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「僕らは縄文人を完全にナメていた」都会のサラリーマン2人は“原始の火起こし”を再現できるのか?〜「週末を使ってゼロから文明を築く」前編

集英社オンライン / 2023年9月29日 12時1分

「現代の道具を使わず、自然にあるものだけでゼロから文明を築く」をテーマに、週末を使って縄文人の生活を再現する様子をYouTubeで配信しているサラリーマン2人組がいる。「文明は“火”から始まる!」最初の挑戦を“火を起こす”ことに決めた「週末縄文人」はまず石を探した…挫折と試行錯誤の末に辿り着いた“原始の火起こし術”を『週末の縄文人』(産業編集センター)より、一部抜粋、再構成してお届けする。〈前後編の前編〉

僕らの文明は火から始まる

2020年9月19日。その日の日記には、「アツかった」と書いてある。シルバーウィークの4連休の初日。もう9月も中旬だというのに、山に来ていた僕たちは半袖で、脇には汗がにじんでいた。それは季節外れの“暑さ”のせいだけではなかった。僕らは木の棒を手のひらで挟み、一心不乱になって回転させまくっていたのだ。



その日、人生で初めて「キリモミ式火起こし」に挑戦していた。マッチやライターに頼らず、自然のものだけで自力で火を起こしたい。そんなわけのわからない、“熱い”思いに突き動かされていた。

遡ること1週間。僕らは【週末を使ってゼロから文明を築く】という挑戦をするにあたって、一番初めに何をすべきか話し合っていた。2人とも歴史学や考古学を学んだことのない素人だが、すぐに意見は一致した。

「やっぱり、文明は『火』から始まるよな!」

調べてみると、人類と火の歴史は想像以上に古かった。僕らの祖先が日常的に火を使い始めたことを示す最も古い証拠は、なんと75万年前のものらしい。原人が暮らした遺跡から、火打ち石や焼けたオリーブの種が発掘されたそうだ。焼きオリーブとかおしゃれすぎる。

ともかく、自然のものだけで起こした火で僕らの文明の灯がともるなんて、最高にかっこいい幕開けではないか。そんな青写真を思い描きながら、アツい回転運動が始まった。

縄文人をナメていた2人

4連休初日の朝、僕らは意気揚々と東京を発ち、活動場所の山へと向かった。到着したのはお昼ごろ。山には様々な木やツル植物が生え、歩いてすぐのところには澄んだ川が流れている。いよいよここで週末縄文人の活動が始まるのだと思うと、僕らの胸は高鳴った。

「火起こしはこの4日間で確実にできるとして、もし余裕があったら石斧を作るところまでいきたいな」

「そうだね。石斧があれば、1週間くらいで竪穴住居が建てられそうな気がする」

「うんうん。その調子でいけば、きっと来年には製鉄してるな!」

「縄文時代はすぐに終わっちゃうね!」

2人「はっはっはっはっ!」

結論から言うと、この能天気な2人が火起こしに成功するのは、2ヶ月もあとのことだった。

僕らはこのとき、縄文人の技術や知恵を完全にナメていた。現代人の知識を持ってすれば、シンプルな文明レベルの縄文時代なんてすぐにクリアできるとたかをくくっていたのだ。しかし、その想定は見事に外れた。

これを「縄文作業3倍の法則」と名付けている。縄文時代のやり方で何かを作る計画を立てると、だいたいその3倍は時間がかかるという経験則だ。「これは1時間で終わる」と言えば3時間、「3日もあれば十分だろう」と言えば9日はかかるのが相場だ。そのうち、「これは2日もあれば終わ……」「やめろー!」という感じで、計画を口にすることは不吉なこととして忌避されるようになった。

これが何を意味するかというと、それだけ僕たちは自然について、そして自分の肉体について無知だということだ。削ろうとする石の硬さや、切ろうとする木の強さ、丸腰で自然に対峙したときの人間の非力さについて何も知らないから、目測を誤ってしまうのだ。かくして何も知らなかった僕たちは、鼻歌交じりで火起こしの準備にとりかかった。

「神石」を求めて…火を起こすために石を探す!?

最初にやるのは材料集めだ。僕らが挑戦する「キリモミ式」火起こしは、「ヒモギリ式」や「マイギリ式」など、数ある発火法の中でも、最もシンプルで原始的なやり方の一つだ。木の板の上で木の棒を回転させ、摩擦熱によって火を起こす。

必要なのは次の3つだけ。

・火きり棒(手で挟んで回転させるまっすぐな木の棒)
・火きり板(火きり棒の回転を受ける木の板)
・火口(ホクチ、摩擦の熱で生まれた火種を包んで炎にするための繊維の塊)

ただし、どんな種類の木がいいのか、自然の中でどうやって板を手に入れたらいいのかなど、わからないことがたくさんあった。すべて試してみるしかない。

いざ、木を探しに行こうかと思ったそのとき、切るための道具がないことに気づいた。そこで、ひとまずナイフ代わりに使えそうな石を求めて、河原へ降りることにした。

初めのうちは、よく切れそうな薄くて鋭い石や、先端が尖った石など、そのまま使えそうな形のものを拾っていた。ところが、使えない石を放り投げているうちに、割れると鋭いエッジが簡単にできることに気がついた。石器の誕生である。

