1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. 恋愛

数万人登録のマッチングアプリにも「いい相手がいない」と嘆く未婚者たち…アプリが未婚率の改善になっていない3つの理由

集英社オンライン / 2023年10月1日 12時1分

マッチングアプリやネットでの出会いを利用する人が増えている昨今。しかし、こうした新たな出会いの機会は、未婚率の改善に繋がっていないと言われている。そこには大きな3つの理由があるというが、いったい何だろうか。「おひとりさま」「草食系(男子)」でおなじみのトレンド評論家の牛窪恵氏の『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

増える「マッチングアプリで結婚」

近年、結婚相手を探す際に、マッチングアプリをはじめとした便利なネットワーク系サービスを利用する人たちが増えています。結婚に至るカップルも、年間7.7万組程度はいるようです。

そうした状況を広く知らしめたのが、2021年の国の第三者機関による調査結果でした。



この調査で「夫と妻が知り合ったきっかけ」を見ると、「インターネットで」、すなわちマッチングアプリや(婚活系など)ウェブサイト、SNSなどによるやりとりがきっかけで知り合った夫婦が、婚姻カップル全体のおよそ7組に1組(約14%)にのぼっていました(図表10)(同国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」/※婚期が’18年7月〜’21年6月の夫婦の場合)。

図表10 夫と妻が知り合ったきっかけ・構成割合(推移)。『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)より

’18〜’21年の平均婚姻件数(年)がおよそ55.3万組ですから、単純にそのうち14%が成婚したと考えると、年間およそ7.7万組がマッチングアプリなどのネットワーク系サービスで知り合い、実際に結婚したものと見られます。

翌年(’22年)の民間の調査結果を見ても、婚活アプリやサイトなど「ネット系婚活サービス」を通じて結婚した人が、婚姻カップルのうち10人に1人(約10%)いて、この割合は’15年(約3%)と比べ、約3倍に増えていました(同・リクルート・ブライダル総研「婚活実態調査」)。

別の民間調査では、さらにこの傾向が顕著で、’22年単年に結婚したカップルの5人に1人以上(22.6%)が、なんとマッチングアプリで出会ったと回答していたほどです(’22年明治安田生命「いい夫婦の日」調査)。

’22年といえば、新型コロナウイルスの渦中で、異性と対面で出会う機会が減った分、デジタルでの出会いに移行した側面もあるでしょう。ただ、先のリクルートの調査では、コロナ前の’19年段階でも、「ネット系婚活サービスで(出会った)」との回答が6%を超えており、同サービスの伸長は「コロナ禍」だけが理由ではないように思えます。

こうしたネット系のマッチングサービスは、見た目(プロフィール画像)や年齢、年収、学歴、職業といった登録者の資源やスペックを、「検索」によって瞬時に探したりマッチングできたりする利点があります。また昨今では、結婚情報サービス各社がデジタル技術を駆使し、AIマッチングにも力を入れているほどです。

まさに未婚化・少子化対策の切り札として注目される、マッチングサービス市場。’21年時点で、「利用経験あり」は、既に20代の3割弱にのぼります。伸びも堅調で、’21年〜’26年までの5年間で、市場規模は2倍以上に膨らむと予測されています(’21年「マッチングアプリの利用状況に関するアンケート調査」三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。

未婚率が改善されない理由

では、こうした新たな出会いの機会創出は、未婚率の改善に繋がっているのでしょうか。残念ながら、必ずしもそうとは言えないようです。

国勢調査による年代別(5歳単位)の未婚率をみると、’20年、20〜30代の男女で5年前より未婚率が顕著に下がったのは、30代後半(35〜39歳)の男性のみで、それ以外の年代では男女共にほぼ横ばいか、むしろ未婚率が増加傾向でした(総務省「国勢調査」)。

また、婚姻件数や婚姻率(人口千対)全体を見ても、マッチングサービスがその数や割合の増加にさほど貢献していない様子が見えてきます。共に新型コロナの感染拡大後(’20年2月以降)である’20年と’21年の比較でも、婚姻件数は年間およそ2.5万組減(約52.6万組→約50.1万組)、婚姻率も0.2%減(4.3%→4.1%)と、増えるどころかむしろ減ってしまっています(’21年厚生労働省「人口動態統計」)。

つまり、アプリで出会って結婚する人たちは、婚姻件数全体に占める割合は増えている半面、カップル(既婚者)の〝数〞の増加には、さほど貢献していない可能性が高いのです。

一体なぜなのか、私は大きく3つ理由があるのではないか、と考えます。まず1つ目が、こうしたネット系マッチングサービスの利用者が、一部の層に偏っているのではないかと見られることです。

’21年、内閣府主催の研究会で「マッチングアプリは、自力救済色の強い手段」だと発言したのは、ニッセイ基礎研究所生活研究部の天野馨南子(かなこ)氏です。『未婚化する日本』(白秋社)などの著書もある彼女は、マッチングアプリで結婚に至った男女について、元来それまでの活動量が非常に多く、かつコミュニケーションを面倒がらない傾向にあるのではないか、と指摘しました(’21年同「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会(第3回)」)。

つまり、マッチングアプリで結婚まで至れるような男女は、もともと恋愛や結婚の「積極層」に多く、たとえアプリがなくても、いつかは誰かと出会えていたのではないか、と想像できます。そうだとすれば、アプリによって出会えるまでの〝時間〞は多少短縮されるかもしれませんが、出会える人の〝数〞の増加には、さほど寄与しないのかもしれません。

