「音楽も自由競争がなかったら発展しない」圧倒的に嘘や見せかけがばれるようになった日本の音楽芸能。BE:FIRSTを手がけたSKY-HIが目指す「芯のあるエンタテインメント」
集英社オンライン / 2023年9月29日 11時1分
2021年のデビュー以来、クオリティの高い歌とダンスで人気を獲得してきたBE :FIRST。プロデューサーであるSKY-HI氏は、本気のクオリティーや本気の意志が集うものこそ美しいと断言する。その秘められた真意とは。SKY-HI氏の著書『マネジメントのはなし。』(日経BP)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
BE :FIRSTが人気を獲得できた理由
──「THE FIRST」から誕生した「BE:FIRST」は、なぜ短期間で今のような人気グループになったのでしょうか。例えばメンバーを選ぶ際に、今の時代感覚、ボーイズグループが受け入れられている世の中で新しい音楽ビジネスに向けたポイントなどはあったのでしょうか?
いや、ヒットなどは結果としてそうなればよくて、もちろんヒットしてほしいけれども、それは2番目ですね。なぜ「THE FIRST」や「BE:FIRST」が人気を得たかというと、今、すべては「表にばれる」時代だということが背景にあると思います。本気なのか、やりたくてやっているのか、楽しいかどうかということが。
20年前、30年前って、1日の中で人間がコンテンツに触れるのは2~3時間、例えばゴールデンタイムのテレビ番組などに限られていたと思うんです。でも今はその気になったら24時間、何かしらのコンテンツに触れられるから、人間のコンテンツに対する対応力が全然昔とは違います。
この前もレコード会社の方とお話をしていて違和感があったんです。例えばTikTokなどでは、ティーンエージャーなどが遊びでやっていたことが、インターネットを通じて、その街の遊びから市の遊びになり、県の遊びになり、国の遊びになって、それでヒットする曲がある。それは何匹もドジョウを生むでしょう、遊びなのだから。大人が「ヒットさせよう」と戦略的に使おうとしてもうまくいくわけはないと思っています。
でも、それはいいことでもあって、「THE FIRST」が他のオーディション番組と1番違ったのも、本当に本気でつくることだったんじゃないかと思います。オーディションの最後のほうは全員が受かりたい、落ちたくないよりも、「みんなでいいものをつくりたい」という人間誰しもが持っている、そういった純粋な気持ちになっていたと思います。
「環境が人をつくる」と思うのですが、「みんなでいいものをつくりたい」気持ちを大事にする環境であったり、そういったものを尊ぶ環境であったり、尊ぶ仲間が同じ場所に集まった。だから、さらにその環境が加速していく。
自分が「THE FIRST」でやった1番大きなことって、たぶん「本気で頑張る」とか「本気で夢を追う」「本気できれいごとを言う」みたいなのは絶対いいことだというのを本気で伝えて、その本気が視聴者に伝わったこと。その本気のままだからBE:FIRSTの本気も世の中にすごく伝わりやすいのかなと思います。
嘘がばれるという意味で言えば、(付け焼き刃の)クオリティーもばれる時代です。我々は歌とダンスと楽曲のクオリティー、クリエーティビティーに手を抜かず本気でやることも大事にして、徹底しています。そうしたことを打ち出しているエンタテインメントの組織や芸能事務所、ボーイズグループは日本にはあまりなかったと思うのですが、単純にクオリティーの高いものを見たいですよね。
そこをきちんとやれば、たとえ番組放送時には箸にも棒にも掛からなかったとしても1年2年と続けているうちに、「こういうのが見たかった」と世間が思ってくれる日が来ると思うから、クオリティーに手を抜かずにやっていれば絶対大丈夫だと。
結果として短期で大きく支持されたのは、本気のクオリティーや本気の意志が集うものってやっぱり美しいからじゃないでしょうか。
嘘が通用しなくなり、本気が尊ばれるように
──本気を伝えていくなかで、SKY-HIさんが意識されていたことは?
圧倒的な性善説であり真理でもあると思うんですけど、本当は本気でやりたくない人なんていないと思うんですよ。例えば本気で頑張ることは恥ずかしい、照れくさい、かっこ悪いっていう環境にいたらそうなるし、本気で頑張っても失敗したら恥ずかしいっていう環境にいてもそうなると思うんです。
合宿では、俺が1番恥ずかしいことしていたんで。だって会って1週間でみんなと一緒にお風呂に入って恥ずかしい部分を見せている(笑)。冗談はともかく、ちゃんと本気で接してきて、恥ずかしい部分を見せてきました。
今まで表で話していないことで僕が大事にしてきたことがあるとしたら、例えば100人いれば100人、15人だったら15人、BE:FIRSTだったら7人ですが、完全に同じことを考えている人はいないので、自分が持っている強烈な意志とか旗のもとに彼らを引っ張っていく形はあまり適してないんだろうなとは思っていました。
大事なのは、掲げた旗に対して付いてきてくれた方が、なぜ「いいな」と付いてきてくれたのかをちゃんと気にすること。どうしてBMSGや「THE FIRST」に賭けてくれたのかという理由はそれぞれ違うし、向かう先や幸せの形もそれぞれ違う。そこを忘れずに彼らときちんと接することができれば、きっと信頼していただけると考えました。
そうした関係の上で、自分がたまたま彼らよりちょっと早く生まれ、アーティストとしても知見や知識があり、アドバイスできるようなことがあるので、それを彼らにお渡ししていくということです。
──先程、「嘘をつかない」というのがヒットの根っこのところにあるという話をされていましたが、コロナ禍を経て「ものの作り方」は変わってきたと感じられますか?