自ら道具が作れることに気づいた僕らは、わずか20分ほどで、両手いっぱいの石のナイフを手に入れることができた。

これらの石器の質にはレベルがある。普通のものは、尖ったエッジ部分の耐久性が低く、木を数回削っただけで欠けてしまう。石器は消耗品なのだ。そんな中、エッジが鋭いにも関わらず、硬くて壊れにくい一級品の石器がある。僕らは自然とこれを「神石」と呼ぶようになった。

しかし、「神石」も見た目は普通の石なので、使い終わってついそこらへんの地面に置いておくと、周囲に溶け込んで他の石と見分けがつかなくなる。「あれ、神石は……?」こうして神隠しにあったものが、一体いくつあっただろうか。その度に落ち込むのだが、心のどこかで「所詮は石」と思っているからなのか、神石に対する雑な扱いは一向に改まらないのであった。

まっすぐな木がない!

森に戻ってきた僕たちは、火きり棒の素材となる木を探し始めた。しかし、これがなかなか見つからない。そもそもどんな種類の木が適しているかわからなかったため、とりあえず回しやすそうな、なるべくまっすぐな木を探すことにした。

しかし、意識して見渡してみると、森にはまっすぐな木がほとんどないことに気づいた。まっすぐに見えても微妙に湾曲していたり、途中に瘤があったりと、なかなか思った通りの木が見つからないのだ。“直線”とはいかに人工的で不自然な概念なのかを思い知らされた。

もしかすると、自然の中で生きてきた人々にとって、珍しい“直線”は憧れの対象だったのかもしれない。湾曲やでこぼこを排除した直線だらけの現代都市は、そんな憧れを持つ人類の行き着いた、皮肉な意味での理想郷のような気もしてくる。

さて、1時間ほど“直線”を探して、ようやく見つけたのが空木(ウツギ)という植物だった。その名の通り、幹の中が空洞になっていて、節が少なく、限りなくまっすぐに近い。長さ40cm、先端の直径が1cmくらいの棒になるように幹の一部を切った。試しに回してみると、重心はほとんどブレることなく、美しく回転する。火きり棒はこれでいけそうだ。

続いては火きり板作り。「板」を作るには、大きい木を切り倒し、それを縦方向に板状に割らなければならない。試しに直径20cmほどの杉を石器で切ろうと試みたが、その圧倒的な硬さに一太刀目で断念した。今の装備で倒せる相手ではない……すぐさま作戦変更だ。

考えてみれば、火きり板が「板」である必要はない。火きり棒がハマりさえすればよいので、棒の直径よりも幅が広い木片ならいいはずだ。そこで、直径2cmくらいの若い広葉樹を切り、30cmほど頂戴した。生木で水分を多く含んでいたため、乾かすために石器で樹皮を剥ぎ、陽の当たる石の上に置いておいた。皮を剥いた木は真っ白で、長ネギみたいだった。

火きり板にはもう一手間かかる。火きり棒を回転させるときにズレないようにするための窪みを彫る必要があるのだ。また、回転によって生じる木屑が一箇所に落ちるよう、窪み に接する溝も彫る。石器を使ってグリグリ。10分ほどで火きり板も完成した。

ところで、火起こしに関する本を読むと、火きり板には杉が適していると書かれていることが多い。そこで、僕らも杉の枝で作ろうとしたのだが、硬すぎて窪みが彫れずに断念した。現代のように鉄のナイフがあればいいが、僕らの未熟な文明レベルに、杉はまだ早いようだった。

しかし、これには思わぬ副産物があった。杉枝の樹皮を石器で剥いでいたら、剥がれていく皮がフワフワの繊維になったのだ。「あれ、これ火口になるかも」

しかも杉の樹皮にはヤニ(油)が含まれているため、これが意図せず最高級の火口になったのだ。

これで火起こしに必要な材料が揃った。ようやく実践だ!

火起こしのための材料は揃った。写真【左】:火口(きりもみでできた火種を包み、火へと育てるための繊維)、写真【右】:火きり棒(手で回転させる棒。なるべく真っ直ぐで、芯が空洞の木を選ぶ)と、火きり板(火きり棒の回転を受ける木の枝)

文/週末縄文人(書き手:文)
写真/『週末の縄文人』より出典。撮影=横井明彦

『週末の縄文人』

週末縄文人(縄・文) (著)

2023年8月25日発売

1,760円(税込)

176ページ

ISBN:

978-4863113756

\YouTube登録者数10万人超/
ビジネススーツを身にまとい、石斧を作り、土器で煮炊きし、竪穴住居で過ごす……。
サラリーマン2人組が、現代の道具を一切使わず、「週末限定の縄文時代」を生き抜く過程を描くサバイバル・エッセイ。カラー写真満載。土器や石斧の作り方がわかるコラムも充実!

「映像研には手を出すな!」著者、大童澄瞳氏推薦!
─4歳頃、一人で磨製石器を作っていた。何日も何日も石を削った私は「この石は“刃物”にならない」と結論を出した。「週末縄文人」は言う。「もっと削れ」。

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