また、「いつかは結婚したい」とする未婚男女(18〜34歳)は、いまも「適当な相手にまだ巡り会わないから(結婚していない)」を、未婚理由のトップにあげています(男性36.6%/女性45.7%)が、実はこの割合や傾向は、ネット系マッチングサービスが普及するより、はるか以前、30年以上も前(’92年)から、ほとんど変わっていません(男性42%/女性46%)(「第10回、第16回出生動向基本調査」)。

ここから考えると、婚活アプリなど現在普及するサービスの多くは、よほど性能が悪いのかもしれない、とさえ思えますよね。

「選択のパラドックス」

ですが、必ずしもそれ(性能の悪さ)が理由ではないことは、多くの皆さんがお分かりの通りです。

私は、婚活アプリを利用する若者たちから「いい人がいない」「これと思う相手に出会えない」と聞くたびに、マーケティング調査でよく耳にするセリフを思い出します。

それが、「着ていく服がない」。

私たちマーケッターにとっては、消費者のセリフの一つひとつに、どんな思いやこだわりが詰まっているのかを読み解くことも重要な仕事です。こうした声の主に「お宅訪問調査」をかけると、実は平均よりずっと多くの洋服が、クローゼットに眠っていたりします。

彼女たち(彼ら)は、決して「服がない(少ない)」わけではありません。むしろ、ストックが多すぎて選ぶのがストレスだからこそ、往々にして「どれも決定打に欠ける」と服のせいにして、「手持ちの服からは選べない」と決定を避けたり、「市場(自宅の外)には、もっといい服があるはず」だと、あえて外に目を向けたりしているのです。

候補となる服は手元にたくさんあるのに、多すぎて選べないから「着ていく服がない」となり、つい選ぶのをやめ、外に目を向けている。そんな彼らは、思考と行動が大きく矛盾しているのがお分かりいただけるでしょう。

私は人間に起こりがちな、こうした様々な「認知エラー」こそが、婚活アプリやリアル(対面)の場での出会いをむしろ難しくしている、すなわちカップルの数自体が増えない2つ目の理由だと考えています。

「人は選択肢が多すぎると、一つに決めるのが難しくなり、選択すること自体をやめたり満足度が下がったりする傾向がある」ことを、「決定回避の法則」として世に知らしめたのが、行動経済学で有名なコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授らの研究チームです。

’95年、当時まだ学生だった彼女らは「24種類のジャム」と「6種類のジャム」を用意して行なった、試食実験の結果を発表しました。このとき、試食した人数は「24種類」のほうが多かったにもかかわらず、購入率は、選択肢が4分の1しかない「6種類」のほうが、なんと10倍も多かった(3%対30%)のです。別名「ジャムの法則(Jam study)」とも呼ばれています(同『選択の科学』文藝春秋)。

こうした傾向は、その後の’04年、アメリカの心理学者でスワースモア大学のバリー・シュワルツ教授によって「選択のパラドックス(The paradox of choice)」とのキーワードで紹介されました。

現代社会では、選択肢が多くなると「自分はこんなことも決められない人間なんだ」と無力感を感じて選ぶのが難しくなり、選んだあとも「ほかにもっとよい選択があったのでは」と後悔が残りやすい。選択にもより多くの時間がかかるので、「こんなこと(選ぶこと)ではなく、別の有意義なことに時間を費やせばよかった」と感じ、生活や人生そのものの満足度が下がりやすい、ともいいます(同『なぜ選ぶたびに後悔するのか』武田ランダムハウスジャパン)。

「決定回避の法則」

マーケッターの多くは、この理論に大いに衝撃を受けました。’90年代までは「選択肢が増えるほど、人は幸せを実感しやすい」と考えられており、だからこそ私たちは、意気揚々と数多くの商品やサービスを開発し、世に送り出していたからです。

ところが、シュワルツ教授の学説に基づけば、世の中の商品やサービスの選択肢の幅は、むしろ一定程度に抑えられたほうが、消費者の心理的負担は少なく、かつ幸福度が高いことになります。

そしていま、こうしたジレンマが、婚活市場においても起こっているのではないかと見られているのです。

ニッセイ基礎研究所の研究員(当時)・清水仁志氏も、先の「決定回避(ジャム)の法則」が、婚活のネット型マッチングサービス(マッチングアプリほか)において起こり得る可能性について、同研究所のレポートで報告しています(’21年同「行動経済学から見たネット型マッチングサービスの課題と期待」1月20日掲載)。

つまり、昔(昭和の時代)はお見合いや結婚相談所を通じた出会いなど、数人〜数十人の中から相手を選べばよかった。でもいまはインターネットやマッチングアプリの登場で、

「数万人以上いる(候補者の)中から一人を選ばなければならず、選ぶこと自体をやめてしまっている可能性が指摘できる」といいます。


文/牛窪恵 写真/shutterstock

『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)

牛窪 恵

2023/9/13

¥1,034

304ページ

ISBN:

978-4334100681

恋人は欲しくない?
恋愛は面倒?
――でも、結婚はしたい!?

世代・トレンド評論家の牛窪恵さんが満を持して問う、
未婚化・少子化の死角を突く一冊

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください