経なければ結婚できない、だからこそ、’60年代半ば以降、周囲が強力にお膳立てしてくれる見合い割合が減った分、(約20年後の)’80年代半ば以降に、適齢期の未婚割合が上昇し始めたのではないか、とも考えられるのです。

もともと日本人の多くは、「恋愛結婚」に向かないタイプだったのかもしれません。


文/牛窪恵 写真/shutterstock

『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)

牛窪 恵

2023/9/13

¥1,034

304ページ

ISBN:

978-4334100681

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――でも、結婚はしたい!?

世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、
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