今や日本球界の話題を独占するロッテの佐々木朗希投手。だが、彼に負けず劣らず、野球ファンの注目を浴びる選手がいる。「十年に一人の逸材キャッチャー」との声もかかる佐々木の女房役、松川虎生(こう)捕手(18)だ。
経験が必要とされるキャッチャーというポジションで、高卒ルーキーが開幕マスクを任されるということだけでも凄いのに、佐々木の160キロ超のストレートや150キロ台の高速フォークをいとも簡単に捕球する好リードぶりで、佐々木の完全試合を演出した。
佐々木朗希の“女房”はかつて「心優しきストッパー」だった。恩師が語るロッテ・松川虎生の「大物伝説」
集英社オンライン / 2022年5月21日 17時1分
「令和の怪物」佐々木朗希の”女房役”として注目を集めるのが、ロッテのドラ1ルーキー・松川虎生(こう)。高卒ルーキーが開幕マスクを任されるということだけでも凄いのに、佐々木の160キロ超のストレートや150ロ台の高速フォークをいとも簡単に捕球し、4月10日にはNPBで28年ぶりとなる完全試合をアシスト。そんな彼の「大物伝説」を恩師たちに聞いた。
最終回はいつも、三者三振で試合を締めた
極めつけは4月24日の対オリックス戦で見せた神対応。ボール判定に不満げな表情を見せた佐々木に、白井主審が険しい表情でマウンドに詰め寄ろうとするや、松川はその前に立ちふさがってなだめ、佐々木を見事に守り切ったのだ。白井主審の年齢は44 歳。高校を卒業したばかりの18歳ルーキーができる対応ではない。
いったい、松川とはどんな選手だったのか? その大器ぶりを知る恩師たちに話を聞いた。
「抜群の野球センスで、とくに守備については教えることがなかった」と証言するのは、松川が小1から小4まで所属した少年野球チーム「ワンワンスポーツクラブ」の関係者だ。
「体とグラブを柔らかく使ってさっと捕球してさっと投げる。その動きがとにかくスムーズでした。グラブさばきやハンドリングの基本がすでにできていて、センスを感じました」
どんな強い打球も怖がらずにさばけるため、チームではもっぱらサードとキャッチャーの守備につくことが多かった松川だが、肩もめっぽう強く、最終回には投手に指名され、試合を締めくくることも。
「2学年年上のチームと対戦するときは強い打球が飛んでくるサードをまず守り、そして最終回にポジションを変えてピッチャーを務め、三者三振でゲームを締めくくるというのが常でした」
小学5年生から中学1年までは地域の強豪、泉佐野リトルへ。その当時、監督だった佐藤克士現会長が語る。
「守備が素晴らしいとは聞いていましたが、会ってみるとバッティングも非凡でした。うちのグランドは打球が外野のすぐ横を走る高速道路に飛び込まないように、ホームベースから65mの地点に高さ15mの外野フェンスを設けてあるんですが、虎生はチーム参加から数日後には、打球がフェンスを超え始めました。
高速道路を走る車に当たると危険なので、仕方なく虎生には竹バットの使用を命じました。竹バットだと金属バットほど球は飛びませんから。本人は『何で僕だけ竹バットなん?』とむくれていましたけど(笑)」
わざと見逃し三振でエサをまき……
当時、コーチとして松川を指導した菊川眞康現監督もこう絶賛する。
「打撃もすごかったですが、それ以上に小学生でこれだけのグラブさばきができる子を見たのは、松川が最初で最後です。まるで何十年も野球をしている職人のようでした。佐々木投手の豪速球を難なくキャッチするとメディアで騒がれていますが、松川なら当然。少年野球時代からすでにその素地はあったと思っています」
泉佐野リトル時代の松川。投手としての投げっぷりも際立っていたという
菊川監督は松川の頭のよさにも驚かされたという。
「当時、松川は敬遠気味のアウトコース攻めに悩まされていました。バットを振れば確実にヒットかホームランなので、相手チームもまともに勝負してくれなかったんです」
ある試合で、松川がアウトコース攻めに一度もバットも降らず、見逃し三振を喫するということがあった。菊川監督が続ける。
「徹底したアウトコース攻めにふてくされて戻ってくるかと思っていたら、そんな様子はない。それどころか、次の打席ではアウトコースに投げてきた球を踏み込んでホームランを打ってみせたんです。
前の打席で松川はわざと見逃し三振することでエサをまき、ふたたび同じアウトコースを攻めてくるボールを狙っていたんです。そんなクレバーさもあるのかと、感心したことを覚えています」
そして何より過去の恩師たちが口をそろえて強調するのが、松川の「愛されキャラ」ぶりだ。
少年野球チームで才能の傑出した選手はとかく天狗になりがちだが、松川がそんな仕草を見せることは皆無で、チームメイトへの気遣いは際立っていたという。
「プロに指名されるかどうかわからない」
「野球のうまい子どもは同じようなプレーをできないチームメイトを見下したり、文句を言ったりすることも多いんですが、松川にはそういうことが一切なかった。
あるとき、キャッチャーをしていた松川の二塁への送球が早すぎてセカンドもショートも追いつけず、センターに抜けるということがあった。ところが、松川は文句を言うどころか、次の送球の機会の時にはセカンド、ショートが追いつけるようにわざとゆっくりと投げていました。
チームプレイの大切さが小さい頃からわかっていたんです。そんな松川だから、チームメイトにはとにかく信頼され、愛されていました」(前出・ワンワンスポーツクラブ関係者)
攻走守に万能だった松川だが、やがてキャッチャーのポジションに専念することになる。前出の佐藤会長が言う。
「中学で貝塚ヤングに加入したんですが、リトル時代の投げっぷりが凄かっただけに、当然、貝塚でもピッチャーをやると思っていたんです。ところが、しばらくぶりに会って話を聞くと、『自分よりもすごいピッチャーと出会ったんで、今はキャッチャー一本でやっています』と言う。
それが市立和歌山高校でバッテリーを組むことになる小園健太投手(横浜・21年ドラフト1位)でした。現在、ベイスターズで背番号18をつける小園君の投球を見て、『コイツの球を受けてみたい』と思ったみたいですね。もし、小園君と出会ってなかったら、松川はどこかの球団でピッチャーをやっていたと思いますよ」
その後、松川は21年ドラフトで高卒捕手として異例のドラフト1位指名を受ける。
「ドラフト1週間前に会った時、虎生は『指名されるかどうか、わからない』と答えていました。本人もドラフト4位か、5位の指名なら上等と思っていたようです。それがまさかのドラフト1位。家族や親戚もびっくりされてたようですが、虎生本人が一番びっくりしたんじゃないでしょうか?」(前出・ワンワンスポーツクラブ関係者)
泉佐野リトルで、第二の松川を目指すべく練習に励む選手たち
開幕前、「2~3年後が勝負の年。それまでにしっかりアピールしたい」と抱負を語っていた松川だが、5月16日には3-4月度の「プロ野球最優秀バッテリー賞 powerd by DAZN」を佐々木とともに受賞。
ふたりが「日本最強のバッテリー」と呼ばれる日は、きっとそう遠くないはずだ。
写真/共同通信社 ボールルーム
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