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50年間で3兆円から24兆円に成長した外食産業の中で「デニーズ」は2度の大量閉店の危機をどう乗り越えたのか?〈デニーズ社長インタビュー〉

集英社オンライン / 2023年10月6日 9時1分

1974年、ファミレスチェーン「デニーズ」創業当時の外食業界は3兆円の市場規模だったが、現在の外食業界の市場は24兆円規模にまで拡大している。50年間で8倍もの成長を遂げた外食業界において、デニーズはどのように寄与してきたのか。50周年を迎えるデニーズを運営する株式会社セブン&アイ・フードシステムズの代表取締役社長を務める小松雅美氏に話を聞いた。(前後編の後編)

#1

日本人の味覚を追求してできた「和風ハンバーグ」

──デニーズは今年で50周年を迎えます。あらためて、半世紀以上にわたって多くのお客様から愛されている理由についてお聞かせください。

1974年にデニーズ1号店を東京・上大岡に出店した当時は、アメリカのデニーズを丸ごと持ってきたような感じで、いわば本場のアメリカンダイナーの世界観をそのまま日本で再現したものでした。


「デニーズ」日本1号店の上大岡店。(SINCE1973は、テナントの入るイトーヨーカ堂がアメリカの「デニーズ社」と技術援助契約を締結した年) 写真/@BUBBLE_B

しかし、そのころは“外食”というものが当たり前ではなかったので、日本のお客様に受け入れられるためには、日本人に合う味覚を追求しなければならない。

そう我々の先人たちは考え、少しずつ日本人の食の嗜好や食習慣に合わせたメニュー開発に乗り出していきました。

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ代表取締役社長の小松雅美氏

――具体的にどんなメニューを作られたのでしょうか。

今でも人気メニューのひとつである「和風ハンバーグ」を1977年にメニューへ加えました。一説には、日本で初めて和風ハンバーグを提供したのがデニーズといわれるくらい、その当時としては画期的なメニューでした。

デニーズの初代「和風ハンバーグ」

また、1986年には「チャイナタウンヌードル」というシリーズで、五目うま煮ラーメン風のメニューを出したり、お客様に支持される商品や味の工夫など、いろんなチャレンジをしてきました。

当時のメニューにあった「チャイナヌードル」

卵料理を提供するモーニングメニューを始めたのも、デニーズが先駆けとなっています。そこから、朝専用のメニューがあるなら、昼も夜も作ろうということで、グランドメニュー以外にランチやディナータイムのメニューも追加していきました。

1990年代には、ナタデココやパンナコッタ、ティラミスといった今では定番のデザートをいち早く取り扱い、スイーツメニューの充実も図りました。

このようにデニーズは、フロンティア精神を持ち、果敢に新しいことに取り組む“挑戦の歴史”を歩んできたと言えるでしょう。飽くなき挑戦が、差別化につながっていると考えています。

現在、外食業界の市場は24兆円規模にまで拡大していますが、デニーズが誕生した1974年は3兆円規模でした。まだまだ小さかった外食市場を、先見の明を持った先人たちが「日本の外食文化を盛り上げていこう」という思いのもと、さまざまな創意工夫を繰り返し、今のファミリーレストランの礎を築いてきたのです。

会社再編のための2度の「大量閉店」

──デニーズは2008年のリーマン・ショック後、そして2020年のコロナ禍と、2度の「大量閉店」を余儀なくされました。こうした苦境をどう乗り越え、価値を再定義して浮上してこられたのでしょうか?

2017年から社長に就任した小松氏

デニーズは2000年代の中盤あたりから、売上が右肩下がりになっていて、2006年、2007年は大赤字の状況でした。そうしたなか、2007年9月にグループにあった外食の3社が合併し、セブン&アイ・フードシステムズを設立しました。合併後、3年かけてデニーズを含む不採算店舗の退店を実施しました。

そしてその後は、徹底的に「お客様への提供価値」を重視した施策で、次第に売上も息を吹き返すようになっていきました。

一方、コロナ禍ではリーマンショック後ほどの規模ではないものの、2年間で約50店舗の撤退に踏み切りました。人件費や固定費といったコストの圧縮という構造上の課題解決を図るのはもとより、コロナ禍でライフスタイルがより多様化し、ファミリーレストランに求める価値も変わるなかで、いかに売上に寄与できるかを追求し、メニューにもメスを入れていったのです。

