「男は働き女は家を守る」…選択式夫婦別姓や同性婚に反対する自民党議員の大半はいまだにこの昭和の伝統的家族観の幻影に取り憑かれている
集英社オンライン / 2023年10月5日 10時1分
一度決まったルールや決定が覆りづらいのも、自民党政権がずっと変わらないのも、他国と比べてデモやストライキが起きないのも、モラルや規範にやたらと厳格で他人の足を引っ張って悦に入ってしまうのも、すべて日本人の「自己家畜化」と関係するものである。戦後から高度経済成長期においてはそれでも日本人は幸せだったが…
新たな主人とエコノミックアニマル化
話をいったん戦後に戻そう。
連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が日本を占領下においたのは、1945年から1952年までの7年間だった。
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この間、GHQは憲法改正や五大改革(女性参政権の付与、労働組合の奨励、教育の自由主義的改革、秘密警察の廃止、経済機構の民主化)の指令を出し、特別高等警察、治安維持法、治安警察法などを廃止した。言論や労働運動においても日本人は自由を取り戻したのだ。
やがて1955年頃から高度経済成長期に突入すると、経済上の利潤追求を第一として異様なアクティブさで活動するようになった日本人は、欧米人から「エコノミックアニマル」との蔑称で呼ばれるようになる。
これは国にとっては経済が、個人にとっては仕事が、新たな「主人」になったという見方もできるだろう。ともあれ高度経済成長期の日本における仕事とは、「みんなと同じこと」をすることであった。
工場で製品を大量生産するにあたって、個性やオリジナリティは不要だ。それよりはみんなと同じように、同じものを作れることに価値があった。
「みんな」至上主義
「みんなのために、みんなと同じことをやる」という教育は、日本人の感性とぴったり合致した。江戸の里山の頃から受け継がれてきた考え方であると同時に、富国強兵を掲げた明治期の集団主義教育とも重なる下地があったからであろう。集団で暮らすためには、温和な家畜のように自主性がないほうがよい。
社会の制度も日本人の自己家畜化を後押しした。成人男性にとっては仕事が人生の中心であり、福利厚生などの社会制度も「会社員と専業主婦」の家庭を標準にして設計された。父が大黒柱となって生活費を稼ぎ、母が家事・育児・介護を一手に引き受ける。
いわゆる「日本の伝統的家族観」も、突き詰めればせいぜい明治〜昭和のモデルに過ぎないのだが、選択式夫婦別姓や同性婚に反対する自民党議員の大半はいまだにこの幻影にシンパシーを感じているようだ。
海外のビジネスパーソンからはエコノミックアニマルと皮肉られても、当の日本人たちは働くことに価値を見出し、全力で仕事に向き合っていたはずだ。なぜならそれが「お上」が提示する新たな美徳であり、指針であったのだから。
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さらに好景気に沸く1980年代には、大企業のサラリーマンは「気楽な稼業」として認知されていく。大企業の社員であれば、年功序列で自動的に昇進できた。
社畜=現代版の家畜
だがバブル崩壊後、1990年代に入ると日本社会の様相は徐々に変わっていく。エコノミックアニマルから一転して、家畜ならぬ「社畜」という俗語が広く普及し始めたのもこの頃だ。
「会社+家畜」を語源に持つこの俗語は、サービス残業も転勤もいとわずに働く会社人間をバカにする意味合いを持つ。エコノミックアニマルという言葉を使うのは海外のビジネスパーソンだったが、社畜は労働者本人が自分の労働環境を自虐的に表す言葉として「ブラック企業」と同様に広まった。
社畜=「現代版の家畜」と表現してもいいかもしれない。
モーレツに働いて高度経済成長期を支えたエコノミックアニマルは当人たちにとってはポジティブな意味合いを持ち、社畜というネガティブな言葉とはベクトルが真逆に思えるかもしれない。
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だが、自らの権利から目を背けて満員電車ですし詰めにされ、組織のために歯車になる状態を継続させることは、やはり家畜的な「自主性の放棄」という点で選ぶところがない。
文/池田清彦
写真/shutterstock
『自己家畜化する日本人』
池田 清彦
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2023/10/2
¥1,012
208ページ
978-4396116880
「ホンマでっか!?TV」出演の生物学者による痛快批評!!
家畜化の先に待つ阿鼻叫喚の未来
一部のオオカミが、進んで人間とともに暮らすことで食性や形質、性格を変化させ、温和で従順なイヌへと進化してきた過程を自己家畜化という。そして、この自己家畜化という進化の道を、動物だけでなく人間も歩んでいる。
本書は自己家畜化をキーワードに、現代日本で進む危機的な状況に警鐘を鳴らす。生物学や人類学、心理学の知見を駆使して社会を見ることで、世界でも例を見ない速度で凋落する日本人の精神状態が明らかになる。
南海トラフ大地震といった自然災害の脅威が迫り、生成AI、ゲノム編集技術といった新しいテクノロジーが急速に普及する今、日本人に待ち受ける未来とは――。
第1章 「自己家畜化」の進化史
「自己家畜化」とはなにか/ウシやブタは人間によって家畜化された/狩猟採集民が肉をあえて食べ残していた理由/人類のゴミに目をつけたオオカミ/イヌと人類のWin-Winな関係 ほか
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