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【侍JAPAN新監督】現役時代、打率を気にしたことのなかった井端弘和が絶対に妥協しなかった数字とは

集英社オンライン / 2023年10月3日 16時31分

野球日本代表「侍JAPAN」の新監督に井端弘和氏が就任した。落合野球の申し子として常勝軍団の礎を築いてきた井端氏の野球観とは…。『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

#1

実は“シンプル”だった落合野球

2004年に中日は落合博満監督が就任。私は荒木選手とのアライバコンビが定着し、チームも毎年のように優勝争いを繰り広げていた。

落合監督の野球はとてもシンプル。選手に無理なことを言うわけでもなく、当たり前のことを要求される。だから、私にはとてもわかりやすかった。ただ、あの人が醸し出す独特の雰囲気のようなものがあって、「何を考えているんだろう?」と相手が勝手に構えてしまう。それでミスしてくれたりすることもあった。


中日監督時代、8季連続Aクラスを果たした落合監督 写真:ロイター/アフロ

相手が考えれば考えるほど、逆にこちらは当たり前のことを普通にやっていればいい。
裏をかいているわけでも何でもなく、相手が勝手に嵌まってくれるのだ。

では、「シンプル」とはどういうことなのか?

バッティングなら、打てるボールを打てばいい。初球から打てるボールが来たら打っていいよ。それで全員が初球を打って、結果アウトになって、27球で試合が終わってもいい。そのかわり、甘いボールを絶対に逃すな、と。

そして、追い込まれてワンバウンドの変化球を振って三振したりするのを嫌った。

「低めの見逃し三振はオッケーだから」と言われていて、逆に高めのボール球を振ってしまっても何も言われない。そういうところが、私の考える〝シンプル〟。

だから選手も自分の仕事に特化していた。

最近はシーズン100打点を超える選手はなかなかいない時代だが、あの頃は、3番福留、4番タイロン・ウッズと、同一シーズンでチーム内に2人も100打点以上の打者が出たり、ウッズの後に4番に入ったトニ・ブランコや、森野将彦選手が100打点以上を記録したシーズンもあった。のちにFAで加入した和田一浩選手も、90打点前後の数字を残している。

私と荒木はチャンスを作るのが役割だとしたら、3番、4番はそれを返す役割。そういう仕事の象徴が、100打点超えだったはずだ。

1、2番を打つ選手は何を評価されるべきか

点を取る選択肢も、「ヒットを連ねていこう」とか「ここはホームランを」というような気持ちはサラサラない。走者が詰まっていたら外野フライでいいし、状況によっては内野ゴロ併殺でもいい。とにかく走者を生還させて1点を取ればいい、と。だから彼らも、ヒットを打てなくても、「最悪外野フライを打つにはどういうバッティングをしたらいいんだ?」と個々に考える力を持っていた。

最近の選手は、チャンスで打席が回ってきたら、「強く振ってヒットを打とう」とか「外野の頭を越すような打球を打とう」と考えているようだ。当時の私たちは、内野の守備位置を見て、もし下がって守っていたら、「よし。ボテボテのゴロを打てば1点入るな」と考えるような集団だった。

井端監督は現役引退後、少年野球の指導にも熱意を注いできた

そうやってチームが勝つことで給料(年俸)が上がる。打率何割とか何ホームランという数字と同様に、いや、それ以上に評価されたのは、チームが勝つためにした仕事だった。考えてみれば、当たり前のことだろう。もともと1、2番を打つ選手は打点は稼げないし、まして2番というのは、前を打つ1番打者の出塁によって制約がある中での打席なのだから、それによって打率も変動してくる。そこで自分の数字を追いかけてしまったら、「送りバントなんてしたくありません」ということになる。「そんなことをするくらいなら、ヒットを打ちにいったほうがいい」と言い出しかねない。

だから球団も、クリーンアップを打つ選手の打点と同じように、1、2番を打つ選手には、「得点」をきちんと評価してくれた。

私や荒木は極端な話、打率が2割5分でも、四球などによる出塁が多くて出塁率が高かったり、100近い得点を記録したシーズンもあったので、そういう数字を評価してもらえた。当然私たちも常に意識するようになる。逆に森野やブランコは、打点に執着する気持ちが感じられた。私たちが凡退して走者なしで打席を迎えたりすると睨まれた。それが給料に繋がるということがわかっていたからだ。

現役時代、絶対に妥協しなかった数字

私は現役時代、打率を気にしたことはなかった。給料を上げたければ、全試合に出場して、その適材適所で与えられた仕事をきちんとやって、それでチームが勝てばいいと思っていた。だから、まず全試合に出るために必要な体作り。それは絶対に妥協しなかった。

3割を打ったシーズンもあるが、そのうちの何度かはギリギリ3割という数字だった。逆に、わずかに足りず3割を切ったシーズンもある。そういう時というのは、シーズン終盤、試合に出るのが嫌になってくる。とても疲れるのだ。とくに優勝が決まった後の消化試合になると、「3割なんてどうでもいいわ」と思いながら打席に立っていた。

そもそもギリギリ3割と2割9分台というのは、私も両方経験したことがあるが、その足りないヒット数なんて、計算してみたら5本もない。年間500打席以上立って、その中でのたかが5本。はっきり言って、どうでもいいようなヒットだってある。

逆に、完璧に打った打球が野手の正面に飛ぶこともある。そう考えると、そこでの打率の差は自分の中ではあまり気にならなかった。

現役時代の井端弘和氏 写真/AP/アフロ

それよりも私は毎年、「全試合、全イニングに出る」というのが目標だった。そしたら、ずっとフルイニング出場を続けてきて、最終戦に打率3割が懸かるということもあった。監督からは試合前、「どうする?」と聞かれた。フルイニングを取るか、打率3割を取るか、自分で選べという意味だ。私は「両方です」と言って試合に出場した。

全試合フルイニング出場には、プロとして強いこだわりがあった。

シーズンの中で、もし私が出ていない試合、出ていないイニングがあれば、言うまでもないが代わりに誰か別の選手がショートを守ることになる。私は、選手の年棒というのは、その年の総枠があって、それが各ポジションに分配されているという考え方をしている。その中からショートに割り当てられる額が1億円だとしたら、私以外の誰もショートで出場していなければ、その1億円を私が全部もらう資格があることになる。

まあ現実はそう単純なものではないが、球団に対しては、契約更改の時に、そういう基準で話をさせてもらっていた。

『野球観 ~勝負をわける頭脳と感性~』(日本文芸社)

井端弘和

2022年6月2日

1760円

192ページ

ISBN:

978-4-537-21994-4

東京五輪で金メダルを獲得した野球日本代表“侍ジャパン”の内野守備・走塁コーチ、井端弘和。現役時代は荒木雅博と「アライバコンビ」を組み、現役引退後は巨人・高橋由伸監督の下でコーチを経験。現在は社会人野球の指導を行うなど「育成手腕」が高く評価されている。そんな野球界が誇る“名参謀”が、“コーチ”の重要性、存在意義について語る一冊。

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