そのほか、店内にテレワークスペースやコンセントなどを用意し、リモートワークにも対応できるような空間づくりも心がけてきました。

ドラスティックに変革しないと「本質的な価値」は追求できない

──2014年の取締役時代には、デニーズ日本上陸40年のタイミングでメニューの8割を刷新する施策を推進しました。また2017年の社長就任時には、デニーズの象徴だった「フルサービス」に見直しをかけ、「ドリンクバー導入」の意思決定をされました。小松社長が、こうしたドラスティックな改革を行う狙いはどこにあるのでしょうか。

本質的な価値を提供するためには、抜本的に見直し、変革していくことが重要だと考えています。例えば、私が社長に就任した際には「ドリンクバー導入」を働きかけました。もちろん人件費の削減や人材採用の面で苦労していた側面もありましたが、「デニーズのフルサービス型に、果たしてお客様はどこまで価値と感じているのか」をいま一度考え直す必要があったからです。

他社ではすでにドリンクバーが置かれていて、お客様もその体験自体には慣れている状況で、デニーズのフルサービス型の接客は本当に求められているのか。

いろいろと考えた末にドリンクバーの導入を行い、お客様と新たな接点の創出を強化しよう。そう思い、最初は数店舗でテストしたところ、各店舗の店長から「これは絶対に全店に導入するべきだ」という強い要望がありました。さらにはお客様からも好意的な意見が多く、そこからドリンクバーの全社導入に至ったという流れになっています。

たくさんの店舗で現場を経験してきた小松氏だからこそ現場での声を大切にしている

──最近では人気シェフ監修のコースメニューなど、デニーズは商品開発にも注力しています。商品を開発する上で意識していることなどがあれば教えてください。

お客様にとって、どんな商品を提供すれば、喜んでもらえるのか。

食のトレンドや消費志向には常にアンテナを立てるように意識しています。ただ、単に流行を追うのではなく、お客様のニーズやシーズを探るようにしていますね。

デニーズではセントラルキッチンを持っておらず、自社の仕入れ部門と商品開発部門、そして取引先メーカーとタッグを組んで、商品開発を行っています。世の中には食を専門としたメーカーがたくさんあり、そういった外部リソースを活用することで、品質の高さと機動力を持つことができる。デニーズとしても、専門分野は取引先メーカーに任せ、そのぶんの時間をメニューの考案や定番商品のブラッシュアップに費やせるわけです。

社長自らコラボを打診した「人気シェフ監修コースメニュー」

2023年9月から始めた「都内人気レストランシェフ 監修メニュー」は、かつて商品開発担当だったころに食べ歩いたお店の中から、ぜひコラボしたいシェフに自ら直談判しにいったことで実現しました。

50周年記念シェフ監修メニュー

第1弾は参宮橋にあるイタリアンの名店「Regalo(レガーロ)」の小倉シェフに監修してもらったのですが、それこそ10年来通っているお店で、小倉知巳シェフも驚いていましたが今回の企画を話すまで、私がデニーズの社長という身分は一切明かしていませんでした。

Regaloのパスタは本当に美味しく、かつオペレーションがいつ来店しても素晴らしいところに感銘を受けています。サービスや雰囲気が素晴らしいお店はたくさんあるものの、オペレーションが均一化されているところはあまりないと感じており、Regaloのオペレーションの質の高さは当時から実感していました。

──貴重なお話をありがとうございました。最後に今後の展望について教えてください。

まず、先ほどのシェフ監修のコースメニューは、デニーズ50周年を記念した目玉企画なので、今後も10月に第2弾、12月に第3弾を予定しています。より多くのお客様に味わっていただけるようにプロモーション活動を通じて魅力を伝えていきたいですね。

また、11月下旬から店舗で働く方々のユニフォームを順次リニューアルしていく予定です。今回はキッチンとフロアの両方で使用可能なマルチジョブ仕様のユニフォームを採用し、親しみやすいカラーやデザインのほか、多様性も意識したものとなっています。

さらに、来年度にかけて50~70店舗を目処に店舗改装も進めていきます。お客様が心地よいと感じる居住性の向上や、地域の中のコミュニティとして利用できる空間づくりを目指し、これからも尽力していきたいと考えています。

取材・文/古田島大介 撮影/Keiko Hamada

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