2040年代前半に厚生年金は破綻する…単年度の赤字が10兆円超え、積立金が枯渇! 支給開始年齢の引き上げは急務というが…
集英社オンライン / 2023年10月12日 8時1分
2020年度の厚生年金の経常収支はほぼ均衡していたが、このままだと2040年には赤字額の累計は約100兆円になるという。これを回避するためには、支給開始年齢の引き上げが必要になるが、いったいなぜこのような事態が起こっているのか。『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』 (朝日新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
年金には国庫支出金が支出される
年金会計の収入には保険料のほかに国庫支出金と積立金運用収入がある。以下では、これらを考慮した場合の年金財政を考えることとしよう。
まず、各制度から基礎年金制度に対する拠出金の2分の1が国庫負担となる(従来は3分の1であったが、2004年度から段階的に引き上げられ、2009年度に2分の1となった)。
収入項目のうちの国庫支出金は、受給者の増大によって増えるわけだ。
厚生年金の場合、2020年度において、経常収入(積立金運用益を除く収入をこのように呼ぶこととする)が約47.2兆円、そのうち保険料収入が約32.1兆円、国庫支出金(国庫・公経済負担)が約10.1兆円だ(厚生労働省、「公的年金各制度の財政収支状況」による)。
厚生年金から拠出金を基礎年金勘定に繰り入れ、そこから、基礎年金として支出される。
2020年度で、厚生年金から基礎年金への拠出額は19.4兆円だ。先にみた厚生年金の経常収入中の国庫・公経済負担約10.1兆円は、この約半分になる。
厚生年金収支の見通し
日本には、厚生年金のほかに、いくつかの公的年金制度がある。
支給額でみると、厚生年金が48.1兆円、国家公務員共済組合が3.0兆円、地方公務員共済組合が8.3兆円、私立学校教職員共済が0.9兆円、国民年金の国民年金勘定が3.7兆円、国民年金の基礎年金勘定が24.5兆円だ。
このように、厚生年金が圧倒的に大きい。そこで、以下では、厚生年金について考えることとする。なお、他の年金も、程度の差はあるが、同じような問題に直面している。
まず支給開始年齢が65歳のままであり、物価上昇率も実質賃金上昇率もゼロであるような経済を考える。
すると、給付は2020年度の48.1兆円から始まり、65歳以上人口の増加に伴って増加し、2040年度には2020年度の約1.083倍である52.1兆円となる。
他方で、経常収入の約3分の2は保険料だ(正確な比率は、2020年度で、32.0÷47.2=0.678)。これは、15〜64歳人口の減少に伴って、2020年度から2040年度にかけて、0.807倍に減少する。
経常収入の残りは国庫支出金などで、これは、65歳以上人口の増加に従って増加すると考えると、2020年度から2040年度にかけて1.083倍に増加する。
したがって、経常収入全体としては、2020年度の47.2兆円から2040年度までの間に0.678×0.807+ 0.322×1.083=0.896倍になって、42.3兆円となる。
国庫支出金を含めても、なお厚生年金の経常収入は、20年後には1割以上減少するのだ。
2040年代前半に厚生年金の積立金が枯渇する
2020年度においては、厚生年金の経常収支はほぼ均衡している。しかし、その後は赤字が拡大する。赤字額の累計は、2040年度までだと、約100兆円だ。
これを積立金の取り崩しによって賄うとしよう(実際には、積立金の運用益を考慮する必要があるが、それについては後述する。ここでは、運用益がない場合を想定する)。
2022年12月末の積立金残高は、年金積立金全体で191兆円だ(GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人「2022年度の運用状況」による)。
このうち厚生年金の比率は、過去のデータからすると79%程度と考えられるので、約150兆円だ。
ところが、2040年度以降は、単年度の赤字が10兆円を超す。だから、2040年代の前半に、積立金が枯渇することになる。
これを回避するためには、支給開始年齢の引き上げが必要になる。
積立金の運用収益に頼ることはできない
年金会計の収入としては、以上で考えた経常収入のほかに、積立金の運用収入がある。
運用収入がどの程度の額になるかは、経済情勢によって大きく変動する。2020年においては、35.7兆円という巨額の運用益が発生した(収益率では24.0%)。
しかし、収益率がマイナスになった年もある。2022年においては、四半期連続で赤字となった。
2001年度から2021年度の間の平均運用利回りは3.7%だ(GPIF、「年金積立金の運用目標」による)。
現在の積立金が約150兆円であるから、積立金の額が不変であるとすれば、年間で5.5兆円程度の収入を期待できることになる。
しかし、2030年代の後半には、経常収支の赤字が6兆円を超える。そうなると、積立金の取り崩しが必要になり、残高が減少し始める。すると、運用収益も減少する。こうして、積立金の残高が急速に減少するという悪循環が始まる。
したがって、運用益を考慮したとしても、先に述べた収支見通しに大きな違いはないだろう。破綻時点が若干後にずれることはあるだろうが、大勢に影響はないと考えられる。
しかも、運用収益がどうなるかは、将来の経済情勢に依存する。だから、運用収益をあてにすることはできない。経常収支についてのバランスを実現することが重要だ。
文/野口悠紀雄 写真/shutterstock
『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』 (朝日新書)
野口 悠紀雄
2023/9/13
¥1,045
304ページ
978-4022952356
あなたは既に「貧民」かもしれない——
“瀕死の病人”日本経済の処方箋を示す!
かつて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
とまで称されたこの国は大きく退潮し、
購買力は先進国で最低レベルに落ち込んでいる。
国民の多くが自覚のないままに、
経済大国から貧困大国に変貌しつつある
日本経済の現状と展望を
60年間世界をみつめたエコノミストが分析する
<目次>
第1章 気がつけば、「プア・ジャパン」
第2章 昔はこうでなかった
第3章 これから賃金は上がるのか?
第4章 増大する財政需要と政治家の無責任
第5章 デジタル化の遅れが日本の遅れの根本原因
第6章 高度人材を日本に確保できるか?
第7章 日本再生のエンジンは、デジタル人材
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