それは、すごく思います。圧倒的に嘘や見せかけがばれるようになったと本当に思います。
昔だったらプロパガンダやハイプ(過剰な宣伝)がいい方向に転がっていたと思いますが、それが通用しなくなった。実(じつ)のない信仰みたいなものも、どんどん(虚像が)めくれていっていると思います。嘘が通用しなくなった一方で、本気が尊ばれるようになったと思うので、自分にとっては本当に20年以降の世の中のほうが生きやすいし、やりがいもあるなあという気はしています。
──ヒットづくりを仮に考えていくとすれば、本気のコンテンツをどんどんぶつけていく以外にないだろうと。
それしかないと思いますね。かつての新自由主義や10年ほど前にハック思考がはやっていた頃って、数字や影響力が「目的」であり、プロダクトそのものは「手段」だったと思うんです。
それを否定するわけではありませんし、本気で突き詰めているのであれば1つの美学だし哲学だし美しいことだと思うのですが、今の時代に1番ヒットする確率が高いものが何かと言ったら、1人の人間の中にある、ものすごく純度の高い「本当にやりたいこと」を、本当にやりたい形でフルにやれたときに生まれると思います。
きれい事のように聞こえるかもしれませんが、ドライに考えてもそう思いますし、とにかくその「純度の高さ」が大事なんじゃないでしょうか。
横のつながりを持って「みんなで頑張る」
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──コンテンツを見る側、例えばファンの人々の心理も変わりました?
たぶんそうだと思います。(コロナ禍という)圧倒的なファンタジーが現実に起こってしまったじゃないですか。今まで「現実から逃げるためのファンタジー」としてエンタテインメントが機能していた側面っていうのは確実にあったと思いますし、今後も当然ゼロになることはないと思うけれども、現実から逃げるためのばれない嘘を尊ぶ形から、本当のものをちゃんと見たいという方向に変わってきているように思います。
本当のものが1番感動を生むのは昔からですが、もっとカジュアルに本当のものを見たい気持ちは増えているんじゃないかなと思います。僕も「本物」っていう言い方は好きじゃないんですが、でも見せかけでなくて実(じつ)のある「芯のあるエンタテインメント」「芯のあるきれい事」「芯のある関係」を求める傾向は、コロナ以降で加速したように思います。
自分はコロナ前からそういう形でやっていましたが、あつれきをそこここに生んでしまいました。ファンの方からも「なぜあなたは嘘をつかないのだ」「なぜあなたはステージに立つ人間なのにフィクションをしないんだ」などと言われ続けてきて、それは僕自身の大きなトラウマにもなっていたんです。
でも、コロナ禍以降およびBMSG設立以降、「THE FIRST」以降はどんどんとそれが薄くなりました。今はスーツを着てネクタイを締めていても、ステージ上にいても、BE:FIRSTのレコーディングに立ち会っていても、どんなときも自分のままでいられます。
スタッフと話すときとアーティストと話すとき、ステージの上からファンの方に話すときのテンションも常に変わらずにいられる。いつでも自分のままでいられるので、生き物としてすごく楽なんです。
「びっくりするくらい(B)マジで(M)素のまま(S)頑張っています(G)」で、BMSGなんですよ(笑)。
──これから新しい音楽ビジネスをつくっていくのに、必要なものは何ですか?
ここまで話してきたことに加えるとしたら、他とのユニティのような気がします。
1つの権利や利益を独占することが「成功」だった時代があったと思うんですが、これからは、横のつながりを持って「みんなで頑張る」ことが大事な気がしますね。
韓国ではBTSが世界的な名前の残し方をされています。彼らは急に大ヒットしたかのように思われがちだけれども、K-POPは、(1998年にデビューした)SHINHWA(神話)から東方神起、BIGBANG、BTS、NCT、Stray Kidsなどへと切磋琢磨(せっさたくま)し合いながらバトンをつないでいっている。
それこそユニティみたいなことがないと。経済も自由競争がなかったら発展しないじゃないですか。だから、ユナイトとフリーダムが重要だと思いますね。
『マネジメントのはなし。』(日経BP)
SKY-HI
![](https://assets.shueisha.online/image/-/2023/09/25094743868287/400/4193_001.jpg)
2023年3月30日
¥1,760
256ページ
978-4-296-20163-1
社長・SKY-HIの挑戦をたどれる"ドキュメンタリー本"。課題意識を持つビジネスパーソンへのヒントも満載な1冊。今、音楽業界で最も勢いのあるマネジメント/レーベル「BMSG」。そのCEOであり、アーティストとしても第一線で活躍するSKY-HIの『日経エンタテインメント!』での連載が待望の書籍化!
オーディション「THE FIRST」がムーブメントを起こし、そこから誕生したBE:FIRSTはデビュー1年で紅白歌合戦に出場。2020年9月にたった数人で始まったスタートアップ企業が、なぜここまで急激に成長できたのか。
本書は、その時々でSKY-HIが抱える課題や挑戦にフォーカスしたドキュメンタリー的な1冊。「課題解決」「人材育成」「スキルアップ」「コミュニケーション」など、ビジネスのヒントの宝庫ともなっている。
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