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侍JAPAN新監督・井端弘和が憧れる意外な現役日本人選手…「素直な気持ちを言えば、もっと大きな野球をやってみたかった」

集英社オンライン / 2023年10月3日 16時31分

現役時代、中日、巨人と強豪チームでプレーし続けてきた、野球日本代表「侍JAPAN」の新監督・井端弘和氏。常勝軍団でプレーしてきた井端JAPANはどんな野球を見せてくれるのか。『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

#2

「俺だって、狙ったら打てるよ」

〝井端弘和〟という名前を聞いて、野球ファンの皆さんはどんなイメージを抱くだろうか?

失点を最小限に食い止める堅実な守備。状況に応じて逆方向を狙ったり、簡単にはアウトにならないしぶといバッティング。前後の打者をつなぐ、バントや進塁打といった意味のあるアウト……。ひっくるめて言えば、それは「スモール・ベースボール」と呼ばれるもの。だから私のことをスモールベースボールの推進者であり、信奉者だと思っている人は多いはずだ。



たしかに現役時代の私がそういうプレーを得意としていたのは間違いない。いずれも長い時間を掛けて練習し身に付けてきた技術なので、自分なりに自信も持っている。

今年4月、U-12ワールドカップに向け意気込みを語る井端監督 写真/共同通信

しかし、じゃあ私がスモール・ベースボールを好きかと聞かれたら、必ずしも「はい」とは答えられない。素直な気持ちを言えば、もっと〝大きな野球〟をやってみたかった。

ホームランを打とうと思えば、「俺だって、狙ったら打てるよ」という自信もあった。

だけど、現役時代に同じチームでプレーした高橋由伸選手や福留孝介選手のように、潜在的にシーズン本以上打てるような打者は、少々タイミングを崩されても、とりあえずバットの芯で捉えて打球が上がればホームランになる。それならストレートを待ちながら、変化球を打ちにいくことも出来るはずだ。私の場合は、彼らとは違って、フライになったらなかなか柵越えはしない。打つならライナー性の打球。そのためにはミートポイントを一カ所に絞って、完璧なタイミングで捉えなくてはならない。

ホームランを狙わなかった理由

それをやろうとすると、どうしてもバッティングの確実性が下がり、出塁率に影響してくる。それでシーズン~本くらいのホームランを打ったところで、相手バッテリーはさほど怖さを感じないだろう。そういう選手の代わりはいくらでもいるから、調子の良し悪しや、相手投手との相性などですぐに入れ替えられる。監督やコーチから絶対に必要とされる、〝不動のレギュラー〟にはなれないのだ。

だから私にとってのスモール・ベースボールは、好きか嫌いかではなく、野球の世界で生き残るためにやってきたことだった。

井端監督は現役引退後、少年野球の指導にも熱意を注いできた

面白いもので、自分がコーチという立場になったとき、今度は起用する側の視点からチームや選手のことを見るようになった。そこで実感したことがある。スモール・ベースボールは勝つためには絶対に必要。だけど、そう何人もいらない。レギュラーの中に一人、ないしは2人いたら十分。かつての中日ドラゴンズで言えば、私と荒木雅博選手の「アライバコンビ」がいたら、それで野球は成立する。

みんながみんな、スモール・ベースボールである必要はない。将棋のように、いろんな役割を持つ駒がバランス良く揃っていてほしい。そういうチームが本当の意味で強いし、見ていて面白味がある。

アライバが1、2番なら、1番を打つほうは塁に出るのが仕事。2番は点を取りやすい形を作るのが仕事。その作ったチャンスを、福留やタイロン・ウッズ、森野将彦といったクリーンアップを打つ選手たちが得点にしていく。スタメン以外にも、外野守備のスペシャリスト英智選手。終盤の代打の切り札としてミスタードラゴンズ立浪和義選手がベンチに控えていた。駒がいることで勝ちパターンが定まるし、戦い方に幅も出来てくる。

そして選手のほうは、自分がどんな駒であるのかをちゃんとわかって、試合のそれぞれの場面、局面で、自分の役割、やるべきことを考える頭脳、感性が必要だ。

体格的には決して大きくなく、何か特別な武器を持っていたわけでもない井端弘和という野球選手が、厳しいプロ野球の世界で生き残れたのは、野球を考える力、〝野球観〟を持っていたからだと思っている。

井端が憧れる現役選手

余談になるが、いまや日本プロ野球を代表するスラッガーで、侍JAPANの一員として2021年の東京五輪で金メダルを獲得した オリックス(現・レッドソックス)の吉田正尚選手。彼は、私にとって憧れの選手だ。あの力強いスイングには、とても惹きつけられる。

現役最強打者と呼び声高い、MLBでプレーする吉田正尚選手 写真:AP/アフロ

身長173センチは、私とほぼ変わらない。そこにウェートトレーニングなどで厚みをつけて、ああいうゴツい身体を作り上げた。私の場合はプレーのスピードを意識していたので、あまり身体を大きくするとマイナスの要素が出て来ると思い、ウェートトレーニングはそこまで力を入れてやっていなかった。彼はパワーで勝負するという意思があったのだろう。そこは二遊間を守る内野手と、打ってナンボの外野手で、求められているものの違いがあるから、当然アプローチも違う。

それでも、私が目指してみたかった選手のイメージ像が彼にはある。あれくらいの身長で首位打者を取る選手というのは過去にもいたが、30本近いホームランを打つ選手というのは、なかなかいなかった。

身長の数字だけを見れば、西武の大砲・中村剛也選手や山川穂高選手もそんなに背が高いわけではない。ただ、彼らを見てもあまり小柄とは思わないだろう。あの体重100キロを超えるアンコ型の体型は、むしろ巨漢に映る。あえて探せば、かつてパ・リーグで何度もホームラン王を獲得した門田博光さん(元・南海)が170センチしかなかった。門田さんも、フルスイングが代名詞だった。

吉田選手はユニフォームを着てプレーする姿を見ると大きく感じるが、侍JAPANで初めて会った時、「こんなに小さいんだ」と驚いた。実際、オリックスで3、4番のコンビを組んだ190センチ近い巨漢の杉本裕太郎選手と並ぶと、頭一つ違う。それでも、同じように大きな打球を飛ばしている。

「俺もあれくらい鍛え上げていたら、ああいう野球が出来たのかな?」と想像したりもしてしまうのだ。

『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)

井端弘和

2022年6月2日

1760円

192ページ

ISBN:

978-4-537-21994-4

東京五輪で金メダルを獲得した野球日本代表“侍ジャパン”の内野守備・走塁コーチ、井端弘和。現役時代は荒木雅博と「アライバコンビ」を組み、現役引退後は巨人・高橋由伸監督の下でコーチを経験。現在は社会人野球の指導を行うなど「育成手腕」が高く評価されている。そんな野球界が誇る“名参謀”が、“コーチ”の重要性、存在意義について語る一冊。

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